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「VOCALOID小説」
枝ノ護人

ボカロ小説・枝ノ護人~朱雀の章・7

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 興奮する未来に手を引かれるまま、鳴鼓と海斗は庭に飛び出した。いったい何があるというのだろうか――――――未来に煽られるまま二人は庭の中央に配されている大池に近寄る。そして大池の水面を見た瞬間、鳴鼓が思わず大声を上げた。

「あっ!あれは・・・・・・琉華!麟!それに嶽畝様も!」

 そこには鳴鼓の二人の妹とその恋人らしい背の高い侍の三人が抱き合い、再会を喜ぶ姿が映し出されていたのである。三人とも身につけているものはボロボロに薄汚れ、疲労の色を滲ませてはいたが病気や怪我は無さそうだ。

「良かった・・・・・・壇ノ浦で亡くなった武士も多かったらしいのに。嶽畝様が生きていらっしゃったなんて」

 二度と再会できないかもしれないと思っていた恋仲の二人が再会を果たした姿に、鳴鼓は感涙にむせび、その震える肩を海斗は抱きしめる。だが、海斗のその青い目は再会を喜ぶ三人ではなく、あばら屋の影に隠れるように佇む一人の女を見つめていた。漁師の娘だろうか、十代後半らしき若い女だ。しかし、その目は年齢に似つかわしくない昏い色を湛え、三人を睨めつけている。

(あの娘・・・・・・どうも気になるな)

 だが鳴鼓の感激に水を差すような真似はしたくないし、迂闊に心配させてしまえば妹達を助けに、と言って丸腰で人間界に飛び出しかねない。どうしたものかと思案し始めた海斗だったが、その思考を彼の妹が打ち破る。

「そうだ、お兄ちゃん。水鏡の事を頼んだついでに黄泉大神様から許可も貰っておいたの。だからちょっと人間界に行って鳴鼓と妹達を会わせてあげなよ」

 そう言って未来が取り出したのは一枚の許可証だった。

「山陽道を護っている貴世輝にも黄泉大神様から口添えをしてくれるって」

「おい、そんなことまで・・・・・・」

 『枝ノ護人』本来の仕事である各地域の守護に関わることならいざ知らず、ごく私的な事まで黄泉大神の手を煩わせる訳にはいかないと海斗は慌てるが、未来は平然としている。

「だって心配なさってたよ、黄泉大神様。『枝ノ護人』の中で唯一お兄ちゃんだけが対になる相手をなかなか持たないって。男も女も近づけないなんてどこか欠陥があるんじゃないかって本気で口にするくらいだもの」

「まったく・・・・・・お前が余計な事を黄泉大神様に吹き込んだんじゃないのか?」

 海斗は未来を睨みつけながら苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「まぁ、妹達に会いに行く件は鳴鼓が落ち着いたら尋ねることにして・・・・・・もしかしたらこれの他にもう一度許可証を申請することになるかもしれない」

 そう未来に告げながら海斗は池の端の方に映っている、三人を睨みつけている若い女を指さした。

「気にならないか、あの視線」

「確かにあんまり好意的な目じゃないね」

 海斗が指し示した女を見た瞬間、未来の表情も途端に険しくなる。

「人間界の問題であればあの侍が自ら片を付けるだろう。だが、あの人間離れした悪意というか怨念は・・・・・・」

「間違いなく悪鬼とか怨霊を呼ぶわね。お兄ちゃん、その件も含めてやっぱり一度は貴世輝と話をしておいた方がいいと思う」

「・・・・・・だな。もしかしたら『枝ノ護人』の本気を出さねばならなくなる可能性があるかもしれない」

 厳しい口調で呟いたその時である。妹達の姿に満足したのか、鳴鼓がようやく池の端から立ち上がった。

「・・・・・・嶽畝様と合流出来たなら、あの子達もきっと大丈夫だわ」

 明らかに安堵の色が滲むその声は心なしか湿っている。それに気がついた海斗が鳴鼓の顔を覗くと、鳴鼓はその大きな目に涙を滲ませていた。

「鳴鼓?」

 その涙が単純な嬉し涙ではないと気が付いた海斗は鳴鼓にその理由を尋ねようとする。だが、それを尋ねる前に鳴鼓から口を開いた。

「ねぇ、海斗。水鏡で言ってくれた言葉・・・・・・海斗の北の方にしてくれる、って話はまだ有効かしら?」

「も、勿論だけど」

 まさかこの場でその話が出るとは思わなかった海斗は一瞬怯む。それとは対照的に鳴鼓はまっすぐに海斗を見つめ、己の想いを口にした。

「私・・・・・・あの、話受けます。たとえ私の姿が、あの子達の目に映らないものになっても・・・・・・構わない」

「鳴鼓!」

 感極まった海斗は鳴鼓を強く抱きしめる。

「無理をすることはない。未来がわざわざ黄泉大神から地上へ出る許可を取り付けてくれたし・・・・・・人間でなくなってしまう前に一度だけでも二人に会ったら?」

 海斗は優しく鳴鼓を促すが、鳴鼓は海斗の腕の中ではっきりと首を横に振った。

「ううん、きっと正面切って顔をあわせてしまったら決心がぐらついてしまうから。でも・・・・・・ちょっとだけ覗かせてもらえるなら」

 やはり水鏡を通じてではなくこの目で直接妹達の様子を確認したいのだろう。海斗は頷くと、未来から許可証を受け取った。

「じゃあ鳴鼓、俺にしっかり捉まっていて」

 そう言うと海斗は鳴鼓を抱きしめたまま水の中に飛び込んだ。



溺れる――――――!



 心の準備もなく水の中に飛び込む形になった鳴鼓が慌てたのは一瞬だった。

「え・・・・・・?」

 予想していた苦しさは鳴鼓を襲わず、眩いばかりの光と爽やかに吹き抜ける風が鳴鼓を包む。二人が大池から飛び込んでやってきたのは琉華や麟がいる長門国、壇ノ浦の近くの漁村である。

「鳴鼓、しっかり掴まっていないと落ちるよ」

 クスクスと笑われながら海斗にそう言われ、鳴鼓は自分達が宙に浮いていることに初めて気がついた。その瞬間、急に恐怖を覚え、鳴鼓は更に強く海斗に抱きつく。
 そんな鳴鼓の反応に照れくさそうな笑みを浮かべた海斗は、鳴鼓を抱きしめたままふわり、と一軒のあばら屋の近くに降り立つ。そのあばら屋は先程嶽畝が琉華と麟を招き入れた小屋だった。今にも崩れてしまいそうなそのあばら屋の中を鳴鼓はそっと覗き込む。
 すると幸せそうに笑う琉華と無邪気にはしゃぐ麟、そしてその様子を穏やかに見つめる嶽畝がいた。その光景を確認した鳴鼓は背後にいる海斗にそっと呟く。

「・・・・・・ありがとう、海斗。私の出る幕はないみたい」

 その時、中から聞こえてきたのは琉華の淡々とした声だった。京都から丹波に向かう途中に鳴鼓と別れた事、そしてそれ以来、後から鳴鼓が追いかけてきても追いつけるようにゆっくりここまでやってきたが、それでも鳴鼓は自分達に追いつかなかった事――――――その全てを嶽畝に語る琉華の口調は、鳴鼓が知っている頼りない琉華のものではなく、妹を守ってここまで辿り着いた一人の強い女のものだった。

「考えたくはありませぬが、お姉さまは・・・・・・」

「琉華姉!そんな言い方しないでよ!」

 琉華の不吉な一言に麟が反論するが、琉華は穏やかにそれを窘める。

「麟、気持ちは解るけど・・・・・・お姉さまのことです。生きていらっしゃれば絶対に私達に追いついてくださるはず。それが未だに叶わぬということは・・・・・・」

 そこまで気丈に耐えていた琉華だったが、そこで緊張の糸が切れてしまったのだろう。泣き崩れる琉華を嶽畝はそっと抱き寄せた。それを壁の隙間から海斗と共に覗き見ていた鳴鼓は、困惑したように海斗に尋ねる。

「・・・・・・ね、あの状態で『追いつきましたぁ!』なんて言って出ていけると思う?」

「う~ん、ちょっと無理だね」

 苦笑いを浮かべながら海斗は鳴鼓を背中からそっと抱きしめた。

「じゃあ今はこのまま立ち去ろうか。きっと近い将来、あの三人は君の助けが必要になるかもしれないけど」

「海斗?それってどういう意味?」

 意味深な海斗の一言に鳴鼓が気色ばむが、海斗はそれをはぐらかす。

「『人間』にはちょっと言えないなぁ」

 その瞬間鳴鼓は柳眉を逆立てるが、そんなことはお構いなしに海斗は鳴鼓の耳許に唇を寄せて囁く。

「鳴鼓が俺の妻になってくれたら教えてあげる」

 その言葉に鳴鼓は毒気を抜かれ、顔を赤らめることしか出来なかった。



――――――祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
――――――沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
――――――おごれる人も久しからず。ただ春の夜の夢のごとし。
――――――たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。



 海斗の琵琶に合わせて鳴鼓が謡い、舞い踊る。婚礼の席で花婿、花嫁が余興するということは極めて異例だが、妖かしと人間という風変わりな『枝ノ護人』の婚礼ならそれもありだろうとお披露目の席に呼ばれたごく親しい友人達は笑った。

「しかしこれから閨に入るんだろう?人間である花嫁が、一体どんな妖かしに変わるのか一興だな」

 貴世輝が美酒を煽りながら海斗を茶化す。

「さぁ。妖かしになっても人間の時の気性がそのまま現れやすいと言うから・・・・・・」

 貴世輝のからかいに、海斗は困ったように肩をすくめる。

「うわばみか大虎か、ってところかな。何せ頂きものの神便鬼毒酒を数樽、全て飲み干した女丈夫だから」

「・・・・・・それって既に妖かしなんじゃねぇの?」

 そんな横槍を入れたのは、一緒に酒を酌み交わしていた久遠だった。

「かもしれないね」

 笑いながら海斗は未来や貴世輝の『枝ノ護人』の片割れである雪貴(ゆき)と談笑している鳴鼓を呼び寄せる。

「じゃあ俺達はそろそろ二人にさせてもらうよ。未来、貴世輝達を西ノ対へ・・・・・・」

「いや、それには及ばない。未来と久遠だって早くふたりきりになりたいだろうし、俺と雪貴は勝手に行かせてもらうよ」

 そう言うと貴世輝は雪貴と一緒に西ノ対へと消えてゆく。見た目は歳の離れた兄妹か親子のように見える二人だが、実はそれほど年齢は離れていないらしい。

「じゃあお兄ちゃん、私達は東ノ対にいるからまたあしたね~!」

 新婚初夜を邪魔してはならないと、未来は未だに杯から手を離そうとしない久遠の首根っこを捕まえて自室のある東ノ対へと消えていった。婚約中である二人だが、結婚しても確実に未来のほうが主導権を握ることになるだろう。
 どんな二組が去った後、残された海斗と鳴鼓は顔を見合わせ互いに顔を赤らめる。

「じゃあ、俺達も・・・・・・」

「うん」

 二人は互いに手を取ると、瑠璃紺に艶めく几帳の中へその姿を消していった。



(枝ノ護人・朱雀の章 了   迦楼羅の章へ続く)



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鳴鼓と海斗が未来に手を引かれて見たもの、それは妹達と嶽畝との再会でした(^^)その事実に感激した鳴鼓はそれだけしか見えていなかったのですが、海斗や未来には別のものが・・・これから問題になりそうな厄介な一人の女の姿が見えていたようです。この女の正体、そしてこの女が呼び寄せてしまうものに関してはがくぽ&ルカの話である『迦楼羅の章』にて語らせていただきますね。

で、一応海斗と鳴鼓のごく身内の祝言で終わった朱雀の章ですが・・・新婚初夜の後、鳴鼓がどんな姿に変わってしまったかという後日談(R-18)を次回書かせていただきます。ちょっと本編に組み込むにはあまりにもおバカ過ぎる話なので(^_^;)
宜しかったらそちらもお付き合いのほど宜しくお願いしますm(_ _)m
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