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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第一章

夏虫~新選組異聞~ 第一章 第十六話 誠の恋、偽りの恋・其の肆

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京屋の窓の外からは商人の町らしく人々の賑わう声が聞こえてくる。梅雨の合間の久しぶりの晴れの日、ここぞとばかり皆外に出ているのだろう。しかし芹沢とお梅がいる一室は、そんな外の爽やかさとは対照的な、淫靡な空気に支配されていた。

「・・・・・・お前のせいだぞ、お梅!」

 お梅を押し倒した芹沢は、剣だこのできた分厚い手を強引にお梅の胸許にねじこみ、膝でお梅を押さえつける。そしてお梅が抵抗する間もなく強引にお梅の膝を割ったのだ。芹沢の目に緋色の裾よけに彩られたお梅の臑が飛び込んでくる。

「いやや!離してっ・・・・・!」

 はっと我に返ったお梅は芹沢の下で暴れるが、壬生浪士組の中でも豪腕で鳴らす芹沢の力に敵う訳もない。脚をばたつかせ、必死に身を捩るが芹沢をはね除けるまでは至らなかった。

「何故・・・・・大阪まで来た!お前だってその気が少しでもあったんだろうがっ!」

 芹沢は乱暴にお梅が身につけているものを引きはがしてゆくが、その声、そして表情は芹沢の方が被害に遭っているかのような苦痛に満ちていた。
 他人の妾でなければこんなつらい想いをしなくても良いのにと思う。だが、人の妾だったからこそ壬生浪士組の屯所にお梅はやって来て芹沢と出会ってしまったのだ。堂々めぐりの不条理に苛まれながら芹沢はお梅を貪ってゆく。

(これが・・・・・・最初で最後だ。)

 危険を顧みず大阪までやって来たくらいだ。お梅にもその気はあるのだろう。だが、互いの立場というものがある。大店の妾として何不自由ない生活を送っているお梅と、いつ解散命令が下されるか判らない、小さな浪士集団の局長が容易く結ばれるほど世の中は甘くはないのだ。
 いっそお梅が自分を憎んでくれれば--------------二度と自分の前には現われないだろうし、今回のことも自分さえ黙っていればお梅の口から言い出すことはないだろう。自分の想いを殺してしまえばそれで済むこと、何一つ今までと変わることはない、否、変えることは出来ないのだ。そう思うと急に胸の辺りが苦しくなり、不本意な涙がこみ上げてくる。

(これで・・・・・いいんだ。これで・・・・・!)

 芹沢はお梅を蹂躙しながら自分がいかにお梅に惹かれていたか痛感せざるを得なかった。



 嵐のような暴行の後、お梅の身体にふわりと何かがかけられた。浅葱色の羽織の裾に白のだんだら--------------ここ最近京都の街中でもしばしば見られるようになったものである。ただ、その羽織は外回りの仕事が少ない所為なのか、心なしか浅葱色が濃いような気がする。そして次の瞬間、じゃらり、と重たい音を立てながら財布がお梅の前に投げ出されたのである。

「二十両・・・・・入っている。お前の旦那の店からの借金とここまでの船賃にゃ充分だろう。」

 芹沢の声が遠くから聞こえてきた。否、それほど大きな部屋ではないからお梅からそれほど遠く離れている訳では無いはずだ。だが芹沢の声は遠くから聞こえてくるかの如く、小さく聞き取りにくいものであった。本当に芹沢は近くにいるのだろうか?不安に駆られながらお梅は上体を起す。

「せり・・・・・ざわ・・・・・はん?」

 芹沢は窓辺に腰掛け外を見ていた。否、お梅から顔を背けていると言った方が正しいかもしれない。大きな筈の背中が心なしか小さく見え、しかも小刻みに震えていた。その背中に少し近づこうとお梅は身じろぎをする。その時である、それこそ落雷の如き大音響で、振り向きもせず芹沢がお梅に怒鳴りつけたのだ。

「身支度を調えたらすぐに京都に帰れ!そして二度と俺の前に現われるんじゃねぇ!」

 乱暴に言い放ったその声は、お梅の耳にもはっきりと判るほど湿っている。

「・・・・・・・。」

 今は何を言っても聞いては貰えないだろう。お梅は黙りこくったまま素早く身なりを整えると、芹沢の財布を手に黙って部屋を出て行った。

「・・・・・阿呆とちゃうか。」

 宿から出たお梅は、芹沢がいる部屋を見上げながら憎々しげに呟く。先程まで窓辺にいた芹沢はどこに行ってしまったのか見上げるお梅の視界には入ってこない。どうやらお梅が立ち去るまで”籠城”を決め込むらしい。

「こんなええ女が追いかけてきたっていうのに・・・・・菱屋の旦那からウチを奪う甲斐性もないんか、壬生浪の大将は!へげたれっ!」

 そう罵声を放ったお梅の声も芹沢同様湿っていた。その気が無いならお梅だって諦めることが出来る。だけど--------------浅葱の羽織を掛けてくれた、あんな優しさを見せられたのでは諦めようにも諦められないではないか。しばし芹沢の宿泊している部屋を睨み付けた後、くすん、と鼻を鳴らしながらお梅はとぼとぼと船着き場へと向かっていくことしかできなかった。



 待てども待てどもなかなか新町にやってこない芹沢を心配して、沖田と野口が宿に芹沢を迎えに来た。

『野暮なことはよしやがれ。ガキじゃあるめぇし、おめぇらも大体見当が付くだろうが。』

 と土方に止められたにも拘わらずである。

「芹沢さん、お梅さんとの話は・・・・・。」

 野口が声をかけたがその声は途中でかき消える。その部屋には芹沢一人だけしかいなかったが、何とも言い難い重苦しい雰囲気が充満していたのである。これは明らかに一悶着あったなと、野暮を絵に描いたような若者二人にもはっきりと読み取れた。

「皆さんがお待ちかねですよ。芹沢さん。一緒に新町に行きましょうよ。」

 野口に代わり沖田が声をかけるが、芹沢はただ窓辺に座り、徳利から直接酒を飲み続けている。普段、機嫌が悪ければ鉄扇なり徳利なり投げつけられるだけに妙に静かなのも気味が悪い。

(やっぱり土方さんの言うとおりにしておけば良かったかな。)

 あまりにだんまりを決め込んでいる芹沢にいたたまれなくなり、沖田と野口は顔を見合わせ、新町に引き返そうとした。その時である。

「ガキがつるんでぎゃあぎゃあうるせぇなぁ・・・・・仕方がねぇ、付き合ってやるよ!どこの見世か案内しやがれ!」

 明らかに明るさを作っている声であり、その目は真っ赤に充血していたが、それでも変に落ち込まれているよりはありがたい。沖田と野口は芹沢の言葉にほっと胸をなで下ろした。



 遅れてきた芹沢と先に呑んでいた浪士組の面々は合流し、新町で一通り遊んだ。さすがに芹沢は荒れ気味だったがそれでも普段が普段だけに、いつもと変わらぬ雰囲気で酒宴は行なわれていった。だが、出された食事が悪かったのか、それとも梅雨時の不安定な気温が悪かったのか、近藤を始め二、三人の隊士達が腹痛を訴えたのである。

「近藤さんはともかくおめぇら食い過ぎなんだよ!まったく手間かけさせやがって・・・・・。」

「おいおい、土方君。夜になって急に冷え込んできたせいかもしれないじゃないか。まぁ今日に限っては不逞浪士に襲われないことを願いたいが・・・・・。」

 ぼやく土方に対して山南がそれを宥める。しかし局長の一人は泥酔し、今一人は胃痛で呻いている現状はあまりにも情けない。酔っぱらいや体調の悪いものに合わせながら、いつ不逞浪士が飛び出してくるかひやひやしながら壬生浪士組の集団はようやく京屋へ到着した。

「土方はんって方、いらっしゃいますやろか。急ぎの飛脚が先程来ましたえ?」

 宿に帰った土方に、番頭が一通の手紙を手渡した。その手紙の差出人は何と八百藤を通じて長州浪士を探索している佐々木からであった。伏見を出発したその日に急ぎの手紙が来るとは想像もしていなかっただけに土方の顔に緊張が走る。

(こんなに早く、一体何が・・・・・?)

 早くもこちらのもくろみが八百藤側にばれてしまったのかと焦り、土方はもどかしげにその手紙を開ける。だが、そこには土方の予想とは全く違ったことが書かれていた。

『大樹公の東帰、および会津藩の帰藩の動きを察知した長州系浪士達及び攘夷派公家達が動き出し、京都に続々と終結してます。そしてその中に桂小五郎がおり、本日京都に入ったとのこと。詳細は後日。』

 五月に藩命を受けた桂小五郎が破約攘夷活動を行なうため、江戸から上洛してきた旨がその簡潔すぎる書簡に書かれていたのである。正藩合一による大政奉還および新国家建設を目指す活動を行なっている桂の名前は、浪士組として活動するようになってから嫌と言うほど聞いている。その桂が自分達と入れ違いになる形で京都に入っているとは・・・・・土方は佐々木からの手紙を握りしめる。

「思ったより動きが早いな。だが、奴等が狙うとしたらやはり警護が緩む大樹公東帰直後、ってところか。できるだけこっちでの仕事を早めに切り上げねぇとな。」

 土方はくしゃくしゃになったその書状を丁寧に伸ばしてからたたみ、胸にしまい込むと一人考え込む。とにかく今日は局長が二人とも使い物にならないのだ。一人は胃痛を再発し寝込んでいるし、今一人は女にあった直後からいつもにも増して酒を浴びるように呑んでいびきを掻いて寝入っている。この件について話をしようにもできる状況ではない。

「まったく・・・・・どっちが大人でどっちがガキか判ったもんじゃねぇ。今度酒や胃薬の中に佐々木の爪の垢でも煎じて入れておくか。」

 だが、もう一人佐々木の爪の垢を煎じて飲ませたい男が土方の目の前にいた。胃痛で寝込んでいる近藤の分の懐中最中までちゃっかり胃袋に収めようとしている弟分に土方は軽く拳骨を喰らわせる。

「いたっ!何をするんですか、土方さん。呑んだ後のお汁粉、美味しいのに・・・・・。」

 思わず零しそうになった汁粉を慌てて押さえると、沖田は頬を膨らます。

「おい、総司!おまえまた娼妓から噂話を聞き出すのをさぼっただろう!娼妓と寝ることだって情報を得るための手段なんだぞ。それを全く・・・・・。」

 土方はあらゆる意味で子供のような態度を取る沖田を叱りつけた。だが珍しく沖田が反論する。

「だって~首筋に瘡があったんですよ、私に宛がわれた相方に。確実に中ると判っている相手を抱けっていうんですか。敵の剣で死ぬならともかく花柳病で死ぬのはまっぴら御免です!」

 沖田に宛がわれた娼妓には確かに瘡があった。度胸試しだと抱く男もいないではないが、元々女性に対して淡泊な沖田はそこまで無謀をしようとは思わなかった。それに関しては土方も納得せざるを得ないが、沖田の場合今回だけの事ではないだけにその怒りは収まらない。

「別に瘡持ちじゃなくたって同じだろう!いつまでも目の前で女に自害されかけた事を引きずってるんじゃねぇ!くそっ・・・・・愛嬌がいい癖に肝心なところで役にたたねぇ。」

 決して美男ではないが、背が高く人当たりが良い沖田は、決してもてない筈はないと土方は思う。だが当の本人に『その気』が全くないのである。日野にいた頃、二、三度は仕方なしに娼妓を抱いたくらいで、京都では娼妓をまったく抱いていないと思われた。
 確かに沖田は人当たりがよい癖に最後の一線で身構えるところがあり、異性を近づけない。剣士としては優秀なのだが、手段を選ばず何でもやらねばならぬ諜報には全く役立たない。

「適材適所とはよく言ったもんだ・・・・・まだ島田の方が諜報として役に立つ。」

 土方は嫌みったらしく島田を引き合いに出した。この件において、島田は八百藤が契約している壬生の農家に頼み込んで下働きの下男として潜伏している。他に仕事が無い時は二日に一度、佐々木とは違った視点で八百藤を、そして八百藤に関わりを持つ長州や公家の動きを探っているのだ。それに比べると沖田は隠密活動には全く持って向いていない。そしてそれは土方以上に本人が一番よく理解していた。

「そうですよ。だから私を諜報にするのは諦めて下さいその代わり他で一生懸命働きますから。」

 にっこり笑って誤魔化す沖田に土方は苦虫を噛みつぶした様な表情で睨み付けた。だが、沖田のその発言はすぐさま実現することになる。



 それは散々だった宴の翌日のことであった。不逞浪士の捕縛が目的だったため稽古着で巡察をしていた壬生浪士組だったが、同行していた斉藤一が腹痛を起したのである。

「昨日の腹痛が・・・・・・また・・・・・・・痛っ・・・・・・・!」

 川風に吹かれたせいで身体が冷えたのだろう。苦しげに呻く斎藤に自分の羽織を掛けながら沖田は船頭に伝えた。

「すみません、常安橋に奉行所の会所があるのでそこに付けて貰えませんか?」

 斎藤の顔色はますます悪くなってゆく。浪士達はこれから起こる騒動など全く予想だにせずただひたすら斎藤の体調を気遣うのだった。



UP DATE 2010.05.28


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ようやく芹沢&お梅のゴーカンシーンに辿り着きました・・・・・大丈夫ですよね、これくらいなら(汗)。
露骨すぎずに、しかもコトを描写するというのはなかなかムズカシイものです。なまじR-18を書けちゃう分だけぎりぎりを保ちながらというのがねぇ・・・・・・いっそ完全描写の方が楽かも(おいっ)。この鬱憤は別館で晴らします。

そして不器用な大人に対して京都に残った若者はしっかりしていること(爆)。幹部達が大阪にいる間にちゃんと仕事をしております。おっさんの恋が中心になって佐々木君の方はなかなか取り上げることが出来ないんですけど、こちらもそれなりに進んでいるんですよね~。こちらは次回から始まる大阪力士との乱闘以後に詳しく取り扱わせていただきますね。

次回更新は6/4、大阪力士とのバトルですv
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