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「VOCALOID小説」
枝ノ護人

ボカロ小説・枝ノ護人~迦楼羅の章・4

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 ジリジリと照りつける日差しとべたつく潮風の中、源氏の侍とおぼしき男達が嶽畝を遠巻きに取り囲む。その中央に飛び出した嶽畝は、太刀を中段に構え名乗りを上げた。

「我こそは平氏が武将、平神威嶽畝なるぞ!命が惜しくないものは我と対峙せよ!」

 張りのある美声が朗々と響き渡る。普通であればその声に応え、名乗りを上げる者が出てくる筈だ。だが、嶽畝を取り巻く源氏の侍の集団からはそのような豪の者は現れなかった。ただ押し黙ったまま徐々に嶽畝を包囲する輪を狭めてくる。

(おかしい・・・・・)

 太刀の柄を握り直しつつ、嶽畝は男達を注意深く観察する。目の前の侍たちから異様なほどの殺気は感じるのに、それに伴うぎらついた精気のようなものが一切感じられない。嶽畝を見つめる目もどこか虚ろで、まるで背後から嶽畝に恨みのある者が侍達を操っているような、そんな気配を漂わせていた。

「――――――そちらから来ないのなら、こちらから行くぞ!」

 いつまでもにらみ合いを続けていては埒が明かない。嶽畝は大声で叫ぶなり、真正面にいた男の首をなぎ払う。骨まで達したその手応えに、その男は倒れるはずだと嶽畝は確信する。そして敵の首を薙ぎ払った太刀の勢いそのままに、嶽畝が次の相手に刃を走らせようとしたその時である。

「な、何!」

 嶽畝が斬りつけた相手は予想に反して倒れなかった。それどころか首にぱっくりと刀傷を開け、傷口から血を吹き出したまま嶽畝目掛けて太刀を振りかざしてくるではないか。嶽畝は慌ててその太刀を己の太刀で受け止めると、間合いを取る為に背後に飛び退る。

「こいつら・・・・・・人間ではないのか!」

 少なくとも首に開いた刀傷を開け、血を吹き出しながらも嶽畝に斬りかかってくる真正面の男は人間では無い。否、元々は人間だったのかも知れないが何者かに乗っ取られているのか――――――嶽畝は言いようのない恐怖に苛まれる。

「琉華!早くここから逃げろ!こいつらは物の怪だ!斬りつけても死なない!」

 斬っても斬っても倒れぬ相手に、優れた武士とはいえ普通の人間が勝つ可能性は極めて低い。ならばせめて琉華達だけは助かってほしいと叫ぶ嶽畝に、操られた源氏の兵が襲いかかる。

「ええい!しつこい奴らめ!」

 まとわりつく羽虫のようにしつこく嶽畝に襲いかかる兵士らを順々に斬りつけ、倒しながらも嶽畝は琉華達が逃げられる道を探す。だが気がつけば更に人数を増やしてゆく兵士達によって、僅かな逃げ道はどんどん塞がれていく。

(もはやここまでか・・・・・・!)

 既に十人ほどを斬っているが、斬られても全く倒れず、更に数を増やしてゆく兵士に嶽畝の体力も限界に近づいている。せめて一人でも多く道連れに―――――――そう思った刹那である。


バリバリバリバリ!!


 突如雷の如き轟音が頭上から降り注ぐ。そしてその直後、更に大きな破壊音――――――琉華と麟が未だ中にいる掘っ立て小屋の屋根が破壊された音が嶽畝の耳を劈いた。



 耳を聾さんばかりの轟音とバラバラと落下してくる木っ端から身を守ろうと、琉華は麟を抱きしめる。そして木っ端と共に天から落下してきた『あるもの』に目を奪われた。

「と、虎・・・・・・!」

 それは紅玉のように煌めく美しい毛並みを誇る巨大な虎だった。本来ならその猛々しさに怯えるべきなのだろう。しかし緋色の虎の、意外なほど愛らしい大きな瞳に不思議と恐ろしさを感じなかった。しかし次の瞬間、琉華はその見た目意外の部分で驚愕する。

『琉華!麟!早く私の背中に乗って!こんなところからさっさと逃げるわよ!』

 緋色の虎から飛び出した美声は、あまりにも懐かしい人のものだった。

「お、お姉さま?お姉様なのですか?」

 その声は紛うことなき鳴鼓のものである。だが、その姿はどう見ても虎――――――琉華は混乱する。

「な、何故そのような姿に?」

 思わず尋ねてしまったが、緋色の虎はその問いかけには答えず、琉華を急かした。

『説明は後!それより早く麟を乗っけて頂戴!この子、また熱出しているわよ!』

 鳴鼓の声で喋る緋色の虎は麟を乗せやすいように身体を伏せる。緋色の虎の切羽詰まった声とその行動に我に返った琉華は、手にしていた天叢雲剣を床に置き、麟を緋色の虎の上に乗せた。

『琉華も早く!』

「で、でも重たいんじゃ・・・・・・」

 さすがに姉かもしれない緋色の虎の上に図々しく乗っかることに琉華は抵抗を示す。だが、緋色の虎は気にするなと更に琉華を急き立てる。

『大丈夫!それよる早くしないと嶽畝様が操り人形にやられちゃう!ほら、天叢雲剣も持って!』

 緋色の虎の一喝に、琉華は慌てて天叢雲剣を手に取り、緋色の虎に跨った。

『じゃあ行くわよ!しっかり捉まっていなさい!』

 その声と同時に緋色の虎は筵がかかった入り口から勢い良く飛び出した。



 掘っ立て小屋の中から飛び出してきたものを見た瞬間、嶽畝は言葉を失った。何かが空から降ってきて屋根を突き破った事までは理解できる。だが、まさかそれが炎のような緋色の虎で、さらにその虎が琉華と麟を背中に乗せて飛び出してくるとは誰が想像できただろうか。
 次々と起こる尋常ならざる出来事に、嶽畝の頭は混乱する。だが、その混乱した頭を更に混乱させる出来事が起こったのである。

『嶽畝様!早く私の背中に乗ってください!ここからさっさと逃げ出します!それと琉華から天叢雲剣を受け取って、それで敵を薙ぎ払って下さいませ!』

「め、鳴鼓殿?し、しかし・・・・・・」

 緋色の虎に鳴鼓の声で語りかけられたことだけでも驚きなのに、宝剣である天叢雲剣で敵を薙ぎ払えと言うではないか。さすがに困惑する嶽畝だったが、緋色の虎は構わず嶽畝を促す。

『相手は悪霊に操られた操り人形です。既に魂魄は抜かれ、死んでおります!』

「死者、だと?」

 その一言で嶽畝は合点がいった。既に死んでいる者をいくら斬っても死なないはずである。ようやく納得の表情を浮かべた嶽畝に、緋色の虎は更に畳み掛けた。

『ええ。ですから忌まわしい悪霊の操り人形に対抗できるのは霊力がある神剣のみ――――――ここに天叢雲剣があるのも神のお導きだと思って抜刀してください!でないと、さすがに私も対抗できない!』

 緋色の虎はそう叫びながら襲いかかってきた侍を鋭い爪で薙ぎ払う。だがそれによって頭をもがれても、胴体は執拗に嶽畝達に襲いかかってきた。やはりここは宝剣の力を借りるしか方法は無さそうである。

「解った・・・・・・琉華!剣を!」

 嶽畝は天叢雲剣を琉華から受け取る、と鞘から太刀を抜き放つ。すると金色に輝く光が天叢雲剣から放たれ、操られている侍達を射抜いたのである。

「ぐぉぉぉぉ!」

「ふぎぇぇぇ!」

 耳を覆いたくなるような絶叫と共に、侍達が次々に塵芥となり消えてゆく。その光景にその場にいた全員が――――――緋色の虎も含めて愕然とする。

『び、びっくりしたぁ。海斗に聞いてはいたけれど、本当に雑魚妖怪は御霊光に当たっただけで塵になっちゃうんだ』

 緋色の虎が感心したように呟く。どうやら宝剣に威力を本気で信じてはいなかったらしい。取りようによってはあまりにもいい加減なその一言を、琉華は聞き逃さなかった。

「・・・・・・お姉様?まさか天叢雲剣のお力を信じていらっしゃらなかったのですか?」

 咎める色を含んだ琉華の言葉に、緋色の虎は慌てて補足する。

『だって私だって虎の精になって十日しか経っていないのよ!さすがに宝剣や神器にそこまで詳しくないし・・・・・・』

 どうやら緋色の虎にも色々と事情があるらしい。その言い訳を更に続けようとしていた緋色の虎だったが、不意に耳をピン、と立てて北の方角を睨みつけた。

『・・・・・ご免なさい。詳しい話は後にしましょう。どうやら妖怪の親玉が来たみたいよ』

 緋色の虎が低く唸りながら睨みつけるその先、そこには先日琉華達の前に現れた村娘・キクが――――――否、キクの姿をした妖怪・呪音がいた。黒髪を蛇の鎌首のようにうねらせ、薄気味悪い笑みを頬に貼り付けながら一歩、また一歩と琉華や嶽畝の方へ近づいてくる。

「ほう、まさか天叢雲剣を使いこなすとはな。素盞鳴尊、大和武尊と三人目になるが・・・・・・尚更その魂魄を喰らいたくなるな」

 舌舐めずりをしながら近寄ってくる呪音に、嶽畝と琉華は悪寒を覚え、身体を強ばらせる。その金縛りを解いたのは緋色の虎の一言だった。

『嶽畝様、早く私の背中に!ここから逃げます!』

 緋色の虎の言葉に、嶽畝は慌てて緋色の虎の背中に後ろ向きに――――――呪音の攻撃に対応できる体勢で乗る。そしてその瞬間、三人を乗せた緋色の虎は全速力で呪音と反対側へと走りだした。

「逃すか!」

 嗄れた声と共に呪音の髪の毛がしゅるしゅると伸び、緋色の虎の脚に絡み付こうとする。しかしそれを嶽畝が天叢雲剣で薙ぎ払った。すると伸びてきた黒髪は先程の侍達同様塵芥となって宙に舞う。

「うぬぅ、小癪な!」

 呪音はさらに髪の毛を伸ばし三人と一匹を捕縛しようとするが、尽く嶽畝の太刀捌きによって阻害された。

「お姉様!お姉様は何か攻撃をするということは出来ないのですか?」

 ひたすら逃げ続ける緋色の虎に琉華が尋ねるが、緋色の虎は勘弁してくれとばかりに文句を言う。

『無理を言わないで!さっきも言ったでしょう、この体になってから十日しか経っていないって!しかもこの十日間、海斗の所為で一歩も外に・・・・・・ええと、ちょっと訳ありで自分の能力を把握する暇なんて無かったんだから・・・・・・きゃああ!』

 不意に緋色の虎が悲鳴を上げて急に止まる。その衝撃によって緋色の虎の背中から振り落とされそうになった嶽畝が、慌てて振り向いた。

「一体どうしたという・・・・・・ああ!」

 振り向いた瞬間、嶽畝が驚愕のあまり大声を上げる。

「――――――平神威嶽畝とその仲間、だな?」

 呪音から逃げるための唯一の道の先――――――そこには美々しい黄色縅の若侍を先頭に、ずらりと並んだ武将達が行く手を阻んでいた。




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迦楼羅の章4話目にしてようやく鳴鼓登場です(^_^;)まぁ今回はちょい役ではあるんですけど、やはり『枝ノ護人』の原曲はめーちゃんが歌っていますので、登場していただかないことには話が締まらないという(*^_^*)

そんなわけで三人の危機に助け手として登場した緋色の虎=鳴鼓ですが、この姿になってから十日=すなわち新婚十日目ということで、まだまだ妖怪としてはかなり未熟です。ということは、もう一人、登場してもらわなくてはならなくなりそうですが・・・明後日更新の最終回に、助け手その二・海斗にも登場願います♪あと、クリプトン6きょうだいのラスト一人・レン君も次回ようやく登場しますのでそちらもお愉しみに~♡
(余談ですが、10日間鳴鼓がろくに知識の補充や能力の把握が出来なかったのは、新婚初夜で海斗が鳴鼓を離してくれなかった所為です。たぶん皆様予想はついていらっしゃるでしょうけど念のため)
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