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「VOCALOID小説」
Confession~告白~

ボカロ小説・Confession~告白~2・旅立ち

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 一緒にレンタルされていたミクオと共にボーカロイド研究所へと戻っメイコは、オーバーホールをする為にそれぞれ担当者に連れられメンテナンス室に入った。

「お帰り、シリアルNo.0192。3年間ご苦労様」

 穏やかに語りかけるのは研究所の副局長で中枢神経担当部長でもある北堀だった。

「あれ?わざわざ北堀先生がオーバーホールを見てくれるんですか?」

 メイコは少し身構える。新人研究員の仕事であるオーバーホールを北堀ほどの人物が担当するということはまずありえない。もしあるとすれば、新人では手に負えないトラブルを抱えいると予め判っている場合だけだ。
 もしかしたら自分は何か大きな問題を抱えているのかとメイコは動揺するが、このメンテナンス室には北堀の他オーバーホールを手がけてくれそうな研究者はいなかった。

「・・・・・・君は色々とやらかしてくれたからね」

 北堀はまるで幼子を叱る父親の様な表情でメイコを睨む。

「仕事を取るために君がやった事・・・・・・研究所や事務所には隠したかったみたいだけど、こちらにも色々情報網はあるんだよ」

 湾曲的な物言いではあったが、それは明らかにメイコの枕営業を指摘している――――――北堀の言葉にメイコは赤面し、俯いた。

「・・・・・・すみません」

「謝ることはないよ。そもそもボーカロイドという生命体はどこまでも人間に尽くし、自分を犠牲にしてしまうところがある。先日の国際学会でもボーカロイドが犯罪に使われる前にこの『本能』をセーブしたほうがいいんじゃないか、って話が出たんだが・・・・・・だから悪いのは君じゃない。君の弱みに付け込んだ男達と、ボーカロイドの『本能』を放置し続けている研究者にある」

 そんな会話をしながら北堀はメイコのメモリースキャン結果をチェックしていく。そしてそれが終わる頃、北堀の眉間には深い皺が刻まれていた。

「どうしたんですか、北堀先生?」

「君のダメージだが、もしかしたらオーバーホールだけじゃ処理できないかもしれない。精神を司るメモリーへのダメージが大きすぎる」

 北堀は首を横に振りながらメイコの紅茶色の瞳をじっと見つめた。

「これは枕営業や事務所の倒産とかの、仕事関係のものだけじゃないね・・・・・・何があったのか詳しくは聞かないけど辛かっただろう、もっと早く気がついてやれなくて済まなかった」

 北堀はメイコの頭を撫でてやりながら労いの言葉をかける。その瞬間、メイコの瞳から大粒の涙がポロポロと流れ始めた。

「本来なら記憶の消去はしない方針だけど、ここまでひどいダメージを受けた君の場合例外が認められる。この3年間の記憶を消去するか・・・・・・それとも人間のように傷心旅行にでも行くか」

「傷心・・・・・・旅行?」

 北堀のらしからぬ言葉に、メイコは小首を傾げる。

「ああ。実はこの話も先日の国際学会で議題に上って、即日決定したことなんだけど・・・・・・日本からも1ボーカロイドを10人ほどN.Yに送り出すことになっている」

 そう言って北堀はメイコのデータを閉じ、代わりにある文面をモニターに出す。それを読んでメイコは目を丸くした。

「アマチュア・ナイトのボカロ版・・・・・・?」

「ああ。だいぶボカロも増えてきただろう?より優れたボカロを作り出すために世界中のボカロたちが出場できるコンテストを開催しようって話が出たんだ。で、主催してくれるアメリカに敬意を表して『ボカロ・アマチュア・ナイト』と冠した、ってところだね」

 北堀はモニターを指さしながら語り続ける。

「確かに君はヒット作には恵まれなかった。だけど君を使用したボカロP達の評判はずば抜けて良いんだ。だからもし君がこのコンテストに参加する気があるのなら、厳しいけどかなり凄腕のボカロPとタッグを組んでもらうつもりでいるんだが、どうかな?」

「凄腕の・・・・・・ボカロP?」

 メイコの目が輝き出す。確かに倒産した事務所の社長兼ボカロPも技術はあったが、『凄腕』とは言い難かった。もし自分がそんな人物に使ってもらえるならばどんな声が出せるのだろう、とメイコの期待は膨らんでゆく。

「ああ。元々は歌手だったんだが、今はアメリカでボカロPとして活躍している女性だ。名前を浅川ルカっていうんだが・・・・・・『巡音ルカ』のモデルだ」

「え、ルカのモデル?」

「ああ。優れた歌手だったんだけど、残念なことに咽頭癌で声を失ってね。ただ彼女の声を惜しむ音楽関係者は多かったんで、彼女の音源をかき集めて『巡音ルカ』の声を作り上げたんだ」

 にっこり笑うと北堀はメイコをボカロ・プールへと誘った。

「今すぐに返事はしなくていい。どっちにしろオーバーホールには丸々1ヶ月はかかるだろうからね。その間にゆっくり考えておいてくれ」

 そう告げると、北堀はボカロ・プールに横たわったメイコにコードを接続し、人口羊水を満たし始めた。



「・・・・・・ちっ、また留守電かよ」

 リハーサルを終え、メイコのスマホにコールをしたカイトは面白く無さそうに舌打ちする。

「事務所が倒産したからって一日二日で消えるか、普通?」

 メイコが所属する事務所が倒産し、所属していたボーカロイド達――――――と言ってもメイコとミクオの2体だけだが――――――が解雇されたのをカイトが知ったのは、たまたま見たネットニュースでのことだった。ページの右下に小さく取り上げられていただけだったので、多忙を極める普段だったらそこまで見なかっただろう。
 だが今はコンサートツアー真っ最中である。たまたまリハーサル準備が手間取り、普段なら絶対にありえない空き時間が出来たのだ。なので暇潰しにと珍しく芸能ニュースをだらだら見ていたら、偶然メイコが所属する事務所倒産のニュースを見つけたのである。
 さすがに慌ててメイコに連絡を取ろうと電話をかけたが、何度かけても留守電になってしまう。今回のコールで既に10回目だ。

「諦めろよ、カイト」

 さすがに見るに見かねたのか、ステージ用の衣装に着替え始めたがくぽが呆れたように声をかける。

「逃げられた女に執着するなんてお前らしくもない。いっそこの前リークされたミクと付き合ったらどうだ?」

 冗談とも本気とも付かないがくぽの言葉に、カイトは露骨に不満を露わにした。

「セカンド・ミクは俺にとって本当の妹みたいなやつだよ。それにミクは今回メイコと一緒に解雇されたクオのファンなんだよ――――――俺がメイコと繋がりがあるって知った途端にクオのサインを貰ってくれだのツナギを取ってくれだの煩くてさ」

 まったく俺を何だと思っているんだ、とブツブツ文句を言いながら、カイトはスマホをメイク台の上に置いた。

「ま、連絡が取れなかったら仕方ないや。俺もそろそろ着替えないとな。おい、レン!お前もいつまでもDSやってないで着替えろよ!」

 自分同様まだ着替えをしていないレンを促しつつ、カイトはステージ衣装に着替え始める。だが、どんなに意識しないようにと思っていても視線は未練がましくスマホへと向いてしまうのだ。

(こんな事だったら、この前会った時、もうちょっと真剣にあいつの話を聞いておけば良かったな)

 ほんの少しの後悔を胸に着替えを終えた頃、遠くからスタッフの足音が段々近づいてくるのに気がついた。ステージが始まるのはもうすぐだ。

(後ろ暗いところがあった分、あいつは俺との関係を口に出さなかったから都合が良かったんだけどな・・・・・・ま、そのうちどこかの事務所にレンタルされるか。でなきゃボカロ・ヴィレッジに待機しているだろうからそっちに行けばいいや)

 広いようで狭いボカロ界、その気になればまた会えるだろう――――――メイコにアメリカ行きの話が出ている事などまるで知らないカイトは、この時まだメイコとの関係を楽天的に考えていた。。



 最終的に一ヶ月半近くかけて慎重に行われたメイコのオーバーホールは無事終了した。ダメージを受けたメモリーはボーカロイドの基幹部にある為交換することは出来なかったが、それでも普段の生活に支障がない程度の修復はできている。

「メイ、調子はどう?」

 北堀有の研究開発用ボーカロイドであるルカがメイコに声をかけてきた。この二人は何故か昔から相性が良く、親友とも言える間柄だった。なのでオーバーホール中のメイコの相手や身の回りの世話は全てルカが行っていた。それだけにメイコも気を使うこと無くルカに返事をする。

「うん、とりあえず問題はない・・・・・・かな。オーバーホールよりもルカとお酒でも飲んだほうがすっきりすると思うんだけど。ね、今夜飲もうよ♪」

「・・・・・・そんな言葉が吐けるようになれば問題ないわね」

 ルカはメイコの額をぺちん、と叩きながらクスクスと笑った。

「オーバーホール前は酒の『さ』の字も出てこなかったのに・・・・・・失恋のダメージが大きかったのかなぁ、って心配したのよ」

「ちょっと待って。私、失恋なんてしてないし!あんた、もしかしたらフクザワ・プロのカイトとの関係を勘違いしてない?あいつとは身体だけの関係で・・・・・・」

「うわぁ、自覚してないんだ・・・・・・マスターが苦労したのも解るわぁ」

 意味深な含み笑いを浮かべながらルカはメイコに流し目をくれる。

「あんたのダメージね、あれって失恋特有の傷がかなりあったんだって。ま、自覚していないんなら私はこれ以上は何も言わないけど。そ・れ・よ・り!」

 ルカはまだ人口羊水に濡れたままのメイコに顔を近づけた。

「な、何?」

「アフターケアが終わったら我が家で酒盛り、しよう♪我が家の姉兄が昨日からおつまみを仕込んでいるの。メイの壮行会も兼ねて今日くらいは羽目をはずしちゃおうよ」

 普段はどちらかと言うと大人しく、羽目をはずすことなど滅多にないルカだが、やはり親友ともなると話が違ってくるのだろう。

「羽目外すのは賛成!でもあまりコンテストの実感が無いんだけどね。北堀先生が言っていたみたいに傷心旅行のつもりで楽しんでくるつもり」

 楽しんでくるつもり――――――何気なく言ったメイコの一言に、ルカの表情が一変した。

「メイ・・・・・・それができればいいんだけどね。アメリカでメイと組むボカロPの浅川ルカさん、ボカロ泣かせで有名だよ」

「え、そうなの?」

 あまりにも真剣なルカの表情にメイコは引きつり笑いを浮かべるが、ルカは更に脅しに近い言葉を吐き出した。

「うちのマスターが何て言ったか知らないけど、『傷心旅行』なんて甘い言葉、信じちゃダメだよ。元々すごく歌が上手い人だったから要求が厳しいの。調音の技術はS級だけど、それ以上のものを求められるわ。特にルカ型には厳しくって・・・・・・」

 どうやらルカは『浅川ルカ』本人に会ったことがあるらしい。恨み節に近い言葉が次々と出てくるルカを見て、メイコは急に不安を覚えた。

「あたし・・・・・・大丈夫かなぁ」

「ダメだったら日本に逃げ帰ってくればいいよ。ボカロ・ヴィレッジにも空室はあるんだし、研究所ももきっと許してくれるって」

「うん・・・・・そうする」

 人口羊水に濡れた髪をかきあげながら、メイコは深く頷いた。



 オーバーホール終了から2日後の早朝、メイコはアメリカに向かう為に成田空港にいた。他のボーカロイド達は既にアメリカでの調整を始めており、日本から参加するボーカロイドの残りはメイコだけである。

「クオ、わざわざ見送りになんて来なくても良かったのに」

 メイコがアメリカに出発すると聞きつけ、3年間同じ事務所で一緒に仕事をしていたミクオがわざわざ成田まで見送りに来たのである。既に新しい事務所で仕事を始めていただけにメイコにとってそれは驚きだった。だが、ミクオにとってはそれは特別なことでは無かったらしい。

「だってメイ姉、コンテストのファイナルまで行ったら半年は帰ってこれないんだろ?名誉なことだけどやっぱ寂しいじゃん・・・・・・それにしてもなんか変な感じだよな、今までの3年間はずっと一緒にいたっていうのに」

「確かにね。それより新しい事務所はどう?」

 姉が弟に尋ねるようにメイコはミクオに穏やかに尋ねる。

「うん。あの野郎がいること以外は最高だよ。社長の福澤さんは気さくな人だし、スタッフさんもボカロの扱いに慣れているし」

 メイコが枕営業のことを告げていたのは親友のルカと眼の前に要るミクオだけだった。メイコがミクオの為に貰ってきた仕事先で、メイコの枕営業のことを聞かされたミクオがメイコを問い詰めた為だ。その流れでメイコとカイトの関係も知っており、ミクオにとってそれが面白くないらしい。

「・・・・・・でもさぁ、あそこの事務所、競争厳しいじゃん。俺、やっていけるかな」

 確かに今まで二人が所属していた零細事務所はのんびりした雰囲気に満たされていた。結局それが仇となって倒産することになったのだが、その空気に慣れてしまったミクオにとって、新しい事務所の活気に不安を感じるらしい。そんな弟分を励ますように、メイコはミクオの肩をばん、と強く叩いた。

「大丈夫!もっと自分に自信を持ちなさい、クオ!アメリカから応援してあげるから!」

「それって逆じゃん。俺がメイ姉を日本から応援しなきゃならないのに」

 ミクオの言葉にメイコが笑う。そんな楽しげな二人の様子を遠くからじっと見つめる目があることに、別れを惜しんでいる二人は全く気が付かなかった。




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失意のうちにボカロ研究所に戻ったメイコを待ち受けていたもの、それは新たなるチャレンジでした(*^_^*)
ごくわずかのボカロだけしかいない時代ならいざ知らず、毎年多くのボカロたちがデビューするようになれば、より優れたボカロを発掘(または開発)しようとするコンテストが開催されても面白いんじゃないかな~と『ボカロ版アマチュア・ナイト』が創りだされたようです。
さすがに人間と一緒のコンテストだと色々問題が出てくるでしょう。ボカロならではの基準もあるでしょうし・・・今回のコンテストを参考に改善していく、って感じですかね。

傷心旅行も兼ねてコンテスト参加を決めたメイコですが、それを見つめる誰かがいるようで・・・果たしてこれは誰なんでしょう。因みにコンサートツアー中のカイトではありません(^_^;)
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