FC2ブログ

「VOCALOID小説」
Confession~告白~

ボカロ小説・Confession~告白~6・聞きたい声

 ←拍手お返事&THE BODY SHOPのビューティファイングオイル(^^♪ →烏のおぼえ書き~其の六十八・江戸時代の接待&わいろ
 幸福な余韻に浸ったまま、メイコは浅川ルカの高級マンションからリトル・ジャパンにある自宅へと戻った。既に時刻は夜八時近く、一階の居酒屋からは陽気な喧騒が微かに聞こえてくる。

「それにしてもいい曲よねぇ」

 テトとテッドが外に食事しに行っているのをこれ幸いに、メイコはダビングしてもらった曲を繰り返し聴き続けた。デジタル版からのダビングなので、ルカの自宅で聞いたLP版に比べたら確かに音の深みに欠ける。だが、今のメイコが求めるものは音質では無く、曲の世界観なのだ。
 遠くに暮らす愛しい人を想う優しいテナーに、何故かカイトの声の面影を感じてしまうのは郷愁なのか。半年前の自分だったら絶対に理解できなかったであろうこの歌を、今の自分なら誰よりも心を込めて歌うことが出来る。それによってボカロ・アマチュア・ナイトで勝利することが出来なくても構わない――――――そう思った瞬間、メイコはある事を思い出した。

「あ、そうだ。クオとミクちゃんにYouTubeの件、連絡しておかないと!」

 YouTube配信の件を連絡し忘れていたことに気がついたメイコは慌ててスマホを手に取る。きっと彼らなら忙しい合間に視聴してくれるだろう。そう思いメイコがアプリを開いたその時である。


――――――元気でいるか それが聞きたい


 甘く優しい歌声が、メイコの耳をくすぐった。相手を気遣うようなその優しい声が、何故かカイトが語りかけてくれているように聞こえてしまう。

「そう言えばカイトの現状・・・・・・誰も教えてくれない」

 やはりメイコの事を心配してくれているのだろう。だが、今のメイコは無性にカイトの様子が知りたかった。その気になればネットで簡単に調べることが出来るだろう。しかしそんな安易な方法ではなく、カイトに直接連絡が取りたかった。電話での一声、それが無理ならメールでの単語一つ、それが無性に恋しい。

「こんなことになるんだったら研究所とクオ達のメアドだけ残して全削除、なんてやるんじゃなかった・・・・・・ていうかLINEくらい残しておくべきだったかも」

 アメリカにやってくる際、里心が付くのも嫌だからとメイコは自分のスマホの電話番号とメアドを変えただけでなく、芸能界で培ってきた人脈のアドレスをクオを残して全削除してしまっていた。その後にミクのアドレスを追加したが、芸能関係のアドレスで手元に残っているのはそれだけである。あとはボカロ研究所とのホットラインくらいだ。

「ダメ元で・・・・・・クオ達に当たってみるか。あ、それとテトとテッドくんにも手伝ってもらおう」

 早々に予選を敗退したにも拘らず、未だメイコのルームメイトとして居座っているリア充同居人達に働いてもらうのも悪くない。メイコはミクオへのメールを打ちながら不敵な笑みを浮かべた。



 事務所での打ち合わせが終わり、これからスタジオへ向かおうとしていたミクオのスマホから『Chu♪Chu♪Chu♪』の着信音が鳴る。

「お、メイ姉からのメールだ。何だろうな、向こうからのメールなんて珍しい」

 ミクオはスマホを手に取りメイコからのメールを開いたその瞬間、隣から細い手がミクオのスマホを取り上げた。

「なになに・・・・・・きゃあ、すごい!めーちゃん、準決勝進出だって!しかも3位通過で!ほらほら、見てよ!」

 まるで自分のスマホの如く、メイコからのメールをミクオに見せつけながらミクがはしゃぐ。まるで我が子とのようにメイコの準決勝進出を喜ぶミクを、ミクオは渋い表情で睨みつけた。

「ったくよぉ。メイ姉もお前も人の気も知らねぇで・・・・・・ま、3位通過でベスト8はさすがだよな。このまま順当に行けば決勝もアリだろうし」

 メイコからミクに送られた『クオに任せろ』の返事によって、ミクオはミクをカイトから守らねばならない立場に追い込まれた。顔を合わせればつかみ合い、一度は殴り合いになりかけ周囲にいたスタッフに止められるという有り様だ。だが、その返事が宿酔の状態で適当に返された返事だとはミクオも知らなかった。

「おいミク、メイ姉に『厄介事を丸投げにしている分、優勝しねぇと帰ってきても日本に入国させねぇから!』って返事しておいてくれ」

「うん。あ、それとね準決勝の様子がYouTubeで流されるんだって。これだったらきっと報道でも流れるだろうし、お兄ちゃんに教えても大丈夫なんじゃない?めーちゃんだってそれくらいならきっと許して・・・・・!!」

 その瞬間、ミクの声が凍りついた。その声に気がついたミクオがミクの視線を辿ってゆく。するとその視線の先には怒りに近い表情を浮かべたカイトが立っていた。氷のような鋭ささえ覚えるその威圧感に、ミクは無意識に一歩、後退る。

「どういうことだ、ミク?クオと付き合っているだけならいざ知らず、まるでメイコと直接知り合いみたいな口調だな」

 凄みを利かせた声でカイトが二人に一歩近づいた。その瞬間、ミクオがミクを守るようにカイトの前に立ちはだかる。

「やめろよ、カイト!ミクを責めたってどうなるもんじゃねぇだろ!いい加減メイ姉に捨てられたって自覚しろ・・・・・・ぐっ!」

 メイコに捨てられた――――――その言葉がミクオの口から飛び出した瞬間、カイトの鋭い拳がミクオの腹を抉った。その鋭い拳にミクオは踏ん張ることさえ出来ず、背後に吹き飛ばされる。

「クオ君!ちょっとお兄ちゃん!なんて事をするのよ!」

 慌ててミクオにミクが駆け寄り、騒ぎを聞きつけたスタッフが部屋から飛び出してきた。だが漂わせている剣呑な雰囲気の為か誰もカイトに近づくことは出来ず、遠巻きに見つめているだけだ。

「クオ・・・・・・顔を殴らなかったのをありがたいと思え!」

 怒りに震えた声で言い残すとカイトは踵を返し、その場を後にした。



 どんなに腹が立とうが乗り気で無かろうが、プロとしてやらなければならない仕事がある。それを事務的にこなした後、カイトはミクオとのトラブルを知って気を使ってくれたスタッフの誘いを断り、一人いつものバーにやってきた。
 そこでエライジャ・クレイグを勢いに任せて3杯飲み干したところまでは記憶に残っている。だが、その後の事は全く覚えておらず、気がついたら上半身裸のまま自宅のベッドに倒れこんでいた。

「ベスト8・・・・・・か」

 ボーカロイドのコンテストがアメリカで開催されているというのは業界内でも話題になっている。しかしそこにメイコが参戦して、しかもベスト8に残っていたとは夢にも思わなかった。しかもミク達の話によると準決勝からYouTubeで配信されるらしい。

「それを知ることが出来ただけでも御の字、なのかな」

 メイコに捨てられた――――――認めたくない事実を突きつけてきたミクオの言葉が、カイトの心の一番弱い部分を抉り続ける。

「俺、本当に・・・・・・メイコに惚れていたんだな」

 別れを切り出されたあの日、真剣にメイコの話を聞いていれば、もしかしたら違う未来が待っていたかもしれない。だが、臆病な自分はそこから逃げ出してしまい、最悪の結果を招いてしまったのだ。自業自得と言ってしまえばそれまでだが、あまりにも苦しすぎる。

「もう一度・・・・・・逢いたいよ、メイコ」

 涙に湿った声でカイトが愛しい人の名を呟いたその時、不意に無機質なメール着信音が部屋に響いた。時間は既に明け方の5時、徹夜で飲み明かしている仲間だろうか――――――ちっ、と舌打ちをしてカイトはサイドテーブルに放り投げてあったスマホの画面を見る。

「!!」

 そのタイトルを見た瞬間、カイトは驚きのあまり息を呑んだ。


【お久しぶりです メイコです】


 初めて見るメアドから送られてきた着信には、『メイコ』という名義が使われている。だが、もしかしたら他の『メイコ』からの間違いメールかもしれないし、誰かの悪戯かも知れない。万が一、アメリカにいるメイコからだとしても、カイトが望む内容とは限らないではないか。カイトは心を鎮め、メール本文を開く。

「こ、これは・・・・・・!」

 それはアメリカのメイコからのメールだった。しかもその内容はカイトの望んでいたもの、否、それ以上のものだったのである。

『今、アメリカにいます。ごめんね、何も連絡しないで。今日、担当のボカロPさんから素敵な曲を聞いて、やっとあなたに連絡を取る勇気を持つことが出来ました。尤もクオ以外の芸能関係者のメアドは米国に来る際に破棄しちゃったから、カイトのメアドを知るのに時間がかかっちゃったけど・・・何故か、クオもミクちゃんも怒っていて、カイトのメアド、教えてくれなかったんだよね』

 どうやらメイコは手当たり次第のツテを駆使してカイトのメアドを探しだしてくれたらしい。文章は更に続いている。カイトはスクロールをして続きを読む。

『元気でいますか?やっぱり過去の事がある所為か、みんな私に気を使ってカイトの様子を教えてくれないの。因みに私はボカロ・アマチュア・ナイトでベスト8に入ることが出来ました。YouTubeでも配信されるので、もし良かったら見てください』

 不器用な言い回しの文章の最後に、電話番号が記載されていた。それを見た瞬間、カイトは迷わずその電話番号に電話をかける。するとすぐに回線がつながり、向こうから一番聞きたかった声が聞こえてきた。

『カイ・・・・・・ト?』

 少し尻上がりのアルトは、間違いなくメイコのものである。

「メイコ!本当にメイコなんだな!」

『うん・・・・・・ごめんね、そっちまだ明け方だよね。メール出してから気がついて』

 メイコは電話の向こうから詫びるが、カイトは蕩けそうな笑みを浮かべたまま気にするなと告げた。

「いつも仲間と飲んでいるとこの時間になることも少なくないし・・・・・・ところでメイコは、元気にやっているのか?」

『お陰様でね。今、リトル・ジャパンの居酒屋の上に他のボカロたちと一緒に住んでいてね。合宿みたいにワイワイやっているわ』

「居酒屋の上って・・・・・・場所がちょっと気になるところだけど。それよりベスト8,おめでとう」

 カイトの祝福の言葉に、受話器の向こうからはにかんだ雰囲気が伝わってくる。

『ありがとう。でもね、本当の目標は決勝だから。準決勝は今回より良い成績で通過するつもり』

 その強気の発言にカイトは僅かな違和感を覚えた。

「なんか・・・・・こんな強かったっけ、メイコって」

『ううん。相変わらずよ。だけどね、どうしても歌いたい歌の調整が今から2週間かかるんだって。だから頑張って決勝に残って、大きな舞台で歌えるようにしたいの』

「もしかして担当のボカロPから聞いたって曲?」

『うん。その曲ね、今の私を歌っているようでね・・・・・・だからこそ歌いたくって。あ、その担当のボカロPが私を呼んでる!じゃあ、またメールするね!』

「そうか。じゃあ頑張ってな」

 最後にそう告げて、カイトは回線を切った。

「メイコ・・・・・・」

 新たな涙がカイトの頬を伝う。乾き、傷つき、打ちのめされた心にメイコの一言一言が染み込み、癒してゆく。

「・・・・・・今から交渉すれば、2週間後に数日くらい休みを取ることができるかな」

 メイコは力強く決勝に進むと言い切り、その時に本当に歌いたい曲を歌うと誓った。できることならその歌をネット配信ではなく、会場で直接聞きたい――――――朝日が差し込む部屋の中、カイトはスマホを強く握りしめた。



 結局一睡もしないまま9時になり、事務所に顔を出したカイトはすぐに社長室に呼び出された。

(まずいな・・・・・・昨日クオを殴ったことだろうな)

 確かに苛立ちが最高潮に達していたとはいえ、あれはやり過ぎた。叱責を受ける覚悟を決めて、カイトが社長室に入ると福澤が電話をしていた。そんな状態の福澤に語りかけることも出来ず、カイトはそのまま黙って立ち尽くす。

「・・・・・・ということで、再来週の予定を繰り上げていただけると。はいありがとうございます」

 どうやら仕事の変更らしい。要件を済ませ電話を切った後、福澤はぎろりとカイトを睨みつけてきた。

「おい、サード・・・・・・昨日クオとやらかしてくれたそうだな」

「はい。処罰は甘んじて受けます」

 悪いのは自分だ。カイトは唇を噛み締め、福澤をじっと見つめる。

「良い心がけだ・・・・・・なら話は早いな。再来週一週間、クオと共に謹慎一週間!それがお前へのペナルティだ」

 その瞬間、カイトは思わず呆けた表情を浮かべた。

「え?何故・・・・・・よりによって再来週なんですか?」

 下手をするとアメリカにも行けないかもしれない。多少の焦りを感じながらカイトは福澤に尋ねる。

「来週にはどうしてもずらせない仕事があるんだ。それと、ボカロ・アマチュア・ナイトの決勝は再来週だ。お前だってそこに合わせて休みを取るつもりだったんじゃないのか?」

 福澤の口から飛び出した思いがけない言葉に、カイトは目を丸くした。

「あ。あの・・・・・・」

「礼なら研究所に言え。アメリカ支部からお前をアメリカに寄越せと要請が来た。でなければ米軍基地からミサイルを打ち込むと」

 そう言ってカイトの目の前に晒したノートPCには一通のメールが届いていた。

「離婚した嫁からなんだが・・・・・・あいつ、マジでコワイんだよ」

 その目には今までカイト見たことがない怯えの色が滲んでいる。どうやらカイトのアメリカ行きは『要請』と言うより『脅迫』に近いのかもしれない。

「ということは・・・・・・決勝を見にアメリカに行ってもいいんですね!」

「ああ、勿論だ。だが目付役付きだぞ」

 福澤がそう告げた瞬間、カイトの背後から咳払いが聞こえてきた。カイトが振り向くとそこには不満気な表情を浮かべたミクオが立っている。

「クオ・・・・・・!」

「仕方ねぇだろ。俺だって本当は一人でメイ姉を見に行きたいところだけど、社長命令には逆らえないからな。仕方ねぇから付き合ってやるよ」

 犬猿の仲の二人を一緒にアメリカに行かせる社長の真意は定かではないが、少なくとも決勝の舞台を見ることが出来るのだ。ここは年長の自分が折れるべきだろうとカイトはミクオに手を差し伸べる。

「昨日は済まなかった・・・・・・とりあえず、ボカロ・アマチュア・ナイトが終わるまで一時休戦だ」

「・・・・・・ああ」

 ミクオとしても思うところはあるのだろうが、さすがに社長の前では口にだすことは出来ないのだろう。カイトの『一時休戦』の一言に、ミクオは低い声で頷き差し出された手を目一杯握り返した。




Back   Next


にほんブログ村 小説ブログへ
INランキング参加中v
こちらはブログ村の小説ランキングにリンクしております。



こちらは画像表示型ランキングですv




まずは、いつもにも長い文章をお読み頂き本当にありがとうございますm(_ _)m
いくつかある『書きたい場面』のうち、1、2を争うシーンでしたので、ちょっと力が入りすぎてしまいまして(^_^;)
メイコに振られたと(思い込んで)落ち込んでいるカイトの許に届いた一通のメール―――これがこの話のメインでもあります。すれ違っていた互いの心がようやく重なりあう、そのきっかけのメールですよ♡
TMの曲の歌詞にある(本文にも引用させていただいた)『元気でいるかそれが聞きたい』を私なりに形に出来たので結構満足しております(*^_^*)
ただ、ボカロ・アマチュア・ナイトの決勝はこれからですからねぇ( ̄ー ̄)ニヤリ
二人がどんな再会を果たすのか、そしてコンテストの結果がどうなるか、次回をお楽しみくださいませ♪
(次回はできるだけ木曜日にもUPしたいです。そして5日からpixivにも・・・)
関連記事
スポンサーサイト




 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【拍手お返事&THE BODY SHOPのビューティファイングオイル(^^♪】へ  【烏のおぼえ書き~其の六十八・江戸時代の接待&わいろ】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【拍手お返事&THE BODY SHOPのビューティファイングオイル(^^♪】へ
  • 【烏のおぼえ書き~其の六十八・江戸時代の接待&わいろ】へ