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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第十五話 新選組分離・其の参

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 昼間見るならば手入れのされた美しい庭だが夜になれば一変、刺客の絶好の隠れ場所となってしまう善立寺の庭。その事実を斎藤一は冷ややかに、そして淡々と言ってのける。

「伊東さん達が来た時にはだいぶ刈り込まれていましたけど、芹沢局長の時の八木さんの所の庭はもっと鬱蒼としておりましてね。壬生の豪農と寺院の趣の違いはあれど、人ひとり隠れるのなんて造作もありませんよ」

 そんな斉藤の一言にその場にいた半分は顔色を青ざめさせ、もう半分は怒りに顔を真赤にした。

「おい、斉藤!縁起でもないことを言うんじゃない!」

 赤鬼のように顔を赤らめた富山弥兵衛が斉藤に食って掛かるが、斉藤は眉一つ動かさず庭を見つめる。

「俺は感じたままを述べただけだ。それと、何故局長が伊東さんにより過ごしやすい八木邸の部屋を譲ったか知っているか?」

 斉藤の問いかけに、富山は一瞬言葉に詰まる。

「そ、それはたまたま空いていたからだろう・・・・・・そ、それと前川邸に多くいた平隊士達と伊東さんを引き離すためじゃ・・・・・・」

「八木邸にも平隊士は世話になっていたし、出入りは自由だった。本気で平隊士達と引き離したかったら別の農家に間借りすることだって可能だった」

「思い返してみたら・・・・・・前川邸には他所者は入りにくかったよね」

 富山への助け舟か、口を挟んだのは藤堂だった。

「八木邸には新選組に用事がある者の他に、八木さんに用がある人たちも多く入り込んでいたよね。だけど前川邸には新選組隊士しかいなかったから、本当に新選組に用事があるものしか入り込むことは出来なかった」

「その通り。つまり使える広さや居心地の良さを犠牲にして守りを優先した――――――とも考えられる」

 斉藤の言葉に場がざわめく。確かに思い当たるフシがありすぎるのだ。それに気がついた途端、今まで愛でていた庭を皆気味悪そうに見つめ出した。それを確認しながら斉藤は内心ほくそ笑む。

(一か八かだったが・・・・・・ここまであっさり引っかかってくれるとは思わなかった)

 伊東達に八木邸の部屋を譲ったのは近藤の気遣いであろう。守り云々というのは口からの出任せだったが、住む場所さえなかなか見つけ出せず、疲弊しきった伊東派を揺さぶるには充分だった。

(正式な幕臣取り立ては六月だし、それまで西本願寺もいちいちこちらの動きを気にしてなどいないだろう。ま、三日はこの脅しで萎縮するな)

 そのうち新選組本隊とこの分離隊の衝突は起こるだろう。というよりこれは避けられない宿命というべきか。それまでに伊東派の力を内側から少しずつ削いでいかねばならない。心なしか青ざめて見える伊東の顔を盗み見ながら斉藤は心の中で誓った。



 斉藤がその光景を見たのはほんの偶然からだった。話し込んでいる内に深夜になってしまい、そのま全員が雑魚寝をしてしまった中、伊東は刀を抱えて眠り込んでいたのである。その姿はまるで怪談話に怯える子供さながらである。

(少し脅しが過ぎたか)

 多少の罪悪感は感じたものの、だからといって話してしまった話が帳消しになるわけではない。
 だが、あまりにも臆病すぎやしないか。たった十五人とはいえ、一派を率いる首魁がこれでやっていけるのだろうかと呆れたその瞬間、斉藤はふと芹沢のことを思い出した。

(確かにガラは悪くて会津にとっては都合の悪い男だったが、少なくとも集団を率いていく力は遥かに上だった。いや近藤局長以上かも知れないな。ある意味稀有な人物だった)

 当時の新選組も今の伊東派同様、否、それ以上に金に困っていたし、知名度だって全然なかった。そんな吹けば飛ぶような組織を、芹沢はおよそ半年でかなりの大きさまでに育て上げたのである。

(そもそもあの人は刀を抱えて寝るような無様な真似はしなかった)

 発見された時、芹沢は全裸で刀の鍔を握っていた。それは前日の雨の中、寝間着が雨に濡れて身体が重くなるのを嫌がったためだろうと当時の検死で推測されたが、その壮絶な光景はまざまざと思い出せる。
 だが、この臆病な男は芹沢と違い肌を露出することは愚か、下手したら後傷まで負うかもしれない。
 そんなことを取り留めもなく思いつつ、斉藤は厠に行くためにそっと部屋を後にした。



 分離をした直後こそ新選組本隊も一時的に騒然としたが、数日も経つとまるで何事も無かったかのように平穏な日々が続いていた。
 更に目の前からその存在が消えると影響力まで無くなっていくのか、伊東派に心酔していると思われた隊士達の半分以上が、まるで憑き物が落ちたかのように伊東へ関心を示さなくなっている。現在のところ注意すべき隊士は十人ほどだろうか。楽にはなったが、人の心の移ろいやすさに土方は少々呆れていた。

「人気歌舞伎役者さえ、ちっとばかし舞台を休めば江戸っ子に見向きもされなくなるようなご時世だもんな。『伊東先生』とやらに心酔していた平隊士達も役者がいなくなった途端に心変わりをしたってことか・・・・・・役者の追っかけをしている小娘じゃあるめぇし」

 土方は斉藤から届いた新たな書付に目を落としながら呟く。そこには日々新選組本隊の刺客に怯える伊東の様子が書かれていた。伊東がこちらを気にするほど自分達は気にしていないというのに・・・・・・。
 平隊士達からも存在を忘れ去られようとしている元・参謀に、土方は雀の涙よりもなお少ない同情を感じつつ、目の前にいる人物を怒鳴りつけた。

「むしろ平隊士たちの飽きっぽさ、おめぇにくれてやりてぇよ・・・・・・おい、総司!シャキッとしやがれ!」

 土方は副長室の片隅で壁に寄りかかっている弟分に喝を入れた。だが、沖田はちらりと視線を上げただけで動こうとはしない。

「全くよぉ・・・・・・おめぇの女運の無さには同情してやらなくもねぇが、いい加減諦めろ。どんなに神仏に祈ったってあそこまで病状が進んじまったらせいぜい半月が関の山だ」

 土方が沖田を伴い、功庵のところを訪ねたのは午前中の事だった。ようやく正式に決まった墓所のこと、そして紗代を『沖田氏縁者』として葬ることの最終確認のためだ。しかし、そこから帰宅するや否や副長室に転がり込んでふさぎ込んでしまったのである。

「まさかとは思うが・・・・・・」

 土方は沖田に近づき額に手を当てる。

「おめぇ、お紗代さんから労咳をうつされたりしちゃあいねぇだろうな?」

 今の沖田の姿は労咳の初期症状によく似ている。しかし、熱があるどころか沖田の額はむしろひんやりと冷たかった。むしろ土方の手の温もりが心地良いのか、沖田は土方の手を払いのけることもなく小さな声で呟く。

「労咳を、ですか・・・・・・むしろその方が諸々諦めが付くかもしれませんねぇ」

「総司、冗談にしちゃあたちが悪すぎるぞ!」

 土方は沖田の額をぺちん、と叩き叱り飛ばす。だが沖田は笑いもせず、昏さを滲ませた視線で土方をじっと見つめる。

「冗談じゃありませんよ・・・・・・自分はもっと強い男だと思っていたんですけどね。小夜と引き離され、お紗代さんに目の前で亡くなられる・・・・・・こんな別れが続くくらいなら、いっそ巡察中の事故か病で命を落とした方が楽ですよ」

 陰鬱な言葉を吐き出すと、沖田は自分の膝に顔を埋めた。平隊士の前や近藤の前ではまだ取り繕う気力はあるらしいが、一日か二日に一度、こうやって副長室にやってきては部屋の隅に蹲る。特に四月になってから沖田の調子は目に見えて悪くなっていた。

「・・・・・・でもね、土方さん。まだお紗代さんだから耐えられるんです。これが小夜だったらと思うと・・・・・・だって小夜だって父親の手伝いで患者の手当をしたりしているんですよ。怪我の手当ならともかく、病の患者なんて・・・・・・私の知らないところで病なんてうつされたりしていませんよね。いくら藤堂さんに囲われているからって言っても手伝いくらいには自宅へ帰るでしょうし・・・・・・」

 話が変な方へ転がり始めている。土方は沖田の思考の悪循環を断ち切ろうと沖田の肩に手を置き、軽く揺すりながら語りかけた。

「おい、総司おめぇ、やっぱりおかしいぞ?今日南部先生が病人の検診に来るからその時にでもに診てもらうか?それとも今度松本法眼が京都にやってきた時にでも・・・・・・いや、何なら大阪に出張に行った際にでも診てもらったほうがいいんじゃねぇか?」

 さすがに今の沖田の落ち込みぶりは尋常ではない――――――行商で薬を売り歩いていた土方の勘が警鐘を鳴らす。そんな土方の切羽詰まった気配を感じたのか、沖田はのろのろと自分の膝から面を上げた。

「やっぱり・・・・・・松本法眼に診ていただいたほうが良いんでしょうかね」

 すぐに診察してもらえる南部ではなく、いつ会うことが出来るか判らない松本の名を出したことに土方は微かに眉を顰めたが、すぐに思い直す。

(そうか・・・・・・法眼は小夜に目ぇかけてたもんな。ちょっとした思い出話でも、今の総司には必要なのかもしれない)

 となるとできるだけ早めのほうがいいが、六月には正式に幕臣に取り立てられるとの内示が会津から既にもたらされている。それを考えると早くてもその後、屯所の引っ越しを終えた頃になるだろう。それまで沖田の心身が保つかどうか甚だ心許ないが、頑張ってもらうしか無いだろう。

「総司。本当なら仕事を休ませて法眼がいる大阪に行かせてやりてぇが、現状が現状だ・・・・・・もう少し耐えてくれねぇか?」

 土方の懇願にも似た命令に、沖田は無表情のまま頷いた。



 伊東派が分離して十三人もの幹部が抜けた今、沖田一人さえ大阪へ行かせてやるような余裕は無かった。幹部一人ひとりの負担も増え、更に幕臣取り立てへの準備も重なっている状況の中、出来ることなら余計な仕事など増やしたくないのが本音だ。
 だが、そんな幹部たちの思惑を裏切るように事件は起こる。四月十五日早朝、けたたましい隊士の声で屯所の静寂は破られた。

「田中が・・・・・・田中寅三が脱走しました!書き置きが残されています!」

 書き置きを手に副長室に飛び込んだ平隊士は、息を切らせてたままその書き置きを土方の前に差し出した。




UP DATE 2014.11.1

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斉藤さん、悪ふざけが過ぎますwww
本人はちょっとした脅しだったのでしょうけど、やはり分離した後ろ暗さが伊東派にはあったのでしょうね。新選組本隊の影にビビりまくって、伊東に至っては刀を抱いて眠っていたりします(^_^;)むしろいざというとき刀を引き抜きにくいと思うんですけどねぇ(^_^;)

その一方新選組本隊は幕臣取り立て準備で忙しくなりつつあります。そしてその一方で紗代の病状も重くなっているようで・・・(´・ω・`)それに引きずられて沖田の調子もかなり悪くなっております。所謂『うつ病』系の労咳ですね。(当時は初期の症状が似ていたので一緒の病と思われていたっぽい)
さすがに心配している土方ですが、まだ局長その他に取り繕う元気はあるようで・・・(^_^;)

次回更新は11/8、田中寅三の屯所脱走&切腹になります♪
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