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「VOCALOID小説」
Confession~告白~

ボカロ小説・Confession~告白~5・宿命の歌

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 一次予選の翌週、100名から一気に8名に絞られる二次予選が二日間かけて行われた。今回の二次予選では観客の前で一曲丸々歌うことが出来たが、問題はその曲目である。
 二次予選開催にあたり数曲の『課題曲』が提示されたのだが、その全てがソウル、ジャズ、カントリーなどアメリカ生まれのオールディーズだったのである。

「いわゆるホームタウンディシジョンってやつでしょ。今更カリカリしてもしょうがないわ」

 一週間前、その事を聞いて不機嫌を露わにしたメイコを窘めたのは浅川ルカだった。

「それに二次予選からは観客として一般審査員の地元の人達が入るしね。ある程度採点の効率も考えなきゃならないから馴染みのある曲がいいんでしょ。ま、その対策もしてあるから心配しないで。それより心配なのはね・・・・・」

 今まで穏やかだったルカの表情が険しいものに変わる。

「アメリカの研究所の動向がちょっときな臭くて・・・・・・ただでさえアプリ方の生産が中止されたのに、今回の予選でもアメリカ産の三種類の成績が思わしく無かったでしょ?」

 ルカの言葉にメイコも遠慮気味に頷く。メイコ自身はV3型だが、やはりV1型として『MEIKO・KAITO』と共に生産された『LEON・ROLA・MIRIAM』のアメリカ産V1ボーカロイドには特別な思いを抱いている。できることならAI型だけでも生産を続けて欲しいと願っているが、ルカの口調だとどうもそれさえも怪しいらしい。

「アメリカボーカロイド研究所内部でも、『AI型からも撤退したほうがいいんじゃないか』とか、『新たなボカロを作るべき』だとか意見が分かれていてね・・・・・・コンテストの結果次第ではその争いに巻き込まれる可能性もあるのよ。いっそ準々決勝で撤退しちゃおうか」

 まるで近所に買い物に行こうか、といった感じにメイコに聞いてくるルカに、メイコは呆れたように肩を竦めた。

「・・・・・・聞き用によっては『優勝する実力はあるけど、今回はやめておく』って聞こえるんですけど」

「あら、きちんと理解しているじゃない」

 あまりにも自信に満ちたルカの言葉にメイコは軽いめまいを覚える。

「その過剰なほどの自信、何処から来るんですか?」

「そうねぇ・・・・・・修羅場の場数、かな」

 脳天気に艶やかなウインクをするルカに、メイコはお手上げ状態だ。

(この人には誰も勝てないんだろうな。ま、私は撤退でも構わないけどね)

 そもそもアメリカに来たのは『傷心旅行』ついでなのだ。殆どその傷も癒えている今ならば、別にコンテストに勝ち続ける理由もない――――――そんな風に開き直った丁度その時、歌う順番がやってきた。係員がメイコの番号を呼びながら近づいてきて、手招きをする。

「さ、行きましょう。普段通りに歌えば問題ないんだから」

 特に気負った様子もないルカの言葉に、メイコは微笑みながら立ち上がった。



 修羅場の場数は確かに力になるのかもしれない。日本での芸能活動に加え半年に渡る厳しいレッスン、ルカの細やかな調音のお陰でメイコは二番目に良い成績で二次予選を突破した。日本製ボーカロイドにはかなり不利な条件だったにも拘らず、である。

「メイコ、先に帰っていて!私は次回の説明を聞かないといけないから」

 自信満々だったとはいえベスト8に、しかも成績だけであれば決勝にも進出できる優秀さで予選を突破したのはかなり嬉しかったのだろう。頬を紅潮させたルカはにこやかにメイコを送り出す。

「さすがに先週は飲み過ぎて怒られたしなぁ・・・・・・今回は大人しくワインにしておくか」

 カリフォルニア・ワインの美味しい銘柄が入っていると先週馴染みの酒屋の主人が教えてくれた。それを買いに行こうとメイコが会場を出ようとしたその時である。

「おい、人形!」

 ボーカロイドに対する侮蔑の言葉と同時にメイコの肩が強く掴まれた。

「きゃあ!ち、ちょっと何するのよ!」

 いくらボーカロイドに対してでも、やっていいことと悪いことがある。さすがに我慢ならないとメイコが振り返ると、そこには酒に2m近くもある大男が立ちはだかっていた。その顔の赤さ、そして吐く息からするとかなり泥酔しているらしい。

「予選を突破したからっていい気になってるんじゃねぇぞ、人形!日本の『MEIKO』がなんだって言うんだ!俺の【LEON】や【LORA】、【MIRIAM】のほうが遥かに優れているのに・・・・・・!!」

 その瞬間、メイコはその男に喉を掴まれ、片腕で高々と持ち上げられた。

「や、やめ・・・・・・て!」

 脚をばたつかせメイコは抵抗するが、男の手が緩む様子は無い。さすがに窒息することはないが、このままでは喉の発声器官が壊されてしまう。メイコは逃げ出そうと必死にもがくが、男の手には更に力を込められてゆく。その時である。

「やめて、パパ・ジョン!そんなことをしたって私達は嬉しくないし、ボカロ・アマチュア・ナイトで優勝できるわけじゃないわ!その手を離して!」

 若い女性の鋭い声がホールに響く。それはミリアム型のボーカロイドだった。そしてその声が響いた次の瞬間、何者かがメイコの首を掴んでいる男の手首を手刀で叩く。その衝撃でメイコの首を掴んでいた手が緩み、メイコはその場にどさり、と落ちてしまった。

「パパ・ジョン。あなたが俺たちを愛してくれるのは痛いほどよく解る。だからと言って他のボーカロイドに八つ当たりしても無意味だろ?」

 悲しげに呟いたのは男の手首を叩いたレオン型ボーカロイドだ。メイコを救けるためとはいえ『パパ』と呼ぶ存在に手を挙げてしまったことが苦痛なのだろう。

「レオン、ミリアム、パパ・ジョンを外に連れて行ってくれる?関係者には私から事情を話しておくから」

 そう言いながら崩れ落ちたメイコの肩に何者かがカシミヤのショールをかけてくれた。 見上げるとそれはローラ型のボーカロイドである。

「メイコ。あなたの保護者と運営が来るまであっちで少し休みましょう」

 まるで慈母のような微笑みを湛えながら、ローラはメイコを休憩ラウンジへと促す。その母親のような優しい誘いにメイコは黙って頷いた。



 騒ぎを聞きつけたルカはすぐさまメイコの元へやってきた。そしてメイコを助けてくれた三人に礼を言うと、早々にタクシーを呼ぶ。

「取り敢えずアッパー・イースト・サイドの私のマンションに行きましょう。研究所より近いし、ある程度の設備も整っている。あなたの喉に傷でも付いていたら大変だわ!」

 顔面蒼白のルカに対し、メイコは喉を抑えながらも笑顔を見せた。

「だ、大丈夫です・・・・・・ちょっと驚いたけど。それより私の喉を潰そうとしたあの人って・・・・・・」

「ジョン・マッケンジー。アメリカ製ボカロの制作責任者、ってところかしら。偶然性に頼ったところのある日本のボーカロイドとは違って、アメリカは最初から歌うためのAIの製造を目指していたから・・・・・・だから余計に日本のボーカロイドの成功が妬ましいのでしょう」

 そうこうしている内に二人はアッパー・イースト・サイドにあるルカのマンションに到着した。ただでさえ富裕層が多い地区であるが、その中でも特に目立つマンションの威風にメイコは目を丸くする。

「す、すごい・・・・・・」

「ほら、さっさと入る!あんたの喉に傷なんか出来ていた日にはコンテスト辞退どころか日本の本部から大目玉を食らうんだからね!」

 立ち竦むメイコの背中を押しながら、ルカは中へ入るように促した。



 最上階にあるルカの部屋に入ると、メイコは早速簡単なメディカルチェックを受ける。しかし特に目立った傷もなく、メイコは暫く休んだあとリトル・ジャパンのアパートに戻ることを許された。だが、その顔は沈んだままだ。

「ジョンに何を言われたか知らないけど、そんなに落ち込む必要はないわ。私達は私達のベストを尽くすだけ。彼らも同様でしょ」

「でも・・・・・・もし、アメリカのボカロが優勝できなかったらAI型も生産されなくなる可能性があるんでしょ?それってやっぱり嫌だなぁ。V1型からの仲間ってカイトの他はあの3タイプだけだし」

 明らかなメイコの戦意喪失に、ルカも同意してしまう。

「まぁ、ね・・・・・・既にコンテストに於けるおおまかなデータは既に取得できているし、ベスト8に入ったから日本からも文句は言われないでしょ。ところで一つ聞きたいことがあるんだけど?」

 不意にルカがしゃがみ込み、メイコの顔を覗き込んだ。

「な、何ですか?」

 反射的にメイコは身体を仰け反らせるが、ルカは更に顔を近づけてマシン・ボイスの最小音で尋ねる。

「あなた、何で今回のプロジェクトに参加しようとしたの?北堀さんからは『傷心旅行がてら面倒を見てやってくれ』って頼まれたんだけど」

 ルカの真顔に、メイコは頬を染めて視線を外した。

「あの・・・・・・あまり褒められた話じゃないんですけど」

 この様子では隠し通せそうもないと、メイコは日本での出来事を全て――――――枕営業からカイトとの関係、そして事務所が倒産したことまで――――――話し始めた。ルカはそれを黙って聞き続ける。

「・・・・・・という訳なんです。八方塞がりで、逃げるようにこっちに来てしまったんで、コンテストで優勝するなんて覚悟なんて全く無くて」

 最後は消え入りそうな声で本音を打ち明けたメイコに、ルカは深く頷いた。

「なるほど、ね。確かに弱小事務所の女性タレントが生きていくには芸能界は厳しすぎるから。ところで・・・・・・巧のところのカイトとは、本当に『身体だけの関係』だと思っているの?」

 ずばりと切り込んできたルカにメイコは怯む。

「え~と、あの・・・・・・それが自分でもよく判らなくて・・・・・・この半年、何かとカイトの事を思い出すのは確かですけど・・・・・・そ、それより!フクザワ・プロの社長を巧だなんて呼び捨てにして大丈夫なんですか?」

「別に構うことはないわ。あの馬鹿とは昔一悶着あってね」

 ルカはさらりと話しを流すと、メイコの顔を再び覗き込んだ。

「・・・・・・実は今のあなたにピッタリの曲があるの。ちょっと時間がかかるけど聞いてみる?」

「時間が・・・・・・かかる?」

 どういうことなのか訳が解らず、メイコは小首を傾げる。

「ええ、CDと違ってLP版だから頭出しが出来ないのよね。だけど音はそっちのほうがいいから・・・・・・どうする?30分位時間を貰うけど」

 わざわざそこまでしてルかが自分に聞かせたい曲とはどんなものなのだろうか。興味をそそられたメイコはルカの問いかけに反射的に頷いていた。



 レトロなJポップが流れる中、ルカが淹れてくれたコーヒーの香りが漂う。ルカがセットした古ぼけたLPのタイトルは『GORILLA』、90年台に人気が出たグループがまだ売れていない頃に出したアルバムらしい。既に四半世紀近くも前に出されたアルバムだから曲調はレトロ感が漂うし、歌詞も現代にはそぐわないものが多い。だが、何となく惹かれてしまうものをメイコは感じた。
 そうこうしている内に3曲が終わり、A面の4曲目に差し掛かる。

「この曲よ。よ~く聞いていてね『Confession~告白~』って曲なの」

 すると今までの曲調とは一変、心地良いバラードが流れ始めた。


――――――向かいのビルの窓辺に もたれたブロンドのレイディ 交差点見つめて
――――――道端で新聞抱えた プエルトリコの少年は ダイムを数える


 その瞬間メイコの脳裏に友人たちの姿が浮かぶ。そして海外を舞台にした歌は続いてゆく。遠く離れて暮らす愛しい人に対する恋の歌―――――男性視点の歌詞だが、その状況は今のメイコに酷似していた。
 いつしかメイコの目から涙が溢れ、止まらなくなる。そしてそのまま静かに曲は終わり、再びポップな曲が流れだした。

「・・・・・わせて」

 アルバムの5曲目が流れる中、震える声でメイコが呟く。

「ねぇ、歌わせて『Confession』・・・・・・お願いだから」

 今まで仕事でも遊びでも沢山の歌を歌ってきた。だが、ここまで心の底から歌いたいと願った曲に逢えたことは一度も無い。メイコは泣きじゃくりながらルカに縋る。そんなメイコを抱きしめながら、ルカはその耳許で囁いた。

「・・・・・・解ったわ。歌わせてあげる。ただし条件付きで」

「条件?」

 どんな条件を付けられるのかと、メイコは一瞬身構える。しかしルカが出した条件は至極まっとうなものだった。

「2週間後の決勝に絶対に進みなさい。この曲をあなた用にアレンジして打ち込むのに2週間はかかるわ。つまりどんなに早くても決勝に間に合うかどうか・・・・・・だけどあなたが歌いたいのならどんな手段を使っても決勝に間に合わせるから!」

「ありがとう、ルカ・・・・・・私、頑張る!」

 心の底から歌いたい歌を、華やかな舞台で歌うことができる――――――ボーカロイドとしてこれ以上ない幸せを噛み締め、メイコは微笑みを浮かべながら新たな涙を流した。




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準々決勝を前にして、メイコは今の自分の心情そのままの『宿命の歌』に出会ってしまいました。それはメイコのために作られたものでもありませんし、女性の歌でもない。四半世紀前に作られた、当時売れていなかったバンドのアルバムの中の一曲でしか無いのに、メイコはそれを歌いたいと心を、そして魂を奪われてしまったのです。

そしてそんなメイコのためにボカロP・浅川ルカは二週間かけてこの曲をメイコ用にアレンジすることになりました。何だかんだ言って担当のボカロには甘いのかもしれない・・・(ただしレッスンはかなり厳しいようですが^^;)
そして福澤社長のことを『巧』と下の名前で呼び捨てにするその態度のデカさwwwそのうち福澤社長と浅川ルカの関係も書くと思いますのでよろしくお願いします(*^_^*)

次回更新は11/3の予定なんですが・・・確実にめー誕に間に合わない(-_-;)
父親の容態にもよりますが、木曜日にも1,2回UPすることになるかも・・・なおpixivの方には11/5からUPしてゆく予定です(*^_^*)
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