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「VOCALOID小説」
枝ノ護人

ボカロ小説・枝ノ護人~迦陵頻伽の章・2

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 ずきずきと痛む頭と、額に乗せられたひんやりとした感触に麟は目を開けた。

(ううっ、気持ち悪い。頭もずきずきするぅ・・・・・・)

 生まれて初めての宿酔いに苦しみながら、麟はなかなか働いてくらない頭で寝る前の記憶を手繰り寄せる。

(そうか。散々暴れまくって、そしてお酒を呑んで・・・・・・痛っ!何でこんなに痛いのよ!)

 割れそうに痛い額を抑えながら、麟は心の中で毒づいた。そういえば鳴鼓も酔っ払って暴れまくった翌日は、『あんなに呑むんじゃなかった』と頭を抱えながら呻いていたっけ、と思い出したその時である。

「おい、麟。大丈夫か?だいぶうなされていたけど」

 少し高めの声で語りかけ、麟の顔をのぞき込んだのは刈安色の狩衣を身に纏った蓮だった。どうやら酔いつぶれた麟を自ら介抱してくれたらしい。その心配そうな顔を確認すると、麟は大仰にしかめっ面を作って返事をした。

「全然大丈夫じゃない。すっごく頭が痛いの・・・・・・でも我慢できる。それよりさ」

 蓮に語りかけながら麟は上体を起こす。

「何だ?」

 その声は、麟が想像していたものより遥かに穏やかだ。その声に安心したのか、麟は前々から気になっていたことを思い切って尋ねた。

「あんたさぁ・・・・・・何であたしの我儘全部聞こうとするの?源氏の御曹司の意地、って奴?」

 麟の問いかけに、蓮は少し困ったような表情を浮かべる。そして暫く考えた後、言葉を選ぶように訥々と話し始めた。

「お前さ・・・・・・寝言でずっと姉上の名前を呼んでたんだぜ。生きるか死ぬかの高熱を出しながら呼び続けるってさ、相当大事な存在なんだろ?」

「・・・・・・うん」

 確かにそれは間違いなかった。姉妹三人で助け合い、いざというとき頼りになるのは二人の姉だとずっと思ってきた。光熱でうなされていれば余計に姉に助けを求めてしまうだろうと、麟も納得する。

「俺にもさ、そんな兄上がいるんだ。源氏の頭領でさ、すっげぇ格好いいんだ。平氏みたいに貴族にへつらって生きるんじゃない、武士は武士の政を行うんだって夢を持っていてさ」

「武士の・・・・・・まつりごと?」

 政治というものは貴族が行うものとばかり思っていた麟は不思議そうな表情を浮かべた。だが、蓮はそんな麟に対して蓮は丁寧に説明を始める。

「ああ。兄上は荒くれ者だらけの東国武士団を御家人として一つにまとめ上げたんだ。それまではみんな我儘で、同族程度の団結ぐらいしかできなかったのにさ。最高だぜ、あの統率力は!」

「へ、へぇ・・・・・・」

 呆気にとられる麟を尻目に、蓮はうっとりとした表情で自分の兄について語り続ける。

「貴族やその取り巻きだけが美味しい思いをするんじゃない。農民や漁民、勿論白拍子だって貴族に媚びへつらわなくても生きていける世の中を作ろうとしているんだ。すごいだろ?俺はその手足となって兄上の夢を実現しようとしているんだ」

 語り続ける蓮のその目は希望にキラキラと輝いている。そんな蓮の顔に、麟は思わず見惚れてしまった。

(こいつ、結構格好良いかもしれない)

 夢を語っている、真剣な表情ということを差し引いても、蓮は整った顔立ちをしている。小柄な背格好と相まって武士というよりは貴族的かもしれない。その顔を見つめているうちに、心なしか麟の頬が熱くなってくる。

(あれ?まだ・・・・・・お酒が残っているのかな?)

 火照った頬に手を当てながら麟はぼんやりと考える。

「あ、それと!」

 不意に蓮が麟の二の腕を掴み、真剣な表情で麟の顔を覗き込んできた。

「え、ええ?」

 腕を掴まれ、じっと見つめられたまま麟は動揺を露わにする。

「お前は・・・・・・俺の母上に似ているんだ。尤もガキの頃に生き別れになっちまったからうろ覚えだけど。すっげぇきれいな人だった」

「そ、そうなの?」

 その『きれいな人』に似ていると言われるのは、間違いなく褒め言葉だろう――――――蓮に見つめられて麟は更に頬を火照らせる。今まで経験したことのない胸の高鳴りは一体何なのだろうか。

(もしかして、歌に詠まれている『恋』って奴?)

 そうこうしているうちに蓮の顔が徐々に近づいてきた。このままでは唇が重なってしまう。流されてしまうのは不本意だが、我儘な自分を受け入れてくれる蓮であれば構わないか――――――頭の片隅でちらりとそう思った刹那である。

「り――――――ん!あんた、何て事してくれたの!」

 懐かしい怒鳴り声と共に几帳の向こう側に複数の影が出現した。



 二人っきりの筈の母屋に突如現れた影は、二人の周囲に立てかけられた几帳の一つを掴むとそれを乱暴に倒す。その瞬間、麟は目を大きく見開き大声で叫んだ。

「め、鳴鼓姉!な、何でこんな所にいるのよ!」

 それは蝉の羽襲の細長を着た鳴鼓だった。その背後には二藍の直衣姿の海斗と白装束の八幡神がいる。鳴鼓を始め、神々の姿に慌てた麟は反射的に逃げようとするが、鳴鼓は女房装束を身につけているとは思えない身のこなしで麟の首根っこをむんずと掴んた。

「あんたねぇ、我儘も大概にしなさい!私がどれだけ恥をかいたと思っているのよ!」

「ごめんなさーい!」

 首根っこを掴まれたまま麟は手足をばたつかせるが、鳴鼓はそれを物ともせず麟を引きずり出す。

「ほら!取り敢えず私のところに行くわよ!その後で琉華のところなり他の縁者のところに・・・・・・」

 そう言いかけて鳴鼓が麟を連れ帰ろうとしたその時である。はっ、と我に返った蓮が思わぬ行動に出たのだ。

「ま、待て!この娘は・・・・・・麟は渡さぬ!」

 そう叫ぶと麟の首根っこを掴んでいた鳴鼓の手をはたき、麟を自分の腕の中に抱きしめたのである。呆気にとられる鳴鼓に対して、蓮は睨みを効かせて言い放つ。

「この娘を奪うというのであれば、俺を殺して奪ってみろ!絶対に・・・・・・麟は渡さぬ!」

 だが、百戦錬磨の若武者の声はこころなしか震えていた。それもそうだろう、相手は人間ではなく、緋色の虎の耳と尻尾を持った妖かしだ。そして本性は間違いなく以前壇ノ浦近くで見た大虎に違いない。次の瞬間にも大虎に変化し、蓮の喉笛を食いちぎってもおかしくない相手である。だが、それでも蓮は麟を手放す気はさらさら無かった。

(殺される――――――!)

 だが、なかなか相手は襲ってこようとはしない。蓮は恐る恐る顔を上げ、鳴鼓の方を見ると、鳴鼓は何とも言いがたい複雑な表情を浮かべ蓮を見つめているではないか。否、鳴鼓だけではない。少し離れた場所にいる他の二人も蓮に対して同情の視線を投げかけている。

「ねぇ、海斗・・・・・・八幡神様の申し出だけど、どうしたら良いと思う?ここまで必死に麟を手放そうとしないなんて予想もしていなかったわ」

 困惑を露わにする鳴鼓に対し、海斗と八幡神は近づきながら肩を竦めた。八幡神に至っては目に涙さえ浮かべている。

「う~ん、あれだけ傍若無人、好き放題されているのにまだ執着を見せるとはね。まぁ、麟はきれいな子だからね。気持ちは判らないでもないけれど」

「蒼の君、よもや御曹司がこの状況を求めているとはそれがしも思わなんだ。日々の生活は戦より酷いものなのに」

 よよ、と袖で涙を拭いながら八幡神は嘆いた。だが、妖怪や神が束になっても今の二人を引き裂く事は極めて難しい。

「平家の武士団よりうちの妹はたちが悪いかもしれないのに・・・・・・でも麟もまんざらじゃなさそうなのよねぇ。一体八幡神が黄泉比良坂にいらしている間にどんな心境の変化があったのやら」

 蓮の腕の中で大人しく抱きすくめられている麟をちらりと見ながら呟くと、鳴鼓が進み出て二人に語りかけた。

「じゃあ改めて聞くわ。二人共、一緒にいたいのね?」

 鳴鼓の問いかけに二人は抱き合ったまま黙って頷く。それを確認すると、鳴鼓は軽く溜息を吐いて袖から何かを取り出した。

「解ったわ。じゃあ暫くは一緒にいなさい。で、麟。やっぱり無理だと思ったらこれを鳴らして私を呼んでくれればいいから」

 そう言って鳴鼓は麟に袖から取り出したもの――――――一本の篳篥を渡した。

「ま、この男と別れたい!だけじゃなくても良いわ。何かあなたの身に危険が起こったり、私の助けが必要だと思った時に呼んでくれればすぐに駆けつけるから」

「うん!」

 すっかり妹の表情に戻った麟は、笑顔で鳴鼓から篳篥を受け取る。その一方、海斗は手持ち無沙汰な蓮に声をかけていた。

「『あれ』に惹かれてしまったのはそなたの運命なのだろうな。鳴鼓、琉華、麟――――――瑞鳥三姉妹は並の男では乗りこなすことなどできぬ運命を背負っている。平神威しかり、そしてそなたも・・・・・・」

 海斗の頬に昏い笑みが滲む。

「栄華を極めるか、滅亡へ転がり落ちるか――――――瑞鳥の舞に運命に翻弄されたくなければ、ただひたすら大人しくしていろ。それが無理なら、平氏と同じ運命を辿ることを肝に銘じておいた方がいい」

 呆然とする蓮を尻目に踵を返すと、海斗は未だに麟にくどくどと何かを言っている鳴鼓を促した。

「ほら、鳴鼓。いつまでも妹を甘やかすのは良くないよ。麟だってもう十四歳、人間だったらもう結婚だって許される年齢だ。いい加減大人の扱いをしてあげないと」

 そう言いながら海斗は不満顔の鳴鼓の腰を抱き寄せる。そしてそのまま八幡神と共に霧と変化し、二人の前から消えていった。

「と・・・・・・取り敢えず麟の家族からはお許しが出た、ってことでいいのかな?」

「う、うん。過保護な鳴鼓姉が許してくれたから、多分問題ないんじゃないかと・・・・・・きゃあ!何すんのよ、馬鹿!」

 鳴鼓からの許可が出たと聞いた途端に抱きつこうとした蓮の頬を、麟は反射的にひっぱたく。その派手な音は四方の廂どころか外にまで響き渡った。

「サイテー!ケダモノ!近寄んないで!」

 宿酔いの体調の悪さは何処へやら、力いっぱい叫ぶと、麟は先ほど鳴鼓がどかした几帳の隙間から蓮を蹴りだす。さすがに冷静になった時に迫られるのは麟としては恥ずかしいのだろう。蓮の想いが届くのはまだまだ先のようである。




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迦陵頻伽の章2話めでようやくリンレンぽくなってきました・・・まだチューもしておりませんが(^_^;)拙宅のリンちゃんはどうやら恥ずかしがり屋のようです。

それでもようやく麟と蓮の心が通じ合うようにはなってきました。『母親に似ているから』と蓮にはマザコン発言をさせてしまいましたが、蓮のモデルである源義経の母親・常盤御前は美人だったといいますから許してやって下さいませ。
(あと、麟≒蓮の母親≒母親似の蓮、ということで、リンレン二人の顔立ちが似ているという設定でもあります)

ただ、二人の気持ちが通じあったとしても心配するのが大人たち・・・特に鳴鼓は八幡神にも色々言われていますから、麟を引き取りたいという気持ちがあると思います。しかしこんな状況ですかから大人たちも手が出せず。結局今回は二人を許してしまうことになりました。
でも気になるのが海斗の一言・・・瑞鳥の舞に運命を翻弄されてしまうのでしょうか?

次回更新は9/1、迦楼羅の章ですごすごと逃げていった呪音が再び登場、リンレン二人の行く先に暗雲が立ち込めます。
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