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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第十三話 新選組分離・其の壹

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 慶応三年三月十二日、京都遊説を終えた伊東甲子太郎は、新井忠雄と共に京都に帰ってきた。だが、既に分離を決めている西本願寺の屯所に伊東が向か気は微塵もない。京都入りした伊東は、伊東派の同士が待っている筈の脚で自らの休息所へとそのまま足を向ける。

「お帰りなさいませ、兄上」

 既に伊東の休息所で待っていた弟の三樹三郎が伊東を出迎えた。そして奥の部屋に入ると伊東派の者達が顔を揃えている。どの顔も伊東の帰りを歓迎していたが、そこはかとなく漂う暗い違和感に伊東は気がつく。

「ただいま。皆、留守を守ってくれてありがとう。ところで・・・・・・」

 暗い違和感に気づかない素振りをしつつ分離の件を尋ねようとした伊東に対し、篠原が言い難そうに口を開いた。

「御陵衛士の件は、伊東さんが九州へ出立した後に気味の悪いくらいあっさり了承されました。しかし・・・・・・」

「しかし?」

 嫌な予感を覚えつつ、伊東は眉をひそめる。

「分離するなら会津藩預りでは無くなるからと、二月からの給金の支払いは無くなっております。さらに各方面に金策や講じていますが、裏から手が回っているのか、どこも渋って・・・・・・」

「何・・・・・・だって!」

 篠原の報告に伊東の唇がわなわなと震える。

「更に伊東さんが帰郷したら休息所や屯所からも出て行くように言い渡されております。でも、新たな屯所も未だ見つけることが叶わず・・・・・・伊東さん、九州の遊説でのつてなり何なり当てはあるでしょうか」

 篠原は珍しく弱気な発言をする。伊東の留守中、試衛館側との交渉と共に新たな屯所探しや金策にも奔走していたのだろう。だがどちらも新選組が手を回していたのか、交渉は頓挫し八方塞がりとなってしまったようである。かと言って伊東にも当てがあるわけではない。

「・・・・・・とりあえず三条あたりを周旋してみよう。僕が遊説報告などで時間を稼ぐから、その間に手分けして三条にある寺院を片っ端から当たってみてくれ。僕も時間ができ次第知人に頼んでみる」

 これからの困難の予感に伊東は苦しげに呟き、こめかみを押さえた。



 翌十三日、九州から帰ってきたばかりの伊東から、近藤と土方に九州遊説の報告と分離についての話をしたいとの申し入れがあった。

「はぁ?んなもん報告書一枚で済ませりゃ良いじゃねぇか。既に篠原には承諾の件を伝えてあるから、分離してぇんならさっさと休息所から出て行きゃいいんだ」

 伊東からの伝言を伝えた茨木司に、土方はそっけない言葉を返す。

「し、しかし・・・・・・」

「俺と近藤さんはこれから墓所の交渉で壬生の光縁寺に行かなきゃならねぇんだ。話がしたいんなら壬生に来いと伝えておけ」

 そもそも試衛館派にとって伊東から報告を聞く必要も無いし、分離の話は既に留守中に伝えてある。それでも伊東が自分達に会いたいというのは時間稼ぎと見て間違いないだろう。
 しかも今日は光縁寺で墓所の最終交渉があり、八木から壬生狂言前夜の酒宴に近藤と二人招待されている。そちらのほうが伊東の時間稼ぎの報告より遥かに大事だ。

「ふん。新選組という銘があるだけありがたいと思いやがれ!」

 鼻紙さえ買えず、八木家や前畑家に間借りして活動をしていた自分達に比べたらかなり恵まれている。土方はふん、と鼻を鳴らし、そのまま壬生へと向かっていった。



 茨木から土方の伝言を聞いた伊東は、苛立ちを抑えつつ篠原と連れ立って八木邸へと出向いた。

「ご無沙汰しております、八木さん。そろそろ壬生狂言の時期ですか?皆が忙しく準備をしておりましたね」

 伊東を出迎えてくれた八木に、伊東は愛想よく挨拶をする。

「へぇ。明日からなんどす。今年も皆気合を入れて稽古をしてますえ」

 簡単な会話の後、八木は先に来ていた近藤と土方の許に伊東ら二人を案内した。そして挨拶もそこそこに伊東は本題に切り込む。

「既にこちらにおります篠原より話は伺っていると思いますが、御陵衛士の件、了承願えますでしょうか」

 すると、近藤が笑みを浮かべながら伊東の話に頷いた。

「勿論ですよ、伊東さん。会津藩預かりから離れ、朝廷にお仕えすることになるとのことですが、この国を守ろうとする志は同じと思っております」

 近藤はわざと会津藩預かりから外れること、すなわち給金を始めとする会津の庇護を一切受けられなくなることを強調する。それに気がついた伊東は微かに頬を引き攣らせる。

「え、ええ。そう言っていただけますとこちらとしてもありがたく・・・・・・」

「となると、明日から新たな屯所に移ることになりますな」

 土方の嫌味を含んだ言葉に、伊東と篠原の顔はあからさまに強張った。

(ふん、時間稼ぎのため俺達に面談を仕掛けたんだろうが、そうは行かねぇんだよ)

 土方は予め八木に頼んでおいた井関屋の酒を口に含むと、心のなかでほくそ笑む。案の定顔を強ばらせたまま、伊東はしどろもどろに口を開く。

「い、いや、まだ僕が九州から帰京したばかりで、分離の許可を頂いたのも昨日知ったばかり・・・・・・」

「善は急げと言うじゃありませんか!九州で遊説をなさった事ですし、伊東参謀に賛同するものがすぐに屯所なり運営資金なり提供してくれるでしょう!」

 伊東の言い訳を遮るように土方が声を張り上げ、盃を掲げた。

「御陵衛士の栄えある未来を!」

 その声に近藤も、そしてその場にいた、事情を知らない者達も盃を掲げる。その雰囲気の中、伊東達も渋々と盃を掲げざるを得なかった。



 翌日から伊東を始めとする御陵衛士の面々は三条の寺院を手当たり次第辺り、宿泊の交渉を求めた。だが、どの寺院も渋い顔をして首を縦に振らない。
 元々新選組を快く思っていない上に、その新選組からも分離したという集団を誰が信じるというのだろうか。結局この日は何の収穫もなく一日を無為に過ごすことになった。
 しかも新選組側からは伊東が帰京したのと同時に休息所から出て行けと言い渡されているのである。さすがにそのまま追い出される訳にはいかないと伊東は食い下がり、新たな宿泊所が見つかるまでという条件で伊東の休息所のみ居住を許された。今現在分離を決めた十三人が伊東の屯所に寝泊まりしている形になっている。

「おや、藤堂くんは?」

 京都町奉行の大久保主膳、そして会津公用方の野村左兵衛と相次いで面談したあと、休息所に帰ってきた伊東だが、その中に藤堂の姿がないことに気がついた。

「女と逢っているんでしょう。沖田さんの妾だった女を手に入れてからかなり執心みたいですよ」

 伊東の問いかけに答えたのは、刀の手入れをしていた斉藤だった。

「ああ、あのかわた医者の娘か」

 斉藤の返事を聞いた瞬間、伊東は汚らわしいものを口にするかのように眉をひそめる。

「あんな身分の娘のどこがいいんだろうね」

「さあ・・・・・・しかし、外科医としての腕はなかなかのものらしいですよ。松本法眼もその腕と頭の良さを見込んで医学書の写しを譲ったり、手当の指導もしていたようですが」

 何気なく口にした斉藤の言葉に、伊東はさらに厳しい表情を浮かべた。

「つまりそこそこ頭の良い女、という訳か。更にたちが悪いな・・・・・・藤堂くんから情報がもれるなんてことはないだろうね?もしかしたら沖田くんと別れさせたというのは諜報に使う為ということもありえるかも知れない」

 伊東の疑心暗鬼の言葉に斉藤は内心ヒヤリ、とするが、それでも表情を変えること無く話を続ける。

「それは考え過ぎでしょう。そもそもあの女のことを局長に密告したのは藤堂さん本人ですし・・・・・・沖田さんは女の身分をひた隠しにしていましたよ。それに藤堂さんは女にかなり脅しをかけて、女を萎縮させているようですから我々の機密が漏れることはないでしょう」

「そうか。ならいいんだけどね」

 それでも伊東はまだ疑っているようだ。

(うむ・・・・・・お小夜さんにはあまり動くなと伝えておいたほうがいいな)

 伊東が帰京する前日、斉藤は土方から小夜からも情報を受け取ってくれとの命令を受けていた。小夜は聡明な女ではあるが、新選組の為に、というより沖田の為に小夜は動いてしまいかねない。そうなれば女であっても容赦無いだろう。
 疑心暗鬼に囚われた伊東を見つめながら、斉藤は御霊神社の生け垣に結び文を付けておく算段を考え始めていた。



 十六日、前々から招待を受けていた伏見稲荷の祭礼に、近藤、土方、伊東の三人は同席することになった。

(やっこさん、だいぶ参っているようだな)

 疲労の色が色濃く滲んだ伊東の表情を確認しつつ、土方はしてやったりとほくそ笑む。斉藤からの情報では、未だ脈のある話の一つさえないらしい。

「ところで、伊東参謀。いつになったら御陵衛士の面々はいつ新しい屯所に移られるのですかねぇ」

 にやりと笑いながら土方が伊東に水を向ける。すると伊東は作り笑いを浮かべつつ、口を開く。

「土方くん、今暫く待ってもらえないだろうか。今交渉を続けているところなんだが・・・・・・・」

「そうやってずるずると休息所に居座るおつもりですか?いい加減下の者へ示しが付きませんのでね、五日以内には出て行ってもらいたい!」

 時間稼ぎとも取られる伊東の言葉を遮り、土方はピシャリと言い放った。



UP DATE 2014.10.18

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伊東参謀が京都に帰ってきて、いよいよ新選組分離に向かって動き出しました。しかし二月から給金の支払いもなし(多分食事の配給もなし)、それぞれの休息所からも出て行けと言われている分離組(^_^;)辛うじて伊東の交渉によって伊東の休息所だけは新たな屯所が見つかるまでとお目こぼしを貰っているようですが、これも歳によって『さっさと出て行け!』と迫られておりますwww
ただでさえ京都の庶民からあまり好かれていなかった新選組、しかも分離してとあっては『こいつら、そう言いながら何か思惑があるんじゃ?』と思われるのも致し方がありません(>_<)

次回更新は10/25、果たして新たな屯所は見つかるのでしょうか?次回をお楽しみくださいませ(*^_^*)
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