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「紅柊(R-15~大人向け)」
乙未・秋冬の章

矢場女・其の壹~天保六年十月の堕落

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 初冬にも拘らず既に本格的な木枯らしが吹き抜ける中、南町奉行所同心・瀬田は下っ引も連れずに浅草寺奥山へと向かっていた。
 そこには矢場が多く営業しており、その一つに元・掏摸の久奈が務めている。先々月の折檻の後に瀬田は半ば強引に久奈を掏摸の一味から足抜けをさせ、矢場の仕事を斡旋したのだ。
 自分が世話をしたというのもあるが、元々は掏摸だった娘である。客の懐に手を伸ばしたりしていないか、やはり確かめておくべきだと考えたのだ。
 浅草寺奥山に到着すると、男達の下品な笑いと太鼓の音、そして『あた~り~』と声を張り上げる矢場女の美声が耳に飛び込んでくる。俗っぽい遊び場ならではの猥雑な雰囲気の中、瀬田はそこそこ大きい矢場への暖簾をかき分けた。

「よう、嘉介。邪魔するぜ」

 瀬田が矢場の中へ入った瞬間、同心そのものの姿に矢場女と戯れていた客達の顔が強張る。だが、瀬田はただニヤリと笑って彼らの後ろを通り過ぎた。

「安心しろ、今日は手入れじゃねぇ。姐さん達も仕事に励んでくれ」

 その言葉に安心したのか、再び矢場の空気が動き出す。九寸二分の矢を的に当てるだけの単純な遊戯だが、男達の目的はそれではない。
 弓引きを教える矢場女にわざと頬や身体を密着させたり、外れた矢を拾う矢場女の尻めがけて矢を放ったり――――――子供じみた、いかがわしい悪戯目当ての客が殆どだ。そして矢場の裏側では更に本格的な『遊び』が行われている筈である。表側に久奈の姿が見えないということは、多分『裏』で仕事をしているのだろう。

「旦那、ご無沙汰しておりやす。先々月は良い子を紹介していただきまして」

 瀬田が近づくと、店の一番奥で番頭らと采配をしていた嘉介が揉み手をしながら頭を下げてきた。

「実はそいつについて聞きてぇことがあるんだが・・・・・・ちょいと裏に行かねぇか?」

 その瞬間、嘉介の表情が硬くなる。

「へぇ、承知しやした。直吉、暫く頼んだよ」

 嘉介は番頭に後のことを任せると、瀬田を店の裏へと案内した。



 矢場の裏側は、表以上に淫靡な空気に包まれていた。粗末な枕屏風で区切られただけの座敷で矢場女が客を取っている。そして案の定その中には久奈もいた。二十代くらいの鳶職だろうか。彫物も鮮やかな背中もさらけ出し、久奈を組み敷いている。その姿をちらりと横目で見やりながら、瀬田は嘉介に語りかけた。

「先々月おめぇに預けた久奈ってぇ女だが、あれからの仕事ぶりはどうだい?元が元だけに変な手癖が出てねぇかちょいと心配だったんだが」

 その瞬間、今まで不安そうに眉を下げていた嘉介は満面の笑みを浮かべる。

「その節は旦那、本当にありがとうございやした。最初は手癖云々って話だったからどうなることかとハラハラしましたがね。どんな客にも嫌がらず相手をするし、愛想も良くって。お陰様で久奈目当ての客がここ最近増えているんですよ」

「客の懐がやられた、って話はねぇんだな?」

 瀬田は目を細めながら、更にしつこく問い質す。だが嘉介はヘラヘラと笑いながら『その心配はない』と太鼓判を押した。

「そもそもあの子の笑顔が見たいがために貢ぐ奴らが後を絶たねぇんですよ。こんなちんけな矢場に通う野郎の懐を狙うくらいなら、愛想笑いのひとつでもしておいたほうがよっぽど稼ぎになりますって」

 その様子からすると、この一、二ヶ月かなり売上げが伸びているのだろう。瀬田は安心したのか、ようやく表情を緩めた。

「なるほどな。ま、後でちょいと久奈の顔を拝んでいくわ。まだ手が離せねぇようだし」

 そう言いながら、瀬田は視線を久奈と彼女を組み敷いている鳶の青年へとやった。その動きからすると、男の方はもうじき果てるだろうと瀬田は踏む。

(しかし久奈の奴・・・・・・好きものの気が見え隠れしていたから男に溺れるんじゃないかと心配したが、どうやらそうでもないらしいな)

 男の気をさっさとやってしまおうと声を上げてはいたが、明らかに作り声だ。あんな声で喘がれても瀬田としては興ざめだと思うのだが、久奈を組み敷いている鳶の男にとってそれはどうでもいいらしい。己の欲望の赴くままに腰を蠢かし精をを放つと、二朱銀を置いてさっさとその場を立ち去っていってしまった。

「おい、久奈。こっちへおいで。瀬田の旦那がお呼びだ」

 着物の乱れを直す久奈に嘉介が声をかける。その声の方をのろのろと見た久奈は、瀬田の姿を確認して目を大きく見開く。

「瀬田の旦那・・・・・・!」

 まさか仕事を見られているとは思わなかったのだろう。耳まで真っ赤にして前を掻き合せた。だが、そんな久奈の恥じらいを男達は気にも留めない。

「お前のことを心配して様子を見に来てくれたんだ。ご挨拶をしておくれ」

 あまりにも無神経な嘉介の言葉に、久奈は顔を赤らめつつ小さく頷いた。



 矢場の裏口から出ると、瀬田は早速久奈に声をかける。

「悪い手癖は出てねぇようだな・・・・・・ところで矢場の仕事には慣れたか?」

 瀬田の何気ない問いかけだったが、その言葉を聞いた瞬間、久奈の表情は強張った。

「仕事には、慣れました。だけど・・・・・・」

 久奈は言いかけたが、顔を真赤にして言いよどむ。どう言っていいのか、そしてそれを口にするのは如何なものか躊躇っているようだ。それを察知した瀬田は久奈の耳朶に唇を寄せ、囁く。

「どんな野郎に抱かれても、感じねぇんだろ?」

 小さな、鋭い声で瀬田が指摘する。その指摘に久奈は思わず瀬田から身体を離し、その顔をまじまじと見つめた。

「な、何で・・・・・・!」

 確かに久奈は誰に抱かれても心地よさとか性的な興奮を感じることは無かった。否、瀬田からの折檻以外、というべきか――――――とにかく、ごく普通の情交では性的な快楽を得られないのである。だが、何故瀬田がそれを知っているのだろうか・・・・・・久奈は猫のような大きなつり目で瀬田をじっと睨む。

「声、さ。どんなに頑張ったって本気の喘ぎと作り声は区別が付く。ま、安心しな。あそこにゃ本気で感じてる女なんざいねぇんだし、万が一男に溺れるようになっちまったら仕事にならねぇ・・・・・・っておいっ!」

 久奈のその手には瀬田の煙草入れが握られていた。いつの間に――――――と瀬田が叱り飛ばそうとした瞬間、久奈の口から悲壮な願いが飛び出す。

「わっちの身体を試しておくれよ・・・・・・もう女として終わっちまったのか、それともまだ使い物になるのか・・・・・・このままじゃ切なくて」

 大きな目に涙を滲ませながら、久奈は瀬田にさらに迫る。

「あんたに抱かれればもしかしたら何か感じられうかもしれないんだ・・・・・・二度目は、後ろだったよね?」

 鬼気迫るその表情に、瀬田は呆れたように首を竦めた。

「そんなこと、まだ覚えていやがったのか。まったくどこまで貪欲なんだ・・・・・・」

 と、更に説教を加えようとした瀬田だったが、何を思ったのかふと表情を変える。そして煙草入れを握っている久奈の手首を掴むと、その小さな耳に囁いた。

「なら三日後まで待ってろ。その間に仕込みをしておく・・・・・・だが、どんな目に遭っても後悔するなよ。間違いなく泣き叫ぶことになるぜ」

 昏い愉悦が滲む瀬田の声に、久奈はどんな客に抱かれても感じることがなかった甘い痺れを、背筋に感じた。。



 三日後、瀬田は『久奈を丸一日借りる』と矢場の主人に二両という大金を握らせ、久奈を矢場の外に連れだした。

「何もあんな大金払わなくったって・・・・・・」

 久奈は不服そうな表情を浮かべるが、瀬田は久奈に背を向けたままぽつりと呟く。

「ありゃおめぇの二日分の借賃だ。下手したら明日、明後日と足腰立たなくなるかもしれねぇからな。勿論そのことは嘉介にも伝えてあるから安心しろ」

 そしてそのまま歩き続けるが、どうやら奉行所へ出向くわけではないらしい。

「どこに行くのさ」

「向島だ」

 そこは金持ちの寮が多い土地だ。もしかしたら隠れ家的な場所に連れて行かれるのかもしれない。久奈は膨らむ期待を抱えつつ瀬田の後ろをついて行く。
 そんな風に暫く歩き続けると、瀟洒な黒塀を持つ小さな家が現れた。その門を瀬田は遠慮無く潜る。そして久奈も一瞬躊躇したが、意を決して瀬田の後に続いた。

「お~い、素月園!邪魔するぜ」

 勝手知ったる家なのか、瀬田は雪駄と足袋を脱ぐとずかずかと家の奥へと入り込む。そして久奈が履物を脱ぐのを待たずに一番奥の部屋の襖を開け放った。

「ああ瀬田さん、いらっしゃいませ。もうそんな時間でしたか」

 そこには二十代後半と思われる、細身の男が座っていた。手には絵筆が握られており、周囲には描きかけの錦絵が散らばってるた。どうやら男は浮世絵師らしい。

「ちぃっと早く来すぎたか。まぁ、仕出しでも注文して昼飯を食うのも悪くねぇだろう。勿論俺のおごりだ」

 瀬田の提案に素月園と呼ばれた男は品の良い笑みを見せる。だが、その唇から出た言葉はかなり図々しい物だった。

「だったらお涼も早めに呼んでも構いませんか?何せあれに『仕事』をしてもらわないと午後はどうにもなりませんので」

「ああ、そうだったな。ならば昼はあいつが好きなすっぽん鍋にでもするか?」

 瀬田も素月園の提案を嫌がること無く、むしろ精のつきそうなものを注文しようとする。一体自分は何をされるのだろうか――――――男二人の話がどんどん進んでいく中、久奈はそれを不安そうに見つめることしか出来なかった。



 三軒隣の小料理屋にすっぽん鍋を注文してから暫くすると、一人の女が素月園の家にやってきた。着ているものは藍染めの万縞と決して派手ではないが、漂わせる色気は並ではない。

「お師匠様、急な呼び出し何でございましょう?」

 素月園に語りかけつつもその視線は久奈へと向いていた。まるで蛇が獲物を狙い定めるような、そして何とも言えぬ好色そうな目である。

「おいおい、お涼。始めるのは昼飯を食ってからだ。瀬田の旦那がすっぽん鍋を奢ってくださるから、後で腕によりをかけて『仕事』をしてくれよ」

「なるほど、そういうことでしたか」

 お涼と呼ばれた女は艶然と微笑み、瀬田と久奈を見つめた。

「瀬田の旦那、ご安心くださいませ。深川一と謳われた『仕込み屋お涼』、この娘をお好み通りに仕上げて差し上げますわ」

「え・・・・・だ、旦那!仕込み屋って・・・・・・」

 久奈は愕然として瀬田にすがるが、瀬田はニヤリと笑ったまま久奈に囁く。

「安心しろ。俺じゃあおめぇに怪我をさせちまう。だが仕込み屋のこいつに任せておけば変な傷を負うことはねぇ・・・・・・安心しろ、約束通り後ろの穴も俺が貰ってやるから」

 その言葉に久奈は縋ることしか出来なかった。



UP DATE 2014.10.1

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先々月登場いたしました瀬田&久奈のCPが早速再登場です(^_^;)
どうやら瀬田によって矢場の仕事を斡旋してもらった久奈のようですが、不感症に悩んでいるらしく・・・(-_-;)
瀬田との初めてがよっぽど刺激的すぎたのでしょうね。また、お仕事ということで本気になれないというのもあるのかもしれませんが・・・。
さすがに瀬田も2回も奉行所の取調室は使えませんし、かと言って八丁堀の自分の屋敷に連れ込むわけにも行かない、ということで知人の浮世絵師のところへ久奈を連れてきました。なお『仕込み屋』は私の造語になりますのでご了承を。

次回更新は10/8、とうとう本格的に久奈が嬲られます(*´艸`*)
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