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「VOCALOID小説」
枝ノ護人

ボカロ小説・枝ノ護人~迦楼羅の章・5

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 先ほど塵芥と消え去った下っ端侍と違い、目の前にいる黄色縅の若武者はまるで日輪の化身の如くきらびやかで、威厳に満ち溢れていた。決して猛々しいわけではない、むしろ貴族的な優美さを漂わせているにも拘らず周囲を圧倒する。その存在感に呑まれたのか、嶽畝は無意識の内に天叢雲剣を琉華に預けると、自らの太刀を手に緋色の虎から飛び降りた。

「確かに我が名は平神威嶽畝である。貴殿は何者か、名乗られよ!」

 せめてもの虚勢を張りつつ嶽畝は名乗りを上げる。すると黄色縅の鎧を身につけた若侍はさらに一歩前に出て、自らの名を告げた。

「我が名は源鏡音蓮(みなもとのかがみねれん)!平神威、もはやこれまで!逃亡を諦め縛に就け!」

 源鏡音蓮――――――その名乗りを聞いた瞬間、嶽畝は今まで無いほど驚愕し、大きく目を見開く。

「何と・・・・・・源氏の御曹司か!」

 嶽畝の目の前にいるのは源氏の棟梁・源頼朝の異母弟の源鏡音蓮であった。一連の源平の合戦で総指揮を執り、一ノ谷の逆落しやなど屋島の戦いなど斬新な戦術で平家を翻弄し、滅亡に追い込んだ張本人である。
 しかしそのような大物が、たった一人の落ち武者の為に出てくるとは――――――嶽畝の額には嫌な脂汗が滲む。そしてその気配を琉華も嫌というほど感じてしまう。

「背後には妖かし、前には源氏の御曹司だなんて、不運にも程がありますわ。お姉様、一体どうしたら・・・・・・あら?」

 その時になって琉華はあることに気がついた。今までしつこく追ってきた呪音が近づこうとしないのである。否、近づけないといったほうが正しいかもしれない。ギリギリと歯ぎしりをし、髪をうねらせながらこちらを睨んでいるが、その場から一歩も動けないのだ。

「何故、今までしつこく追いかけてきていたのに、近づいてこないんでしょうか?」

 訳が判らず混乱する琉華だったが、そんな彼女に対して事情を説明したのは緋色の虎であった。

『どうやら源氏の御曹司とやらを守護している神仏のお力みたいね。あの青年、かなりの数の神様に好かれているわよ」

 前方の蓮と後方の呪音を交互に無比べながら、緋色の虎が感心したように呟く。

「神仏に好かれている、とは?」

 敵である源氏の御曹司に神の加護があるとは聞き捨てならない。不機嫌さを露骨に表情に出しながら琉華は緋色の虎に尋ねる。だが、そんな琉華の不機嫌さを他所に、緋色の虎は蓮をじっと見つめながら淡々と答えた。

『私が見ることが出来るだけでも八幡大菩薩に弁財天、建御雷之男神に経津主神が背後に付いているわよ。本人に、というよりかは護符とか刀に宿っているみたいだけどね。それでも普通の人間だったら気を失って倒れる程強い力なんだけど、それを上手く従えているんだから、さすがよね・・・・・・平氏を滅ぼしただけあるわ』

「お姉様!感心している場合ですか!」

 緋色の虎の言葉に気色ばむ琉華だったが、それとは対照的に横で聞いていた嶽畝は納得したように頷いた。

「なるほど。天叢雲剣と対をなす十拳剣に縁が深い神々が彼奴に付いているというのも何かの因縁を感じるな」

 そう言われるとあの黄色縅の鎧兜でさえ神々の後光に見えてくるから不思議である。それ故に呪音は一定の距離から近づくことが出来ないようだ。だが嶽畝達を諦めることが出来ないのか、未練がましくこちらを伺っている。

『進むも引くも厄介、ってところね』

「お姉様、お姉様は空を翔るとか、この崖を駆け上るってことは?」

 琉華の質問に、緋色の虎は大仰に溜息を吐きながら首を横に振った。

『あなた達を乗せていなけりゃこの崖くらいなら、ね。でもさすがに今崖を駆け登ったら麟を振り落としちゃうでしょ』

 そうこうしている内に正面の若武者はジリジリと間合いを詰めてくる。小柄ながら俊敏さに勝る蓮の間合いはどれくらいなのか――――――否、もしかしたら自分達は既に蓮の間合いに捉えられているのかもしれない。いつ何時命を落としてもおかしくない状況下、嶽畝は緋色の虎に最後の願いを告げた。

「鳴鼓殿・・・・・・琉華をよろしくお願いします。源氏は俺の首さえ獲れば、琉華や麟の命までは奪わないでしょう」

 その言葉を耳にした瞬間、琉華はいやいやをするように首を横に振り、泣きじゃくる。

「嶽畝様!おやめくださいませ!彼らの目的は嶽畝様の首だけではありませぬ。この天叢雲剣だって奪おうとする筈・・・・・・・」

「天叢雲剣だと!」

 琉華が漏らした『天叢雲剣』という一言に過剰な反応を示したのは、今にも襲いかかろうとしている蓮であった。

「海に沈んだのでは無かったのか!ならばそいつも寄越してもらおうか!」

 失ったと思われていた三種の神器の一つが目の前にあると判った瞬間、蓮の眼の色が変わる。更に鋭くなったその視線に緋色の虎は小さく舌打ちをした。

『あちゃ~。もう迂闊なことを口走るから・・・・・・しょうがない、最後の手を使うか』

 進退窮まるといった風情で緋色の虎が天を仰ぎ、口の中で何かをぶつぶつと呟く。その時である、不意に雷鳴が轟き琉華達の周辺に旋風が起こったのだ。そして何かに引きずられるように三人と一匹の身体が宙に浮いた。

「きゃあ!」

「な、何事だ!」

 嶽畝と琉華の何が起こったのか理解できず、ただ宙に浮いたままである。ただ、高熱のため殆ど気を失った状態の麟だけが声もあげずぐったりとしたまま浮かび上がっている。

「待て!逃すか!」

 目の前にいる大物、そして天叢雲剣を取り逃がしてはならない――――――とっさにそう判断した蓮は馬に飛び乗り、走らせながらその背の上に立ち上がる。そして八艘飛びさながら馬の頭に足をかけ飛び上がると、力なく浮かんでいた麟の足首を掴んだのである。

「麟!」

 それに気がついた緋色の虎が叫ぶが、麟はぐったりしたまま連の腕の中で動かない。

「この娘は俺が預かる!助けたくば我が陣屋まで来るがよい!」

 人質を取り、勝ち誇った蓮の声が旋風を切り裂き、三人の耳に突き刺さる。

「麟!必ず・・・・・・必ず助けるからね!」

 琉華と緋色の虎の悲鳴が響き渡る。だが、荒れ狂う旋風になす術がない。激しい旋風に翻弄されながら、一匹と二人はそのまま宙へと吸い込まれていった。



 一匹と二人が吸い込まれ、そして飛び出したのは広い庭園の中央にある池だった。琉華と嶽畝はずぶ濡れのまま岸に放り出され、緋色の虎はうまく着地をするなりブルブルと身体を震わせ、吠え立てる。

「ちょっと海斗!麟が敵に捕まっちゃったじゃない!何でもっと強い旋風を起こしてくれなかったのよ!確かに私の呪文が下手だったのかもしれないけどさ!」

 緋色の虎が吠え立てた相手、それは目の覚めるような青い直衣を身につけた貴人だった。いや、青いのは直衣だけではなくその髪も、目も全て瑠璃のような青に彩られている。還俗しかけの僧侶のような短い髪をしたその青年は、緋色の虎の恫喝に負けじと言い返す。

「冗談じゃないよ!そもそも妖かしに変化して十日も経っていないのに水鏡に飛び込んで此岸に行くなんて!一歩間違えれば全身の骨が砕けていたかもしれないんだよ、鳴鼓!」

「仕方ないじゃない!妹達が襲われそうになっているのを見て指くわえて見てろっていうの!」

「少しくらいなら時間を遡って助けることは出来るんだ!全く人間の時と変わらず無茶をするんだから!」

 青い貴人と緋色の虎――――――かなり激しい言い争いであるが、内容はどう聞いても痴話喧嘩である。聞いているだけで馬鹿らしくなってくるし、自分達もいつまでも濡れた格好のままでいるのは辛い。ちょっと勇気を要したが、琉華は恐る恐る二人に語りかける。

「あのぉ・・・・・・言い争いをなさっているところ申し訳ないのですが、できれば着替えをさせていただきたいのですが。それと、ここは一体何処でしょう?」

 震えつつもしっかりとした琉華の声に、青い貴人と緋色の虎はぴたり、と喧嘩を止める。

「あ、ああ済まない。ここは此岸と彼岸の中間――――――黄泉比良坂の途中と言えばいいかな。ほら、鳴鼓。妹御を母屋に案内して・・・・・・・あ、その姿じゃ案内しづらいか。今変化を解くから」

 そう言いながら青い貴人は自分の直衣を緋色の虎に被せ、呪文を唱え始めた。するとその輪郭が見る見るぼやけ、緋色の虎は琉華のよく知る姉の姿になったではないか。

「お姉様!良かった・・・・・・・完全に虎になってしまわれたわけじゃなかったんですね!」

 琉華は思わず鳴鼓に駆け寄り、強く抱きつく。その勢いに倒れそうになりつつも、鳴鼓は琉華を受け止め、その華奢な身体を抱きしめた。

「ええ。でもまだ自分じゃ変化できないし、尻尾と耳は隠せないんだけどね」

 ようやく本来の姿で姉妹二人が感動の再会をしているその間、嶽畝は二人から視線を避けつつ、青い貴人の近くへ赴く。

「この度は助けて頂き誠にありがとうございます。ところで・・・・・・それがしは二人とは別の場所をお借りしたいのですが。さすがに義姉のあの艶姿は目の毒です」

 確かに鳴鼓は海斗の直衣を被っていたが、隠せるのは膝辺りまで。しかも横面からはスラリとした脚が丸見えである。鳴鼓と琉華は再会を喜んではしゃいでいるが、周囲で見守るものとしては目のやり場に困る姿でもあった。海斗もそれに気が付き苦笑いを浮かべる。

「ああ、済まない。では召使に案内させよう」

 そう言って海斗が指を鳴らすと目の前に二人の唐子が現れる。そして姉妹の邪魔にならぬよう、嶽畝を屋敷へと案内し始めた。



 ゆっくりと風呂を使い、こざっぱりした着物に着替えた嶽畝と琉華の二人は、唐子達によって母屋の海斗と鳴鼓のところへと案内された。

「四十九日の間までなら人間でも問題なく暮らせるのでゆっくり休んでいくといい」

 色々な事がありすぎて疲れきっていた二人は、海斗の気遣いの言葉に感謝する。

「ところで、あなた達はこれからどうするの?」

 海斗と違い、こちらは実の姉ならではの心配があるのだろう。急くように今後の事を鳴鼓が二人に尋ねる。その問いかけに対して、琉華がこれからの予定を鳴鼓に告げる。

「美作に平氏の落人達が隠れておりました。集落というにはまだまだなのですが・・・・・・そこに行こうかと思います」

「大丈夫?都暮らしのようには行かないわよ?」

 三人姉妹の中で一番大人しい琉華が隠れ里の暮らしに耐えられるのか――――――母親代わりとしてずっと琉華の成長を見守ってきた鳴鼓は心配そうに表情を曇らせる。しかし琉華の決心は固かった。

「ええ、覚悟はしております。これからは嶽畝様を支え、暮らしていく所存です」

 たおやかに微笑みながら琉華は嶽畝と視線を交わす。どうやら二人で相談していたらしい。
 鳴鼓の目の前にいるのは姉に劣等感を抱いていた大人しい妹では無い。一人の男を支え共に生きていこうとする、しなやかで強い一人の女であった。

「確かにその方がいいね。ここは人間が住むべきところじゃないし、君達が行けば落人達の心の支えになるだろう。僕らに出来るのは落人の里の周辺に結界を作ることくらいだけど・・・・・・それでいいよね、鳴鼓」

 海斗の言葉に、鳴鼓も寂しげな表情を浮かべながらも深く頷いた。


 十日後、吉日を選んで琉華と嶽畝は美作の隠れ里に降り立った。さすがに天空から降り立った二人に隠れ里の者達は驚愕したが、『神のご加護』と二人を快く迎え入れた。後に嶽畝は集落の長となり、琉華の助けにより集落をまとめあげることになるが、それはこの時点から三年後の話となる。




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『枝ノ護人』迦楼羅の章、本編無事終了いたしました~ヽ(=´▽`=)ノ
最初の構想では琉華と嶽畝と出会うだけのはずだった迦楼羅の章、何故か呪音キクやレンまで出てくるし・・・こんなに話が大きくなる予定じゃなかったんですが(-_-;)正直次章『迦陵頻伽の章』がどうなるのか空恐ろしくなります(^_^;)

八方塞がりの中、海斗の助けによって窮地を脱した嶽畝と琉華ですが、これから隠れ里の生活が始まります。来週の月曜日にその様子をR-18含みでちらりと書かせていただきますが・・・かなり大変な生活だったようです。どこまで表現できるか判りませんが、可能な限り頑張ってみますね~♪

そして『朱雀』『迦楼羅』とお付き合い頂き改めて御礼申し上げます。出来ましたら最終章『迦陵頻伽』もお付き合いのほどよろしくお願いいたしますm(_ _)m
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