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「VOCALOID小説」
枝ノ護人

ボカロ小説・枝ノ護人~迦楼羅の章・1

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(注・朱雀の章と違って平安末期の政治状況の話がかなり盛り込まれております。とりあえず会話部分を読んでいただければ何となく流れは解ると思いますので、歴史が苦手な方は会話文の拾い読みをオススメします。なお、腐れ歴史ヲタの方は史実部分を読んでハァハァしてくださいませ←自分のジャンルじゃないのでそれほどは盛り込んでおりませんが)


 しとしととそぼ降る雨が薄暗い山道に降りしきる。その雨の中、獣道よりほんの少しだけましな街道を編笠だけを身につけた二人連れが歩いていた。すっかり汚れ、本来の色が解らなくなってしまっている白張と、少年のような丈の短い水干を身につけているのは京都から嶽畝(がくぽ)を追ってやってきた琉華(ルカ)と麟(リン)だった。

「もうすぐ・・・・・・あの山を越えれば壇ノ浦に着くはずよ。美作の隠れ里の人が教えてくれたから間違いないと思うけど」

 麟の手をぎゅっ、と握りしめながら琉華が呟く。四月の半ばに京都を発ち、すでに五月の半ば過ぎ――――――本当ならばもっと早く壇ノ浦に辿り着くはずだった。
 だが、その華やかな美貌ゆえ、人目に付いてしまう琉華が直接誰かに道を尋ねることは難しく、麟もなかなか要領を得なかった為、大きく街道を外れ、道に迷ってしまったのである。

 だが、琉華と麟にとってそれが幸いした。美作国は平氏の知行国であり、この近辺の武士は平氏方に付いているものが多い。それ故、京都から逃げ出した平氏一門の者やその支援者が美作に流れ付き、山中に隠れていたのだ。
 隠れ里というにはあまりにも粗末な集落の一つに偶然迷い込んだ琉華と麟は、そこで壇ノ浦の戦いのあらましと、その道程を来ことが出来たのである。

 ただ、琉華としてはたったひとつだけ誤算があった。山中とはいえ追手に捕まる心配が少ない平氏一門の集落に麟を残し、一人壇ノ浦へ嶽畝を探しに行こうとした琉華だったが、麟が頑なにそれを拒絶したのである。

「鳴鼓姉が死んじゃったかもしれないのに・・・・・・琉華姉と別れるなんてやだ!どんなに大変でもいい!私も連れて行ってよ!!」

 泣きじゃくって琉華に縋りつく麟に負けて結局連れてきてしまったが、その道程ははるかに大変なものになってしまった。食べるものは勿論、寝る場所さえ無く落人狩りや狼に怯える夜を何度過ごしたことか・・・・・・・。

(本当に私や麟はは・・・・・・お姉さまや嶽畝様にどれほど護られてきたのか)

 そぼ降る雨の中を歩きつつ、琉華は嶽畝と出会った時の事をを思い出していた。



 それは振り返ること四年前、言仁親王が天皇に即位した数日後に行われた宴の席での事だった。言仁親王――――――後の安徳天皇は高倉天皇と清盛の娘・徳子の息子である。
 治承ニ年十一月十二日に生まれるや否やおよそ一ヶ月後の十二月十五日に立太子、二年後の四月二十二日に数え年三歳で即位した。しかし三歳の子供に政治など取り仕切れるはずも無い。
 名目上は高倉上皇の院政だったが、実際の政治は清盛やその息がかかった一門の者が執り行い、平氏の傀儡政権であることは誰の目にも明らかだった。

 またこれに遡ること五ヶ月前、清盛は福原から軍勢を率いて上洛し、治承三年の政変を起こしている。恐れをなした後白河法皇は清盛に許しを請うたが清盛はこれを許さず、後白河法皇を鳥羽殿に幽閉した。

 だが、この清盛による権力の集中は多くの反対勢力を生み出した。関白・基房の配流に反発する興福寺、後白河と密接なつながりをもつ園城寺は公然と平氏との対立を表明し、平氏の知行国となった国では、平氏側の国司と反対勢力の国内武士の対立が起こっていたのである。

 そんな周囲の状況を認識しつつも、それを忘れるかの如く宴は華やかなものだった。多くの一門の者が清盛の屋敷に集まり、白拍子や河原芸人なども呼び出され、宴に華を添えることになった。琉華達『瑞鳥三姉妹』も当然その中に含まれている。

「いい、琉華?あんたは客を取ることはないんだからね。舞が終わったら麟と一緒にさっさとこの場から退出しなさい」

 舞を舞う前、龍頭を模した舞楽面を付け終わった琉華の耳許で鳴鼓が囁いた。

「しかしお姉さま・・・・・・」

 白拍子は十五歳になったら客を取ることが暗黙の了解となっている。勿論十六歳の琉華にも何度もそのような話があったが、それを尽く撥ね付けたのは姉の鳴鼓だった。確かに今まではそれで事なきを得ていたが、今回は飛ぶ鳥を落とす勢いを持つ平氏の上層部ばかりである。その身体を所望されれば断ることは難しいだろう。

「大丈夫。その迦楼羅面をつけているのは顔に痣があるからとか火傷の痕があるとか言っておけば平気でしょう」

 醜女、と言おうにも鳴鼓と麟の顔が明らかになっている分、その手の嘘は通用しない。実際、三姉妹で一番秀麗な美貌を持つのが琉華なのだ。

「はい・・・・・・」

 琉華は頷いたがそう簡単に事が運ぶとも思えなかった。治承三年の政変を経て清盛は松殿基房・師家父子を手始めに、藤原師長など反平氏的とされた三十九名に及ぶ公卿・院近臣を全て解任している。そのような一族が白拍子の我儘など許すはずもない。
 鳴鼓と琉華がそのような会話をしている中、既に麟は他の幼い白拍子達と『迦陵頻』を踊っている。平絹白地の袴の上に、赤地に小鳥を散らした紗の袍を着た麟はどこまでも愛くるしく、平氏の武士らからやんやの喝采を浴びている。自分達の出番ももうすぐだ。

(申し訳ないけど・・・・・・ここはお姉さまに甘えてしまおう)

 琉華は手にした桴(ばち)を握りしめ、心中で呟いた。


 琉華が踊るのは『蘭陵王』である。蘭陵王は北斉の蘭陵武王・高長恭の逸話にちなんだ曲目で、管絃にも舞楽にも奏される。
 眉目秀麗な名将であった蘭陵王が優しげな美貌を獰猛な仮面に隠して戦に挑み見事大勝した為、兵達が喜んでその勇士を歌に歌ったのが曲の由来とされている左方(唐楽)に属する壱越調(いちこつちょう)の一人舞で、華麗に装飾された仮面を被る勇壮な走り舞だ。 武人の舞らしい勇壮さの中に、絶世の美貌で知られた蘭陵王を偲ばせる優雅さを併せ持つその舞は、琉華が最も得意とする舞の一つである。
 緋色の袍の上に毛縁の裲襠を着装し、それを金帯で締めた琉華は、金色の龍頭を模した舞楽面を着けた上で金色の桴を携えていた。

 対して一方鳴鼓が踊るのはその番舞(つがいまい)である『納曽利』だ。別名双龍舞と言われるこの曲は右方(高麗楽)に属する高麗壱越調 (こまいちこつちょう)の舞である 。二人で踊ることが多い舞だが、琉華の『蘭陵王』に合わせ、鳴鼓は大抵一人でこの舞を舞う。
 黄色の袍の上に毛縁の裲襠を着装し、それを銀帯で締めた鳴鼓は、紺青色の龍頭を模した舞楽面を着けた上で銀色の桴を携えていた。こちらも琉華と対である。

 童舞の頃から二人で踊り続けていただけあり、その舞は絶品だ。麟達の『迦陵頻』以上の喝采を浴び、清盛の右腕とも囁かれる平時忠が直々にその踊りを褒め称えた。

「・・・・・・あの狸が。調子いいことばかり言いやがって」

 御前から下がった鳴鼓が面を取りながら毒づく。

「お姉さま、あの・・・・・・」

 平時忠は鳴鼓の実の父親では、と噂されている。だが、鳴鼓は知ったことかと眉間にしわを寄せた。

「白拍子一人まともに世話できないような野郎なんて父親でもなんでもないわ。むしろ迷惑なだけよ」

 そう吐き捨てた後、鳴鼓は一変清々しい笑顔を見せ、琉華の背中を押した。

「ほらほら、ちび達を寝かしつけるのがあんたの役目!あの子達を西ノ廂にさっさと連れて行って寝かせてちょうだい」

 京洛の中とはいえ野盗が横行するこの夜更けに外に出ることは出来ない。今夜は白拍子達も清盛の屋敷に泊る事に鳴っていた。尤もその本当の理由は『夜のお相手』なのだが――――――。
 そんな姉の言いつけに琉華は従い、部屋の隅で船を漕ぎ始めた妹達四人を連れて部屋を退出し、西ノ廂に向かい始めたその時である。不意に琉華は背後から腕を捕まれ、体勢を崩しそうになった。それと同時に酒臭い息が琉華の耳許にかかる。

「おい、迦楼羅御前!こっちにきて酌をしろ!」

 それは既に泥酔していた平頼盛だった。池大納言と呼ばれるこの男は清盛の弟ながら色々曰くのある人物でもあり、出世も遅い。表面上は清盛に対し従順を装っているが腹の中ではどう思っているのかと噂されている人物でもある。そんな男に琉華は腕を掴まれてしまったのだ。

「あ、あの・・・・・妹達を西ノ廂に・・・・・・」

「そう言って逃げるつもりだろうが!別に痣だの火傷など俺は気にしないぞ!四の五の言わずに相手をしろ!この白拍子風情が!」

 麟達が怯える中さらに強く腕を捕まれ、灯りの灯っていない御簾の中に引きずり込まれようとしたまさにその刹那である。

「か弱いおなご相手に狼藉を働くとは・・・・・・なるほど、棟梁がまゆをひそめるのも無理はありませぬな、池大納言」

 耳に心地よい美声が平頼盛の動きを止める。その声にびくり、と身体を強張らせた頼盛が恐る恐るその声の方へ振り向いた。

「か、神威!」

 そこにいたのは、細身の背の高い青年だった。武人で体格が良い者が多い平氏の武者の中でも頭ひとつは背が高いだろうか。頼盛も、そして琉華も視線を上げてその人物を見つめる。

「その手を離されよ、池大納言。いくら叔父上とはいえ手加減はいたしませぬ」

 手にしているのは扇子だが、その青年が持つと某かの武器に見える。そしてそれ以上に鋭い視線と気迫に気圧された頼盛は、ちっ、と舌打ちをすると琉華を乱暴に突き飛ばし、その場を後にした。

「あ、ありがとうございます」

 自分を助けてくれた青年に、琉華は頭を下げて礼を述べる。

「礼には及びませぬ。もし私でよろしければ西ノ廂まで護衛いたしますが・・・・・・幼子達もおののいている様子、少しでもお力添えが出来ると思います」

 冗談めかした物言いに、琉華はほっとした。どうやら大多数の平氏の人間とは違い、この青年はどのような相手に対しても礼節を重んじるようである。

「では・・・・・・・宜しくお願いします、神威様」

 心の中に暖かいものを感じながら、琉華は改めて青年に頭を下げた。



 妹達を寝かしつけた後、琉華は改めて自分を助けてくれた青年――――――平神威嶽畝に礼を述べた。
 平家盛の嫡男である嶽畝は、父親が存命であればかなりの重職に付けたはずの男である。だが、父親が二十代半ばで逝去し、後ろ盾がない嶽畝は平氏の中ではかなり低い地位に甘んじている。むしろ若いころ、家盛と嫡男争いをしていた清盛が嶽畝を生かしている事自体が不思議だと囁かれているくらいだ。
 だが、それを苦にするどころか、武人として遠慮無く暴れることが出来ると悠々自適に暮らしていると琉華も噂で聞いていた。高貴な血筋ながら先陣を切って敵に切り込む姿はまさしく神威――――――神の威を持つ男と噂されている。

「ところで迦楼羅御前・・・・・・」

 嶽畝が少し言いにくそうに琉華に尋ねる。

「やはりその面は・・・・・・噂に聞くように顔の痣か火傷を隠しているものなのか?」

「あ・・・・・・」

 その時になって琉華は自分が面をつけっぱなしであることに初めて気がついた。

「申し訳ございません。助けていただいたお方を前に仮面をつけたままで・・・・・・失礼いたしました」

 琉華は非礼を詫びると面を外し、嶽畝をまっすぐ見つめる。その顔を見た瞬間、嶽畝はほう、と驚嘆の溜息を吐いた。

「なるほど・・・・・・さすが瑞鳥三姉妹の一人、だな。だが・・・・・・」

「だが?」

 嶽畝の言葉に琉華は小首を傾げる。

「やはり舞を舞う時は面をつけていたほうが良い。でないとその美貌に見惚れてそなたの舞が霞んでしまう」

 嶽畝は琉華の顎の下に軽く指を添えながら、さらに言葉を紡いだ。

「今日招いた白拍子の中で、そなたの舞は一、二を争う素晴らしい物だった。あれに敵うのはやはりそなたの姉上くらいか。だが・・・・・・そなたのほうが上だな」

「・・・・・・たちの悪い戯言を」

 嶽畝の賞賛の言葉に、琉華は悲しげに目を伏せた。自分の舞が鳴鼓に劣ることは琉華自身が一番自覚している。それが悔しくて毎日血の滲むような稽古を繰り返しているが、同様の努力をしている姉に追い付くことはなかなか難しいのだ。
 だが、そんな琉華の心中を察したように、嶽畝は穏やかに囁く。

「いいや戯言ではない。確かにそなたの姉上の舞は武人好みのする勇壮なものだが、俺はどちらかと言えばそなたの優美な舞が好きだ」

 好きだ――――――自分自身ではなく、舞を褒められただけなのに、琉華は頬に血が昇るのを感じた。

「あ・・・・・・ありがとうございます」

 間違いなく自分の顔はかなり赤らんでいる筈だ――――――俯こうとしたが、自分の顎の下に添えられている嶽畝の指がそれを邪魔する。

「いいや、礼には及ばん。それより・・・・・・夜は長い。そなたさえ良ければ酌の相手をしてくれると嬉しいのだが」

「・・・・・・勿論です」

 嶽畝の目をじっと見つめたまま琉華は返事をする。それは嶽畝十九歳、琉華十六歳の夜の事だった。


 尤も出会った日は本当に酒を酌み交わしただけ、二人が男女の関係になったのはそれから数日後、嶽畝が律儀に鳴鼓と白拍子の頭にわざわざ許しを請うてからの事だった。
 その生真面目さに鳴鼓は呆れ、当時十歳だった麟でさえも『本当にいいの、あんな弱腰の男で?』と馬鹿にしたほどだ。だが、二人の仲は順調に続き、平氏が都落ちするまで夫婦同然の生活をしていたのである。

(絶対に・・・・・生きていらっしゃる!)

 多くの平氏の武士が死んだとされているが、琉華は嶽畝が生きていると信じていた。もう一度嶽畝と会うまでは絶対に死ねない――――――雨が視界を遮る中、琉華は麟の手を引きながらただひたすら前に向かって突き進んだ。





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『枝ノ護人』迦楼羅の章、本日から開始です(*^_^*)カイメイメインの『朱雀の章』とは違い、平安末期の現実世界の話になりますのでちょっととっつきにくかったかもしれませんが、その点はご了承を(>_<)次回からは舞台が海辺&その近くの漁村となりますのでもう少し読みやすくなるかと思います(^_^;)

琉華と嶽畝の出会いはベタといってはベタすぎるものですが、まぁ白拍子と平氏の武人との出会いなんてそんなものだろうと・・・そしてこの嶽畝はかなり奥手というかヘタレというか(^_^;)そのままの勢いで琉華をものにせず、きちんと許しを得てから恋人にしているあたりかなり生真面目みたいです。もしかしたら色々苦労している分周囲に気を使ってしまうのかもしれませんが・・・。

次回更新は7/14、壇ノ浦に辿り着いた二人と嶽畝の再会、そしてその影に潜む怪しい女の影に迫りたいと思います♪
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