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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第六章

夏虫~新選組異聞~ 第六章・結

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 梅雨にしては珍しい激しい雨が、煉瓦造りのカフェーの窓硝子に叩きつける。それとは対照的にどこまでも静かで穏やかなカフェーの中、沖田老人は話を終え、口を噤んだ。

「何て・・・・・・事ですか」

 沖田老人の話を聞き終えた中越は愕然とする。

「確かに・・・・・・深雪太夫姉妹を身請けしたとか、その際不明金が発覚し隊士が切腹に追い込まれたなんていうのは大した事件じゃありませんけど、何て仰っていましたけど、この年にこんな大きな出来事が立て続けに起こっていたなんて――――――」

 新選組による谷三十郎暗殺未遂及び死去、そして将軍・天皇の死に伊東派の反乱、極めつけには小夜との別れ・・・・・疾風怒濤の出来事が、歴史の水面下で起こっていたことに中越は愕然とした。そんな中越に対し、沖田老人はどこまでも静かで穏やかな笑みを絶やさない。

「まぁ確かに表面上は大きな事件は起こっていませんでしたからね。でも、新選組にとって・・・・・・いえ、私にとってはとんでもなく大きな出来事でした」

 特に小夜との別離がね、と沖田老人は付け加える。

「しかしお小夜さんとは・・・・・・一度別れさせられたのに、何故ご一緒に?しかも京都から遠く離れた横浜でずっと暮らしていたんですよね?その理由はお聞かせ願えないんでしょうか?」

 他の出来事についてはまだ理解することができるが、こればかりは――――――沖田老人の私生活に関わる部分だけがどうしても靄に包まれたようにはっきりとしない。職業柄、ついつい謎をそのままに出来ない性格がそのまま出てしまい、中越は沖田老人に迫ってしまう。

「それが色々紆余曲折ありましてねぇ・・・・・・」

 まるで中越の追求をはぐらかすかのように、沖田老人はニヤリと笑う。

「実は元の鞘に戻るまでに一年半ちかくかかっているんです。油小路の変はこの十一ヶ月後だったのに・・・・・・恋敵を殺しても、小夜とはなかなか会うことが出来なかったんです」

「しかし油小路の後っていったらすぐに戊辰戦争でしたよね?ということは京都から離れた後にお二人は再会したと?」

「まぁ、そんなところです」

 冷めたロシアンティーを最後まですすると、沖田老人は大きく伸びをした。

「私達の再会・・・・・・それに関しては順を追って話していかないと訳が解らなくなりますので後々のお楽しみということで。でもお一つだけお教えいたしましょうか」

 沖田老人は意味深に声を潜めつつ、口を開く。

「私達が再会した場所というのは板橋の刑場でしてね・・・・・・近藤先生がまさに斬首になろうか、って時だったんですよ、互いに気が付いたのが」

 その声には今までとは違う、暗い毒が含まれているように中越は感じた。

「私と小夜の別れを命じた方の死に際に出会ったというのはやはり運命だったんでしょうかね。申し訳ないと思いつつ、近藤先生の死を嘆くよりも小夜との再会を喜んでしまいました。まぁ、だからこそ周囲にいた薩長の藩兵達に気取られずにその場から逃げおおせた、っていうのもあるのですが」

「なるほど・・・・・・近藤局長の斬首は確か慶応四年の四月でしたっけ。となると先程の一年半近く、という数字も平仄が合いますね」

 中越の言葉に、沖田老人はただニッコリと頷いた。

「まさか江戸で小夜と再会することになるとは毛頭思っていませんでした。というか、そもそもその当時の私は心身ともに病んでいて、いつ死んでもおかしくない状況でしたしね」

「心身ともに・・・・・・?それなのに刑場に出向いたんですか?」

「ええ。自分の命と引き換えに敵に捕まった近藤先生を助け出し、会津に向かった土方さんの許へ近藤先生を送り出そうと・・・・・・いや、それも本気でそう思っていたのか、自分自身極めて怪しいのですが」

 やはり何かを含んだような、意味深な物言いでそう言い残すと、沖田老人は立ち上がって壁にかけてあった丁寧な作りの蓑に手を伸ばした。

「詳しくは追々語ってゆきますが・・・・・・小夜と別れさせられた事によって、私の中に近藤先生に対する不信感の芽が生じていたことは否めません。主君や師匠に歯向かうなんてことは許されない時代だったにも拘らず」

 沖田老人の目に浮かんだ暗い影に、中越は戸惑いを覚えつつも自分の考えを述べる。

「しかし・・・・・・それは仕方ないことなのでは?いくら幕臣取り立てが絡んでいたとしても、生木を引き裂くように沖田さん達を別れさせるなんて」

「そう言ってもらえるだけでもありがたいものです―――――――時代は変わりましたね」

 心なしか寂しそうに呟くと、沖田老人はしっかりと蓑を身にまとった。

「ではこの続きは来週の土曜日、いつもの時間にこのカフェーで。ただ、次は・・・・・・人間のかなり汚い部分ばかりの話になると思いますよ」

「その覚悟はできております。だけど、もし話すのがお辛いようでしたら無理をなさらずとも・・・・・・」

「いいえ、この部分を話さなければ後々の私の行動の説明がしにくくなりますので・・・・・・『沖田総司』は世に言われるほど清廉潔白な男じゃありませんでしたから」

 その声には沖田老人の覚悟が滲んでいるように中越には聞こえた。そんな言葉を置き土産に、沖田老人は激しい雨の中カフェーから出て行った。その颯爽とした姿はやはり新選組一番隊組長だった時代を彷彿とさせる。
 その雰囲気に呑まれてしまったのか、後に残された中越は空になった沖田老人のティーカップを見つめたまま、いつまでも席から立てずにいた。



 中越が帰宅すると、許嫁の智香子が夕飯を作って中越の帰りを待っていた。

「佑さん、お帰りなさい。今日は沖田のお爺ちゃんとのお話だったのでしょう?」

 どうやら智香子の目的は中越よりも沖田老人との話のようだ。中越は苦笑いしつつ、今日聞いた話を智香子に全て話した。

「そんな・・・・・・小夜先生と沖田のお爺ちゃん、一度別れてしまったんですか!」

 話を聞き終えた智香子は目にいっぱい涙を浮かべながら、中越を責め立てる。

「ち、智香子さん、お、落ち着いいてください」

 食事中にヒステリーなど起こされては堪らない。箸を持ったまま、中越は興奮する智香子を窘める。

「身分制度があった時代のことですし、沖田さんとしても師匠である近藤局長の言葉を聞かざるを得なかったんですよ。でも、紆余曲折を経て再会を果たして・・・・・・」

「その話!来週私も連れて行ってください!どんな事情でお二人が再会を果たしたのか・・・・・・ああ、ロマンスだわ」

 夢見がちな智香子の言葉に中越は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

「智香子さん、実際はそんな美しい話ばかりでもないようですよ。俺も沖田老人にそれなりに覚悟してくれ、って言われていますし」

 だが、智香子は中越の忠告をまるで聞いてはいない。

「大丈夫ですわ、ご心配なく!どんな困難をも乗り越えて結ばれたなんてなんて素敵なんでしょう。しかも東京・・・・・・お江戸での再会だなんて。きっと小夜先生、沖田のお爺ちゃんを追いかけてお江戸までいらしたに違いありませんわ!」

 どうやら中越の話からかなり妄想をふくらませているらしい。その夢見る視線はまるで恋愛小説を読んだ少女のようである。

(何か・・・・・・厄介事が増えたようなきがするのは気のせいかな)

 この様子では間違いなく、智香子はあのカフェーに押しかけるだろう。まだ降り止まぬ激しい雨に来週の混乱を重ねあわせてしまった中越は、智香子に気が付かれぬよう小さな溜息を吐いた。



UP DATE 2014.6.28

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他の章より4話ほど少なめですが、夏虫・第六章も無事完結することが出来ました(*^_^*)
期間としては約一年で一番長いんですけどね~(^_^;)やはり表向きは新選組安定期なだけあってネタの数が少なかったというのが取り上げられます。その分一つ一つはかなり大事件なんですけどねぇ・・・将軍と天皇が半年の間に立て続けに亡くなったってやはり政治的に大きな事件でしょう(-_-;)

その代わり第七章はかなり荒れまくる予感でいっぱいです。まずしょっぱなから伊東、永倉、斉藤の居続けから始まり、謹慎後の沖田&斉藤の飲み会の直後の事件で、沖田はとんでもないものを見てしまうことになりますし・・・(ネタバレにつき以下ry)さらに御陵衛士の新選組分離もありますしねぇ。あとついでに沖田の結婚話なんかも・・・こちらもすんなりとはいきませんよ~( ̄ー ̄)ニヤリ
できれば第七章は6月の屯所移転&幕臣取り立てまで行きたいところなのですが、うまく収まってくれるかどうか・・・(^_^;)

次回7/5はやはり大正時代のカフェーから、智香子も押しかける予定でおります(よりによってこの回に・・・って中越は思っているに違いない^^;)
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