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「VOCALOID小説」
枝ノ護人

ボカロ小説・枝ノ護人~朱雀の章・3

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 海斗の屋敷に運ばれて四日を過ぎる頃、ようやく鳴鼓は上体を起こし食事や会話をするようになった。しかし、それは新たな問題の始まりだったのである。

「鳴鼓・・・・・俺の使い魔達と馴染むのもほどほどにしてくれないか」

 海斗が呻き、こめかみを押さえるのも無理は無い。鳴鼓は上体が起こせるようになると使い魔達を相手に酒を嗜むようになったのだ。脇息に寄りかかりながら杯を煽っている鳴鼓の前には天狐に鵺、付喪神らがへべれけになって床に伸びており、まだ酔っていない陪膳の子鬼達も戦々恐々としている。唯一素面なのは銀の椀を片手に削り氷らしきものを食べている海斗くらいだろうか。
 大怪我をしているのにこの不摂生、この女は本当に大丈夫なのだろうかと呆れる海斗を前に鳴鼓はご機嫌麗しく言い放った。

「え~、だって私骨折してるからぁ、お酒呑まなきゃいけないのよぉ・・・・・ひっく、そもそもさぁ、骨接ぎのお薬だってお酒で飲まなきゃいけないんだからさぁ・・・・・・ういっく・・・・・・尤もここにお薬はないけどぉ、細かいことは気にしな~い!」

 けらけらと笑いながら酒を煽り、よろよろと起き上がろうとした付喪神達に酒を押し付ける。既に数個の大きな酒壺が鳴鼓によって空にされ、子鬼達が新たな酒壺を運んできた。どうやら鳴鼓はかなりの酒豪らしい。

「加夫呂伎熊野大神から折角頂戴した神便鬼毒酒をありがたみの欠片もなく呑み干して・・・・・・鳴鼓、お前の夫はそのひどい酒癖に関して何も言わなかったのか?」

さすがに二十歳を過ぎていると思われる――――――少なくとも海斗より見た目は僅かに年上に見える――――――鳴鼓だ、通い夫(かよいづま)くらいはいるだろうと海斗は尋ねたが、鳴鼓の返事は海斗の予想とは全く違うものだった。

「あら、いないわよぉ夫なんて。勿論お仕事で相手をすることはあったしぃ、もうちょっと若い頃には二、三人通ってくれたけどぉ、何故かみ~んな逃げちゃうのよねぇ」

 不思議そうに小首を傾げる鳴鼓だったが、海斗は思わず深く頷いてしまう。

「そりゃそうだろうな。下手な妖怪よりもこのうわばみは質が悪い」

 黙って座っていればふるい付きたくなるような美女なのに・・・・・・と言いかけた海斗だが、その言葉は最後まで言い切ることはできなかった。

「ちょっとぉ、うわばみ、って何よぉ!私、そんなに呑んでないわよぉ!」

 海斗の言葉に鳴鼓は反論するが、大酒壺を四つも五つも転がしている傍ではまるで説得力が無い。子供のように頬を膨らませ唇を尖らせる姿は愛らしいが所詮は酔っぱらい――――――海斗は残念至極とばかり小さく首を横に振った。

「・・・・・・まぁ、鳴鼓にしては呑んでいないのかもしれないが。それより使い魔達に呑ませるのはそろそろ止めにしてくれないか?」

 海斗の頼みに鳴鼓も床に転がっている妖怪達に目をやる、確かにこれ以上酒に付き合わせるのも気の毒だ。

「ん~、それもそうね。じゃああんた達は許してあげる。その代わり・・・・・」

 鳴鼓は舌舐りをしながら、東庇側にある柱に向かって鋭く声を掛けた。

「さっきから柱の後ろに隠れてこっちを覗いているのは解っているの!さぁ出ていらっしゃい!」

 その瞬間、柱の背後から何かがひょこりと顔を出した。それは子鬼や付喪神よりも少しばかり大きめの妖怪だった。本体は人の頭くらいの大きさ――――――否、頭そのものだ。その頭の横から輝く碧色の脚が二本、にょきっ、と生えている。角髪(みずら)が直接足になったようなその姿は、むしろ海斗よりも土蜘蛛に近いかもしれない。
 その小さな妖怪は鳴鼓が酒を呑み始めた頃から鳴鼓の様子を伺うように柱の陰に隠れてじっとこちらを見つめていたのである。

「ほ~ら、いらっしゃい。怖くないよぉ。取って食ったりしないからさぁ。ただお酒の相手をしてくれればいいんだから、ねぇ?」

「・・・・・・むしろそっちのほうが恐ろしいだろう」

 鳴鼓がその小さな妖怪に気を取られているのが面白く無いのか、海斗は嫌味を含んだ声でぼそっ、と呟くと、銀の椀に盛られた削り氷をぱくり、と口にした。削り氷が好きなのか、それとも鳴鼓の酒に付き合いきれないのか先程からそればかりを口にしている。

「あれは酒など呑めぬ子供だ。付き合わせるならせめて肴くらいにしておいてくれ」

「だってぇ。海斗からのお許しも出ているから出ておいでぇ」

 暗に酒に付き合わせるなという海斗の言葉を都合よくとらえた鳴鼓は、舌足らずな声でおいでおいでと小さな妖怪に手招きする。するとその妖怪は身体を低くして、恐る恐る鳴鼓の方に近づいてきた。その姿は怯える子犬そのものである。

「あら、意外と可愛い顔してるじゃない。眉間に皺なんかよせちゃあだめよ」

 鳴鼓はヘラヘラと笑いながら妖かしの眉間に指を当て、しわを伸ばそうとする。そして碧色の両足をぐいっ、と力任せに掴むとそのまま自らの胸に抱え込んだ。

「わ~い、つっかまえた~!何か子犬みた~い!かっわい~い!」

 鳴鼓はひとしきりもしゃもしゃとその妖かしを弄ぶと、骨の折れていない太腿の上に置く。

「しっかし肴っていっても葱の醤あえしかないのよねぇ・・・・・誰かぁ~この子が好みそうなものを適当に持ってきて~!焼き蛸とか蒸し鮑とかぁ~」

 海斗の使い魔をまるで自分の使用人の如くこき使う鳴鼓に海斗は頭痛を覚えた。だが、これくらい豪胆でなければ使い魔達にさえ怯え、とっくの昔に気が触れていただろう。

(この豪胆な気性も悪くないんだが・・・・・・酒癖さえ悪くなければなぁ)

 小さな妖かしを胸に抱え、使い魔達に肴を持って来いと怒鳴る鳴鼓の横顔を海斗はじっと見める。その視線に慈しみを超えた色が滲んでいることに、見つめられている鳴鼓は気がつかなかった。

「う~ん、さっき全員潰しちゃったからなぁ。取り敢えずこれで我慢して。醤は少し取ってあげるから、不味かったら吐き出しちゃってよ」

 そう言うと鳴鼓は焼き韮(ねぎ)の切れ端から醤を拭うと、膝に乗せた妖怪の小さな口元に持ってゆく。すると小さな妖怪はその焼き韮の切れ端を恐る恐るぱくり、と口にした。その瞬間である。

「ブギャァァ~~~!!#$%&★@*¥♪〆§~!!」

 鳴鼓の膝に乗った小さな妖怪は素っ頓狂な悲鳴を上げ、顔の両側にある脚をばたつかせ始めたのである。

「おい、未来!どうした!」

 海斗が慌てて鳴鼓と小さな妖怪に近づく。

「だ、大丈夫?いいからここに吐き出しなさい!」

 小さな妖怪の反応にさすがに慌てた鳴鼓も妖かしの口許に手を差し出し、焼き韮を吐き出させようとする。だが小さな妖怪の反応は二人が思っていたものとは全く違ったものだった。

「これ、美味しい~~~~~!!もっと~~~~~!!!」

 見た目からは想像できない愛らしい声で叫ぶと、小さな妖怪は鳴鼓の腿から飛び降り、焼き韮が置かれている高坏ににじり寄る。そして角高坏に盛られた焼き韮をむしゃむしゃと食べ始めたのである。あまりのことに呆気にとられる海斗に、鳴鼓は恐る恐る尋ねる。

「ねぇ、さっきこの子を『未来』って言ってたようだけど・・・・・・もしかして海斗の妹、ってこの子?」

「あ、ああ・・・・・・普段は引っ込み思案で滅多に表に出ることもないのに」

 前髪を掻き上げながら、海斗は困惑の表情を浮かべる。

「・・・・・・だが、鳴鼓に興味は持っていたようだよ。だからこっちに顔を覗かせたんだろうけど」

「もしかして韮(ねぎ)は初めて?」

 焼き韮にむしゃぶりつく未来の後ろ姿を見つめつつ鳴鼓が尋ねると、海斗は苦笑いを浮かべつつ頷いた。

「俺達は妖かしだ。本来は大地の『気』や他の妖怪から奪った気を糧にしているから、人間が食するような物は殆ど食べない」

「じゃあその削り氷は?」

 鳴鼓は先程から海斗が口にしている削り氷を指さす。どう見てもそれは削り氷の甘葛がけにしか見えない。それに対して海斗は『これは水で出来た氷ではない』と告げた。

「これは他の妖かしの気を固めたものだ。削り氷じゃない・・・・・・しかしどうしたものかなぁ」

 とうとう角高坏に盛られた焼き韮を全部食べきってしまった小さな妖怪――――――未来は期待に満ちた目で鳴鼓の方を振り向く。その瞬間小さな妖怪の輪郭が崩れると共に、萌黄重ねの十二単を身につけた愛くるしい少女が鳴鼓の前に現れたのだ。

「初めまして!私、未来!」

 屈託のない笑みを見せながら、未来はさらに鳴鼓ににじり寄る。

「ねぇ、今食べたこれ、何ていうの?こんな美味しいの、初めて!」

 キラキラと目を輝かせながら迫ってくる未来に、さすがの鳴鼓も思わずたじろぐ。

「え、ああこれね。焼き韮っていうの。お酒のおつまみなんだけど・・・・・・」

「焼くの?ってことは焼かないのもあるの?」

「あるわよ。でも焼かないと辛くて食べにくいかも」

 さすがに薬味程度ならいざ知らず、生のままの韮をそのまま食べるのは辛すぎるだろう。だが、未来はそれが嬉しかったのかさらに顔を輝かせた。

「私、辛いの好きなの!それなのにお兄ちゃんたらいっつも氷妖かしの甘葛がけを押し付けてくるんだから!」

 ぷっ、と頬をふくらませた未来の顔に鳴鼓は思わず微笑む。

「そうか、お兄ちゃんも気が利かないわね。じゃあおかわり頼んじゃおうか?」

「うん!」

 未来のそのあどけない表情に微笑ましさを覚えると共に、鳴鼓は不意に自分の命よりも大事な存在の事を思い出した。

「そういえば琉華と麟・・・・・・無事に壇ノ浦に行けたかしら」

「鳴鼓?」

 不意に陰った鳴鼓の表情に、心配そうに海斗が声をかける。

「あ、ごめんなさい。未来ちゃんを見たら妹達のことを思い出して・・・・・・」

 そう言ったきり、鳴鼓は涙ぐみ始めた。

「上の妹の琉華は未来ちゃんより少し上、麟は少し下くらいなんだけど、逃げている途中で別れちゃって・・・・・・麟は未来ちゃんみたいによく笑う子だったの」

 空の杯を手にしたまま鳴鼓は顔を伏せ、肩を震わせる。自分が生死の境を彷徨うような大怪我を負ったり、妖かしを目の前にしても涙一つ流さなかった気丈な鳴鼓が――――――それを見た瞬間、海斗の胸が締め付けられる。

「・・・・・・ごめんなさい。ちょっと湿っぽくなっちゃったわね。呑み方が足りないかしら」

 心配そうに自分を見つめる海斗と未来に気がついた鳴鼓はおどけたように手にした杯を振るが、その道化に誤魔化されること無く未来はひとつの提案を海斗に示した。

「ねぇ、お兄ちゃん。水鏡で鳴鼓の妹を見るくらい別にいいんじゃない?過去と今だけなら問題ないでしょう?何なら私から黄泉大神様に言っておくよ?」

「水鏡?」

 不意に出てきたその言葉に、鳴鼓は混乱する。それに気がついた海斗は水鏡について鳴鼓に説明を始めた。

「人の世を映し出す鏡だ。たまに人間の世界を見るためのものなんだけど・・・・・・」

「私が見ても大丈夫なの?」

 迷っているような海斗の表情に鳴鼓が心配そうに尋ねる。

「いや、まぁ、人間が覗いた、っていう前例が無いから」

 だが鳴鼓の表情にほだされたのか、結局海斗は頷いてしまった。

「・・・・・じゃあ鳴鼓が歩けるようになったら水鏡で鳴鼓の妹達を見てあげるよ」

「本当?ありがとう!」

 その嬉しそうな笑みに海斗の胸は高鳴る。

(甘いな、俺も)

 見目麗しく気丈で、しかも全ての存在に分け隔てなく優しさを与えることが出来る――――――これで酒癖さえ悪くなければ理想の女性なのに、と心の中で呟いた瞬間、海斗は慌てる。

(待て!鳴鼓は人間だ。そもそもこの場所にだってそう長く置いては置けないというのに・・・・・・!)

 海斗は改めてその事に気が付き先程とは違う胸の痛みを覚えた。

(ここは黄泉比良坂の途中・・・・・・四十九日を過ぎたら人間はここから転げ落ちてしまうというのに)

 水鏡で妹達を探してもらえると決まった瞬間に未来とはしゃぎ、再び酒を呑み始めた鳴鼓の横顔を、海斗は切なく見つめることしかできなかった。




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『枝ノ護人』三話目にしてダメイコ&シテヤンヨ見参です(^_^;)
現代モノを中心に読んでいる方だと『骨折して寝込んでいるのに酒なんて呑んでいいのか?』と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、これが意外といいんですよ♡骨折して寝込んでしまうと血流が悪くなり、余計に治癒が遅くなってしまうのですが、それを酒の力で手助けしようということらしいのです。土方歳三が売り歩いていた『石田散薬』も熱燗で飲みますし、その他骨折の薬は結構お酒で飲むものがあるんです。鳴鼓はそれを実践しているだけなんですが・・・彼女が呑むとただの呑んだくれにしかならないという(^_^;)

一方未来ですが、本来の姿は十二単の姫君です。ただ今回は万が一の時すぐに逃亡できるよう『シテヤンヨ』の姿で鳴鼓の前に現れたという・・・もしかしたらこれからも色々变化させることがあるかもしれませんし、衣装のバリエーションは多分一番多くなるのではないかと・・・。なお、平安末期にもネギ(韮と表記)はあったらしいのですが、どのような種類なのかそこまでは調べがつかず・・・・・・多分関西地方に流通している小ネギとかあさつきのようなタイプのネギだと思うのですが、ミクの場合イメージは長ネギ・・・なのでお好きな方でイメージして下さい。ええ、ファンタジーなので(開き直りっ!)

次回更新は6/2、ちょっとした幕間というか・・・鳴鼓への恋心のあまり妄想が暴走してしまった海斗の心象風景(というと聞こえはいいけどただのエロ妄想)を書かせていただきます。次回は読まなくても話は判るように致しますので、エロが苦手な方はスルーしてくださいませね(^_^;)
(蜘蛛の糸を使った緊縛プレーがはいるかもかも^^;)
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