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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第五話 裏切りの闇・其の壹

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――――――誘いに乗るんじゃなかった。

 目の前でくだを巻いている沖田を見つめながら斉藤は後悔していた。建前の謹慎明けとはいえ少し浮かれすぎていたのかも知れない。そして沖田なら腹の探り合いの必要もなしに酒が飲めると油断していたのも事実だ。
 だが、滅多に自分から酒席に人を誘わないこの男が、わざわざ斉藤を選んで誘うということに違和感を覚えるべきだった・・・・・・斉藤は杯を片手に潰れかけている沖田の面前でわざと大仰な溜息を吐く。

「沖田さん、もういい加減にしてくれないか?そもそも納得してお小夜さんと別れたんだろうが」

「ええ、確かにそうですよ。でもね・・・・・・」

 沖田は手酌で自らの杯に酒を注ぎ、一気に飲み干す。荒っぽい男所帯で生活しているとはいえ、武士としての躾を受けた沖田がここまで乱れた飲み方をするのを見るのは初めてだ。自分も手酌で酒を注ぎながら斉藤は困惑の目でおきたを見つめる。

「でも?」

「別れて七日しか経っていないのに他の男の口説きに靡くなんてひどすぎませんか?しかも相手は・・・・・・」

 沖田の酒で掠れた声が更に低くなる。

「藤堂さん、なんですよ?新選組を離脱して身分なんて関係ない世の中を作るなんて戯言で小夜を騙して!全く巫山戯るにしても大概にしてほしいものですよ!」

 沖田は酒で充血した目で斉藤をぎろり、と睨み、本日三度目になる話をくどくどと始めた。



 それは巡察で清水寺近辺を回っていた時の事だった。

(おや?)

 見覚えのある後ろ姿に沖田は目を留める。だがその華奢な後ろ姿に声をかける権利は今の沖田にはない。唇を噛み締め、踵を返そうとしたその時である。

「沖田先生、あれって藤堂先生ですよね?」

 部下の一人が指し示す方向には藤堂がいた。部下を誰も付けずに一人で歩いている。

「尾行・・・・・・ですかね。だとするとあまり大勢で声をかけるのも問題ですね」

 沖田は暫く考えたあと、部下に告げる。

「中村さん、皆を連れてそのまま巡察を続けて下さい。私は藤堂さんを手伝ってきます」

 沖田の言葉に部下たちは頷き、その場を離れていった。その間にも藤堂との距離は広がっていた。

「しかし、一体誰を追いかけて・・・・・・まさか、ね」

 藤堂の視線の先、そこにいるのは小夜だけだ。つまり藤堂は小夜を追いかけているとしか思えない。

「藤堂さんだって私と小夜が別れたばかりだって知っているはずなのに」

 藤堂が小夜に想いを寄せていることは沖田も知っている。だが、藤堂だって新選組の幹部――――――小夜とは結ばれない定めなのだ。

「いったい藤堂さんは何を考えているんですか?」

 怒りにも似た気持ちを抱えながら、沖田は藤堂の尾行を始めた。



 それは偶然だった。近藤の使いを終えて屯所に帰る途中、偶然一人歩いている小夜を藤堂は見つけた。

(総司と別れて数日――――――さすがに他に男はいないだろう)

 その内同じ身分の男と所帯を持つかもしれないが、さすがに孝明天皇の喪中の間は祝い事を控えるはずだ。
 そう思いつつ藤堂は小夜の後を付け始めた。さすがに街中で武士がかわたの娘を口説くことはできないので、人目につかないところまで行かなければならない。そうこうしているうちに小夜は清水寺のほど近く、小さな御霊神社の脇の小路へ入ろうとした。

「ま、待って!」

 藤堂はかわた村の場所を詳しくは知らなかったが、その小道の奥へ入られてしまえば小夜を追いかけられなくなると本能的に悟ったのだろう。思わず小夜に駆け寄り、御霊神社へと引きずり込んだ。

「あ、貴方様は総司はんの・・・・・・確かお会いしたことが・・・・・・」

「俺のこと、覚えていてくれたの?良かったぁ!俺、藤堂平助!」

 藤堂は嬉しそうに笑顔を見せると、小夜の二の腕を掴んだ。その有無をいわさぬ強い力に、小夜は痛そうに眉をしかめる。

「あ、あの・・・・・・」

 腕を離して欲しい――――――そう言いかけた小夜の言葉を遮るように、藤堂は今まで言えなかった、思いの丈を小夜にぶつけた。

「君のことが好きなんだ。池田屋で見た時からずっと」

 藤堂は小夜の目をじっと見てかき口説く。総司とは異質の、直情的な恋の告白に小夜は驚き、切れ長の目を丸く見開いた。総司であれば、相手の驚きを和らげるよう一つ一つ丁寧に説得をしたであろう。だが、藤堂は小夜の驚きなど歯牙にも掛けず、己の想いだけを強引に小夜に押し付ける。

「確かに俺も総司と同じ新選組の幹部だ。だけど総司のように君を捨てたりなんてしない!」

 小夜は黙ったまま、しかし疑わしそうに藤堂を睨みつけた。それもそうだろう、新選組幕臣取り立てを鑑みて小夜は総司と別れなければならなかったのだ。同じく幕臣になるであろう藤堂だって同じではないか――――――そう言おうとした小夜に、藤堂はとんでもないことを言い放つ。

「俺は・・・・・・いいや、俺達は伊東参謀と共に新選組を離脱する計画をしている。今上陛下の下、身分に囚われない世の中を目指していこうとしているんだ。勿論かわただってその中に含まれる」

 かわたも含まれる、身分に囚われない世の中――――――その言葉に、小夜の心は一瞬揺らいだ。生まれたその瞬間から身分によって苦しめられた小夜にとって、その言葉はあまりにも蠱惑的だ。そんな揺らぐ小夜の想いを敏感に感じ取った藤堂は、駄目押しとばかりに更に畳み掛ける。

「俺は君を日陰者のままにしない!身分なんて関係ない世の中にしたら、絶対に妻にするから!」

 妻にする――――――沖田にさえ言ってもらえなかった藤堂のその言葉に、小夜は狼狽した。藤堂の言葉を素直に受けるべきか、それとも断るべきか。迷っているその顔に、藤堂は可能な限り優しく、そして甘い声で囁きかける。

「局長の顔色を伺って君を捨てた総司のことなんか忘れさせてあげる。俺は・・・・・・絶対に君を幸せにするから」

 実のところ『身分に囚われない世の中』云々は、小夜を己のものにする為に出た戯言だった。だが、小夜を本気で口説き落とそうとしている藤堂の真剣な表情を、言葉の真実味と捉えてしまった小夜は、おずおずと頷いてしまったのである。

「うちなんかでよろしければ・・・・・・おたのもうします」

 沖田と別れた直後で、心細かったという事もあったのだろう。その身分故、慎重に相手の言葉の意味を汲み取ろうとする小夜にあるまじき迂闊さで藤堂の言葉に縋ってしまったのである。

(やっと・・・・・・この女をものに出来た!)

 俯く小夜を見つめながら、藤堂は内心高笑いをした。



 藤堂と小夜の二人だけのやりとり――――――そのやりとりを生け垣の影からこっそり聞いている者がいた。

「な・・・・・・ぜ?何で藤堂さんなんかに・・・・・・靡くんですか?」

 震える声でそう呟いたのは、藤堂をこっそりつけてきた沖田であった。唇を戦慄かせるその顔は青白さを通り越して土気色に変わり、強く握りしめた拳もわなわなと震えている。本当なら今すぐ生け垣から飛び出し、藤堂を殴りつけたいところが、身分を理由に小夜と別れてしまった沖田にその権利はない。

「卑怯・・・・・・じゃないですか!小夜が身分で苦しんでいるのを知って、あんな甘言で釣るなんて!」

 そしてその甘言にまんまと乗せられ、藤堂へ身を委ねようとしている小夜にも怒りを覚える。

「頼ることが出来るのなら、誰でもいいんですか!私の・・・・・・同僚ですよ!同じ轍を踏む気なんですか!そんな愚かなひとだったとは・・・・・・知りませんでしたよ!」

 腸が煮えくり返るとはまさにこのことだろう。怒りのあまり何処をどう通って屯所に戻ってきたのかさえ沖田は覚えていなかった。

「沖田総司、ただいま帰りました!」

 ぶっきらぼうに言い放ち、怒りを全身に纏わりつかせたまま上がり框を上がったその時である。沖田の声に気がついたのか、斉藤が屯所の奥から出てきた。どうやら風呂あがりらしく、浴衣姿に手には濡れた手ぬぐいを持っていた。

「随分と遅いご帰還だな。あんたの部下は三番隊の前に風呂に入り終わったぞ」

 明らかに様子がおかしい沖田に、斉藤はわざと日常的な言葉を投げつける。その言葉に沖田はほんの少しだけ冷静になる。

「え、ええ。ちょっと訳ありで部下達だけ先に返しましたんで・・・・・・斉藤さん、もし暇なら私に付き合ってくれませんか?」

 沖田は杯を空けるような仕草で斉藤に尋ねる。

「あ、ああ。謹慎も明けたし、俺は構わないが」

 普段自分から酒の席に人を誘うことがない沖田が、隊内で一、二を争う酒豪の斉藤をあえて誘うというのだ。これは間違いなく何かがあると踏んだ斉藤は、沖田の誘いに乗る。

「じゃあ、土方さんに許可をもらって祇園にでも行きましょう」

 と、土方に許可をとった後連れ立って祇園に出た二人だったが、四半刻も経たないうちに沖田は酔いつぶれ、延々と同じ愚痴を斉藤にたれ続けたのである。

「はいはい、沖田さん。もうこれくらいにしておこう。藤堂さんのせいで門限破りなんてあんただって嫌だろう」

 斉藤の言葉に一瞬むっとした表情を浮かべた沖田だったが、さすがに謹慎明けの斉藤を束縛するのはまずいと思ったのか素直に頷く。そして立ち上がろうとしたのだが、酒に足を取られ、斉藤の方へよろめいた。

「おっと」

 斉藤は倒れかかった沖田を支えたが、一抹の不安を覚えずにはいられない。

(門限まで帰れそうもないな・・・・・・使いを出しておくか)

 斉藤は沖田に肩を貸しながら、茶屋の男衆に屯所に使いを出してくれと頼んだ。



UP DATE 2014.8.23

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3週間のお休みを頂き、ようやく再開させていただきました『夏虫』ですが、いきなりこの展開です(^_^;)
斉藤の謹慎明けですから正月の7日の話になりますが、別れて一週間しか経過してないのに(しかも未練ありまくりなのに)元カノが他の男にナンパされ、しかもOK出しちゃうって・・・そりゃあ呑んだくれるでしょうねぇ。付き合わされた斉藤も気の毒すぎます・・・お仕事のためとはいえ参謀に付き従い、そのとばっちりで謹慎を受け、その直後に沖田に付き合わされるとは・・・(>_<)確か男の数え25歳って厄年のはずですから、その影響をもろに受けているとしか思えません(^_^;)

さて、酔っぱらいを担いで屯所へと帰還する斉藤ですが、その道中もすんなりとは行かないようで・・・次回更新は8/30、例の襲撃事件に遭遇します(*^_^*)
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