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「VOCALOID小説」
枝ノ護人

ボカロ小説・枝ノ護人~迦楼羅の章・3

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 村外れにある嶽畝の隠れ家から飛び出してきたキクは、ふらふらと漁村へ戻る道を歩き続けていた。

(なんで・・・・・・なんで今頃になってお侍様の北の方が出てくるのさ!)

 確かに嶽畝に名前さえ教えてもらえなかったが、波打ち際に打ち上げられていた嶽畝を助け、こっそり村外れの掘っ建て小屋に隠したのはキクである。さらに毎日の食事も運び続け、ようやく嶽畝が心を許し始めていたというのに―――――。キクの努力がようやく実を結び始めるかと思った矢先に、妻とその妹という女がのこのことやってきたのだ。
 これで心穏やかにいろという方が酷である。恋焦がれ、あわよくば自分の良人にとも想っていた男を横取りされた悔しさに、キクの心は荒んでゆく。

(悔しい・・・・・・悔しい、悔しいったら!!)

 琉華というあの女を自分の手で引き裂いて血祭りにあげてやりたい。そして自分ではなくあっさりと琉華を選んだ嶽畝も恨めしい―――――燃え盛る溶岩のようにドロドロとした怨念がキクを支配し、心が闇色に染まっていく。まさにその刹那、ふとキクの耳に囁き声が聞こえてきた。

――――――殺してやりたいのかい?

「え?」

 毒々しくも魅惑的なその声に、思わずキクが振り向く。だが、そこには誰もおらず、夏草ばかりが生い茂る細い道があるばかりである。それでも声ははっきりとキクの耳許で――――――否、キクの内側で囁き続ける。

――――――殺してやりたいんだろう?琉華っていう、あいけすかない女を

――――――琉華がいなければ、あの色男の侍はお前に靡く。間違いないよ

「あの女さえいなければ・・・・・・?」

 キクの顔に邪悪な影が宿り始める。

――――――そうさ、琉華を殺せばあの侍はあんたのもんだ!

「お侍様は、あたしの、もの・・・・・・あたしの、モノ。アタシノ・・・・・・」

 自分の中の何者かが囁く言葉を繰り返しながら、キクの意識は徐々に遠のいていった。



 ふらふらと覚束ない足取りで村に帰ってきたキクを見つけたのは、漁から帰ってきた漁師達だった。

「おい、どうしたおキク?まるで狸か狐にでも出くわしたような呆けたツラしやがって」

 ふらつく脚で自分たちの方へ向かってくるキクに対し、漁師達が声をかける。その声に弾かれたようにキクは顔を上げると、まるで老婆のような嗄れた声で男達に告げた。

「皆も村外れにおんぼろの掘っ立て小屋があるのは知っているだろ?そこに平氏の侍がいるんだ・・・・・・源氏側に密告したらたんまりと褒美がもらえるような大物がさ」

「は、本当か?」

 色めき立つ男達の顔をぐるりと見回しながら、キクは舌舐めずりをしながら更に続ける。

「ああ、だけど相手は腐っても侍だ。迂闊にあたしらが捕まえようとしたら逃げられちまうし、刀なんか振り回されたら人死にがでるかもしれないだろ?だからさ・・・・・・誰か源氏の侍を呼んできてくれないかい?」

 嗄れた、猫なで声で男達に誘いをかけるキクだったが、さすがにそれに違和感を覚え始めた漁師の一人が異を唱えた。

「おいおい、おキク。俺たちゃ漁があるんだぜ?確かに源氏からの褒美は欲しいけどよ。さすがに漁を放り出してまで落武者の密告に行くのは・・・・・・うわっ!!」

 何もそこまでしなくても――――――そう言いかけた男を始め、その場にいた男達が絶叫とともに目を押さえ、バタバタと倒れ始めたのである。

「め、目がぁっ!」

「ま、眩しっ・・・・・・おキク、おめぇ・・・・・・!」

 目を押さえ地べたをのたうち回る男達を見下すキクの目は紅色に眩く輝いていた。その禍々しい光が男達の目を居抜き、潰したのである。そして暫く目を抑えてのたうち回っていた男達はぐったりと倒れ伏し、ぴくりとも動かなくなった。

「まったく煩いねぇ・・・・・・お前達人間は、あたしの言うことを素直に聞いていればいいんだよ」

 キクは嗄れ声で吐き捨てると、再び猫なで声を出し男達に命令を下す。

「ここから三日ほどのところに源氏の陣屋があるんだ。ちょいとひとっ走り行って来ておくれよ」

 キクが語りかけると、男たちはふらふらと立ち上がる。そしてまるで操り人形のようにぎこちない動きで歩き出した。

「魂を抜くと、動きが鈍くなるから嫌なんだよねぇ」

 出来の悪い操り人形のように道を進んでゆく男達の背中を見つめながらキクはちっ、と舌打ちする。

「畜生・・・・・・未来(ミク)に『本体』を封じられなけりゃこんな面倒臭い事をせずに済むのにさ。魂魄だけじゃ近場の奴らしか操れないし、直接人間を切り刻んで血を啜ることさえ出来やしない!」

 キク―――――否、キクに取り憑いたモノは忌々しげに呟いた。



 キクに取り憑いたモノ、それは『呪音』と名付けられ、出雲に本体を封印された怨霊である。この『呪音』、元々は国津神の一人であり『枝ノ護人』として山陰道を護っていた。

 だが本来神として護らねばならぬ道を違え、事もあろうに黄泉大神に取って代わろうと画策、その手始めにと黄泉大神の後継者である未来を消滅しようとしたのである。
 勿論『枝ノ護人』と次期黄泉大神である未来とでは力の差はあまりにも大きく、呪音は呆気無く返り討ちにあった。

 勿論この時点で『呪音』を完全に消滅させることも可能であったし、海斗や貴世輝、そして黄泉大神でさえもそれを勧めた。だが、元々心根が優しく神としてまだまだ幼い未来は呪音が改心すると信じ、呪音が『枝ノ護人』として護っていた山陰道一の聖地・出雲に封じたのである。

 しかし来のその優しさは仇となった。『呪音』は未来に感謝するどころか、むしろ封じられたことを逆恨みし、復讐する機会を虎視眈々と狙い始めたのである。ただ呪音にとって厄介だったのは封じられた身では魂魄しか自由に飛ばせないということであった。

 本体は勿論、強大な魔力さえも封じられている状況で唯一出来る事といえば、強い負の感情を持った人間に取り憑き、目の前にいる人間を操って自分の欲望を叶えることだけである。
 だが、何度も人間に取り憑き悪事を働いている内に、呪音は人に憑依し、負の感情に満たされた精気を吸い取って行くことで自分の力が回復している事に気が付いた。そして呪音は地道に何百人、何千人という人間に取り憑いては悪意に満ちた精気を吸い取り、自らの力を高めていったのである。

「あと二、三人ってところかな・・・・・・憎しみに心を奪われた人間の精気を吸えばあたしは封印を破ることが出来る!待ってろよ、未来!封印を破ったら真っ先にあんたを八つ裂きにしてやる!」

 忌まわしき呪音の高笑いは、どこまでも眩しい夏の青空に響き渡った。



 嶽畝との再会を果たした翌日、麟が高熱を出して寝込んでしまった。落人狩りの目をかいくぐっての逃避行の生活を一ヶ月半近くも続けていたのだ。ようやく嶽畝に会えたことで安心しきって一気に疲れが出てしまったのだろう。

「十日ほど休めば疲れも取れるだろう。麟はまだ若いし、この熱で命を奪われるということはない」

 麟の額を濡れた布で冷やしている嶽畝の力強い言葉に、琉華は慰められる。

「それにしてもキク殿は遅いな。いつもならこの刻限には来るはずなのに」

 昨日の女同士の険悪な空気を全く感じていなかったのか、あまりにも脳天気な物言いをする嶽畝に琉華は思わず苦笑いを零した。

「たぶん・・・・・・あのお方はもうこちらにはいらっしゃらないと思いますよ」

「来ない・・・・・・とは?」

 琉華の言葉に嶽畝は理解できないとばかりに怪訝そうな表情を浮かべる。その表情で琉華は、やはり嶽畝は昨日の険悪な空気を全く感じていなかったのだと確信した。

「きっと女手がないからと、あのお方は毎日いらっしゃっていたのですわ。ですが、私や麟がいればそれは必要ないと・・・・・・」

 さすがに嶽畝の取り合いで、とは言い出せず、琉華はやんわりと遠回しな物言いをする。だが、そんな言い方でも嶽畝は素直に琉華の言葉を受け入れた。

「そうか。そうなると食料が・・・・・・困ったことになるな」

 ここにいる間、全ての食料をキクに任せきりだった嶽畝は困惑する。確かに落ち武者狩りが横行しているこの場所で、嶽畝が外を出歩くことは極めて危険だ。

「では私が調達してまいりますわ。一ヶ月以上人目を避けながらの逃避行で、食料調達の腕はかなり上がりましたの。では、麟をお願いしますね」

 琉華はそう言い残すと、嶽畝が止める間もなく早速外に出てしまった。その早業に嶽畝も呆然とするしか無い。。

「まさかあの大人しい琉華が自分から進んで食料の調達をするとは・・・・・・琉華も苦労してきたんだな」

 会わぬ間にすっかり逞しくなった愛しい人に感心しつつ、嶽畝は麟の額の濡れ布を交換した。



 その後およそ七日ほど、琉華が食料調達を、外に出ることが出来ない嶽畝が麟の看病をするという日々が続いた。その間、今後どうしたら良いかという事も話題に上がる。

「やはり麟が起き上がれるようになったら、この場所から去った方が良さそうですわ」

 琉華が食料を調達している先々でも平氏の落ち武者目当ての残党狩りが横行していた。この場所も見つかるのは時間の問題だろうと琉華は進言する。

「あと、残党狩り以上に気になるのが漁村の人々の様子です。何か・・・・・・様子がおかしいんです。どこがどう、というわけでは無いんですが」

 琉華達が初めて漁師達に声をかけた時、彼らはもっと生き生きと――――――悪く言えば柄の悪さ丸出しで琉華達をからかってきた。しかし今はまるで魂を抜き取られてしまったかのように大人しいのだ。その大人しさ、静けさに琉華は違和感を感じていると嶽畝に告げる。

「もしかしたら俺達の事を知られてしまったのかもしれないな。だが、ここを離れたとしても行くあてが無い」

 どこに逃げようと源氏の追手は付いてくるのでは、と嶽畝は懸念するが、それに関しても琉華はひとつの答えを持っていた。

「それでしたら私達が途中で立ち寄った美作の山奥はどうでしょう。平氏の関係者が逃げ隠れておりますし、嶽畝様なら受け入れてもらえるはずです」

「・・・・・・そうだな。少々遠いが仕方ないか。麟にはまた大変な思いをさせてしまうが、ここにいるよりは安全かもしれない」

 嶽畝の言葉に琉華が大きく頷いた、その時である。不意に麟ががばっ、と上体を起こしたのだ。そして中空を見つめたまま小首を傾げ、思わぬことを口にしたのである。

「鳴鼓姉・・・・・・何で逃げなきゃいけないの?」

 麟の口から飛び出した、鳴鼓の名に琉華が驚愕する。

「麟?あなた、お姉さまの夢でも見たの?」

 だが麟は愛くるしい顔の眉間に皺を寄せながら、違うような気がする、と琉華に告げた。

「・・・・・・だって鳴鼓姉の顔は見てないもん。だけど鳴鼓姉の声がね、はっきり聞こえたよ。危ないからここから早く逃げなさい、って」

「え?」

 その時である、不意に嶽畝の表情が険しくなった。

「麟、もしかしたらそれは鳴鼓殿の御霊が教えてくださったのかも知れぬな―――――外からただならぬ殺気を感じる」

 嶽畝は琉華に立てかけてあった天叢雲剣を渡すと、本来の自分の太刀を手に取り、入り口にかけてある筵の端をそっとめくる。

「・・・・・・厄介な奴らに嗅ぎつけられた」

 嶽畝が睨みつけるその先――――――掘っ立て小屋の外には十数人の武士がいた。その甲冑の粗末さからすると、下っ端の侍のようである。

「恩賞目当ての奴らばかりだな、あれは――――――琉華!俺に構わず麟を連れて逃げろ、いいな!」

そう言い捨てると琉華が制止するのも聞かず、嶽畝は太刀を鞘から抜き外に飛び出した。




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村娘・キク・・・先週まではここまでとんでもない化け物に取り憑かれる予定ではなかったはずなのですが(^_^;)何か駄文の神様が降りてきてしまったようです・・・元・枝ノ護人で未来と戦ったような相手って(^_^;)しかし『降りてきたもの』を無理やり封じ込めてもろくなことが無いので、このまま暴れさせたいと思います♪(こういうキャラは勝手に動きまわってストーリーを自動的に作ってくれる可能性があるので。でも久しぶりだな~こういうの)

そしてキクに操られた村人、そして源氏の下っ端侍達は嶽畝達を取り囲んでしまいました。果たして嶽畝達はこの包囲網を無事脱出する事ができるのか?そして麟が聞いた鳴鼓の声とは?あと1~2回で終わる予定ですので、あともう少しだけお付き合いのほどよろしくお願いしますm(_ _)m
(あと1回で終わらないと来週28日と31日書くことになるかも・・・ガクポ生誕祭にできれば間に合わせたい~(>_<))
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