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「VOCALOID小説」
枝ノ護人

ボカロ小説・枝ノ護人~迦陵頻伽の章・4

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 蓮の身を案じる麟を京都においたまま、蓮は武蔵坊以下、配下の者を引き連れて鎌倉へと向かった。とにかく自分にかけられた疑いを晴らさない事には何もできないどころか、謀反人として追われる身になりかねない。
 徐々に秋の気配が色濃くなる中、蓮達一行は半月ほどかけて鎌倉の手前、腰越まで到着した。しかし蓮に不信感を抱く頼朝は蓮の鎌倉入りを許さず、腰越の満福寺に留め置かれることになったのである。

「俺には他意はありません!大江殿、兄上にこれを渡して下さい!」

 どんな手を使っても頼朝に対し、叛意の無いことを示さなければならない。蓮は一通の嘆願書、後に『腰越状』と呼ばれる書状に己の小さな護り刀を添え、頼朝の側近大江広元に託した。
 だが、蓮の必死の願いも虚しく、大江によって嘆願書と護り刀を頼朝へ取り次いでもらったものの、結局蓮は鎌倉入りを許されず京都へ引き返すこととなった。

「ふふっ、日輪の如き生命力を持つものとはいえ、所詮は人間。己をがんじがらめにするしがらみから逃れられぬとは、片腹痛い!」

 失意のまま京都へ戻る道を進む蓮の後ろ姿を見てほくそ笑むのは呪音だった。梶原に書かせた出鱈目の報告書を鵜呑みにし、実の弟が命を賭して差し出した嘆願書を一蹴するとは――――――ここまで思い通りに事が運ぶとは思わなかっただけに、笑いが止まらない。
しかも蓮は小刀と共に守り神を――――――建御雷之男神に経津主神の二柱の神を手放したのだ。守護の神が半分になったことで、呪音が付け入る隙はますます大きくなってゆく。

「さて、今度は追討、ってところだな。だが、あっさり捕まっては面白く無いな。追討軍に追われ、じわじわと気力を削いでいくのも悪くない。どうせなら長く愉しませてもらおうぞ!」

 万全の包囲網の中、一箇所だけ道を開けておけばそこに逃げるしか方法はないだろう。そしてとことんまで追い詰め、行き着く先は奥州・平泉――――――蓮の後ろ盾でもある藤原氏の領地だ。

「陸奥の『枝ノ護人』は確か竜飛(リュウト)とかいう童子だったはず。そこまで行けば黄泉大神やあの忌々しい未来の力も届くまい」

 人間をいたぶり、己の快楽にのみ忠実な呪音に、『枝ノ護人』だった頃の面影は欠片も無い。鴉の鳴き声にも似た耳障りな嗤い声を上げながら、呪音は遠くに離れていく蓮達の後ろ姿を、いつまでも見つめていた。



 蓮が失意のまま京都への帰路についた頃、鎌倉の屋敷の一室で源頼朝は妻の政子に語りかけていた。

「政子、俺のした事は本当に正しいと思うか?」

「御館様?正しいと・・・・・・は?」

 穏やかな政子の声に促されるように、頼朝は重々しく口を開いた。

「蓮のことだ。確かにあれだけを特別扱いする訳にはいかず、鎌倉入りを拒んだが・・・・・・可愛い弟には変わりないんだ」

 生き残った兄弟も少なく、さらに蓮は自分に良くなついて平家討伐で功績を上げてくれた。だが、鎌倉を頂点とする武家社会を作り上げる上で、法王からの任官を受ける事は絶対に許してはならないのだ。
 源氏の頭領としての挟持と兄弟の情の板挟みに悩み、妻の前で弱音を吐く頼朝に対し、政子は優しく微笑みかけた。

「御館様は間違ってなどおられません。血筋を贔屓し、才能を蔑ろにしては平氏と同じ運命を辿ります。確かに蓮は優れた武将ですが、頭領である御館様のご指示に従えないのであれば、切り捨てるべき――――――御館様を慕い、命を賭けてくれる御家人達に示しが付きませぬ」

 血縁の情に負けそうになる頼朝を叱咤激励する政子であったが、その目には涙が滲み、今にも零れ落ちそうである。

「済まぬな、愚痴ばかりで・・・・・・」

 頼朝は表情を変えると、屋敷の前に集結しているであろう御家人たちに蓮の追討命令を出すために部屋を出て行った。
 それを見送った後、政子の表情が――――――否、姿が変化する。黒い髪は鮮やかな若葉の色へと変わり、その顔立ちも十代の娘の如く幼くなる。

「確か蓮は海斗殿に縁のある人間の娘と行動を共にしている筈・・・・・・御館様の為にも彼か未来を通じて蓮を助けてもらうべきなのかしら」

 頼朝への恋に落ち、神の力を自ら封じて人間界で暮らしている政子だが、今ほど封じてしまった神としての力を、そして神だった頃の仲間の助けを欲しいと思ったことは無い。

「でも・・・・・・助けを求めたら、未来は絶対に怒るだろうなぁ。『あんたは好きな男に夢中になりすぎる!』って」

 遠くから聞こえる頼朝の声に耳を傾けながら、政子は――――――『メグミ』という寿ぎの名を捨てた神の娘は静かに瞼を閉じた。



 失意の蓮が麟の許に帰ってきた時、京都はすっかり紅葉に色づき、冬の気配さえ漂わせ始めていた。嬉しげに蓮に抱きつく麟に対し、蓮は切羽詰まった声で告げる。

「麟、すまない。結局兄上を説得することは出来なかった。俺と一緒に・・・・・・吉野に逃げてくれないか?」

 吉野、の一言に麟は不思議そうに小首を傾げた。

「吉野?鞍馬じゃなくて?」

 以前蓮が鞍馬で育ち、修行をしていたと聞いた事がある。逃げるならそちらのほうが良いのでは、と聞き返した麟に、蓮は首を横に振った。

「鞍馬じゃすぐに足がつく。吉野なら少しは時間が稼げるだろうし、隠遁の地だから兄上の疑惑も少しは晴れると思うんだ」

「・・・・・・結局逃亡生活に逆戻り、か」

 蓮に聞こえぬよう小さく呟く。落人狩りの追跡に怯えながらの逃亡生活は今思い出しても辛い。だが、それでも麟は蓮と一緒にいたいと願った。

「・・・・・・蓮、一緒に行こう!」

 逃亡生活への不安を押し隠し、麟は明るい笑顔を蓮に見せた。



 蓮達一行は頼朝の追討軍が来る直前に屋敷を脱出、吉野山へと身を隠した。だが、それを知った吉野山の執行僧が追討軍にそのことを通報したのである。
 吉野山は瞬く間に蓮の首を狙う追討兵と、報奨金目当ての吉野山僧兵によって取り囲まれてしまった。

「御曹司、かなり近くまで僧兵たちが近づいております。ここが見つかるのも時間の問題かと」

 偵察から帰ってきた武蔵坊のその肩には、白く、冷たそうな欠片が付いてた。

「武蔵坊、もしかして雪が降ってきているの?」

 武蔵坊の肩に付いた雪を目ざとく見つけた麟が尋ねる。

「ええ。どうやら今年の初雪は例年より早いようです。ですが、雪に紛れれば吉野山から逃げることも可能。我々にとって恵の雪です!」

 嬉しげに告げる武蔵坊だったが、それとは対照的に麟の顔は俄に曇った。確かに男だけなら問題はないだろう。だが、麟がついて行ったら確実に足手まといになる。季節の良い夏場の逃避行でさえ死に物狂いだったのだ。冬山では確実に自分が足手まといになるだろう。それが原因で蓮が捕まってしまえば命が無い。

「・・・・・・ねぇ、蓮」

「どうした?」

 麟の沈んだ声に気がついた蓮が不安げに尋ねる。

「私をここに・・・・・・吉野に残して逃げて」

 その瞬間、蓮の眉が跳ね上がり、反射的に麟の肩を強く掴んだ。

「何を馬鹿なことを言っているんだ、麟!一緒に逃げようって言っただろう!」

 吉野に残ると言い出した麟を蓮は必死にかき口説く。だが、麟は蓮の言葉を遮り強く言い放った。

「あたしがいたんじゃ足手まといになるの、判るでしょ!あんた、死にたいの? 」

 今までにないきつい口調で麟は蓮に迫る。

「ううん、あんただけじゃない、武蔵坊や他の家臣たちだって・・・・・・捕まったらあんたと連座させられるのよ!」

 麟の強い言葉に蓮何も言い返せず黙りこくった。

「・・・・・・女のあたしだけなら殺されはしないと思う。ううん、むしろ行き先を引き出そうとするかもしれないから時間が稼げると思うの。だから・・・・・・」

 それ以上言葉が続かず、麟は目に涙を浮かべる。その涙を見た瞬間、蓮は部屋の隅にあった包を手に取り、麟に押し付けた。

「だったらこれを持っていけ!」

 蓮は逃走資金を全て麟に渡そうとするが、麟はそれさえも断る。

「このお金は・・・・・・盗まれたことにする。そうすれば追討軍も油断すると思うんだ。蓮達も逃走資金が無いから、そう遠くには逃げられないかも、って」

 麟はそう言うと、自ら蓮の唇に己の唇を重ねた。その柔らかく、暖かい感触に蓮の心臓は高鳴るが、同時に麟の強い覚悟も感じてしまう。

「・・・・・・絶対に、生き延びてね。生きていれば、また・・・・・・逢えるかもしれないじゃない」

 重ねた唇が離れると同時に、ぽろぽろと涙を零しながら麟は告げた。

「大好きだよ、蓮。今までも、これからも・・・・・・武蔵坊、蓮を・・・・・・護ってね!」

 麟は絶叫に近い声で武蔵坊に命じると、雪がちらつき始めた吉野山へと飛び出していった。

「麟!馬鹿、戻ってこい!リ――――――――ン!」

 蓮は飛び出していった麟を追いかけようとするが、それを武蔵坊が力づくで引き止める。

「離せ、武蔵坊!このままじゃ麟が!」

「麟殿のお気遣いを無駄になさるのですが、御曹司!」

「うっ・・・・・・」

 武蔵坊の指摘に、蓮の動きが止まる。

「ここは雪に紛れて逃げましょう。奥州にまで行けば・・・・・・藤原の頭領が話をつけてくださるかもしれません。我々のことも、そして・・・・・・捕虜となるであろう麟殿のことも」

 あまりにも非情で、あまりにも正しすぎるその言葉に、蓮はがっくりと膝をついた。



 夕方に降り始めた雪は日が暮れてからますます激しくなってゆく。蓮の捜索をしていた吉野山の執行僧兵達は夜の捜索を諦め、宿坊へと戻っていた。

「こりゃあ明日の捜索も難しいかな」

「ああ、報奨金は魅力だが、命あっての物種だ。無理をせずに後は源氏の侍達に任せようぜ」

 そんな会話をしながら白湯で身体を温めていたその時である。

「たのも――――――う!」

 甲高い、若い女――――――否、少女の声が宿坊に木霊した。

「おい、今女の声がしなかったか?」

「ま、まさか・・・・・・ここは女人禁制だぞ?いくら修行が厳しいからって空耳を聞くほど追い込まれているのか、お前は?」

 だが、次の瞬間、更に声が聞こえてきたのである。

「さっさと出てきやがれ、クソ坊主――――――っ!!源鏡音蓮の愛人がわざわざ来てやったんだぞ――――――!ありがたいと思いやがれ――――――っ!!」

 口汚くはあるが、明らかに少女の声である。僧兵たちは慌てて宿坊を飛び出した。すると白い直垂を身につけた、十四、五歳の男装の美少女が雪の中立ち尽くしているではないか。その清冽で中性的な美しさに、むしろ男色を好む僧兵たちは浮足立つが、僧兵たちの首領が喝を入れるとしん、と静まり返った。

「そこの娘!源鏡音蓮の愛人という話は本当か!」

「本当に決まってるだろ!でなければこんな雪の中、わざわざ捕まるような嘘を吐くなんて馬鹿な真似する訳ない!」

 雪のせいか、それとも恐怖の所為か麟の身体と声は震えている。だが、視線だけは僧兵達に負けじとまっすぐと僧兵たちを睨みつけていた。

「あたしは蓮と共に五日前に吉野山に来た!だけど衆徒蜂起の噂を聞いて、蓮はあたしだけは助けようと多くの金子を持たせてくれたんだ。だけどその金子は従者に奪い取られ、奴らはあたしをこの雪の中に捨てて・・・・・・」

 麟は小さな肩をいからせつつ、更に言葉を続ける。

「あたしを源氏側に差し出しても勿論報奨金は手に入る!だけど、あたしを山中に捨てていった雑色達もかなり金目の物を持っているぞ?追いかけなくてもいいのか?元々源鏡音蓮の従者だった男達、殺したって罪には問われないぞ!」

 金目の物―――――そう聞いて僧兵たちは気色ばむ。戒律の為に女を抱くことはできないが、金ならいくらあっても困らない。麟の言葉に煽られた僧兵たちが騒然とする中、首領は冷静に麟に尋ねる。

「その話は本当か?」

 疑わしそうに麟を見つめる僧兵の首領だったが、麟はやけに自信ありげに言い放った。

「嘘だったらこんな雪の中、敵方に捕まるような真似はしない!その金を持って何処かに逃げればいいだけだ!」

 本当は嘘で固めた言い訳だったが、雪の寒さで強張った麟の表情が真に迫っているように見えたらしい。僧兵の首領は重々しく口を開く。

「・・・・・・解った。お前の話を信じよう。取り敢えず宿坊の中へ入れ。本来女人禁制だが、この雪の中、やむを得まい」

 麟の言葉を信じると告げた首領の言葉に、麟は心のなかで安堵の溜息を吐いた。



 吉野山の宿坊で捕縛された麟は翌日京都にいた北条時政に引き渡され、鎌倉に送られた。京都でも有名な『瑞鳥三姉妹』の末妹であり、蓮と深い関係にあるということで、その扱いは極めて丁重なものだった。だが、麟の表情は暗く沈んだ、ままである。

「蓮・・・・・・絶対に生きていて」

 馬に乗せられたまま、泣き出したいのをこらえつつ、麟は蓮の無事を祈り続けた。



 蓮の愛人が吉野山で捕縛され、鎌倉に連行されてくると政子が聞いたのはつい三日前の事だった。そして今日がその娘が鎌倉入りする日であった。噂によると京都でも有名な白拍子で、頼朝はその娘に鶴ヶ岡八幡宮で舞を舞わせようとしているらしい。

「懐かしい匂いがする」

 自室で箏を奏でていた政子はふと微笑んだ。

「海斗殿の匂いだわ。それと妖かしとしてはまだ幼いものの匂い・・・・・・これは最近娶られた海斗殿の北の方のものかしら?それと未来の匂いも・・・・・・あの子は本当に優しい子だから義理の妹のことも心配なのね」

 陽光を跳ね返す髪の色はいつの間にか若葉の色に変わっている。大事な友人の大事な人――――――小さな捕虜の命が奪われぬようにするのは自分の役目かもしれない。
 『メグミ』と呼ばれた頃の姿から、地味な人間の姿に戻ると、政子は鶴ヶ岡八幡宮へ向かう準備を始めた。




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蓮の説得も虚しく、結局鎌倉幕府によって追われる身になってしまった二人です(T_T)しかも逃亡生活には辛すぎる雪まで・・・逃亡生活の大変さ、辛さを知っている麟は自ら同行を断ってしまいました。好きな相手を護るためとはいえ切ないですよね・・・(´・ω・`)

そして今回新たにグミちゃんが『北条政子』役で登場いたしましたヽ(=´▽`=)ノ本編では詳しく書けないかもしれませんが、元々未来や海斗などと同列の神(というか妖怪?)だったグミですが、頼朝に一目惚れし、神としての地位を捨てて人間界に降りてきてしまったという・・・(^_^;)まぁノリとしては『マスグミ』でお願い致します♪彼女は次回の話でかなり重要な役割&働きをしますのでそちらもお楽しみに(*^_^*)

次回更新は9/15,鶴ヶ岡八幡宮で麟が舞を舞うことになります。
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