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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第十一話 医者の娘・其の参

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 梅の花が盛りを迎え、気の早い彼岸桜がちらほらと咲き始めた京都にも、季節が取り残されてしまったような場所が幾つかある。藤堂の休息所もその一つで、休息所の主である藤堂は昼間から酒を飲み続け、小夜はそれを少し離れた場所でじっと見つめていた。

「・・・・・・あまり飲まはると、お身体に障りますえ?」

 さすがに医者の卵として見るに見かねたのか、小夜は遠慮がちに藤堂の飲み過ぎを窘めるが、藤堂は全く聞く耳を持たない。

「別に構うことはないさ。どうせ巡察にも幹部会にも出ることはないんだし・・・・・・いや、出れなくなった、って言うべきかな」

 藤堂は酒で充血した目で小夜を睨めつけると、ふらりと立ち上がる。そして千鳥足で小夜に近づくと、その細い手首を強く掴んだ。

「つっ・・・・・・」

 優しさの欠片もないその掴み方に、小夜は反射的に顔を顰める。だが藤堂は手を緩めるどころか更に手に力を込めつつ、小夜の耳元で囁いた。

「早く家に帰りたそうな顔をしているね・・・・・・だけど、まだ帰ることは許さないよ」

 唇は笑顔の形を作っていたが、その目は笑っていない。

「新選組分離の時まで伊東さんに寝返ったのはばれないように、って注意していたつもりだったのに、何故かバレていたんだよね。で、考えられることはただひとつ」

 藤堂は手にした盃を投げ捨てると、小夜を自分の胸の中に引きずり込む。

「・・・・・・・!!」

 思わず悲鳴を上げそうになるが辛うじて小夜はそれを抑えこんだ。以前小さな声で悲鳴を上げた時、思いっきり頬を殴られたからである。その強さに手加減など無く、小夜は本気で恐怖を感じた。それ以来藤堂に対して上辺だけは従順を装っている。

「君が俺の休息所に出入りするところを誰かに見られたに違いないんだ。身分が原因で総司と別れさせられた君が、他の幹部の休息所に出入りするなんておかしいものね」

 小夜が大人しく従っていることを良いことに、藤堂は小夜を強く抱きしめた。

「本当は試衛館派の事情をもっと探ってから分離を迎えたかったけど、それもできなくなった。せっかく伊東さんにいい手土産をと思っていたのになぁ・・・・・・ま、その代償は君に払ってもらうからね」

 理不尽な言いがかりを突きつけると、藤堂は強引に小夜の唇を貪リ始める。だが、小夜は一言も発すること無く、ひたすらにそれに耐えた。

(これは・・・・・・うちが犯した罪の代償。総司はんを裏切った報いや)

 涙を見せれば更にひどい目に合わされる。小夜が出来るのはただ無反応であり続けることだけだ。乱暴に小夜の着物をはだけにかかった藤堂にのしかかられながら、小夜は木偶人形のように耐え続けた。



 藤堂が小夜に優しかったのは最初の十日ほどだけだった。どうやら藤堂が小夜囲ったこと、そして藤堂の試衛館派への裏切りが露見してしまったらしく、そのことで小夜に当たり散らしたのである。さすがに藤堂が小夜をかき口説いている現場を沖田本人に目撃されていた事にまでは思い至らなかったが、それは致し方がないだろう。
 そしてその頃から藤堂は幹部会にも招集されず、巡察からも外され休息所待機を命じられた。すなわち事実上の謹慎である。さすがにこれは堪えたのか、その頃から藤堂は事ある毎に目の前にいる小夜に八つ当たりをし、一時的な帰宅さえ簡単には許さなくなったのだ。

「・・・・・・伊東さんが帰ってくるまでの辛抱だ」

 まるで自分に言い聞かせるように、藤堂は酒臭い息をまき散らす。

「伊東さんが九州の遊説から帰ってきたらこんな思いをしなくても済むんだ!」

 だがその叫びを肯定するものはこの場所には一人もいない。藤堂は苛立ちを小夜にぶつけるかのように、小夜の身体を蹂躙し始めた。



 小夜が藤堂から開放されたのはすっかり日が暮れた頃だった。これから伊東派の会合に出るらしく、紋付袴に身を包んだ藤堂は身なりを整えている小夜に言い放つ。

「わかっているよね?明日の昼までにはここに戻ってくること。でないと君の住んでいるかわた村に火をかけるよ!」

 まだ酔いが覚めていないのか、ろれつが回らぬ声で物騒な言葉を吐き出す藤堂に、小夜は視線を合さぬまま小さく頷いた。
 最初は逃亡を恐れてか、なかなかかわた村に返してくれなかった藤堂だった。しかし『沖田は許してくれた』との小夜の言葉に負けん気を起こしたのか、この頃は数日に一度だけ帰宅を許されるようになった。だが、その際に必ず村全体を人質に脅されるのである。

「・・・・・・やっぱり、総司はんとのことは夢、やったんやな」

 藤堂が出て行った後、小夜は思わず呟いてしまった。低い身分であるにも拘らず、自分を丁重に扱ってくれた総司はやはり稀有な存在だったのだ。
 その存在を失い、落ち込んでいた時だったとはいえ、役職や年齢など総司と共通点があった藤堂に惹かれたのは小夜の落ち度だった。総司と藤堂が同じだったのは外側から見える条件だけであり、中身は全く違かったのである。
 そうこうしている内に小夜はかわた村の入り口にある御霊神社に辿り着いた。そしてその茂みを無意識に提灯で照らしてしまう自分に思わず失笑する。

「総司はんと付き合うてた頃の癖が抜けきらん」

 まだ休息所を持たなかった頃、生け垣に結び文をしては互いの気持ちを伝え合っていた甘酸っぱい日々が蘇る。あれからまだ二年しか経っていないのに――――――その時である、道の向こうから誰かが小走りにやってきた。その顔を確認して、小夜は思わず叫ぶ。

「伸吉、真夜、由布!ただいま!」

 それは小夜の弟妹たちだった。それに気がついた小夜の顔に思わず笑みが浮かぶ。

「姉ちゃん、お帰り!そろそろ帰ってくる頃やと思うとった!」

 まだ幼い由布が小夜に飛びつく。その勢いの良さに思わずよろけるが、小夜は辛うじて受け止めた。

「ただいま。もう、三人ともお父ちゃんをほったらかしにして」

 小夜は小言を言いながら近づいてきた真夜の頭を撫でてやる。

「だってぇ、お姉ちゃんがいないと寂しいんやもん」

 真夜も甘えたように小夜に抱きつく。さすがに一番年長の伸吉は小夜に抱きついたりはしないが、それでも安堵の表情を浮かべる。

「真夜も由布も心配しているんや。沖田センセの処やったら休息所に覗きに行っても平気やったし」

 伸吉の言葉に小夜は苦笑した。確かに沖田のところでは妹達を休息所に上げたことがある。それは好奇心故に姉にこっそり付いていった妹達を小夜が追い返そうとした際、沖田が『この子達だけで帰宅させるのは問題だから』と心よく休息所に上げてくれたのだ。そして小夜が医学の勉強をしている間、子供好きの沖田が二人の妹達の面倒見ていたらしく、二人共沖田にはよく懐いていた。
 
「わては・・・・・・正直姉ちゃんの気持ちを奪った沖田センセが嫌いやった」

 すっかり声変わりをした、低い声で伸吉が呟く。

「せやけど・・・・・・藤堂とか言う男はもっと嫌いや!」

「伸吉!」

 妹達の手前もある。小夜は伸吉を嗜めたが、伸吉が黙ることはなかった。

「沖田センセは・・・・・・姉ちゃんをまるで武家のおなごみたいに・・・・・・対等に扱ってくれてたやん!用事があるときは無理に呼び出したりせぇへんかったし、真夜や由布にも読み書き教えてくれはったり」

 その声は段々低く、不機嫌になってゆく。

「せやけど、藤堂って野郎は自分の都合勝手で姉ちゃんを振り回しているとしか思えへん!かわたの行事があるときかて強引に呼び出したり・・・・・・ここ最近は無いけど、前は殴られたこと、あったな?」

 伸吉の問いかけに小夜は黙りこむ。その顔を妹達は心配そうに下から見上げた。

「少なくとも沖田センセは姉ちゃんに手を上げることは無かった・・・・・・脅されているんかもしれへんけど、逃げたってええんやからな?」

「それができたら苦労せぇへん」

 ぽつりと呟いた小夜の言葉に、今度は伸吉が言葉を失う。

「・・・・・・これはうちが受けなければならへん罰や。村には、迷惑はかけられへん」

 悲壮感さえ滲ませたその一言は、すっかり藍色に染まった星空へ消えていった。



 二月もようやく終わりを迎えようかという頃、伊東が九州から帰ってくるという知らせが屯所に届いた。

「いっそ旅先で野垂れ死んでくれればありがたかったのによ」

 物騒なその一言に、その場に居合わせた者達が苦笑いをする。

「ま、伊東さんは殺しても死にそうもねぇけどな」

 その時、玄関から沖田の声が聞こえてきた。巡察時間ではないのでもしかしたら何かの使いか私用からの帰りだろう。

「近藤先生、土方さん。ただいま功庵さんのところから帰りました」

 局長室に挨拶に来た沖田だったが、その顔色はあまり良いものではなかった。それに気がついた近藤が、渋い表情を浮かべる。

「お紗代さん・・・・・・あまり芳しくないのか?」

 まるで姪っ子を案じるかのような近藤のその問いかけに、沖田は黙って頷いた。



UP DATE 2014.10.4

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総司が色んな意味で地獄をのたうちまわっていた頃、小夜、そして藤堂もある意味地獄を見ておりました(´・ω・`)
小夜を我が物にしたことで『幕臣になる気はない→試衛館派への裏切り』が露呈した藤堂は事実上の謹慎状態、閉じ込められてしまった藤堂の不満の矛先は小夜に向けられてしまいます。
藤堂からのDVに遭っている小夜としてもできれば逃げ出したいのですが、藤堂にはかわた村の場所まで把握されているため追いかけられてしまう可能性がありますし、それ以上にかわた村全体へ被害が及びかねない・・・共同体で生きている当時の人間にとって、これは『死ね』というより辛いことかもしれません。
しかしあんなに総司のことを嫌っていた伸吉が総司の肩を持つなんて・・・頑張ったんだろうな、総司も色々と( ;∀;) ジーン

次回更新は10/11 、だいぶ病状が悪化している紗代、そしてできれば小夜のかわた村での様子も取り込めたらな~と思っております(*^_^*)
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