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「短編小説」
鶴蔵てまえ味噌

鶴蔵てまえ味噌・其の拾・まつたけ蕎麦

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「ふぅ、助かった・・・・・・やっとやつらを巻けたぜ」

 秋風が吹き抜ける甲州街道、その並木の根本にへたり込みながら、鶴蔵は季節にそぐわない額の汗を拭った。

「全くよぉ、せっかく身延山に参拝したっていうのに、そこであんなろくでもない雲助に掴まるなんざぁ・・・・・・ご利益も何もあったもんじゃねぇ」

 切らした息を整えつつ、鶴蔵は愚痴をこぼす。実は鶴蔵、甲斐・甲府での興行を打ち上げた後に『せっかくここまで来たんだから』と仲間の反対を押し切り、一人身延山へ参拝しに行ったのである。
 だがその周辺は参拝客狙いの悪徳雲助がうろつく場所としても有名だった。案の定鶴蔵もしつこい雲助に掴まり大金をふんだくられた挙句、『明日も乗れ!』と脅されてしまったのである。
 さすがにこのままでは興行で得た収入を全部取られてしまいかねない。さすがに危機感を感じた鶴蔵は、悪徳雲助を振り切るため韮崎の旅籠を夜中に出発した。
 その必死さは凄まじく、途中台ケ原で旅籠から出立しようとしていた仲間達と遭遇したにも拘らず、仲間達に類が及んでもいけないので『雲助』と一言だけ言い捨て、その場を通り過ぎた程である。
 そんな追いかけっこをしているいる内にさすがに雲助達も諦めたのだろう。いつの間にか鶴蔵についてこなくなり、ようやく鶴蔵は木立の下に腰を下ろすことができたのである。

「それにしても腹が減ったな」

 確かもう少し歩けば松原の立場があるはずだ。そこなら何かしらあるだろうし、仲間を待つのも悪くない。鶴蔵は立ち上がり歩き出した。



 松原の立場に到着した鶴蔵は、早速信州名物の蕎麦を注文した。暫くするとかけそばが出されたが、その蕎麦が出された瞬間、鶴蔵は目を丸くする。

「おい、これって松茸じゃねぇか?ちっせぇけどよ」

 鶴蔵は恐る恐る店の主に尋ねる。

「へぇ。その通りで。何せ小さいですし、いつも出せるもんじゃないんで、お代は普通のかけそばと同じなんですけど・・・・・・実はここいら辺のお山、公方様の御留山なんですよ」

「え?」

 つまり将軍への献上品ではないか――――――さすがにそれは問題があるだろうと鶴蔵の顔は青ざめる。だが、主人はニコニコとしながら言葉を続けた。

「ですが、献上品にならない小さなものはあっしらが使っても良いことになっているんです。で、この時期はコロ――――――小さな松茸で出汁を取ってかけそばにするんですよ」

「なるほどな。まさか身延山のご利益がこんなところで出るた・・・・・・ありがてぇ」

 松茸の時期だけの贅沢品の上、献上品を取るついでに取ってきたものだからお代は普通のかけそばと同じで構わないという。
 鶴蔵は『ご利益、頂戴します』と手を合わせた後、松茸の出汁が出ている汁をすすった。すると松茸の香りが口いっぱいに広がり、ほんのりと甘い出汁の味が続けて感じられる。更に具として入れられている松茸を齧ると、独特のほろ苦さが芳香と共に喉の奥まで広がった。。

「うめぇな。しかも公方様への献上品は更にでかいんだろ?きっとうめぇんだろうなぁ」

「それが・・・・・・そうは思えないんですよね」

 主人が周囲に聞こえてはまずいとばかりに声を顰める。

「何せここからお江戸は遠いでしょ?腐らないように乾燥させて運ぶんで、公方様のお口に入るのは松茸の干物なんですよ。悔しくて悔しくて・・・・・・本当に美味しい松茸を食べていただきたいんですけどねぇ」

「てぇ言うと、この松茸蕎麦は公方様がお食べになる松茸よりも美味しいってことかい?」

「へぇ、その通りで」

「だったらもっと堪能しておかねぇとな・・・・・・もう一杯いただこうか」

「へぇ、まいどあり!」

 主人は笑顔で店の奥へ引っ込む。結局鶴蔵は仲間を待つ間、更にもう一杯、合計三杯の松茸蕎麦を食べることになるのだが、それでも食べ足りないとごねて匡蔵に叱られることになる。



UP DATE 2014.9.24 

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思わぬところでの身延山のご利益・まつたけ蕎麦です(*^_^*)現代では考えられない贅沢ですが、将軍家御留山麓ならではだったのでしょうね♪小さいものなら食してもOKというのも嬉しいところです。しかも自分達が食べるのではなく、お蕎麦の出汁にしちゃうなんて・・・どんだけ取れたんだろう(-_-)

しかも将軍家への献上品は『乾燥まつたけ』だったのに対し、こちらは生食(*´艸`*)その土地に脚を運べるがゆえの贅沢なんでしょうねぇ(*^_^*)もしかしたらちょっと遠くで取れる献上品の殆どはこんなかんじだったのかもしれません。
(手持ちの資料では『江戸の松茸は甲州、相州からでるが、乾燥して運ぶので良くない』的なことが書かれてました(´・ω・`)てか、相州=神奈川あたりで松茸が取れるって聞いたことが無いんですが(-_-;)昔は少しは取れたのかなぁ)

次回鶴蔵てまえ味噌は10/29、そろそろ冬を感じさせる料理を取り上げたいものです(*^_^*)
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