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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第一章

夏虫~新選組異聞~ 第一章 第十五話 誠の恋、偽りの恋・其の参

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月が変わった次の日、朝四つの鐘の余韻が壬生村に響く中お梅は早々に八木邸にやって来た。今までも借金の取り立てや浪士組の乱暴さに苦情を申し出に屯所にやって来たものは少なからずいたが、ここまで朝早いのは初めてである。朝の巡察が無い隊士達の中には着崩れた寝間着のままだったり下帯ひとつでうろついていた者もいただけに、この妖艶な借金取りの来訪に必要以上に慌てふためく。

「会津様からのお給金、今日なんでっしゃろ?せやったらここで待たせて貰いますえ。」

 柳眉を逆立てながらお梅はそう言い切り、芹沢のいる部屋にずかずかと入り込んだ。

「女!また来たのか!いい加減にしろ!」

 さすがに朝餉が済んだ直後とあって芹沢は素面であったが、不機嫌さは昨日と変わらない。むっとした表情でお梅を睨み付けるがお梅は怯える素振りさえ見せなかった。

「あたりまえどず。そんなにうちの顔を見るのが嫌やったらとっとと払うもん払うてください。うちかてこ~んなむさ苦しいところでまたされるのは堪忍や!」

 周囲にいる強面の男達の方がはらはらとする科白がお梅の形の良い唇からぽんぽんと吐き出される。むしろ芹沢の方がお梅に圧されていると言っていいだろう。

(どうもこの女はやりにくい。)

 怒鳴りつければ負けじと怒鳴り返してくる。鉄扇を振り上げても眉一つ動かさない。芹沢にとっては八方ふさがりなのである。かといって巡察の振りをして外に出ようとすれば『逃げはるんですか、芹沢局長はん?』とお梅に嫌みを言われてしまい逃げ出すこともできない。
 できるだけお梅と距離を置こうと芹沢は縁側に、そしてお梅は芹沢も、そして会津からの給金を運んでくる者も見逃さないようにと玄関と縁側どちらも見渡せる広間の入り口に陣取る。

「どうしましょう、土方さん。あんな芹沢さん見たことがありませんよ。」

 見るに見かねた平間が前川邸にいる土方の許に助けを求めにやってきた。機嫌が悪ければ女子にさえ手を挙げることもある芹沢がにっちもさっちもいかない状況は平間にとっても初めて見る姿らしい。

「・・・・・そりゃねぇだろうな。」

 土方は口の中で意味深に呟いたが、それは平間の耳に届かなかった。土方は軽くため息を吐くと立ち上がる。

「二十両か・・・・・新見の尻ぬぐいってぇのは腹立たしいが、とりあえず五両くらいなら何とかなるかな。」

 それに滅多に拝めない芹沢の困惑顔を見ることが出来るのも悪くはない。土方は平間に五両を包んで一緒に来るようにと指示を出した。



 お梅に渡す五両を準備して土方と平間が八木邸に出向いた時も、芹沢とお梅は互いにそっぽを向きつつも独特の緊張感を漂わせていた。特に芹沢からは苛立ちと困惑の気配が濃厚だ。土方は必死に笑いを押し殺しながらお梅に声をかける。

「お梅さん、あまりうちの局長を困らせるのは勘弁してくれねぇかい。少なくて申し訳ねぇが今回はこれで手を打ってくれ。俺たちが借金をしているのはあんた達だけじゃねぇんだ。」

 土方は片手で拝みながら五両を包んた袱紗をそのままお梅に渡した。

「土方!新見の尻ぬぐいなんざする必要はねぇ!」

 まるでこっちが折れたみたいで体裁が悪いと言わんばかりの表情を露わにし縁側から芹沢が土方に怒鳴りつけるが、土方は平然とそれを受け流す。

「別にいいじゃねぇか。これは昨日あんたが花街に繰り出さなくて浮いた分なんだからよ。」

 その瞬間、驚くべき事が起こった。芹沢がまるで少年のように首筋まで真っ赤にして顔を背け、同時にお梅の形相がまるで般若のようになったのである。その形相は一瞬で消え去ったが、土方はそれを見逃さなかった。

(へぇ・・・・・この女もまんざらじゃねぇらしいな。)

 お梅の表情に浮かんだもの、それは明らかに嫉妬の感情だった。旦那がいる立場で他の男に想いを寄せるというのも問題だが、男と女というものはそれだけでは割り切れない。

(どちらにしろくっついちまったらはた迷惑な二人になりそうだな・・・・・。)

 芹沢の片想いだけなら問題は無いが、双方にその気があるとなると厄介である。互いの想いに気がつかないまま別れた方が幸せだろう。

「ま、そう言うことだ。明日から俺たちは大阪に出向く。そこでどれだけ出費があるかわからねぇから今は金子を渡すことはできねぇが、残りは大阪から帰ってきたら必ずわたす。お梅さん、それでいいな?」

 土方の言葉にお梅の顔が心なしか強張っている。

「泣く子も黙る壬生浪士組の局長はんにもなると遊びも豪勢なんどすな・・・・・へぇ、判りました。主人にはその旨伝えておきます。」

 お梅は強張った表情のまま五両の袱紗を懐に入れると、嫌みを含ませた捨て台詞を残し八木邸から立ち去っていった。



「土方!お前なんて事をしやがる!」

 お梅が立ち去った後、芹沢がものすごい剣幕で土方ににじり寄る。

「『なんて事』ってぇのは、五両を渡したことか?それとも女遊びをばらされたことか?」

 にやにやと笑う土方の言葉に芹沢は言葉に詰まる。

「あの女は止めておけ。人のもんだし、うまくてめぇのものにしたっていつ寝首をかかれるか判ったもんじゃねぇ--------------俺たちは戦いに最中にいるんだぜ、芹沢さんよ。」

 土方の言葉に芹沢は子供のようにむくれるが、その事を一番よく判っているのは他ならぬ芹沢であった。会津藩預りという不安定な立場の状態で、日々長州の不逞浪士達との戦いに明け暮れている今、恋に溺れることは危険極まりない。

「ああ・・・・・・判っているさ。それに、大樹公が江戸に帰られた後俺たちだっていつまでここにいられるか判らねぇ・・・・・間違ってもあの女に手を出すつもりはねぇ。安心しろ。」

 だが、そう言った芹沢の言葉はどことなく淋しげであった。



 壬生の屯所を出たお梅はその脚で菱屋に出向き、袱紗ごと五両の金を旦那に渡した。

「『御用』とやらでどれくらい金がかかるか判らんのやて。とりあえず五両ふんだくってきてやったわ。」

 お梅が僅かに乱れた後れ毛を整えながら状況を説明したが、菱屋の主人はその半分も聞いてはいなかった。もどかしげに袱紗を広げ、黄金色の金子を確かめると涎を流しそうな表情でそれを撫でさする。

「そうか、おおきに。お前のおかげで何とか回収できそうやな。この調子で頼むで。」

 へらへらとだらしない表情で五両分の小判を撫でさする菱屋の主人を冷ややかな目で一瞥すると、お梅は足早に自分の妾宅へと帰っていった。

「何が悲しゅうてあんな情けない男に囲われなあかんのやろ。」

 元々愛情など全く感じていなかった。ただ向こうが勝手にその気になって『囲ってやる』というから囲われているだけだ。妾になればもう少しましな生活が出来ると思ったが、元々婿養子である菱屋の主人は妻に頭が上がらずお梅の立場は極めて弱いものである。
 しかも今回の借金取り立ても『女子なら向こうも非道い目には遭わせないだろう。』ということでお梅が使わされたのである。その弱腰加減にはうんざりしていた。いっそ妾などやめて飛び出してしまいたいくらいだが、身寄りのないお梅に帰る場所などありはしない。そんな時出会ったのが芹沢だった。

 確かに乱暴かもしれないが、お梅にはその乱暴さが男らしく頼もしく思えた。大柄な体躯もおめの好みである。今回五両しか返して貰えなかったことは店にとっては問題かもしれないが、お梅にとってはむしろもう一度芹沢に逢うことが出来ると嬉しく思ったのだ。
 だが、いくら評判の悪い壬生浪士組の局長といえど芹沢ほどの立場になれば言い寄る女も少なくないだろう。例え店から暇を出され、自由の身になったとしてもお梅に入り込める隙間などないに決まっている。それでももう一度だけ、芹沢に会いたいとお梅は切に願った。

「大阪・・・・・やな。」

 全てを失うかもしれない覚悟をお梅は心に秘め、その準備に取りかかった。



 次の日新選組の幹部達は将軍の見送りをするために伏見から船に乗り大阪へ向かった。普段は船に乗り次第すぐに酒に手を出す芹沢だったが今日は珍しく素面のままである。

「どうしたんですか、芹沢さん。体調でもお悪いんで?」

 近藤が心配げに尋ねるが、芹沢はただ口許に曖昧な笑みを浮かべただけであった。

「まぁまぁ近藤さん。今の俺たちの現状を考えたら呑む気にもなれねぇさ。近藤さんだって人のことは言えねぇだろう。大丈夫なのか、胃の腑の方は?」

 そもそも今回の下阪は江戸に帰還する将軍が大阪へ下る前に、大阪を荒らしている不逞浪士を始末するためのものであった。つまり、この仕事が終わり将軍が江戸へ帰還してしまったら壬生浪士組の存在意義も無くなってしまうのである。そんな不安定な状況下では騒ぐ気にも慣れないだろうと土方は話を横に逸らした。そして案の定近藤は素直にそれに乗っかる。

「相変わらずさ。こんなに武士同士の話し合いが腹の探り合いだとは思わなかったよ。」

 そして如何に交渉事が大変か延々と土方に愚痴り始めた。そんなたわいもない二人の会話にも芹沢は入ってこなかった。そしてぼんやりしていた芹沢は後ろを追っかけてくる船の一つにある女性が乗っていることにも気がつかなかった。



 新選組の大阪での定宿である京屋に入ってしばらくした時、一人の女が芹沢を訪ねてきたと宿の仲居が部屋にいる隊士達に告げに来た。

「一体誰だ?大阪に俺を訪ねてくるような女なんて・・・・!」

 面倒くさそうに呟いた芹沢は途中で言葉を飲み込んでしまう。部屋に知らせに来た仲居の後ろから出てきたのは他ならぬお梅だったのである。まさか大阪まで追っかけてくると思っていなかっただけに芹沢は勿論その場にいた全員が唖然とする。

「申し訳ありまへんが、皆はん席を外してもらえますやろか?」

 京女独特の愛想を振りまきながらもその目は笑っていなかった。

「お梅さん、わざわざ大阪まで出向いた根性は見上げたものだがそれは・・・・・。」

「悪いが二人だけにしてくれねぇか。一度は話を付けなければならねぇだろう。」

 言いかけた近藤の言葉を他ならぬ芹沢が遮る。そんな芹沢に対し、近藤は何とも言えぬ複雑な表情を見せた。

「・・・・・判りました。では我々は先に新町へ出向いていますので後から来て下さい。頼みましたよ。」

 そしてお梅に対し、近藤は露骨に嫌悪に満ちた視線を投げかけるとそのまま部屋を出て行った。そんな近藤の後に続き他の者達も部屋を出て行く。後に残された二人の間には何とも言えない張り詰めた空気が漂っている。

「・・・・・何故こんな所まで来た!」

 芹沢は怒りにも似た感情を言葉に含ませじりじりとお梅に近づいてゆく。

「貸したもん取り返しに来ただけや。下手に豪遊されてスッカラカンにならはったんでは商売あがったりや。」

 近づいてくる芹沢を睨み付けながらお梅は一歩も引かない。むしろ芹沢を威嚇するようにさらにきつい視線を芹沢に向ける。

「俺の行動を監視に来たか!武士には武士の付き合いってもんがある!女如きが口出しするんじゃない!」

 そう言い放った瞬間、芹沢はお梅の腕を掴み、強く握りしめる。

「うっ・・・・・・痛いやないの!」

 お梅はそのあまりの力にもがき、芹沢の手をふりほどこうとするが芹沢の手はびくともしない。

「女、これが最後の忠告だ。とっとと京都に帰れ!でなければ・・・・・。」

「嫌や!用が済むまで絶対にかえら・・・・・!」

 お梅の怒鳴り声がふいに止む。その形の良い唇は芹沢の唇によって塞がれ、そのままお梅は床に引きずり倒された。

「・・・・・・最後の忠告だと言ったはずだ。お前が・・・・・・お前のせいだぞ、お梅!」

 芹沢の苦痛に満ちた声と同時に芹沢の手はお梅の胸許へ強引にねじこまれた。



UP DATE 2010.05.21


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『誠の恋、偽りの恋』其の参です。スミマセン、思いっきり寸止めで(苦笑)。しかも現場も八木邸ではなく大阪に持ってきてしまいました。だってねぇ・・・・為三郎や勇之助もいるのにどこでヤレっていうんでしょう(笑)。変なオトナの妄想が頭の中をかけめぐり、結局大阪に舞台を引っ張ってきてしまいました。
さて、ここからどうしましょう・・・・・書けと言われればそれなりに(勿論全年齢ver.で)書けるんですが、次の話でいきなり事後、ってことも大いにあります。とりあえず1週間考えてみますね~。

なので次回は『コト』の部分を書くか書かないか判りませんが、とりあえず芹沢&お梅のこの後と京都の佐々木&あぐり、ついでに島田の動向を書きたいと思います。(その後がようやく相撲取りとの乱闘・・・・なかなか進まないし沖田が主役なのに影が薄い~・苦笑)
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