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「VOCALOID小説」
Confession~告白~

ボカロ小説・Confession~告白~4・エライジャ・クレイグ

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 レッスンや調整こそ厳しいものはあったが、基本的に穏やかなN.Yの日々もいつもでも続くわけではない。10月の第一火曜日、待ちに待った『ボカロ・アマチュア・ナイト』の予選が始まった。のである。
 その予選に出場する為、メイコ達日本ボーカロイド研究所の代表10人もそれぞれの担当ボカロPやマスター達と共に会場入りをした。

「それにしてもここまでよく集まったわね。ざっとみて1000人以上はいるんじゃないかしら」

 メイコの横にいる浅川ルカは周囲を見回して大仰に肩を竦める。機械音の呟きに、周囲は驚きを見せるが、ルカは慣れているのか気にした風もない。

「ところでルカ・・・・・・じゃない、浅川さん、この人数が一日で審査を受けるとなるとかなり時間がかかるんじゃないですか?」

 思わずプライベートでの呼び方が出そうになって、メイコは慌てて言い直す。堅苦しい呼び方は嫌いだと、ボカロであるメイコにさえファーストネームで呼ぶよう命じているルカだが、さすがに公の場所ではまずいだろう。メしかしルカは『いつも通りファーストネームでいいわよ』と笑った。

「私はあなたのマスターじゃないわ。それに一つの音楽を作り上げるスタッフとして私達は対等じゃない・・・・・・あ、それと審査時間は気にしなくて大丈夫。歌うのは16小節だけだから」

「じ、十六小節!1フレーズで実力を出せっていうんですか、コンテストの運営は!」

 幾ら人間に比べ安定しているとはいえ、ボーカロイドにだって調子の波はある。いくら何でも16小節で結果を出せというのは無謀だろう。だがルカは表情ひとつ変えずにメイコに事情を説明する。

「ええ、昨日大会本部から連絡があったの。個人参加がものすごく多くなっちゃったから、予選の方法を変更して1フレーズだけで審査することになったんですって。確かにこれだけ集まればねぇ・・・・・・予定では23カ国の各研究所から最大で10体ずつ、どんなに多くても230体だと思っていたんだけど」

 ルカ各国のボーカロイド達を見渡しながら苦笑いを浮かべる。

「優勝出来なくても準決勝のベスト8に残れば良い宣伝になるしね。参加費も要らないこの大会は野望を持つボカロPに取って魅力的なんでしょう・・・・・・さぁて、メイコ」

 ルカは不安げに周囲を見回しているメイコの肩に手を載せる。

「取り敢えず一時予選突破といきましょうか。大丈夫、私が突破させてあげるから」

 そもそも一次予選はボーカロイドそのものの審査よりもボカロPの技術を見る審査と言っていい。その点ルカはかなりの自信があるのだろう。

「はい!」

 自身に満ち溢れたルカの言葉に、メイコは極上の笑顔を見せた。



 メイコが予選に臨んでいた頃、カイトは事務所近くにあるバーで、無理やりエライジャ・クレイグを流し込んでいた。

「畜生・・・・・・メイコを何処に隠しやがった!」

 電話が繋がらないのは気になっていた。しかしツアーに加えTVやラジオの仕事も重なり、メイコのことばかりかまけていられなかったのが正直なところである。それでも他の事務所に移籍するか、ボカロ・ヴィレッジに帰っているかのどちらかだとばかり思っていたのだ。
 それ故にまさかボカロ・ヴィレッジにさえおらず、研究所に問い合わせても『あるプロジェクトに参加してもらっている』としか教えて貰えないというのはカイトの想定の範囲外だった。メイコ本人どころか研究所までカイトをメイコから遠ざけたがっているという事実に、カイトは打ちのめされる。

「俺は・・・・・・そこまで疎まれていたのか」

 確かに彼女の弱みに付け込んで身体の関係に持ち込んだ。そして罪悪感に苛まれるメイコの気持ちなどお構いなしにその関係をずるずると続けさせたのは自分である。

『都合のいい遊び相手の一人』

 確かにそう思っていた。だが、彼女の行方が知れず約半年、諦め、忘れるどころかその執着はますます激しく強いものになってゆく。

「どこにいるんだ、メイコ・・・・・・」

 自分はメイコに恋していたのだ――――――今になってようやく気づいたが既に遅い。あれだけのことをしていたのだから嫌われても仕方が無い。だが、せめて元気な姿だけでも知りたい――――――追加注文したエライジャ・クレイグを飲み干し、溜息を吐く。

「なんであいつは・・・・・・こんなまずいもんが好きだったんだろ」

 それはカイトが唯一知っているメイコの好物だった。カイトに物をねだることなど殆ど無かったメイコが、たった一度だけカイトにねだったのがこの店で出されたエライジャ・クレイグだった。 とは言っても様子をうかがうようにちらりとカイトの顔をのぞき込んだだけだったが――――――。
 確かに香りは良いが、喉を焼くアルコールとその後にやってくる微かな甘さ、どちらもカイトは好きではない。だが、今の自分にとってメイコと繋がれるものはこれしかないのだ。空のグラスを握りしめたまま、カイトは甘苦さの残る唇を噛み締めた。



 1000人以上のボーカロイド達の16小節のコンテスト・データは即日政府に借りたスーパーコンピュータで解析され、翌日には結果が発表された。その結果、何と日本チームからメイコとリリィが予選を突破したのである。およそ10倍、一つの国で1人突破すれば合格という倍率の中、日本チームから2人、しかも管理棟ではなく、街中野放し組からの予選突破ということで関係者の中ではちょっとした騒ぎになっていた。だが、当のメイコたちはそんなことはお構いなしである。

「予選通過、おめでとぉ~!!」

 リトル・ジャパンの借家では仲間たちがクラッカーを鳴らし、歓声が沸き上がる。

「みんな~ありがと~!!今日はとことん飲むわよ~!!」

 ソファーの上に仁王立ちになったメイコはエライジャ・クレイグの瓶を片手に一気に飲み始める。一方酒が苦手なリリィはオレンジジュースの一気飲みだ。

「ぷは~、うまいっ!日本じゃバカ高いけど、本場だとお手頃価格なのが嬉しいわぁ」

 瓶を一気に半分ほど空けたメイコは行儀悪く手の甲で唇を拭う。

「てか、それを日本で飲んでいたわけ?何処のバカだまくらかしてたかっていたのよ」

「な・い・しょ」

 更に瓶の口に唇を付けながら、メイコはテトに向かってウィンクをした。その仕草がまた『いい女』じみていてテトは面白く無い。

「あ~むかつく~!なにそれ!」

「リア充は黙ってなさいよ。ど~せ本命の男じゃないから!」

 ぷぅ、とむくれるテトの隣では、パートナーのテッドがテトを宥める。テッドは今回のコンテストに合わせて日本からわざわざ応援に駆けつけたのだが、残念ながら今回テトは予選落ちだった。その理由は前日の酒の飲み過ぎで喉を潰したためで、その件で担当のボカロPと喧嘩していたのは余談である。

(そういえばエライジャ・クレイグ、カイトに奢ってもらって知ったんだっけ)

 関係を持ってから時折、カイトは事務所近くにあるバーにメイコを連れていってくれた。芸能ネタを嗅ぎまわっている記者に見つかったらどうするつもりだと当時はハラハラしたものだったが、『事務所の目と鼻の先』というのが意外と盲点だったらしく二人が連れ立って店に入るところは誰にも見られた事は無い。
 そこの店で初めて飲んだエライジャ・クレイグの美味しさに、普段なら『余計な借りは作らない』をモットーにしていたメイコが、カイトにおかわりをねだってしまったのである。勿論後にも先にもメイコがカイトに何かをねだったのはそれだけだったが、メイコにとってある意味特別な酒でもある。

(・・・・・・やだなぁ。私、カイトの事を忘れるためにアメリカ行きを決めたのに)

 それどころかふとした瞬間に思い出すのはカイトの事だった。もし、普通に付き合っていたら今頃テトとテッドのような関係になれていたのだろうか・・・・・・そんな風に思った瞬間、メイコは首を横に振る。

(何考えているのよ!そもそも人の弱みにつけこんでくる奴なんて忘れるに限る!明日はレッスンも無いし、飲も飲も。うん、3本は行けるわね!)

 そしてメイコは瓶に残っていた分を飲み干すと、新たな瓶を手にとった。



 そしてこんな無謀な飲み方をすればボーカロイドだってただでは済まない。翌日、案の定メイコはひどい宿酔に苛まれていた。呻きながらベッドの上をのたうち回る姿はまるでセイウチのようである。

「お~い、メイコ。朝ご飯はどうする?」

 昨日テトの部屋に泊まったテッドが部屋の外からメイコに声をかけてきた。たぶんテトもメイコ同様宿酔で潰れているのだろう。

「ん~、確か洋梨かリンゴ、残っていいると思ったけど・・・・・・それにして」

 腹はあまり減っていないが、さっぱりしたものを口にしたい。メイコはドアの向こう側に居るであろうテッドに頼む。

「了解。そういえばメイコのスマホにメール、来てたみたいだぞ。さっき着信音が鳴っていた」

 テッドの言葉に、メイコは手探りで枕元にあったスマホを手に取ってモニターを確認する。

「あ、ミクちゃんからか・・・・・・あの子もクオとうまくやっているもんなぁ。未だ彼氏を見つけられないお姉ちゃんは寂しいよ」

 冗談半分に呟くとメイコはメールを開いて文面を見た。その瞬間、メイコは目を大きく見開く。

『めーちゃん、助けて!クオ君と付き合っていることがお兄ちゃんにバレて、【クオからメイコの連絡先を聞き出せ!】って脅されてるの!どうしよう、あの様子だと【既にめーちゃんのメアド知っている】なんて言ったら確実に殺される(T_T)』

 それはミクからのSOSだった。

「助けてと言われてもなぁ・・・・・・アメリカじゃ何もしてあげられないし。いや、そういうことじゃないんだろうな・・・・・・う~ん、ちょっと頭が働かないや」

 宿酔の頭で考えようとしても、うまく思考がまとまらない。そもそも何故カイトが自分のメアドを聞き出そうとしているのか理解に苦しむ。身体だけの関係だったのだから、新しい相手を見つけ出せばいいではないか、と粘土のように固まった脳みそで必死に考える。

「取り敢えず・・・・・・クオに任せろ、と返しておこう」

 下手したらカイトとミクオが流血沙汰の大げんかをしかねない暴挙だが、宿酔の頭で考えるのはそれが限界である。
 実の弟と言っても過言ではないミクオの安全など微塵も考慮しない返信をメイコが返したのは、その3分後であった。




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ようやく予選が始まりました・・・が、ここでタイトルを取って名前を売りだそうとする個人参加者が多いこと多いことwwなので急遽1フレーズだけの審査となりました。これはボカロのデジタルならではの安定感によるもので、人間相手だったらこんな暴挙は出来ません(^_^;)まぁ、書類審査の代わり、ってところですかね♪

そんな中メイコとリリィが無事一次予選突破いたしました♡日本チームから2人、しかも下宿組が予選突破というのは関係者の中でも予想できなかったようです。この後、予選突破した他の国のボカロたちも下宿を開始したとかしないとか( ̄ー ̄)ニヤリ

その一方カイトの方はグダグダです(^_^;)このカイト、珍しくお酒が呑めるようでして、たま~に1人でバーになんかも行ってたりします。今回のお店は特に『縄張り』のようでして、そこにメイコを連れていっていたのはやはり好きだったからなんでしょうね・・・(´・ω・`)

次回は日本でのちょっとした騒動&100人→8人に絞られる二次予選をお送りいたします(*^_^*)
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