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「VOCALOID小説」
枝ノ護人

ボカロ小説・枝ノ護人~朱雀の章・5

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 海斗の屋敷の落ち着いた環境が良かったのか、それとも強引に奪った神便鬼毒酒の効能だろうか。立ち上がるのにはひと月かかると見込まれていた鳴鼓の脚の怪我は予想以上に早い回復を見せ、半月もする頃には添え木と杖の助けを借りて立ち上がれるまでになった。

「やっぱり自分の脚で立ち上がるのは気分が良いわね」

 杖を突きつつ部屋の中を嬉しそうに歩きまわる鳴鼓を、海斗は苦笑しつつ釘を刺す。

「そりゃああれだけ神便鬼毒酒を呑めば治りも早いだろう。加夫呂伎熊野大神にも迷惑をかけて」

 人が呑めば力が漲ると言われる神便鬼毒酒は、怪我の回復も早くするらしい。ただ大酒呑みの鳴鼓の事、元々海斗の屋敷にあったものだけでは到底足りず、加夫呂伎熊野大神に新たに数樽譲ってもらったというのは余談である。

「あはは、それを言われちゃうと何も言えないのよねぇ」

 鳴鼓はあさっての方向を見ながら頭を掻く。さすがに羽目をはずしすぎた自覚はあるらしい。

「それより立つことが出来るなら、今からでも水鏡に連れて行くけど大丈夫?」

 人の世を映し出す水鏡――――――海斗の口からその言葉が飛び出した途端、鳴鼓は微かな不安を露わにする。

「そんなに・・・・・・脚に負担がかかるの?」

「それは覗き込み方によるね。長ければ長いほど足に負担はかかる」

「琉華と麟が無事だって判ればそれでいいんだけど」

 確かに平氏が滅んだ後の世の動きも気になるが、今は妹二人の安否さえ判れば充分だ。その事を海斗に伝えたが、海斗は少し困ったように眉を下げるだけだった。

「慣れていない者が水鏡で目的のものを探しだすのは大変なんだよ。まぁ、行ってみたほうが早いか」

 そう言うと、海斗はいきなり鳴鼓を抱え上げた。

「きゃっ!」

 いきなり抱きかかえられた鳴鼓は、慌てて海斗の首筋に抱きつく。その瞬間、伽羅の甘い香りが鳴鼓の鼻をくすぐった。

「そのまましっかり捉まっていて。水鏡までは俺が抱えていくよ」

 鳴鼓に一言だけ告げると、海斗はそのまま南庇から簀子へ向かい、さらに庭へと降りて中ノ島へと続く橋へと歩き続ける。一見すると華奢に見える海斗だが、鳴鼓を抱き上げる腕も寄り添う胸板も意外と筋肉質だ。よろめきもせず、軽々と鳴鼓を抱きかかえたまま歩く海斗に、不意に鳴鼓は男らしさを感じてしまう。そして決定的だったのは首筋に抱きついたまま見上げた海斗のその横顔だった。

(こう見ると・・・・・・かなり美形、なのね)

 普段は見せないきりりとした海斗の表情を垣間見た瞬間、鳴鼓は急に恥ずかしさを覚える。

(な、なに考えているのよ!そ、そもそも私は人間で海斗は妖かしで・・・・・!)

 しかし否定すればするほど自分を抱えている腕の強さ、布越しに感じる胸板のたくましさを意識してしまう。そんな鳴鼓の心中を知ってか知らずか海斗はそのまま中ノ島に到着すると、鳴鼓の耳許に唇を寄せた。

「ここからは足元を流れている『龍脈』に乗って行くから」

「龍脈・・・・・・に?」

 海斗の言葉に鳴鼓は目線を下にやる。母屋や庇からはよく判らなかったが、金色に輝く流れは明らかに普通の水では無かった。だが、小川のように穏やかなこの流れに乗って移動など出来るのだろうか?鳴鼓は怪訝そうに海斗を見上げる。

「うん、黄泉比良坂を更に下ったところになるから歩いて行くと時間がかかるんだ」

 そう鳴鼓に告げると、海斗は何か口の中で呪文を唱え始めた。それはまるで心地よい歌のようで、鳴鼓は思わず聞き惚れてしまう。

(そう言えば以前琵琶を弾きながら歌っていたっけ)

 もしかして海斗は歌が好きなのかもしれない。その事を水鏡から帰ってきたら聞いてみよう――――――そう思った刹那だった。

「眩しい!!」

 自らを包み込んだ青い光に目が眩み、鳴鼓は更に強く海斗にしがみつく。そして光り輝く何かに包まれるや否や、二人はそれごと龍脈へと浮かんだ。

「ちょっと鳴鼓には刺激が強すぎたかな?でも安心して、この青い光は俺の結界だから――――――さぁ、行くよ」

 まるで物見遊山にでも行くような軽い口調で海斗は鳴鼓に囁く。その瞬間、青い光――――――海斗の結界に包まれた二人は信じられない速度で龍脈の上を滑りだしたのである。結界に包まれているので本来なら早さは感じないはずだが、結界越しに見える、信じられない速度で流れる景色に怯え、鳴鼓は震えながら海斗に強くしがみつく。

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ、鳴鼓。この中にいる間は安全だから」

 まるで子供のようにしがみつく鳴鼓に、海斗はクスクスと笑う。

「本当に?」

 腕の中から海斗を見上げる鳴鼓の目には涙が滲んでいる。妖怪を目の当たりにしても怯えを見せない癖に、この程度の移動に怯えるとは――――――鳴鼓の愛らしさに、海斗の胸の中には抑えられない愛おしさがこみ上げてきた。

「本当・・・・・・だよ、鳴鼓」

 その瞬間、海斗は鳴鼓の唇に己の唇を軽く重ねた。

「!!」

 小鳥が啄むようなその接吻に、鳴鼓の頭のなかが一瞬真っ白になる。そして不埒な接吻に抗議をしようとしたその時である。

「ほら、着いたよ」

 まるで何事も無かったかのようにそう言うと、鳴鼓に前を見ろと促した。その海斗が視線をやっている方を見て鳴鼓は思わず声を上げてしまう。

「水鏡って・・・・・・あれ?」

 それは鏡、と表現するにはあまりにも巨大なものだった。ちょっとした池くらいはあるだろうか。銀細工の装飾によって辛うじて『特別なもの』だと理解できるが、そうでなければ普通の池と思ってしまっただろう。
 そして海斗の腕から降りて覗きこんでみると、海斗が『慣れていないものが探しだすのは大変』といった理由が解った。
 まるで空高く飛んでいる鳥が地上を見るような光景がそこに広がっていらのだ。人間は豆粒ほどの大きさにしか見えず鳴鼓は急に不安になる。

「どうしよう・・・・・・探し出せるかな」

「俺も手伝うよ。鳴鼓は妹達の顔を思い出して欲しい」

 耳許で囁く海斗の声は妙に色っぽい。先程の接吻の名残と相まって、鳴鼓は耳まで真っ赤に染める。

「う、うん」

 胸の高鳴りは抑えられそうにないが、今は二人を探すことが先決だ―――――――そう思い直して鳴鼓は琉華と麟の顔を思い出す。すると海斗が背後から鳴鼓を抱きかかえるように手を回してきたではないか。

「か、海斗?」

「鳴鼓、そのまま集中して」

 動揺する鳴鼓を促すと、海斗はその手で鳴鼓の手を取り水鏡に浸したのである。すると二人に指先から放たれた波紋から、映しだされた場所みるみるうちに変化し始めた。

「何、あの流れ・・・・・・川、にしては幅が大きいような」

 今まで見たことのない景色に、鳴鼓は目を見開く。

「あれは壇ノ浦だよ。あそこは流れが早くて、最初源氏の兵士は流されていたな」

「まるで見てきたように・・・・・・もしかしてこれで見ていたの?」

 首を捻り、海斗の方を振り向きながら鳴鼓は尋ねる。

「ああ。多くの妖怪達がこの水鏡にへばりついて戦況を見ていたよ・・・・・・・あれ、もしかしてあの二人連れって?」

 海斗の指摘に鳴鼓ははっと我に返り、水鏡に視線を戻す。するとそこには砂浜を歩いている二人連れが小さく映しだされていた。どうやら女性らしいその二人の影は、は鳴鼓が見つめた瞬間にどんどん大きくなってゆく。そして水鏡いっぱいにその顔が映し出された。

「琉華!麟!」

 それは紛れも無く鳴鼓の妹達だった。憔悴しきってはいるが、怪我はないらしい。

「良かった・・・・・・・無事なのね」

 妹達の無事が判った瞬間、鳴鼓は安堵の涙を零す。その瞬間、ただ鳴鼓の手に添えられていただけの海斗の手が鳴鼓の身体に回された。

「良かったね。妹君が無事で・・・・・・・」

 鳴鼓の妹達の無事を喜んでくれるその言葉は、その内容とは裏腹に心なしか沈んでいる。一体どうしたというのだろうか――――――自分を抱く腕にさらに力が入るのを感じながら、鳴鼓は水鏡に視線を落としたまま海斗に問いかける。

「海斗?」

 その瞬間、海斗の唇が鳴鼓の耳を喰み、切なげな声を流し込んできた。

「怪我が治ったら・・・・・・やっぱり妹達と一緒に暮らしたいよね」

「それは・・・・・・」

 勿論、と言いかけた鳴鼓だったが、何かが喉の奥に――――――否、胸に詰まって答えに窮してしまう。

「そりゃ・・・・・・今まで一緒だったから。でも・・・・・・」

 海斗の腕に包まれながら、鳴鼓は迷う。いったい自分は何を迷っているのだろうか・・・・・・その答えを探し始めたその時、海斗の口から信じられない言葉が飛び出した。

「じゃあ、もし俺が君を妻にしたい、って言ったら?」

「え?」

 鳴鼓は海斗の腕の中で息を呑む。海斗の妻に――――――驚きはしたが、嫌だとは全く思わない。むしろ心の奥底でそれを喜ぶ自分がいる事も確かだ。だが、平氏狩りに追われ、満身創痍の妹達をこのまま見捨てるわけにもいかない。

「少し・・・・・・考える時間が欲しいんだけど」

「いいよ。だけど期限がある」

「期限?」

 鳴鼓は首を捻りながら、海斗の方を振り向く。

「人間のままでここにいられるのは四十九日までなんだ。それを過ぎてしまうと、否応なく黄泉比良坂の奥へと吸い込まれ、転げ落ちてしまう」

「それじゃあ、海斗と一緒になる事も・・・・・・」

「君を妻として娶り、妖かしにすれば・・・・・・ずっとここで暮らせる。だけど」

 海斗は一旦言葉を切り、更に続ける。

「妖かしになってしまったら、君の妹達は君を姉として理解する事ができなくなるかもしれない。もし俺の妻になってくれるのなら・・・・・・その覚悟もして欲しい」

 海斗の非情な一言に鳴鼓は息を呑む。姉として護るべき妹達との邂逅を願うか、それとも生まれ初めし己の恋心に従うべきか――――――この瞬間、鳴鼓は答えの出ない袋小路に足を踏み入れてしまったことを自覚した。




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前回の妄想の流れなんでしょうか、今回のカイトはめーちゃんにやりたい放題やっております(^_^;)抱きかかえるのはともかく、抱きつくわチューはするわしまいにゃプロポーズまでするわ・・・そりゃ戸惑うでしょうよ(-_-;)
めーちゃんもまんざらではなさそうですが、さすがに敵に追われている妹達をほったらかして自分だけ、というわけには行かないのでしょう。底はやはり難しいところで・・・(-_-;)
そんなめーちゃんの心の迷いは暫く・・・というか怪我が治り、期限の四十九日直前まで続くんじゃないかと。

次回更新は6/16、散々迷った挙句、鳴鼓はひとつの答えを出すことになります。
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