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「VOCALOID小説」
Confession~告白~

ボカロ小説・Confession~告白~1・穏やかな日常

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 冬を思わせる冷たい風が吹き抜ける晩秋のイースト・ビレッジ。普段は観光客で賑わう場所であるが、さすがに朝は清冽な静寂に包まれている。歩いているのは早朝に出勤するビジネスマンか新聞配りの少年くらいで、一日の内で一番穏やかな時間帯と行っても過言ではないだろう。
 だが、どんな静寂もいつかは破られる。ここイースト・ビレッジの『リトル・ジャパン』地区では、それは若い女の怒鳴り声であった。

「ほら、テト!起きなさいよ、もうすぐ7時よ!」

 目覚まし代わりのパンクロックより更に大音量を誇るメイコの怒鳴り声が、小さなアパートの一室を震わせる。普通の人間、いやボーカロイドならばその声量に驚き、慌てて飛び起きるのだろうが、ルームメイトのテトはのんびりとしたものだ。

「ん~、もうそんな時間かぁ」

 ずるずるとソファーに身体を起こしつつ、テトはいてて、とこめかみを押さえる。

「あ~。やっぱり今日も宿酔い~。昨日の酒は口当たりが良かったからなぁ」

 どうやらテトは酔っ払ったままソファーの上で眠りこけてしまったらしい。吐く息の匂いからすると、昨日の晩酌は間違いなく日本酒だろう。その独特の臭気に顔をしかめながらメイコはテトの鼻先に人差し指を突きつける。

「あたしもお酒は好きだから気持ちは解るけど・・・・・・あんたは飲み過ぎ!こんな日常がバレたらちグリニッチ・ビレッジの『管理棟』に押し込められるわよ」

 そもそもAI型ボーカロイドである二人が人間の居住地に部屋を借りて住んでいるのは特別な事情があるからだ。しかし、何らかの問題を起こせば『管理棟』――――――アメリカのボーカロイド研究施設に収容されることになっていた。それを指摘した瞬間、テトは更に顔をしかめ、首をブンブンと横に振る。

「うげっ、そういうたちの悪い冗談やめてくれないか。余計に気持ち悪くなる・・・・・・おえっ」

 頭を急に振ったせいか、それともメイコのたちの悪い冗談に酔ったのか、テトは真っ青な顔で口許を抑えた。

「だったら馬鹿みたいに呑まない事ね。一階に日本式の居酒屋がある物件なんてニューヨーク広しといえども数件しか無いんだから」

 日本からやってきた酒飲みの二人にとって、この環境は絶対に失いたくない。メイコはテトの傍若無人ぶりに釘を刺すと、コーヒーメーカーにブルーマウンテンをセットした。これはニューヨークでメイコを担当してくれているボカロPが譲ってくれたものだ。

「ブルマン貰ったついでにあんたの好きなブション ベーカリーのフランスパンを買ってきたけど、そんな様子じゃあまり食べれないわね・・・・・・いっそリリィ達も朝ごはんに誘おうか?」

 起きる素振りを見せつつも、なかなかソファーから立ち上がれないテトを見かね、メイコが向かいのアパートに住んでいる友人達を朝食に呼ぼうと提案する。

「うん、そうして。その間僕はもう少し寝かせてもらうから」

「あのねぇ、レッスンは10時からなのよ?3時間切っているじゃない!いい加減起きて喉を整えておきなさい!」

 メイコはテトに軽く拳骨を食らわすと、E.8thストリートに面した窓を開けた。道を挟んだ向かい側には、メイコ達同様『少々理由あり』ボカロ仲間のリリィとCUL、そしてリュウトが住んでいる。メイコはテトを起こした時よりもかなり小さな、穏やかな声で向かいのビルに声をかけた。

「ねぇ、リリィ。起きてる?」

 すると向かいの部屋の窓が開き、鮮やかなブロンドの髪をした美女が不満気な表情で現れた。

「起きてるよ。あんなでかい声で怒鳴られたらどんなボカロだって目覚めるってば・・・・・・ただしテト以外」

 リリィの最後の一言に、メイコは思わず苦笑いを浮かべてしまった。

「ごめんね。だってテトが起きなくってさ。それよりこっちに来て朝ごはん食べない?ブション ベーカリーのフランスパンがあるんだけど。それとももう食べちゃった?」

 メイコが放った『ブション ベーカリーのフランスパン』という一言を聞いた瞬間、今まで不満気だったリリィの表情が豹変し、目を輝かせ始める。

「行く行く!!実はまだ。ほら、リュウトが新聞売りのバイトに出ちゃっているからさ、それを待っているんだよね。お金なんてラボが全部出してくれるのに『人間の事をよく知りたいから』ってバイトなんかしちゃって・・・・・・おっ、噂をすれば!お帰り、リュウト!」

 リリィの嬉しそうな声にメイコの頬も思わず綻ぶ。

「ちょうどいいじゃない。じゃあ三人でこっちに来なさいよ。ところで卵はCALがスクランブルエッグであんたは半熟目玉焼き、リュウトは両面焼きで良いのよね?」

「さすがメイコ!完璧じゃん!じゃあ今からそっちに行くね」

 嬉しそうに親指を立てた後、リリィはバタン、と乱暴に窓を閉めた。アパートの外側からは何も見えないが、メイコの耳にはCALの腕を引っ張って階段を降りていくリリィとリュウトの足音までしっかり聞こえている。

(世界初の『ボカロ・アマチュア・ナイト』の予選が明後日に迫っているのに・・・・・・こんなに穏やかでいられるのって不思議よね)

 近づいてくる三人の足音を聞きながら、メイコは荒んでいた半年前のことを思い出していた。



 それはGW直前の、霧雨の降る夜の事だった。

「ねぇ、カイト。私達、そろそろ終わりにしない?」

 殺風景なホテルの一室で、情事に乱れた髪もそのままにメイコはカイトに語りかける。

「どうしたの、急に」

 そそくさとシャツを着ながらカイトが気の抜けた返事をする。だが、その視線はメイコではなく時計を見つめていた。
 大手事務所であるフクザワ・プロダクションに所属しているカイトはスケジュールに追われている。今日もこれからツアーの為、最終の飛行機に乗らねばならないのだ。
 そんな多忙なスケジュールの中、話があるから5分だけ時間をくれとカイトを呼び出したのはメイコだったが、『どうせ会うなら』とカイトはメイコをホテルに引きずり込んだのである。そして惰性のまま身体を重ね、今に至る。

「終わりに、っていうのもおかしいかもね。元々付き合っていないんだし・・・・・・同じ事務所の『初音ミク』と付き合っているんでしょ?あの子、セカンド?サード?ファースト・ミクはあなたのところのセカンド・カイトと付き合っているものね」

 カイトが所属しているフクザワ・プロダクションでは複数の同型ボーカロイドを所有しており、売り上げ順にそれぞれファースト、セカンド、サード――――――と順位付けられている。なおカイトはスペアを入れて4体、そしてミクに至ってはメイコが知っているだけで5体が活動していた。
 そのうちのどの『初音ミク』が目の前のカイトと付き合っているのか定かではないが、自分以外のボーカロイドと付き合っていることには変わりない。

「何だ。メイコもスポーツ紙、見たの?」

 視線をメイコに合わせないままカイトはとぼけようとするが、メイコはそれを許さなかった。

「見たの?じゃないでしょ!あんだけ大々的に報道されていれば嫌でも目に入ってくるわ」

 ベッドに座り込んだまま、メイコは更にカイトに迫る。

「元々私達は身体だけの関係なんだし、これが潮時なんじゃないの?いい加減やめようよ」

 ただ身体だけの関係だというのなら我慢できる。しかし恋人がいるのに未だメイコとの関係も続けようとするカイトのいい加減さがどうしても許せなかった。だが、そんな生真面目なメイコをからかうように、カイトはまじめに取り合おうとしてくれなかった。

「くくっ・・・・・・相変わらず真面目だな、君は。『身体だけ』っていうんならもっと割り切ればいいのに」

 着替えを終えたカイトはちらり、とメイコの方を見やりながら言葉を続ける。

「あれはプロモだよ。バナナイスは明日からツアーだし、うちのセカンド・ミクも今度の水曜日に新曲が出るんだ」

「だけど、あの写真は・・・・・・!」

 スポーツ紙に掲載されていた写真は腕を組み、仲良く顔を見合わせ笑っている二人が写っていた。あれが嘘だというのだろうか。メイコはカイトを問い詰めようとするが、それさえもカイトははぐらかす。

「ま、そのことはツアーが終わってから話そうよ。じゃ、そろそろ出ないと飛行機に間に合わなくなるから」

 メイコの言葉をぴしゃりと遮ると、カイトはまるで逃げるように部屋を後にした。たった一人残されたメイコは暫くの間カイトが去っていったドアを見つめていたが、ようやく何かを吹っ切ったのか小さく溜息を吐く。

「・・・・・・あんたのツアーが終わる頃、私は東京にはいないのに」

 メイコはベッドから立ち上がると、椅子に置いた自分のバッグから一枚のクリアファイルを手に取る。そのファイルに挟まれていたもの――――――それは所属事務所からの解雇通知書だった。



 レンタル・ボーカロイドであるメイコには特定のマスターがいない。ボーカロイドの籍としてはボカロ研究所所属ということになるのだろうか。依頼があればボカロ・ヴィレッジから出張するというタイプのAI型ボーカロイドなのだが、今回は珍しく3年間という長期レンタルされていた。
 というか、人間のタレントさえ雇えない小規模事務所によく行われるのだが、事務所を開設して3年目までは格安でレンタル出来るシステムがボカロ研究所にあるのだ。これはベンチャー企業の助成という側面もあるが、それ以上にボーカロイドをより世間に広めようとするボカロ研究所のプロモーションでもあった。
 だが、残念ながらヒットに恵まれなかった場合には事務所は閉鎖、レンタルしたボーカロイドも研究室へ返還という運びになる。
 メイコの場合もまさにそれで、事務所の閉鎖と共にメイコと、一緒にレンタルされていたミクオの二人が『解雇』という形を取ってボカロ・ヴィレッジに返されることになったのである。

「レンタル期間終了につき返却・・・・・・でいいのにさ。うちの社長ってば何もボカロまで人間扱いすることはないのに」

 事務所の社長兼ボカロPは紳士的で優しい男だった。だがその優しさは弱さと背中合わせのものであり、生き馬の目を抜く芸能界でやっていく事はできなかったのである。なまじ才能があっただけに惜しいと思うが、これが現実なのだ。

「でも・・・・・・枕営業はしなくても良くなるの、か。それはありがたいかな」

 勿論許されることではないが、少しでも仕事を増やそうと、メイコは研究所や事務所社長に内緒で枕営業をしていた。勿論それで仕事が100%取れるわけでは無かったが、少しでも仕事を回して貰えれば、と思ったのだ。
 だが、それをたまたま同じ番組に出演していたフクザワ・プロダクションのカイトに見つかってしまった。『内緒にしてやる代わりに』と今日までズルズルと身体だけの関係を続けてきたのである。だが、事務所を解雇されれば口止めの必要も無くなる。

「間違いだらけの芸能界ごっこはもう終わり。ラボに帰ってリセットしてもらって・・・・・・って、AIじゃ無理か」

 アプリ型ボーカロイドに比べて優れている点ばかり取り上げられるAI型だが、AI型にも幾つか欠点がある。その一つが『記憶の消去』だ。
 他のアンドロイド研究にも関わってくるAI型は、最低でも100年間記憶を消去することが許されていない。これは記憶の積み重ねが感情にどう影響するかという研究のためなのだが、辛い思い出ばかり積み重ねてしまったAI型にとっては地獄でも何でもない。噂の域を出ないが、精神崩壊により機能不全になったAI型ボーカロイドも10体ほどいるとメイコは聞いたことがある。

「ま、それなりに楽しかったからいいか。枕営業とカイトとの不本意な肉体関係くらいだもんね、消したい思い出なんて」

 ボカロ・ヴィレッジに戻り1ヶ月くらいかけてオーバーホールでもすればすっきりするだろう。メイコは解雇通知をバッグに仕舞いこむと、一糸まとわぬ姿のままシャワールームへと向かった。



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ボカロ小説新連載『Confession~告白~』久しぶりのカイメイ小説のような気がします(^_^;)
因みにこのタイトルはボカロ曲とは全く関係なく、TMネットワークの往年の名曲からタイトル及び内容をお借りしております。好きなんですよ、この曲の世界観が♡と言うか、高校当時はそれほどこの曲の良さが解らなかったのですが、大人になるに連れその良さが解ってきたというか何というか・・・まぁ、そんな感じです。

所謂遠距離恋愛の話になる予定なのですが、今現在の流れではその気配さえ無さそうな・・・この後の展開に期待してやってくださいませ(^_^;)
あと世界観は『réincarnation』と共通ですが、そちらをお読みいただかなくても全く問題ございません(^_^;)
(因みに今回登場しているのは福澤社長のところのサード・カイト。ファースト、セカンドは前の話で登場しております^^)

取り敢えず次回は10/6、解雇され、ボカロ・ヴィレッジに帰ったメイコにあるプロジェクトの参加が打診されます。
(そこでニューヨークにいる理由も判明すると・・・1話目だけじゃ何が何だかわからないと思います><)
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