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「短編小説」
鶴蔵てまえ味噌

鶴蔵てまえ味噌・其の拾壱・塩むすび

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 ゆらり、ゆらりと寝床が揺れ、耳障りな潮騒が安らかな眠りの邪魔をする。江戸から上方に出張っていた鶴蔵は、大阪の仲間と共に瀬戸内興行に出ていた。陸で演じては宿代わりの船に戻り、観光をしては船に戻りを繰り返して三日目、船は夜半に強くなってきた西風に煽られ船はかなり揺れている。

「うう、気持ち悪っ」

「もう船は勘弁や・・・・・・早う陸へ上がらせてぇ!」

 大阪の仲間達は次々に船酔いで倒れ、真っ青な顔で床に転がっているか、吐き気をもよおして船べりへしがみついているかのどちらかである。

「確かにこいつはたまんねぇよな」

 苦しむ仲間を見回して、鶴蔵はこめかみを押さえる。鶴蔵も軽い船酔いにはなっていたが仲間ほどひどくはなく、軽い頭重感を覚えているだけだ。この揺れではあまり眠れそうも無かったが、こればかりは仕方がない。眠れなかったとしても取り敢えず身体だけでも休めておこうと、鶴蔵は床に転がり瞼を閉じた。



 翌朝、次の興行先に向かうため船が動き出した。その動きと船乗りたちが唄う舟唄、そして米が炊ける芳しい香りに鶴蔵は目覚る。

「・・・・・・誰が飯を炊いているんだ?」

 船乗りたちは既に船を動かし始めているので朝餉は既に済ませているだろう。周囲を見渡せば船酔いで倒れている役者仲間ばかりだ。だが、ただ一人見当たらない者がいる。

「白蔵さんか・・・・・・どこに行ったんだ?昨日は全く船酔いしていないように見えたが」

 バタバタと船酔いで潰れる仲間の中、ただ一人平然としていた白蔵がこの場にいない。もしかしたら白蔵が飯を炊いているのかもしれないと鶴蔵は立ち上がり、転がっている仲間を蹴飛ばさないよう慎重に足を運びつつ甲板に上がった。

「よぉ、鶴!ずいぶんと早いなぁ!」

 甲板に上がってすぐのところにある簡単な炊事場、そこにいたのは先輩の白蔵だった。案の定米を炊いていたのはこの男だったらしく、船用のかまどの上にある羽釜の蓋を取るところである。

「白蔵さんこそ朝早いじゃないですか!船酔いは大丈夫なんですか?」

 炊きたての飯の香りに誘われるように、鶴蔵は白蔵の近くに寄ってゆく。

「ああ。わての実家は九州の漁師でな、わても玄界灘を何度も渡った事があるんや」

 そう言いながら白蔵はしゃもじで炊きあがったご飯を混ぜ始めた。香ばしく、甘い香りは鶴蔵の鼻をくすぐり、腹の虫が騒ぎ出す。

「もしかしたその飯、白蔵さんが炊いたんですか?」

「そうや。皆倒れてはるし、船乗りたちはもう朝飯を済ませた言うし・・・・・・・もし良かったら食うか?」

 白蔵の手に乗っていたもの、それは白米を握っただけの塩むすびだった。だが、船酔いの身体にはこれくらいのほうがちょうどいいのかもしれない。鶴蔵は握り飯を受け取ると、一口かじる。

「んんん!うめぇ!こいつぁ絶妙な塩加減ですね!」

 思わず叫んでしまうほど、その握り飯は美味だった。炊きたての飯に絶妙な塩加減、これほど美味い塩むすびを鶴蔵は食べたことがない。船酔いの体調不良も忘れ、鶴蔵は一口、また一口と食べ進める。その食べっぷりに握り飯を作った白蔵もニコニコと満面の笑みを浮かべる。

「おおきに。海水を使っただけなんやけどな。それにしてもうまそうに食べるなぁ、鶴は」

 そうこうしている内に、鶴蔵は握り飯をひとつぺろりと平らげてしまった。

「白蔵さん、もうひとつ貰っても大丈夫ですか?」

「おぅ、ええよ。みんなはまだ起きてけぇへんし・・・・・・それにしても鶴は頼もしいな!ほら、こいつはどうや!」

 そう言って握ってくれたのは、さっきより大きな塩むすびであった。どうやら鶴蔵の食べっぷりに普通の大きさでは足りないと判断したのだろう。そんな先輩が作ってくれた塩むすびに鶴蔵は夢中になってに食らいつく。その時である。

「おはようございます、白蔵兄さん・・・・・・って、鶴蔵!なに朝からバクバク食っているんだよ!こっちは船酔いで気持ち悪いっていうのにさ!」

 江戸から一緒に来ていた匡蔵が甲板に上がってくるなり、顔を顰めた。

「悪い悪い!しかしうめぇんだよ!匡蔵もどうだい、一つ?」

「あっちはやめておくよ。うう、気持ち悪い、こちとら水しか受け付けないってぇのに・・・・・・鶴蔵に付き合ってなんかいられないよ!」

 この匡蔵を筆頭に、次々と甲板に上がってくる仲間達に『食い過ぎだ!』と叱られる事になる鶴蔵だが、そんなことはお構いなしに船は静かに目的地へと進んでいった。



UP DATE 2014.10.29 

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一番シンプルだけど一番難しい料理、それが塩むすびかもしれません。
まずご飯が上手く炊けなければ話になりません。当時は炊飯器なんてありませんし、火加減も自分で調節(しかもかまど)しなければなりませんし・・・土鍋でごはんを炊くようになって気がついたのですが、日によって水加減、火加減は変わってくるんですよね~(-_-;)全く同じ水の分量でも硬くなってしまったり柔らかくなってしまったり・・・(^_^;)
そして握り方&塩加減!特に塩加減は『塩梅』という言葉があるほど重要ですし、偉人の逸話でも『美味しいものと同時にまずいもの=塩(加減一つで美味にも不味にもなる)』というのがあるくらいですから・・・。
そこを絶妙な加減で作り上げた白蔵はさすがです(*^_^*)なお、塩加減は海水だったとの事ですので、現代の私達には少ししょっぱかいかも・・・でも炊きたてご飯の塩むすび、一度は作ってもらって食べてみたいです(*^_^*)
(炊きたてご飯はおにぎりを作るには熱いんですよ・・・しかも塩加減も意外と難しい(-_-;)料理自慢の方は塩の種類にも凝ったりしているようです。やはり米&塩は奥が深い・・・)

次回予定は11/26、鶴蔵てまえ味噌最終回になります(*^_^*)
(来年の拍手文は明治の女髪結いの話になります^^)
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