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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章 第十九話 そして一石は投じられた・其の参

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 前日に引き続き、九月二十七日の夜もまた、近藤の妾宅での議論は紛糾していた。

「何故分離が許されないのですか?我々は月堂殿の上洛を申請したものとしてその責任を果たしたいだけだというのに!」

 伊東が己の意見を述べればすかさず近藤が反論する。

「それならば別に分離などせずとも大丈夫でしょう!むしろその方が多くの隊士を動員できるはずです!それに我々がやらねばならぬ仕事は他にもまだまだある!ただでさえ人数が足りないというのに分離など・・・・・・」

 その近藤の声を遮り、伊東派としての意見を畳み掛けるのは篠原だ。

「忙しいからこそです!他の仕事にかまけて月堂殿の警護が疎かになっては会津公の顔にも泥を塗る事になりますよ!それでも構わないというのですか!」

 だが、そんな篠原の言葉も土方によって突っぱねられる。

「そもそも上洛だってまだ決定したわけでは無いでしょう!いい加減世迷いごとは謹んでいただきたい!」

 最初こそ穏やかに始まった議論だったが時間が経過するに連れて白熱し、しまいには掴み合いにならんばかりに殺気立つ。さすがにこれでは話しにならないということで、松平月堂の上洛が決定したら改めて話し合いの場を持とうと、結局この会談は破談となった。

「しかし、何故伊東くんはあそこまで分離にこだわるのだろうか」

 伊東が帰った後、近藤は溜息を吐きながら肩を落とす。

「さぁな・・・・・・一番確かなのは俺達が目障りだ、ってところだろうよ」

 思いもしなかった言葉に驚き、目を丸くする近藤に土方は顔色一つ買えぬままそのまま持論を述べる。

「あんたはお人好しだから、自分が連れてきた人間を疑うことはできねぇんだろう。だがよ、善意の皮をかぶりながら悪意を持って近づく人間だって少なくねぇ。特に池田屋の直後となりゃなおさらだ。手柄を立てたあんたに取って代わり新選組を乗っ取る気で入隊したに違いねぇ」

「そう・・・・・・なのか?」

 近藤は愕然とし、言葉を失う。

「伊東の場合、その化けの皮を被りきれなかった、ってところだけどな。どのみち分離は避けられないだろうが、できるだけこっちの損害を最小限にしないと・・・・・隊士をごっそり引きぬかれちまったらやってらんねぇだろうが」

「そう・・・・・・だな」

 土方の言葉に近藤が腕を組み、何かを考えこむ。

「なぁ,歳・・・・・・昼間、平助が言っていた件だが」

 その瞬間、土方の眉がぴくり、と跳ね上がり表情が険しくなったが、近藤はそれには気づかず思ったことをそのまま口にした。

「やはり・・・・・・総司にも妾ではなく妻を娶らせたほうが良いのだろうか。伊東さんに変な働きかけをされる前に」

 やはり――――――予想はしていたが、ここまで早く反応が出るとは土方も思っていなかった。むしろ藤堂の言葉を鵜呑みにすれば伊東派に利するというのに、とは土方も口には出せず、やんわりと近藤の意見に反論する。

「それは焦る必要はないと思う。それよりも俺は平助のほうに気を付けたほうがいいと思う。あいつは伊東と同門だし、そもそもあいつの口利きで伊東は新選組に・・・・・・」

 だが土方の努力の甲斐なく、近藤は土方の言葉を殆ど聞いてはいなかった。

「歳、年末までに歳の頃合いの良さそうな医者の娘を探しておいてくれないか。どのみち幕臣採りたてだってあるだろうし、その時になってかわたの娘を妾にしていたとあっては取り立てに影響してくるだろうから」

 近藤の言葉の最後の一言に、土方は近藤の本音を垣間見た気がした。伊東の働きかけによって沖田が近藤を裏切ることは絶対にないだろう。だが、幕臣取り立てとなると話はまた別だ。
 幕臣になるにはそれ相応の身分の妻を娶らねばならないし、もし妻帯している場合でも妻の出自まで調べ上げられてしまう。その時、一番隊組長が被差別民の娘を妾にしていたとあっては極めて都合が悪い。
 ようやく沖田が掴んだささやかな家庭を壊すのは忍びない。かといって近藤の悲願を知っているだけに近藤のその言葉を断ることは土方には不可能だった。

「判った・・・・・・年末までだな。その代わり約束してくれ。この件に関してこれ以上首を突っ込んでくれるなよ。あんたが出てくると『手切れ』がややこしくなる」

 普段あちらこちらに気を使っている分、部下に対しては直情的になる事がある近藤のことだ。土方が婚姻相手を探し出してくる前に強引に二人を別れさせかねない。それをしないよう土方は強く釘を刺す。

「わ、判った・・・・・・じゃあ頼んだぞ」

 少々不満そうな表情を浮かべた近藤だが、土方にそう言われてしまってはこれ以上口出しをすることもできない。全てを土方に任せると、近藤はひとつ、頷いた。。



 近藤の妾宅を後にした土方はその足で沖田の休息所へと向かった。まだ先のこととはいえ、沖田の結婚が決まってしまえば小夜には身を引いてもらわねばならなくなる。せめて心の準備をさせておくべきだろうと思うのは土方の優しさか。提灯だけが足元を照らす闇夜の中、土方は沖田の家に到着する。

「おい、総司いるか?」

 まるで我が家のように勝手に戸を開けてそのまま入り込む。だが、いつもなら文句を言いながら土方を迎え出る沖田の声はせず、その代わり困惑したような表情の小夜が土方を迎えでた。

「おばんです、副長はん。すんまへん、総司はん今さっき中村はんに呼ばれはって出て行ってしもうて・・・・・・かなり厄介な捕物らしいおす」

 三条制札事件からまだひと月足らず、京都も再び物騒になりつつある。それ故だろうか、非番の組長も呼び出される事態になるとは・・・・・・土方は申し訳無さそうに苦笑を浮かべつつ口を開く。

「そうか。じゃあ・・・・・・いや、お前さんには予め言っておいた方がいいな」

 土方はそう言いつつ玄関に腰掛けた。口許には笑みを浮かべつつも、厳しさを隠し切れないその視線に小夜も思わず背筋を正す。

「あの・・・・・」

「近藤さんが、総司の結婚話を進めようとしている」

 小夜が土方に語りかけようとしたその瞬間、土方は単刀直入に事実を告げた。その言葉と同時に小夜の顔が強張る。

「実は近藤さんに妙な入れ知恵をした奴がいてな・・・・・・今すぐじゃねぇが、今年中に総司の相手を見繕え、って命令を受けた。あんたが支えてくれたからこそ総司もいい仕事ができていたのに」

 乾いた笑いを浮かべつつ、土方は小夜をじっと見つめた。

「・・・・・・すまねぇ。お前達を守ってやれなかった」

 土方は小夜に向かって頭を下げる。弟分のささやかな幸せの場所は、土方にとっても癒やしの空間であった。それを守りきれなかった自分に歯噛みしつつ、土方は更に深く頭を下げる。

「・・・・・・謝らんといて下さい、副長はん」

 湿った声で小夜が声を絞り出し、土方に頭を上げるよう促した。

「うちは・・・・・・見てはいけへん夢を見させて頂いていたんおす。いつか、こんな日が来ると判っていながら・・・・・・」

 それ以上言葉を続けることができず、小夜は声を上げずに泣きだしてしまう。

「恨むなら・・・・・・総司じゃなく俺を恨んでくれ」

 そう言って土方は泣きじゃくる小夜を残し、立ち上がる。

「まだ暫く時間はある。その間に気持ちの整理を付けておいてくれ」

 小夜の方を振り返ること無く、玄関の扉を開けた。その瞬間、思わぬ人物の顔が土方の視界に飛び込んできた。

「あれ、土方さん?こんな時間にどうしたんですか?」

 丁度捕物から帰ってきた沖田が怪訝そうに尋ねる。

「ちょうどいい。ちょっとツラぁ貸せ」

 土方は手短に言うと、沖田の腕をとって表に連れ出した。

「ちょっ、土方さん!一体何ですか?」

 困惑の声を上げる沖田に土方は低い、小さな声で一言だけ言い放つ。

「近藤さんからの命令だ。お小夜と別れて妻を娶れ、と」

 その瞬間、沖田の顔が引きつった。

「ひ、土方さん。じ、冗談も休み休み言って・・・・・・」

「冗談じゃねぇ。平助の奴が今朝の会議の後近藤さんに妙な入れ知恵をしやがって・・・・・・近藤さんがそれを真に受けた」

 藤堂の名前が土方の口から出た瞬間、沖田の表情が豹変する。

「入れ知恵って?そもそも藤堂さん自身伊東さんに付く可能性が高いじゃないですか、同門なんだし!」

 怒りも露わに沖田が吐き捨てるが、それとは逆に土方の声音はどこまでも低く落ち着いていた。否、沖田を落ち着かせるためにわざと平静を保っているように装っているといったほうが良いかもしれない。

「幕臣取り立ての際、かわたの娘を妾にしている奴がいたら都合が悪かろう、てな」

 忌々しげに吐き捨てると、土方は沖田の顔をじっと見つめた。

「取り敢えず今年中に手頃な娘を見繕えと近藤さんに言われた・・・・・・三ヶ月ありゃお小夜側の親御と話は付けられるか?」

 その瞬間、沖田は苛立ちも露わに土方に詰め寄る。

「話を付けるも何も、別れるのに何の話をつけろと?」

 だが、土方はどこまでも落ち着いた声で言い放つ。

「おめぇの心持ちひとつ次第だ。別れ話の手切れ金の話でも、お小夜との・・・・・・駆け落ちの話でも。どっちにしろ男としてのけじめを付ける時が来たって話だよ」

「かけ・・・・・・おち?」

 分離話さえ出ている、ただでさえ隊士が足りないというこの時に土方は何を言い出すのか――――――毒気を抜かれた沖田はただ唖然と土方の顔を見つめた。

 

UP DATE 2014.5.17

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今回の『一石』は土方によるものです。小夜と別れるか、それとも駆け落ちをするか・・・全くろくでもない兄分ですよ(^_^;)
これは総司に『近藤を取るのか、小夜を取るのか』はっきりさせるためのものなのか、それとも別の思惑があるのか・・・その種明かしは次回に持ち越しとさせていただきます。どのみち総司にとっては苦渋の決断になることは間違いなさそうです。

一方近藤局長の方もこの辺りというか、幕臣取り立てが絡んでくる頃になると徐々に性格に変化が現れてきます。その片鱗が今回少し出てきていますね。ずっと憧れてきて、喉から手が出るほど欲しかった幕臣の身分、それを手に入れるため、そしてそれを維持するために、本当に大切にしなければならないものを蔑ろにし始めます。それがどんな結末へ進むのか・・・こちらはじっくりと楽しんでいただきますね♪

次回更新は5/24、土方の本当の思惑とは?そして土方の提案に沖田はどんな答えをだすのかお待ちくださいませね(*^_^*)
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