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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第十四話 新選組分離・其の貳

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――――――五日以内には出て行ってもらいたい!

 土方の非情とも言える宣告に伊東は絶望に近い衝撃を覚えた。このままでは活動拠点も定まらないまま京都の街を彷徨うことになりかねない。
 否、下手をすれば志半ばのまま江戸に戻らざるを得なくなる可能性だってある。それだけは絶対に回避しなければならない。
 翌日から伊東派の宿泊所探しは更に切羽詰まったものになった。しかし今までそこそこの時間を掛けても見つけられなかったものがそう簡単に見つかる訳もない。
 三日三晩探しまわり、交渉を重ねた結果三条の城安寺が渋々ながら宿を提供してくれることになったが、それは屯所を見つけ出すまでという条件付きだった。

「どうしましょう、伊東さん。あまり長期間借りることはできなさそうですね」

 疲労困憊の伊東に対し、内海が声をかけたその時である。休息所の玄関から弾むような声で叫びながら誰かが飛び込んできたのである。

「伊東さん、やりました!五条の善立寺が屯所として使用してもいいとのことです!」

 それは阿部十郎の声だった。どうやら三条近辺では埒が明かないと、五条の方まで足を伸ばしていたらしい。だが、そのおかげで暫く活動拠点に関しては心配しなくても良くなりそうである。伊東は満面の笑みでその場にいた仲間達の顔を見回し、口を開く。

「そうだね。最終的に善立寺に屯所をお願いするとして、一泊だけは三条の方に宿をお願いしよう。あわよくば資金援助も願いたいところだし・・・・・・」

 むしろ城安寺に求めるのは資金の方だろう。伊東の言葉に暗に含まれた意味を汲み取り、同志達は無言のまま頷いた。



 八重桜咲き誇る慶応三年三月二十日、伊東を始めとする同志十五名は近藤に離脱の挨拶をした後、揃って屯所を後にする事になった。表向きの離脱理由は、泉涌寺塔頭・戒光寺の長老・堪然の仲介によって孝明天皇の御陵守護の任を拝命した事と、それに伴い薩摩藩や長州藩の動向を探るという事であった。しかしその理由が嘘に塗り固められたものである事は全ての隊士が知っている。黒紋付に身を固めた十五人が揃って屯所を出て行く姿を平隊士達は遠巻きに見つめていた。だが、それでは我慢できないものも中にはいる。

「伊東先生!」

 伊東らの離脱に耐え切れなくなった平隊士・富川十郎が伊東たちに駆け寄ってきた。

「伊東先生がいない新選組なんて耐えられません!ぜひ一緒に連れて行ってください!お願いします!」

 真摯な眼差しで伊東に縋りつく富川を、伊東は静かな、しかし強い口調で窘める。

「しっ、声が大きい。僕が去った後、君が幹部に睨まれたら僕はいたたまれない」

 伊東の忠告に富川は慌てて口をつぐむ。

「局長との話し合いでね、分離を許されたのは僕達だけで、以後隊士の移動は許されていないんだ。その代わり・・・・・・」

 伊東は富川の耳許に唇を近づけ、さらに声を顰めた。

「新選組内の動向を調べて僕らに教えて欲しいんだ。お願いできるだろうか?」

 伊東から新選組本隊の諜報を命じられたその瞬間、富川の目が輝き出す。

「お任せください。きっと伊東先生のお役に立ってみせます!」

 富川の純真な眼差しに伊東はただ微笑んだ。実際の処、五条・善立寺にいつまでいられるかも判らぬ状態で平隊士を引き連れてなどいけないのが実情である。
 その点は近藤や土方らを中心とする試衛館派が吹き込んでいるはずなのだが、目の前の平隊士は伊東派の困窮を嘘だと思い込んでいるらしい。

(少人数で追い出されるのは癪だが、今の僕達には下の者を養える力はない)

 悔しいがそれが現実である。五条に移ったら早めに資金調達をし、隊士募集をかけられるようにしなければ、と伊東は算段する。

(まだまだ先になりそうか。前途多難、だね)

 散り初めた八重桜の花びらが黒紋付の肩を彩る。背後にそびえ立つ西本願寺の威圧を感じつつ、伊東達はただひたすら前へ進み続けた。



 伊東甲子太郎を筆頭とする分離派は三木三郎、篠原泰之進、藤堂平助、服部武雄、毛内有之助、富山弥兵衛、阿部十郎、内海次郎、加納鷲雄、中西昇、橋本皆助、清原清、新井忠雄、斎藤一の計十五名である。西本願寺を後にした面々はそのまま三条・城安寺に赴くと早速分離祝いの宴の準備をし始めた。

「あの・・・・・・さ、酒も飲まはるんどすか?」

 寺に運び込まれた酒を見て、住職が露骨に嫌な顔をする。戒律を厳密に守っている住職としては戒律違反に当たる飲酒は我慢ならないものだった。『行く場所がないから』と困惑しているのを救けるためと思って渋々引き受けた宿泊だったが、既に引き受けるのではなかったと後悔している。しかもいつまで城安寺に滞在するのか未だ聞いていない――――――泣きそうな表情を住職が浮かべたその時である。

「すまん。明日にはここを出るから今夜は目を瞑っていてほしい」

 そう住職に語りかけたのは斉藤だった。

「でないと、余計に被害は広がる。ようやく新選組からの分離が叶って気が大きくなっているからな」

 大仰ではなく、むしろ感情など一切こもらぬ声で忠告する斉藤の言葉に、住職は恐ろしさを感じた。

「へ、へぇ・・・・・・お手柔らかに頼んます」

「明日からは五条の善立寺に厄介になることになっている。それまでの辛抱と思って耐えてくれ」

 そう言い残すと、斉藤は輪の中へ向かって歩き出した。

「あ、明日・・・・・・」

 斉藤の後ろ姿を見つめながら、住職はあからさまに安堵の表情を浮かべる。寺社奉行を通じて会津藩から『伊東甲子太郎一派を受け入れるな』とのお達しが来ていたにも拘らず、脅しに屈してしまったのは自分の落ち度だ。唯一の救いは一日だけでこの寺から立ち去ってくれるということだけだった。

「ほんま・・・・・・嵐が過ぎ去るのを黙って待つしかあらしまへんな」

 誰にも聞こえぬよう小さく呟くと、住職は弟子達に用事が終わったらすみやかに寺の庫裏へ避難するよう命じた。



 翌日、羽目を外した宴で散々飲み散らかした十五人は、城安寺から五条・善立寺へと移動した。閑静な佇まいの美しい寺院だが、やはり西本願寺と比べると小さく感じてしまうのは否めない。

「ここが暫くの間屯所になるけど・・・・・・やはり僕達以上の同志を迎え入れることは難しそうだね」

 与えられた部屋を見て伊東は不満げに唇を尖らせる。本隊に置いてきてしまった伊東信者の平隊士だけでも十人ほど、更に募集をかけるとして最低でも五十名弱が入ることが出来る広さが欲しいところだ。

「暫くの間は仕方ないでしょう。ここで腰を落ち着けて新たな屯所を探しましょう」

 善立寺の小ささに関しては同じことを思ったのか篠原が新たな屯所候補を探索しようと提案し、その言葉に仲間たちも賛同する。

「そうですよ、兄上。西本願寺で嫌味を言われながら屯所を探していたのではここが限度です。しかも副住職に聞いたところ、各寺に寺社奉行を通じて会津から圧力がかかっているようで・・・・・・それにも耐えられる場所を探さねばなりません」

 三木はちらりと阿部の方を見やりながら兄に訴えた。どうやらここを見つけ出してきた阿部はかなり強引な方法で話をつけたらしい。先程部屋を案内してくれた副住職が『会津の圧力からどれだけ耐えられるか判らない』と三木に語りかけ、阿部の強引なやり口もちくり、と告げたのだ
 酒が入っているときはともかく、素面であれば人当たりもよく、分析力もある三木である。何気ない副住職との世間話から状況を正しく把握したようである。

「なるほどね・・・・・・となると、街中にこだわってもいられない、ってところか」

 伊東は目を細めながら昼餉の準備をしている仲間達を見まわした。

「皆、昼餉が終わったら今後についての相談をしたい。だから昼の酒は控えてくれ」

 意外と大酒飲みが多い伊東派である。酒が入れば会議になどなりはしない。伊東はこれからの指針を本気で決めるからと全員にきっちりと釘を差した。



 昼餉が終わった後、十五人は膝を突き合わせ今後の対策について話し合いを始めた。やはり一番の問題は屯所、そして次に資金問題であろう。
 善立寺は四方八方から人が入り込みやすい上に町人からかなり親しまれている寺社らしい。少ないながらも途切れること無くやってくる参拝客の声は、伊東達に与えられた座敷にまで聞こえてきていた。つまり、これらの参拝客に混じって刺客が入り込みやすいとも言えるのだ。

「庶民に門戸を開いている分、どうしても護りは弱くなりますね。こればかりは致し方がないのでしょうが」

 服部武雄が腕組みしながら唸る。間借りをしているので文句が言える筋合いではないのだが、西本願寺の護りを知っているだけにどうしても善立寺の護りは手薄に感じてしまうのだ。

「そうですね。寺側は景色が良いからと気を使ってこの部屋をわれらに宛てがったのでしょうが・・・・・・この庭から刺客が飛び込んできたら元も子もない」

 新井忠雄も庭を見つめながら溜息を吐く。丁寧に手入れされた庭ではあるが人間が身を隠せる場所も少なくない。特に夜になれば闇に沈んで庭に刺客が潜んでいても全く見えなくなるだろう。行灯が灯っていたら狙ってくれと言わんばかりである。

「それは言えていますね。まるで八木さんのところの庭のようです・・・・・・芹沢局長が暗殺された時の」

 感情の欠片もなく呟いた斉藤の一言に、その場の空気が凍りついた。



UP DATE 2014.10.25

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どうやら期日ギリギリで仮住まいの宿を見つけ出したようです(^_^;)会津や新選組の手が回っていたのか、それとも新選組の良くないイメージが先行していたのか、この決まらなさ・・・参謀らしからぬ手際の悪さに、歳の高笑いが聞こえるようですww
そしてようやく長く滞在できそうな場所を見つけられたはいいけれど、刺客が入り込みやすいという・・・(-_-;)

次回更新は11/1、刀を抱えて眠るエピソードを取り上げることができればな~と思います(*^_^*)
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