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「紅柊(R-15~大人向け)」
乙未・秋冬の章

女掏摸・其の壹~天保六年八月の取調

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「ちょいと!何するんだよ!」

 浅草寺門前の仲見世通りに、若い女の怒鳴り声が響き渡る。その声に驚いた人々が金切り声の方に振り向くと、青梅縞の着物を小粋に着こなした若い娘が、六尺はあろうかという背の高い壮年の男に手首を掴まれていた。掴まれた娘の手には明らかに男物と思われる印傳の財布が握られており、掏摸を働こうとしていたのは明らかである。

「何するんだよ、じゃねぇよ、お嬢ちゃん。それはこっちの科白だ。八丁堀も舐められたもんだな」

 黄八丈の着流しに三つ紋の黒紋付、鯔背な小銀杏に鋭い目つきの壮年の男は何処をどう見ても町奉行所の同心にしか見えない。普通の掏摸なら間違いなく影を見ただけで逃げ出すような相手に対し、堂々と掏摸を働くとは――――――その無謀さに、周囲の者達は呆れと同情が半々に混じった眼差しを青梅縞の娘に向けた。

「兄上、あの同心・・・・・・よりによって南町奉行所の『蝮の瀬田』じゃないですか」

 たまたま為右衛門とその息子、新太郎と共に浅草寺に参拝しに来ていた五三郎が小声で兄に囁く。
 据物斬りという仕事柄、南北の奉行所の同心とは顔を合わせる機会も多い五三郎達だが、『蝮の瀬田』は特に取り調べが苛烈だと聞いている。あのままではご定法で決められた刑罰より重い折檻や取り調べを受けるのでは、と暗に尋ねた五三郎だが、為右衛門からの返事はつれないものだった。

「やめておけ。あの財布の中身がどれほどのものか解らないが、四回目のお縄なら死罪になる娘だ。下手な同情をするんじゃない」

 為右衛門の至極まっとうな指摘に、五三郎は不承不承頷く。
 盗みの中でも掏摸というのは少々特殊な扱いを受けており、『する時に中身は把握出来ないから』と、一度にすった金額が十両以上であっても死罪にはならない。だが、それが四回続くと『更生の見込みなし』とみなされ、合計金額が十両に満たなくても死罪になる。もし青梅縞の娘が既に三回捕まっていれば、助かる見込みは皆無なのだ。

 未だ白歯で潰し島田を結っているところを見ると年の頃は十七、八くらいだろうか。若気の至りとはいえ、あっさり同心に捕まってしまった娘に同情の視線が集まる中、壮年の同心は青梅島の娘の手を掴んだまま番屋へと向かう。そこから唐丸籠にでも乗せて奉行所まで連行するのだろう。五三郎は二人の背中をちらりと見やりながら、為右衛門の後ろを付いて浅草寺へと向かった。



 壮年の同心――――――瀬田は娘を門前町入口近くにある番屋へ引きずるように連れて行くと、乱暴に土間へ転がした。

「瀬田の旦那、一体どうしたんですか?」

 引き戸を開けられた途端、若い娘を放り投げられた番太郎が驚きの声を上げる。それに対し、瀬田は起き上がろうとした娘の背中を踏みつけながら答えた。

「このアマ、よりによって俺の懐から財布を擦ろうとしやがった!まったく世も末だぜ!」

 瀬田は忌々しげに眉間に皺を寄せつつ娘の背中から足を離し、すぐさま娘の襟首を掴んで顔を上げさせる。そして猫を思わせる大きなつり目を覗き込みながら、ドスの利いた低い声で詰問する。

「おい、おめぇの名前は?何処に住んでいる?」

 同僚にも恐れられる『蝮の瀬田』としてはかなり大人しめの詰問だ。しかし、そんなことを知る由もない娘は、詰問に答える代わりに瀬田の顔に唾を吐きかけた。

「おい何てことを!」

 娘の横柄な態度に番太郎がいきり立つが、それを瀬田が止める。

「・・・・・・なかなか活きが良さそうじゃねぇか。こりゃあ責め甲斐があるってもんだ」

 意味深な笑みを口の端に浮かべたその瞬間、瀬田は娘の腕をねじり上げ、その華奢な背中を強く膝で押さえつけた。

「痛い!何しやがる!離せ、離しやがれ!」

 苦痛に顔を歪ませながら娘は罵詈雑言を撒き散らし、唯一自由になっている脚をばたつかせる。その拍子に青梅縞の着物の裾がめくれ上がり、白くすらりとした脛があらわになったが、瀬田はそれには目もくれずさらに低い声で娘に囁く。

「おい、知っているか?掏摸で捕まった奴の処罰がどんなものか」

 その瞬間、今まで暴れていた娘の動きがピタリと止まる。その反応から、どうやらこの娘は掏摸になってからまだ日が浅いと察知した瀬田は、思わせぶりに掏摸に対する刑罰について語り始めた。

「男だったら腕に入墨を入れた後、裸に剥いて牢屋の門前で敲きにする。だがよ、さすがに女を外で裸に剥くわけにゃいかねぇよな?」

 不安げに瀬田を見上げる娘に、瀬田はさらに追い打ちを掛ける。

「その代わり人目につかねぇ取調部屋で処罰があるんだ。当番によってやり方はかなり違うけどよ」

「ど、どんなものがあるんだよ!」

 恐怖に慄く娘はなけなしの意地を張ろうと躍起になるが、瀬田はそんな娘の強がりを愉しむかのように娘の顔を覗き込む。

「普通なら腰巻き一枚にひん剥いて笞打ちさ。男と何ら変わらねぇ。だけど囚人をいたぶるのが好きな輩も中にはいる。そういう奴ぁ拷問用の木馬に女を裸で乗せて股を裂いたり、中には数人で姦っちまうこともあるな。そういや昔は蛇責めとか・・・・・・」

「蛇!」

 瀬田の口から蛇と聞いたその瞬間、娘の顔が青ざめた。

「な、何でも喋るから!他の罰ならなんでも受けるからさぁ・・・・・・くちなわだけは勘弁しておくれよぉ!」

 この様子からするとこの娘はかなり蛇が嫌いらしい。今までの反抗的な態度は影を潜め、涙を浮かべながら瀬田に許しを請い始める。

「ふん、小娘が手こずらせやがて・・・・・・おい、駕籠を呼んできてくれ!唐丸籠じゃなくても構わねぇ。南町奉行所までこいつを連れて行く!」

 その言葉を聞いた瞬間、番太郎が怪訝そうな表情を浮かべる。

「しかし瀬田さん、今月の当番は北町奉行所じゃ・・・・・・」

「しっ、余計なことは言うんじゃねぇ」

 そう言いながら瀬田は番太郎に一分銀の粒を二つほど握らせる。その瞬間、番太郎は下卑た笑みを口元に浮かべた。

「へぇ、承知しました。しかし瀬田の旦那も好きですねぇ。さっきの囚人をいたぶるのが好きな輩の話だってご自身の・・・・・・」

「何のことだ?」

 瀬田は素知らぬ風に返事をしつつ、咳払いをする。

「・・・・・・気の強いおなごの方が落とし甲斐があるからな」

 観念したように土間の隅に縮こまっている娘を見つつ、瀬田は舌舐めずりをした。



 辻駕籠に娘を乗せて南町奉行所まで連行すると、瀬田は玄関を通ること無く、そのまま娘を取調部屋へと連れて行った。南町奉行所が非番だけあって、取調部屋を使っているものは誰もいないが、そこへ一歩足を踏み入れた瞬間、娘は思わず立ちすくむ。

「あ・・・・・・」

 さすがにずらりと並ぶ武器や隅に置かれた鋭角の背をした木馬、積み重なった分厚い石などを見て怯えたのだろう。瀬田が軽く背中を押してもなかなか前へ進もうとはしない。

「ほら!何突っ立っているんだ!早く中に入りやがれ!」

 業を煮やした瀬田は乱暴に娘を突き飛ばし部屋の中央に押しやると、すぐさま帯に手をかけた。

「な、何を!」

「尋問に決まってんだろうが!ほら、大人しくしやがれ!」

 瀬田は慣れた手つきで娘の帯をむしりとると、続けて小袖も脱がしてしまう。そしてくるくると器用に丸めると、一段高くなった板の間に放り投げた。

「ほら、さっさと長襦袢も脱ぎやがれ!」

「う、嘘だろ?本当に腰巻き一枚になるのかい・・・・・・」

 さすがに先ほど初めて顔を合わせた男の前で肌を見せるのには抵抗があるのか、娘は胸元を掻きあわせて躊躇いを見せる。だが、瀬田は壁にかけてあった笞を手にすると、娘を脅すようにぶん、と空気を唸らせた。

「別に長襦袢がボロボロになっても構わねぇんなら俺は構わねぇが。どっちにしろ二、三十も打ちゃあそんな薄っぺらい襦袢なんてものの役にも立たなくなる」

 にやりと意味深な笑みを受かべる瀬田の言葉に間違いは無さそうだ。長襦袢一枚とはいえ貧乏人にとっては一財産である。瀬田の言葉に娘は諦めたのか、おずおずと長襦袢を脱ぎ、腰巻き一つの形になった。着物を着ている時には目立たなかったが、意外と豊かな乳房に瀬田の目は引き寄せられる。

「ちっ、手間かけさせやがって」

 己の邪心を悟られまいとあえて忌々しげに呟くと、瀬田は笞を腰にたばさむ。そして代わりに細い縄を手に取り、娘をきつく縛り上げ始めた。豊かな胸に縄が食い込み、乳房が括りだされる様子は扇情的でもあるが、縛られる方にとっては堪らない。

「き、きついじゃない!もう少しゆるくしてよ!」

 娘は瀬田に文句を言うが、瀬田は手を緩めること無く、さらにきつく娘を縛り上げてゆく。

「これくらいきつくなけりゃすぐに笞から逃げ出すからな。ほらよ!」

 囚人を縛り上げにしてはあまりにも艶かしい縄化粧を施すと、瀬田は娘を地面に敷いてあった筵に膝を付かせ、上半身だけ筵に押し付けた。すると尻だけが高く掲げられた、まるで男を誘うかのようなあられもない姿になる。

「や、やだ!ちょっとやだぁ!」

 娘は尻をゆすり、逃げ出そうとする、が瀬田に首根っこを押さえつけられ動くことが出来ない。

「諦めろ。これがおめぇのやらかした掏摸の代償なんだよ!」

 そう言うと瀬田は娘の首根っこを押さえつけたまま、右手に持った笞を娘の尻に振り下ろした。

「痛い!」

 派手な笞の音と共に取調部屋に娘の悲鳴が響き渡るが、この程度で手を緩める瀬田ではない。

「さっさとやめてもらいたけりゃ洗いざらい吐くことだな。まずは名前だ!てめぇの名前を言いやがれ!」

 二度目の笞を娘の丸い尻に打ち下ろしながら、瀬田は叫んだ。




UP DATE 2014.8.6

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ここ最近可愛らしい話が続いた反動からか『はーどこあなえろがかきたい』病に取り憑かれ、思わず書き出してしまったのが今月の『女掏摸』です(^_^;)
諸々の理由から、女性の犯罪者が極めて少ない江戸時代なのですがやはり例外というものはありまして・・・この女掏摸もその例外の一人です。ただ、あまり諸事情に通じていないのか、それとも腕試しだったのか、この女掏摸、同心の瀬田の財布をすろうとしてしまいました。勿論今回のような結果になってしまったのですが・・・(´・ω・`)

そして本来非番のはずの南町奉行所に引きずり込まれた女掏摸は、瀬田によって嬲られることになります。次回は拙宅にしてはかなりハード系のSM入ると思いますので、苦手な方はスルーしてくださいませね(^_^;)
なお、次回更新は8/13、こちらは帰省の影響を受けずに済みそうです((o(´∀`)o))
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