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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第一話 正月の居続け・其の壹

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 孝明天皇の崩御発表の衝撃も冷めやらぬ間に慶応三年は明けた。例年なら華やかに行われる参賀もなく、新選組屯所も心なしか重苦しい雰囲気が漂っていた。そんな京都の街を感じつつ、小夜と別れて屯所に戻ってきた沖田はそのまま局長室に向かった。

「近藤先生、土方さん、あけまして・・・・・じゃない、お早うございます」

 何せ小夜との別れを惜しんだ直後の徹夜明けである。ぼんやりした頭のまま、つい寿ぎの言葉を口にしかけてしまった沖田は、慌てて言い直した。
 さすがに天皇崩御発表があって三日と経っていないのに『おめでとう』はあまりに非常識である。そんな総司に対し、苦笑いを浮かべつつ近藤も朝の挨拶を返した。

「お早う、総司。しかしどうした?だいぶ眼が赤いぞ?」

 沖田の目の充血に気が付いた近藤が、心配そうに眉を顰める。

「あ、いえ。昨日ちょっと夜更かしをしてしまいまして・・・・・・大晦日だったものでつい」

 実際のところ、沖田の目の充血は小夜との別れによる涙の所為なのだが、近藤を心配させてはならないと沖田は無理やり笑顔を作る。だが、そんな沖田の誤魔化しを敏感に察知出来るものがこの話にはいた。

「だったら少し寝ておけ、総司。どうせ午前中は大した仕事もねぇ」

 近藤と向い合って茶を飲んでいた土方が、身体を休めておけと沖田に告げる。

「しかし年礼くらいは行っておかないとまずいんじゃ?」

「ああ、それなら各所から今年は自粛したいと申し出があった。だから新選組として我々が挨拶に行くのは二条城と会津、そして桑名の三箇所くらいだ」

 そして二条城と会津は近藤と土方が、桑名は永倉と斉藤が出向くことが決まっているとも土方は付け加えた。

「そうですか・・・・・・じゃあ、お言葉に甘えて。では一番隊の隊士部屋にいますので何か会ったら呼んでください」

 土方の心遣いに内心感謝しつつ、沖田は一礼して局長室を後にした。



 局長室からやってきた沖田がまるで幽鬼の如き顔色で隊士部屋にやってきたのは、局長室の挨拶の直後のことであった。

「山野さん、ちょっとすみませんがここで寝てもいいですか」

 いつもの溌剌とした沖田とは思えない、憔悴しきった姿で沖田はふらりと隊士部屋へと入り込む。

「お、沖田先生!一体どうしたんですか、その顔色は!」

 それに驚いたのは山野八十八ら一番隊隊士達である。畳の上で倒れられては大変だと慌て布団を敷き、沖田にそこで寝るように促した。

「ありがとうございます。いえね・・・・・・ちょっと寝不足で」

 部下が敷いた布団に潜り込みながら、沖田はブツブツと語り始めた。

「近藤先生の命令で小夜と別れなければならない事はあなた達にも話しましたよね。それが昨日というか、今朝の日の出までというか・・・・・・とにかくほんの半刻前だったんです」

 既に寝言のように聞き取りにくくなっている沖田の言葉に、山野は辛抱強く尋ねる。

「もしかしてお小夜さんと一晩中別れを惜しんでいたとか・・・・・・?」

「そんなところです。本当にね、身分違いの恋なんてするもんじゃありませんよ」

 天皇の喪中ということを差し引いても辛気臭い沖田の愚痴に、部下達は顔を見合わせる事しかできない。

「で、でも今度会津の紹介でご結婚なさるんですよね・・・・・・お小夜さんの事は残念ですけど・・・・・・」

 小林桂之助が沖田を慰めようと掛けた一言。だがその一言が余計だった。

「・・・・・・ええ、そのせいで小夜との別れが早くなりましたからね」

 あからさまに不機嫌を表に出した後、沖田は掻巻を頭から被って寝てしまった。この沖田を起こすのに、彼の部下がかなり悪戦苦闘したのは余談である。




 午前中に二条城への登城を済ませた近藤と土方はその足でそのまま黒谷へ、そして永倉と斉藤が桑名藩邸へと挨拶をしにいった。
 特に桑名藩は対応する者が酒好きで、例年なら無駄に酒を勧められるため酒豪の永倉と斉藤、原田が交互に担当している。だが今年はさすがに不謹慎だと酒もたしなむ程度しか出されなかった。

「なぁ~んぁ物足りねぇよな。例年なら桑名で足腰立たなくなるまで御酒が頂けるっていうのによ」

 年礼を終えて屯所に帰るなり、永倉が斉藤にぼやく。

「仕方ないでしょう、永倉さん。さすがに帝の喪中にへべれけになるわけにもいかない」

 永倉を宥める斉藤だが、そう言っている斉藤もかなり飲み足り無さそうだ。

「さすがに花街に繰り出すのもなぁ」

「・・・・・・屯所で飲みますか?原田さんや藤堂さんあたりも巻き込んで」

 ぼそぼそと話していたその時である。

「おや、永倉くん、斉藤くん。だいぶ早いお帰りだね。桑名ではあまり呑んでこなかったのかい?」

 そう語りかけてきたのは伊東甲子太郎だった。その背後には弟の鈴木三樹三郎や篠原泰之進を始めとする伊東派全員が揃っている。紋付きを身につけているところを見ると、どうやらこれから他行らしい。

「伊東参謀、これからお出掛けですか?」

 永倉が何気なく伊東に尋ねる。

「ああ、さすがに屯所で酒盛りでは平隊士達に示しがつかないからね」

 まるで娼妓のように艶然と微笑みながら、今度は伊東が二人に尋ねた。

「ところで君達はこれから何か予定はあるのかい?」

「いえ、特には・・・・・・」

 伊東の言葉に斉藤が言葉を濁す。

「だったら僕達と一緒に島原に繰り出さないかい?角屋に座敷を取ってあるんだ」

「角屋ですか!」

 永倉が思わず素っ頓狂な声を上げる。

「角屋で宴席って・・・・・・よく正月に取ることが出来ましたね」

 島原でも一、二を争う格式と人気を誇る角屋である。その角屋で正月に座敷を取るとなると、よっぽどの金と運がなければ難しい。
 だが、正月一日は娼妓の貴重な休みでもある。普通なら客を取らない筈なのでは――――――訝しげな表情を浮かべる二人に、篠原が補足する。

「さすがに太夫には断られたが、幾人かの天神を呼んである。特に本来なら稼ぎどきである年末に帝がお隠れになったからな。だから建前上は帝を偲んで、ということになっている」

「なるほど・・・・・・それなら納得だな」

 既に永倉の気持ちは島原へと傾きつつある。それを確信した伊東は、斉藤に声をかける。

「斉藤くんはどうする?無理にとは言わないけど」

 猫なで声の伊東の誘いに一瞬逡巡するような表情を浮かべた斉藤だが、次の瞬間にその表情は消えた。

「・・・・・・ではお言葉に甘えてご相伴に預かりましょう。しかしその前に」

 斉藤は自分の羽織の襟を軽くつまみながら肩をすくめる。

「黒紋付に着替えてきても構わないでしょうか。さすがにこれでは・・・・・・」

 斉藤の言葉に、伊東は苦笑いを浮かべた。

「確かに巡察帰りの姿そのままで、というのは無粋すぎるね。では僕らは先に島原に向かっているよ。ゆっくり身だしなみを整えてから来てくれ」

 そう言い残し、伊東達は二人を待つこともせず先に島原へと出かけてしまった。よっぽど屯所に居たくないのか、それとも伊東派だけでしておきたい話があるのか定かではないが、どちらにしろ試衛館派にとって良いものではないだろう。

「じゃあ永倉さん、四半刻もあれば準備は・・・・・・」

「ああ。何かあった時のことも伍長に伝えておきたいからな。じゃあまたあとで」

 軽く手を上げながら、永倉は自分の長持が置いてある二番隊の隊士部屋へと引っ込んだ。それを確認すると、斉藤は急ぎ足で副長室へと向かう。

「土方副長、いらっしゃいますか?」

 すると襖の向こう側から土方が返事をした。どうやら自分達より先に年礼先から帰ってきていたようだ。

「斉藤か?どうした?入って来い」

 土方の入室許可を確認すると、斉藤はまるで猫のような忍び足でするり、と副長室に入ってくる。そして土方のすぐ近くまで膝を進めると、聞こえるか聞こえないかの極めて小さな声で土方に報告する。。

「・・・・・・伊東参謀から酒宴の誘いを受けました」

 いつにない斉藤の忍びやかな動き、そして何かを含んだような物言いは斥候そのもの――――――そんな斉藤の態度から、土方は斉藤が何を言わんとしているのか一瞬で理解した。

「会津にも・・・・・・連絡を入れておいたほうがいいな。そいつは俺からやっておく」

「ありがとうございます」

「こちらからは・・・・・・山崎、いや岸島あたりのほうが万が一顔を見られても疑われねぇか。その他腕の立ちそうな奴ら数人を回しておく」

 もしかしたら攘夷志士との接触もあるかも知れない。念には念を入れておくべきだろうと、土方は人員の手配を算段する。

「その方がありがたいですね。どんな行動に出るか検討が付きませんので」

「解った―――――頼んだぞ」

 あわよくばここで伊東派を潰すことも可能かもしれない。土方は低い声で斉藤に全てを託す。

「承知――――――では、これにて」

 入っていた時同様、斉藤は猫のように密やかに副長室を後にした。その気配が消え去った後、土方は会津にこの旨を伝えるため硯で墨を擦り始める。

「まったく書き初めが伊東絡みたぁ、色気もへったくれもねぇよな」

 そう言いつつも、新年早々動き出した懸案に昂ぶりを覚えるのを土方は自覚した。



UP DATE 2014.7.12

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伊東派分離編ともいえる第七章、ようやく始めることが出来ましたヽ(=´▽`=)ノ先の第六章と違ってドラマチックなエピソードが多い分、書くネタには困らないのですが、果たして自分の脳内妄想をきちんと形にすることが出来るのか否か・・・特にこの章は本格的などろどろ三角関係なんかにも挑戦する予定でおりますので、頑張りたいと思っております(*^_^*)

で、今回は早速有名な伊東、永倉、斉藤の三が日の居続けです。この居続けですが、中途半端に江戸時代の風俗をかじっている人間にとっては少々不思議な事もありまして・・・普通、一月一日って花街はお休みなんですよね~。娼妓達の貴重な休日でもありますし、そもそも一月一日は新年初めの精進潔斎の日です。おね~ちゃんと◯◯なんてしちゃいけない日なんですよ(-_-;)さらに孝明天皇崩御の発表があって三日後に花街に繰り出すって・・・尊攘派、って言っていた伊東ですが、別に天皇個人に敬意を払っていたわけじゃないのかな、とも思ってしまったりして(-_-)

まぁ、色々突っ込みどころがある角屋での飲み会ですが、この時点では誰も三日間の居続けをするとは思っていません。果たしてこれが一日、二日と居続けたらどうなるのか・・・次回7/19の更新をお愉しみくださいませ♪

(昭和天皇の崩御の時はもう少し遠慮というものがあった気がするんですが・・・書いていて、本当にこの三日間の居続けってあったのかな?と疑問に思いつつあります。一日くらいならあったかもしれないけど元日から花街に、ってやっぱり違和感だらけ・・・』
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