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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第六話 裏切りの闇・其の貳

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 祇園の大通りに調子はずれの歌声が響き渡る。その声からすると、どうやら若い男が歌っているらしい。明らかにろれつが回っていない、調子っぱずれの青年の声を聞いた通行人は思わずその声の方を振り向くが、そちらを見た瞬間、例外なく皆眉をひそめた。

「・・・・・・沖田さん、頼むから耳許で大声で歌うのは止めてくれないか」

 耳許でがなり立てられるその声と通行人の冷ややかな視線に耐えかねて、沖田に肩を貸している斉藤がうんざりした口調で訴える。だが、泥酔している沖田にその切実な訴えが届く事は無い。

「ふぇぇ?なんれすかぁ~、さいとぉ~しゃん。いいじゃないれすかぁ、歌くらいぃ」

 先程のうじうじと愚痴をこぼしていた姿とは打って変わり、無駄に明るい口調で沖田は斉藤に返事をする。

「だったらせめて屯所に帰ってからにしてくれ」

 表向きは脳天気に酔っ払っている沖田に、殺意さえ含んだ低い声で斉藤は凄む。だが、そんな斉藤の声音にも沖田はただヘラヘラと笑うだけである。

「やらなぁ・・・・・・ひっく・・・・・・しょんな事したらぁ、土方さんに殴られますぅって・・・・・っと」

 沖田は大仰に震える素振りを見せた後、再び大声で歌い出す。先程は延々と愚痴をこぼしていたのに、外に出た途端やけに陽気になるとは――――――この極端すぎる態度の豹変ぶりに、斉藤はむしろ不安を覚えた。

(もしかしたら、この男はこの男なりに気を使っているのかもしれない)

 時折、沖田は必要以上に自分を押し殺すことがある。それは普通の人間なら感情に翻弄されるような場面――――――例えば直属の部下であった佐々木を殺されたり、可愛がってもらっていた山南の介錯に臨んだ時、そしてまさに今である。
 人目があるのは頂けないが、この往来でも先程と変わらず藤堂や小夜への愚痴を零してくれたならば斉藤はここまで心配しなかっただろう。だが、愚痴をこぼすどころか無駄にはしゃぎ、普段歌わない歌まで歌い出すとは・・・・・・斉藤はむしろ沖田の不安定さを垣間見たような気がした。

(まぁ、未だ諦めきれぬ女が他の男の誘惑に靡いた現場を見てしまったんだ。気持ちは解らぬでもないが・・・・・・おや?)

 四条大橋の袂に辿り着いた時、斉藤は訝しげに目を細める。その鋭い視線の先には、自分達、否、沖田同様、酔っぱらい騒ぎながらやってくる二人組がいた。橋の向こう側にいる二人とはかなり距離があるにも拘らず、斉藤は剣呑なものをはっきりと感じたのである。

(あっちも酔っ払いか。できればやり過ごしたいが・・・・・・)

 相手の腕にもよるが、並みの腕なら二人くらい相手にできる自信はある。だが、今は酔っぱらっている沖田を担いでいる状態だ。沖田を守りながら二人を相手にするのは無理がある。

「沖田さん・・・・・・どうやら今日はあんたの厄日らしいな。自分の身は自分で守ってくれ。最悪、線香くらいは手向けてやるから」

 斉藤はそう呟きながら、敢えて左側に寄りゆっくりと橋を渡り始める。相手が橋の反対側に寄ってくれればそれでよし、もし絡んでくるようなら沖田を左側の欄干に寄りかからせることが可能だ。

「本当に世話が焼ける酔っぱらいだよ、あんたは!」

 そう毒づく斉藤に、橋の向こう側からやってくる二人組は徐々に、そしてはっきりとした意思を持って斉藤らに近づいてくる。そしてその一方が酔いに足を取られた風によろけ、斉藤に肩をぶつけてきたのだ。だが、その激しいぶつかり方は明らかに酔いが理由ではない。斉藤はそれをはっきりと感じ取りつつ、相手を睨みつけながら間合いを確認する。

「おお、痛ぇ!この落とし前、どう付けてくれるんだよ!」

 睨みつける斉藤に、まるで三下の如くぶつかった男は絡んできた。そしてその怒鳴り声と共に二人は刀の柄に手をかける。

「ふん、まるで飢えた野良犬だな」

 明らかに喧嘩目的の二人に対し不満そうに鼻を鳴らすと、斉藤は沖田を欄干に寄りかからせる。そして男達が襲いかかってくるその瞬間、振り向きざまに刀を抜き、肩をぶつけてきた男の攻撃を受けたのである。

ガキン!!!

 耳障りな金属音と共に鍔迫り合いが始まるが、一瞬で決まると思っていた勝負はなかなか決着がつきそうもない。

「ほう、なかなかやるようだな」

 一進一退の鍔迫り合いをしつつ、斉藤が敵に対してニヤリと笑う。斉藤の刀を受けている男は新選組にもそういないであろう、なかなかの使い手だったのである。

「あんたもな。なかなか面白いじゃねぇか!」

 剣術家の血が疼くのか、二人は瞬く間に勝負に夢中になる。だが、二人が戦っているその横をもう一人がすり抜け、沖田へ向かって刀を振りかざしたのである。

「沖田さん、避けろ!」

 殺される――――――斉藤が咄嗟に叫んだその瞬間である。

ザシュ!

 肉を切り裂く嫌な音と、むせ返る血の臭いが斉藤を襲った。



 新春の清冽な夜気に生臭い血の臭いが充満する。大きく目を見開いた斉藤の前には信じられない光景が広がっていた。

「う、嘘だろ・・・・・・」

 沖田を襲撃した男は沖田を見つめたまま嗄れた声で呟く。沖田に刀を振りかざそうとした男の太い腕、その肩口を鋭い刃が貫いているのだ。

「・・・・・・やっぱり酔っていると手許が狂いますねぇ。喉を狙ったはずなんだけどなぁ」

 血なまぐさい光景の中、妙に間の抜けた声が三人の耳に届く。その次の瞬間、男の肩口から刀が引きぬかれ、傷口からは勢いよく血が吹き出した。月明かりに鈍い光を放つ血飛沫は、容赦なく沖田の頭に降り注ぎ、全身を汚してゆく。

「あなたも・・・・・・大人しく斉藤さんの剣技を見物していれば良かったのに。滅多に見れないのになぁ、こんな名勝負」

 血飛沫を頭から被りながらも、何故か嬉しそうに間の抜けた声――――――沖田が呟く。そして幽鬼の如くゆらり、と立ち上がると血に濡れた大刀を大きく一回ぶん、と振り、纏わりついていた余計な血潮を振り払った。

「本当にあなたはついていなかったようですね。よりによって酔っ払った機嫌の悪い私の目の前に刀を振りかざして飛び込んでくるなんて。手加減なんてしてあげられないじゃないですか」

 沖田はほんの少しだけ不満を滲ませた口調で男に言い放つと、今度は右の足を切り裂いた。すると今度は男の右太腿が切り裂かれ、そこから血が吹き出した。

「う、うぉぉぉ!」

 男は絶叫を喉から迸らせながら足を抑えてうずくまる。それを一瞥しながら沖田は斉藤に声をかけた。

「斉藤さん、助け要りますかぁ?」

 血潮にぐっしょりと濡れたままの姿で沖田が斉藤に尋ねる。その姿は地獄から這い出てきた鬼そのものだ。仕方が無いとはいえ、あまりに酷いその姿に斉藤は眉をしかめただけだったが、斉藤と戦っていた男はそうは行かなかった。

「ひ、ひぃぃ!」

 男は悲鳴を上げると、右足を負傷した仲間をそのままに祇園の方へ走りだす。

「お、おい、待ってくれ!」

 沖田に足を斬られた男もびっこを引きながら逃げていった仲間の後ろを追いかける。二人の男らは祇園の人混みに飛び込むと、あっという間に沖田と斉藤の前から消え去った。

「何だ、あっさりと逃げられちゃいましたねぇ」

 逃げる男達が消えていった辺りを見つめながら沖田が斉藤に話しかける。その間もふらふらと頼りない。

「ふん、あんたが手加減したからだろうが。あんたの腕なら脚だって斬ることが出来るだろうに。それよりも・・・・・・不逞浪士やゴロツキならいざ知らず、どこかの藩士だったら厄介だぞ」

 実際諸侯の家中達とのいざこざで面倒なことになった事は少なくない。今回もその口かもしれないと斉藤は眉をしかめるが、目の前の酔っぱらいは気楽なものである。

「大丈夫ですよぉ、怪我はさせたけど殺しちゃいませんしぃ。藩士だったら屯所に苦情が来ますって。むしろ調査が少なくて済みますよぉ」

 斬り合いが終わって安心したのか、沖田は再び欄干に寄りかかってヘラヘラと笑い出す。

「・・・・・・いい加減にしろ、酔っぱらい」

 結局後始末は俺の仕事か――――――どこまでも脳天気な沖田を睨みつけながら、斉藤は今後の手配のことを考えていた。



 その後、一連のいざこざを見咎めた者が祇園会所に連絡したのか、宿直の平隊士三人が二人の許にやってきた。

「うわぁ、また派手にやりましたねぇ、沖田先生」

 返り血を浴びた沖田を見るなり、平隊士は素っ頓狂な声を上げる。

「それにしても珍しいですね。沖田先生が返り血を浴びるなんて」

「ふん、酔っぱらいに返り血を避ける余裕があるわけ無いだろうが」

 平隊士が現場検証にやってきたというのに、相変わらず酔っ払ってヘラヘラしている沖田を睨みつけながら、斉藤が平隊士にぼやく。

「取り敢えず調書は俺が書くから、この酔っぱらいの世話を頼む」

「あ~ずるい!斉藤さん、逃げる気ですかぁ」

 まとわりつこうとする沖田を体良くあしらい、斉藤は沖田を平隊士に押し付ける。

「逃げるんじゃない。調書を書くんだ。おい、ボケっとしてないでその男をさっさと湯屋へ放り込んでこい!あと、二人がかりのほうがいいぞ。俺でさえ手に負えないからな、今の沖田さんは」

「し、承知・・・・・・」

 斉藤の剣幕に気圧されながら、平隊士二人は沖田を両脇から挟み込むようにして連れて湯屋へと向かう。かなり遅い時間だが、祇園であれば何処かしらの湯屋は開いているだろう。

「全く世話のやける・・・・・・ま、明日になればその罰は確実に当たるだろうがな」

 口の中で呟きながら、斉藤は平隊士の一人と共に祇園会所へと足を向けた。




UP DATE 2014.8.30

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今回はかの有名な四条大橋でのバトルです。今回このシーンを書くにあたって資料を調べてみたんですけど、本当は新選組側って3人だったらしいんですよ・・・しかもそのメンツに永倉が含まれているという(^_^;)
なので、多分この戦いに臨んだのは新選組の幹部ではなく・・・いや、もしかしたら新選組でも無いかもしれないんですが・・・そんな感じの戦いだったようです。ただ、維新派資料で総司が登場する最後のものですからねぇ。物語としては取り上げたいな~ということで、怪しさ満載ながらこのシーンを取り上げさせていただきました(*^_^*)

次回更新予定は9/6、宿酔い総司と諸々の報告を土方にする斉藤の話になります。
(ええ、総司から聞かされた話も報告義務の中に入りますからねぇ・・・どこまでも気の毒です^^;)
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