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「VOCALOID小説」
枝ノ護人

ボカロ小説・枝ノ護人~朱雀の章・6

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 この場に留まるか、それとも妹達の許へ旅立つか――――――水鏡から海斗の屋敷へ帰ってくるなり、鳴鼓は青い几帳を張り巡らせた中に閉じこもってしまった。その中に声をかけることも出来ず、海斗は几帳の外に所在なげに座り込む。

「お兄ちゃん、一体どうしたの?」

 海斗達の帰宅を侍女から聞いて、東対からやってきた未来が開口一番海斗に尋ねた。

「まさか鳴鼓と喧嘩でも?龍脈もすごく荒れているし・・・・・・」

 海斗の背後に立てかけてある青い几帳からは鳴鼓の抑えた嗚咽が漏れ聞こえくる。まさか海斗が鳴鼓を泣かせたのか――――――蝉の羽襲を身につけた妹は、疑惑の目を兄に向ける。

「いいや、喧嘩をしたわけじゃない」

 理不尽な疑いをかけられては堪らないと、海斗は水鏡で見た光景を、そしてそこで鳴鼓に告げた自分の想いとを未来に話した。

「へぇ~いつも慎重で弱気なお兄ちゃんにしてはだいぶ勇気を出したんだね。でも・・・・・・鳴鼓は迷っているんだ」

 迷っている、ということは多少なりとも鳴鼓も海斗に好意を持っていてくれているからだろう。少なくとも海斗があっさり振られることはなさそうだと、未来は心の中で安堵する。

「ああ。鳴鼓の妹達はかなり憔悴しきっていたからな・・・・・・妹達を見捨てて自分だけ安穏とはしていられないんだろう」

「お兄ちゃん、鳴鼓の妹達を助けてあげたら?」

 未来が提案した刹那、海斗の表情が途端に険しいものになった。

「未来、我々が人の世に介入することは最低限に限られている。鳴鼓のように縄張りに転がり込んできたならいざ知らず、こちらから出て行くことは禁じられているんだ。お前だって知っているだろう?」

 あくまでも彼岸と此岸の規律を厳密に護ろうとする『枝ノ護人』である兄に対し、未来は柳眉を逆立てる。

「本当に頭が硬いんだから!別にちょっと足を伸ばすぐらい良いでしょう?それに壇ノ浦近辺は貴世煌(キヨテル)の縄張りなんだし・・・・・・お兄ちゃん、貴世煌と仲良いんだから、ちょっと話をつければ大丈夫だよ!」

 だが、普段はどこまでも優しく、むしろ弱気とも言える海斗だが、この点に関してだけは一歩も引かなかった。

「そういう事では無いよ、未来。本来彼岸と此岸は交わってはいけないんだ。それに貴世煌は俺以上に規律を乱すことを嫌う。どっちにしても鳴鼓が妹達を選ぶなら・・・・・・それまでだ」

 苦しげに、しかしどこまでも『例外』を許そうとしない海斗に、とうとう未来が爆発した。

「お兄ちゃんの馬鹿!もう知らない!!」

 未来は叫ぶと海斗の横をすり抜け、鳴鼓が籠っている青い几帳の中へ潜り込んだ。



 見た目こそただの几帳だが、鳴鼓を護っている青い几帳は海斗の妖糸で編まれた結界である。使い魔程度の小妖怪は勿論、そこそこ力のある妖かしでさえこの几帳をくぐり抜けることは出来ないだろう。だが、『枝ノ護人』の妹であり、黄泉大神の後継者である未来にとって、本気で力を出せば結界をくぐり抜けることは造作も無い。

「鳴鼓、ちょっといいかな?お兄ちゃんから話を聞いたんだけど・・・・・・!」

 ごそごそと、まるで仔犬のように几帳の中に潜り込んできた未来だが、鳴鼓の顔を見た瞬間、言葉を失う。その目は涙で充血し、瞼は腫れ上がっていたのだ。

「ああ、未来ちゃん、いらっしゃい。ごめんね・・・・・・どうしていいのか混乱しちゃって」

 涙を手の甲で拭いながら鳴鼓は未来に語りかける。

「水鏡で妹達を見せて貰ったんだけど・・・・・・あの子達のあんな憔悴した顔、見たことがなくって・・・・・・」

「鳴鼓は水鏡を信じてくれるの?もしかしたら偽りが映っているかも知れないのに」

 穏やかな、しかし醒めた言葉が未来の唇から溢れる。その冷静すぎる言葉に少し驚きながらも、鳴鼓は自分が感じたことをそのまま語る。

「もし、私を惑わすのであれば、もっと衝撃的な・・・・・・何者かに妹達が襲われているような姿が映ると思うの。ただ疲れきった顔で海岸を歩いている姿はあまりにも平凡すぎる・・・・・・だから、あれは事実のままの姿だと思うわ」

 そこまで語り切ると、鳴鼓の目から新たな涙が零れ落ちた。

「姉として、あの子達を見捨てちゃいけないと思うの。でもね・・・・・・妹達と同じくらい、ううん、それ以上に海斗のことも好きなの」

 自嘲の笑みを浮かべながら、鳴鼓は真っ赤に泣きはらした目で未来をじっと見つめる。

「自分の想いに気が付かないまま、ここを立ち去れれば良かった。だけどね、気がついちゃったの・・・・・・海斗と別れたくない、ずっと傍にいたい・・・・・・妹達を放ったらかして・・・・・・ずるい姉だよね」

 辛い逃亡生活を余儀なくされれている妹達を見捨て、自分一人幸せになる事に強い罪悪感を感じている鳴鼓に、未来はそんな事はないと首を横に振った。

「――――――ねぇ鳴鼓。、一つだけ聞きたいんだけど」

 未来が真剣な表情で鳴鼓に尋ねる。

「妹達には人間の姿で会いたいの?それとも異形の姿でも構わないと思う?たとえ妹達に『鳴鼓』と判ってもらえなかったとしても」

「そ、それは・・・・・・」

 未来の提案に、鳴鼓はあからさまに動揺する。そんな鳴鼓の反応を見ながら未来は更に言葉を続けた。

「もし異形に変化した後でも構わないのなら、お兄ちゃんの北の方になってからでも妹さん達に会いにいけると思うよ。ただ『鳴鼓』と判ってもらえないのは辛いけどね」

 未来の言葉に鳴鼓は唇を噛みしめる。

「あとね、もし人間の姿で会うことになっても、またここに帰ってくればいいんだよ。お兄ちゃん、意気地なしだから鳴鼓が人間界に戻ったら帰ってきれくれないんじゃないか、って思っているんじゃないかな」

「・・・・・・帰って来ることが出来ない、というのはあるかも」

 努めて明るく言った未来の言葉に、鳴鼓は表情を強張らせた。

「私達、源氏の平氏狩りに追われているから、見つかれば殺されてしまうかもしれないの。ここに来た時だって平家狩りに追われての事だったし・・・・・・」

 そう言うと鳴鼓は立てた膝に顔を突っ伏す。

「・・・・・・折角海斗にも望まれているのだから、大人しくこの場所で暮らせばいいというのは理解しているの。でも・・・・・・もう一度だけ、琉華と麟をこの目できちんと見たいの」

 幾度もなく自問し、いつかは選ばなくてはならない一つの答え。だが、それを選ぶことは今の自分には出来ない――――――そう言って泣きだした鳴鼓を、未来はただ見つめることしか出来なかった。



 月日は瞬く間に過ぎ、鳴鼓が海斗の屋敷にやってきてから既に四十日が経過した。鳴鼓の怪我は順調に回復していたが、この場に留まるか、それとも人の世に帰るかの答えを鳴鼓は未だに出せていない。

(何故ここまで悩むのか)

 竹を割ったような性格で、何事もはっきりと決断する鳴鼓がこの件に関しては答えを出せずに悩み続けている。水鏡を訪問して既にひと月近くが経過している――――――いくら一生に関わる事とはいえ、鳴鼓の性格としては悩みすぎだ。

「ねぇ、鳴鼓」

 海斗は几帳越しに鳴鼓に声をかける。

「君は何故妹達にそこまで義理立てしようとするの?こう言っては何だけど、もしかしたら妹さんたちは既に君が死んだものと思っているかもしれないよ。それなのに何故?」

「・・・・・・私は、あの子達の母親代わりだったの」

 暫しの沈黙の後、ぽつり、と鳴鼓は告げた。

「私達の母親は麟を産んですぐに死んでしまったの。で、その後母が名を連ねていた白拍子の組織に引き取られたんだけど、そこがひどいところでね・・・・・・琉華や麟を守るために何度殴られたか」

 昔語りにしてはあまりにも寂しげな鳴鼓の声に、心配になった海斗は青い几帳の中に潜り込む。

「鳴鼓・・・・・・」

 几帳の中に潜り込んできた海斗に一瞬驚きの表情を浮かべた鳴鼓だったが、微かな笑みを浮かべたまま昔語りを続けた。

「でね、私が十五になった時、組織からお客を取るように強要されて・・・・・・琉華と麟を護るために、って何でもやったわ」

「鳴鼓、もう何も言わなくてもいいから!」

 辛い過去の告白に、海斗は思わず鳴鼓を強く抱きしめる。だが、鳴鼓は海斗に身体を委ねたままぽつり、ぽつりと自分の想いを吐き出してゆく。

「あの子達は私の全て・・・・・・全てを賭して守りたい存在なの。だから、あんな姿を見たら・・・・・・」

 鳴鼓の頬に一筋、涙が零れ落ちる。

「海斗ともずっと一緒にいたい。でもあの子たちを見捨ててはおけないの・・・・・・我儘だってことは百も承知だけど・・・・・・」

「期限の四十九日まではあと九日ある。可能性は低いけど、その間に状況が変わるかもしれないし、もし君が望むなら・・・・・・」

 ここまで鳴鼓が悩むなら、いっそ規律を破り人の世への介入をしてしまおうか――――――その時である。

「お兄ちゃん!鳴鼓!急いでお庭の中ノ島に来て!!」

 未来の甲高い声と共に青い几帳がバタバタと倒され、抱き合っていた二人の姿が露わになった。

「きゃあっ!」

 海斗に抱きしめられていた鳴鼓は慌てふためくが、未来はそんなことに頓着せず、二人の手を取って強く引っ張る。

「久遠(クオ)を通じて黄泉大神様にうちの屋敷からも人間の世が見えるようにしてもらったの!そうしたらね・・・・・・とにかく来てよ!見てもらうのが一番だから!」

 どうやら何か大きな出来事が起こっているらしい――――――未来に手を引かれるまま、鳴鼓と海斗は庭に飛び出した。




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最初の予定では、鳴鼓自らに海斗を取るか妹達を取るか選ばせるつもりだったのですが・・・いつまでも煮え切らない兄達にイラッ、ときたもう一人の妹が動き出してしまいました(^_^;)何だかんだ言って未来が一番行動的なんですよ、この話の中では・・・本当に兄妹真逆の性格です。

鳴鼓にとって二人の妹達は自分が命がけで護らねばならない存在なのですが、それと同時に海斗は命を賭けて愛したい存在でもあります。両方共鳴鼓にとって命にも代えがたい存在なのですが、残念ながら命はひとつしかありません。さすがに命を二つに裂くことも出来ず・・・そんな迷いの中にいる愛しい人に、ついつい甘い顔をしそうになる海斗でしたが・・・。

次回は多分朱雀の章最終回、池に映し出されるもの、そして鳴鼓の進むべき道が決まります。

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