FC2ブログ

「VOCALOID小説」
枝ノ護人

ボカロ小説・枝ノ護人~迦陵頻伽の章・1

 ←拍手お返事&箱根旅行に行ってきました♪ →烏のおぼえ書き~其の五十七・伊勢参り③御師のおもてなし料理
 昼でも夜でもない、黄昏を思わせる淡い光が周囲を照らす黄泉比良坂。その途中にあるひときわ大きな海斗の屋敷に、珍しい来訪者が来ていた。大柄でいかつい身体を白い袍衣で包んだその人物は、涙を浮かべつつ海斗と鳴鼓に訴える。

「頼みます、蒼の君の奥方!麟とかいうあの娘は、貴方様の実の妹御なのでしょう?事あるごとに暴言は吐くわ物は投げつけるわ・・・・・・あれに黙って耐えている御曹司があまりにも気の毒です。『そのうち引き取るから』という蒼の君の言葉を信じて早ひと月、もういい加減許してやって下さい」

 そう言って二人に迫っているのは源鏡音蓮(みなもとのかがみねれん)に守護として付いている武神・八幡神であった。
 武士の守り神と崇め奉られ、自らも猛々しさに満ち溢れている神が泣きながら訴えるその姿に、海斗は半ば楽しんでいるような曖昧な笑みを浮かべ、逆に鳴鼓は頭上の虎耳までぺたりと伏せて八幡神に頭を下げる。

「八幡神様!本当に、本当に申し訳ございません!まさかあの子があそこまで傍若無人な行動に出るとは露ほども思わず・・・・・・私めも八幡神様がいらっしゃる直前に水鏡で知った次第でございます。何卒、お許しくださいませ!」

 確かに子供の頃から悪戯好きの麟だったが、それはあくまでもくすり、と笑える程度のささやかなものだった。そもそも常軌を逸した悪さをしようものなら、躾に厳しい二人の姉にこっぴどく叱られる。それ故に幼いながら周囲に目を配り、空気を読む聡さを持つ麟が八幡神を嘆かせるほど暴れまくるとは鳴鼓の想定外であった。

 更にその事実を知ったのはつい先程――――――八幡神が海斗の屋敷に陳情にやってくる直前の事だった。それまで『じゃじゃ馬っぷりに守護神達が嘆いている』と海斗に知らされてはいたが、実際その場面を見せられる事は無かったのである。
 それどころか頬を涙に濡らして寝入っている姿ばかりしか見せられていたので、てっきり鳴鼓は『海斗が自分を心配させぬようにしている』と信じ込んでいた。それ故に、麟が本当に暴れまくっているとは想像だにしなかったのである。

 鳴鼓が何度訴えても海斗がなかなか腰を上げなかった理由はこれだったのか――――――鳴鼓はようやく合点がいった。被害者は麟ではなくむしろ源氏側であり、海斗は麟に翻弄される源氏の御曹司を面白がって見ていたのだ。その感覚はやはり神に近い存在ならではなのだろう。
 事実を知り、さすがにこれはまずいと八幡神に対して平謝りに謝る鳴鼓だったが、あくまでも傍観者を決め込む海斗は、面白半分に余計な一言を口走る。

「そんなに頭を下げることはないよ、鳴鼓。麟は麟なりに平氏の仇を討とうとしているんだろうし。平氏を滅亡へと追いやった源氏の御曹司を、齢十四歳のか弱い白拍子が翻弄しているなんて、なかなか見ものじゃないか」

 のほほんといい加減なことを口にする海斗を、鳴鼓と八幡神は同時にぎろり、と睨みつけた。

「あの娘の何処がか弱いと?蒼の君はろくにご覧になっていないからそう仰いますが、あの娘が来て以来御曹司の生傷は絶えないのですよ!一度は庭先で大焚火をやらかして屋敷ごと丸焼けになるところでしたし、勘弁していただきたい!」

「海斗!私の妹だからって面白がっているでしょう!強気に見せていたって結構繊細なところがあるんだからね、麟は!・・・・・・八幡神様、本当に申し訳ございません!直ちに引き取らせていただきますので何卒ご容赦を!」

 気の毒なほど身体を小さく縮こませながら、鳴鼓は八幡神に対して再び額を床に擦り付けた。



 話の発端は話は麟が源氏側に捕縛されてから十日ほど経った頃に遡る。

「御曹司。いい加減あの娘を追い出したほうがいいんじゃありませんか?下手なもののふよりも厄介ですよ、あの子鬼は」

 困惑顔の武蔵坊が、狩衣姿の蓮に耳打ちをする。その視線の先には肩を怒らせこちらを睨みつけている麟がいた。身につけている蘇芳香の小袿が若干乱れているのは暴れ為だろうか。

「いや、それは許さぬ。あれを押さえていれば絶対に平氏の残党が出てくるはずだ」

 山吹色の狩衣姿の蓮は麟から目を離さず武蔵坊に告げた。だがその狩衣の袖は見事に破け、左頬には派手な引っかき傷がある。それは先ほど麟に『勝手に近寄るな!』と付けられたものである。狩衣の袖も暴れた拍子に破られてしまったものだ。武蔵坊はその左頬の傷を見つめつつ、主君を窘める。

「そうは言うもののあの娘を捕縛してからはや十日――――――助けが来る様子など無いでは有りませぬか。そもそもあの虎の妖かしくらい来てもおかしくないのでは?」

 だが、蓮は自信ありげにふん、と鼻を鳴らした。

「陰陽師に申し付けて結界を張り巡らしている。妖かしからは麟の気配さえ感じ取れぬはずだ」

 一番の腹心である武蔵坊の進言でさえも突っぱねる、その頑なな態度に武蔵坊も呆れ首を横に振った。

「何が御曹司を惹きつけるのか理解できませぬ。確かに見目麗しい乙女ではございますが、あれは先に見た虎の妖かしより厄介でございましょう」

 源氏の兵によって捕縛され、意識朦朧のまま蓮によって陣屋へと運ばれた麟だったが、熱が下がらなかった三日三晩は非常に大人しかった。しかしその熱が下がった途端に麟の反撃――――――我儘振りが表面化したのである。

「なにこれ、まずい」

 出された干し魚をぺっ、と吐き出すと傍にいた世話係の武士を怒鳴りつける。

「確かにあたしは平氏側の人間だけどね、こんなまっずいものを食べさせられる覚えはないわ!それとも何?源氏の田舎侍達はこんなもんを食べているわけ?」

 麟の言葉に世話係はいきり立つが、それでも怯える素振りひとつ見せず麟は言い放った。

「源氏が天下を取ったっていうんなら珍しい甘味の一つぐらい用意しなさいよ。それとも田舎者は椿餅や饅頭さえも知らないの?」

 麟の挑発的な言葉に、さすがに堪忍袋の緒を切らした武士達だったが、それ止めたのは他ならぬ蓮だった。

「すまぬ。今は用意してやることはできぬが、京都に着いたら欲しいものは何でも用意してやる。小豆の餡の入った饅頭だろうが甘葛をたっぷり含んだ椿餅だろうが、お前の望むものなら何でも手に入れてやる」

 まるで恋する相手を口説き落とすような、そんな科白を吐く蓮を、麟は疑わしそうに目を細めて睨みつける。

(そういえば、源氏の御曹司は鞍馬で育ったって聞いたことがある。となると、京都の慣習にも通じているのかな?)

 となると、田舎侍だなんだと見下すのも難しい。

(鳴鼓姉に見つかったらものすご~く怒られるだろうけど、ここは我儘を目一杯言い放って、愛想をつかせるしか無さそうね。それでも駄目なら目一杯暴れてやるんだから!)

 相手に何かを要求すれば、その見返りを返さねばならなくなる。迂闊にものを強請ろうものならそれを理由に自由を奪われると、物心ついた時から鳴鼓に注意され続けてきた。 だが、姉達ほどの才覚を未だ身につけていない麟にとって、相手を困らせる『我儘』は唯一の武器なのだ。それが子猫の爪ほどの威力もないものだとしても――――――そして覚悟を決めた翌日から麟の攻撃は始まった。

「まさか上洛するのにこのまんま?罪人だとしてのひどすぎる!小袿が用意できなくても白拍子が着るような直垂くらい何とかならないの?」

「朝っぱらから強飯?お粥にしてよ、こんなの食べれない!干し魚ばっかりもう飽きた!せめて熨斗鮑ぐらい出しなさいよ!」

「水菓子食べたい!平氏を全滅した源氏ならなんでも自由になるんじゃないの?お天道様に命令でもしたらいいじゃない!」

 そしてあろうことか『これを飲んだ鳴鼓姉は誰にも負けないから、きっとあたしも強くなれるはず』と酒にまで手を出し、瞬く間に酔いつぶれたのである。その酔っ払い方は鳴鼓と瓜二つ――――――さながら手の焼ける仔虎そのものだった。
 勿論そのような状態の麟に近づけるものは誰もおらず、蓮自らが酔っぱらいの相手と世話をすることになった。この辺も妖怪たちが怯えて近寄らず、結局海斗が相手をする事になる鳴鼓とよく似ているかもしれない。
 十四歳の頭脳で考えうる限りの抵抗を試みる麟に、さすがに蓮の取り巻きや守護神達もお手上げだった。結局見るに見かねた蓮の守護神の一人、八幡神が海斗と鳴鼓達のところへ引取を要請しに来て、先の話に至るのである。



 麟の泥酔話を聞いた海斗はとうとう耐え切れなくなって腹を抱えて笑い転げた。

「なるほどね!確かに酒の入った鳴鼓に敵う相手は誰も居ないから麟もそう思ったんだろうな。それにしても酔っ払い方まで姉妹で似るとは・・・・・・琉華もそうなのかな」

 八幡神の話に腹を抱えて笑う海斗に鳴鼓は恥ずかしさに耳まで真っ赤にして涙を浮かべる。だが、八幡神にとっては笑い事ではなかった。

「まったくひどいものですよ。その豪腕で平氏を震え上がらせた武蔵坊でさえ我々神仏にあの娘の鎮圧を願う有り様で・・・・・・僧都でありながら神仏を全く信じぬ男が、あそこまで神仏にすがるなんて初めてです」

「なるほど。判らないではないね。全身に怪我を負って殆ど動けない状態だった鳴鼓でさえ妖怪たちは手こずったほどだ。元気いっぱいの麟を抑えようなんて無理な話だろう」

 そう言うと海斗は真顔になり、すっくと立ち上がる。

「鳴鼓。他ならぬ八幡神の願いでもあるし、一緒に麟を迎えに行こう。それでなくても・・・・・・」

「それでなくても?」

 海斗の声音が微妙に変わったのを聞きとがめ、鳴鼓が小首を傾げる。

「君達三姉妹は人とは思えぬほど強い運を持っている。琉華が天叢雲剣の使い手と結ばれたり、君が『枝ノ護人』である僕の許へやってきたり・・・・・・麟に関しては水鏡越しにちらり、と見ただけだけど、姉二人以上に強い運を持っている気がするんだ。だけどね」

 海斗は眉を曇らせながら言葉を続けた。

「『強い運』というのは決して『良い運』というわけではないんだ。栄華を極めたと思った瞬間追われる身になったり、危機に瀕しながら助かったり・・・・・・喩えるならば海原の大波に小舟で乗り出すようなものかな。普通の人間であれば激しく翻弄されて強すぎる運に呑み込まれてしまう」

「つまり、麟の傍にいると・・・・・・」

 嫌な予感を覚えつつも、鳴鼓は海斗の言葉を促す。

「源氏の御曹司とやらも巻き込まれるだろう。ただ、その御曹司自身も『強い運』を持っているような気がするんだ。でなければ、こんな短期間に平氏を滅亡させることはできないだろうし、麟の傍にいて平然としていられるわけもない。少なくとも琉華の良人、嶽畝並みの強い運か力を持っているはずだ」

「天叢雲剣の使い手や『枝ノ護人』と・・・・・・同じくらいの?」

 どう見ても海斗や嶽畝のように背が高い訳でも、武張っているわけでもない、むしろ貴族的で華奢な蓮にそのような力が宿っているようには思えず、鳴鼓は更に神妙な表情を浮かべる。だが、海斗は何かを確信しているように自信ありげに鳴鼓と八幡神に語りかけた。

「もしかしたら源氏の御曹司も天叢雲剣を使いこなせるかもしれないね。いやむしろ十拳剣の使い手かもしれない――――――八幡神もそう思われるでしょう?強い運をもっているからこそあなた方四柱の神々が御曹司の守護といて付いている」

「如何にも」

 八幡神が海斗の言葉に頷く。

「ただね・・・・・・嶽畝や琉華のように己の進むべき道をはっきり見定めることができる大人であれば問題ないけど、あの二人はまだまだ若い。神剣や神々の守護の下、隠者にように大人しく生活できるとは思えない」

 人の世を避けて、自らを山奥の隠れ里に封じた嶽畝や琉華とは訳が違う――――――海斗の指摘にさすがに鳴鼓も表情を強ばらせる。

「俺も充分に楽しませてもらったしね。そろそろ麟を迎えに行こうか。八幡神、よろしくお願い致します」

 海斗の言葉に八幡神は頷き、彼岸と此岸の繋ぎ目である水鏡へと向かっていった。




Back   Next


にほんブログ村 小説ブログへ
INランキング参加中v
こちらはブログ村の小説ランキングにリンクしております。



こちらは画像表示型ランキングですv




迦楼羅の章から2週間ほど間が開いてしまいましたが、ようやく迦陵頻伽の章も始めることが出来ました(*^_^*)
この章のメインはレンリンなのですが、まだまだ今回はケンカ状態のようで・・・いや、リンが一方的にレンにけんかを売っているといった方が良いかもしれません。尤もリンとしては拉致された状態で『負けるもんか!』と思っているのもありますし、レンは『女の子に手を上げちゃいけない』と自制しているフシが・・・あと次回書かせていただきますが、レンにはリンに手を挙げられないいくつかの理由があります。それが書ければもう少しラブラブ状態に持っていけるんじゃないかと思うのですが・・・ちびちびとしたブログ連載ですのでその点はご了承くださいませ(^_^;)

次回更新予定は8/25、レンがリンにやられっぱなしの理由を明かしてゆきます(そして怒り心頭の鳴鼓姉が麟を迎えに来るはずww)
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【拍手お返事&箱根旅行に行ってきました♪】へ  【烏のおぼえ書き~其の五十七・伊勢参り③御師のおもてなし料理】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【拍手お返事&箱根旅行に行ってきました♪】へ
  • 【烏のおぼえ書き~其の五十七・伊勢参り③御師のおもてなし料理】へ