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「VOCALOID小説」
Confession~告白~

ボカロ小説・Confession~告白~7・不器用な告白

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 翌週、浅川ルカの調整がほとんど無かったにも拘らず、メイコはトップ通過で準決勝を勝ち抜けた。その状況はYouTubeで配信され、カイトを始めとする関係者は勿論、マスコミもメイコの快進撃を取り上げ始めたのである。

「本当にいい加減だよなぁ、マスコミなんて」

 ネットのエンタメニュースを流し読みしながらカイトは呟くが、その口許には隠し切れない笑みが溢れる。

「おい、カイト。そのにやけ顔を楽屋の外で晒さぬほうがいいぞ。来週から『謹慎』なんだから、少しは神妙にするべきだと思うが」

 不気味な一人笑いをし続けるカイトに、がくぽが注意を促した。どうしても出演しなければならないTV番組の収録を終え、後は帰るだけとはいえ何処に人の目があるか判らない。だが、カイトの一人笑いは止まることはない。

「だって半年前なんて全く取り上げられることなんて無かったのにさ、今じゃ『時の人』だよ?歌の上手さは昔から変わらないのに」

「・・・・・・そんなに上手かったのか?」

 カイトの口からメイコの歌について語られるのを聞くのは初めてかもしれない。がくぽは興味深そうに尋ねる。

「ああ。スコアの読み込みや微妙な音程の表現はウチの『咲音メイコ』より間違いなく上だ。だから研究所も『日本代表』に選んだんだろ。タレントとしての花は皆無だけど」

 身も蓋もない物言いだが、カイトはカイトなりに褒めているのだろう。そんな他愛もない話をしている内にあらかたエンタメニュースを読み終えたのか、カイトはスマホのブラウザを閉じる。

「じゃあ、再来週の収録で。俺はアメリカで『謹慎』を堪能してくるよ」

 その笑顔はどこまでも幸せに満ちていた。メイコと連絡が取れなくなってからのカイトの苛立ちや憔悴を間近に見てきただけあり、がくぽにとってもメイコの近況が報道されること、そしてカイトとメイコが再び連絡を取り合えるようになったことは喜ばしい。

「メイコに愛想を尽かれない程度に堪能してこいよ、『謹慎』」

 わざと『謹慎』の一言に力を込めるがくぽに、カイトは相変わらずしまらない笑顔を向けた。



 準決勝から1週間後――――――すなわちボカロ・アマチュア・ナイト決勝当日、カイトとミクオ、そしてなぜかミクまでジョン・F・ケネディ国際空港に降り立っていた。

「N.Yサイコー!!やっぱりこの時期に冬休み取って良かったぁ!」

 元気いっぱい伸びをするミクの後ろから、男二人がミクの分のキャリーバッグまで引きずりながら神妙な顔で付いてくる。

「おい、クオ。何であいつまで付いてくるんだよ」

 ミクに聞こえないように小さな声でカイトがミクオに尋ねる。そもそも『謹慎』は男二人の筈だ。もしかしたらミクオが婚前旅行よろしくミクを誘ったのではないかと疑ったのだ。だが、ミクオはげんなりした表情で事の次第をカイトに告げる。

「あいつさ・・・・・・俺とカイトが決勝を見に行くって事を知った途端、社長に直談判をして休みをもぎ取ったんだ。いや、横で見ていたけどあの迫力はハンパ無かった・・・・・・メイ姉の出発の時に成田に乗り込んできた時もそうだったけど、怒らせたら事務所で一番コワイんじゃね?」」

 まるで花畑を飛び回る蝶のように軽やかなミクの背中を見つめながら、ミクオは遠い目をする。この様子では確実にミクの尻に敷かれるだろう。ちょっとだけミクオを気の毒に思ったカイトだが、その事は口にしなかった。

「ま、あいつも忙しいしな。特に12月のクリスマス・シーズンから3月9日のミクの日までろくな休みが取れないから社長も許してくれたんだろ。それにコンテストの見学なら勉強にもなるし・・・・・・もしかしたらあいつだって出場する可能性があるかもしれないしな」

 『お目付け役』がどんどん増えていくのは腑に落ちないが、こればかりはどうしようもない。自分とミクのキャリーケースを引きずりながら、カイトは会場へ向かう為のタクシーを探し始めた。



 ハーレム地区にあるボカロ・アマチュア・ナイトの会場に到着した三人は、予め送ってもらったチケットを頼りに席を探し始めた。

「ねぇ・・・・・もしかしてこれって特別席、なのかな?」

 席番を頼りに目的の席に近づくにつれてミクの表情が強張ってゆく。

「どうやらそうみたいだな」

 ミクオも緊張が隠せないらしい。そんな中、カイトだけは平然としていた。

「そりゃあ優勝候補の関係者が招待されているんだ。それくらいは当然じゃないか?それとこの席はメイコがアメリカで世話になっているボカロPが――――――と言うより、社長の元・奥さんが手配してくれたって社長が言っていた」

「社長の元・奥さん!!お兄ちゃん、それって本当なの!」

 その途端、ミクの目が好奇心でキラキラ輝き出す。その一方、ミクオは何とも言えない複雑な表情を浮かべている。どうやらこれが嫌でメイコの担当ボカロP、すなわち福澤の元・妻の話をミクにしていなかったらしい。だが、時既に遅し、ミクは好奇心丸出してカイトに迫る。

「その人も今日来ているかな?え~どんな人だろ?社長、結構メンクイだからやっぱり美人なのかな?」

「・・・・・・『巡音ルカ』はその人の写しだって話だ。ほら、あそこだ」

 カイトが指し示したその先には、『巡音ルカ』を黒髪にしたような美女が三人を見て手招きをしていた。三人はすぐさまその人物に近づく。

「初めまして。もしかして『浅川ルカ』さんですか?」

 三人を代表してカイトが黒髪の美女に尋ねる。

「ええ、その通り。君達が巧の会社の子達ね?」

 やけに感情豊かなマシンボイスに三人は驚くが、すぐに平静を取り戻したのはやはりカイトだった。

「今回はメイコがお世話になっています。ところで彼女は?」

「既にスタンバイに入っているわ。コンテスト直前直後はボカロPもマスターも楽屋に入っちゃいけないの。不正を起こさないためにね」

 冗談とも本気とも付かない発言をすると、ルカは三人に席に座るよう促した。

「ところで・・・・・・メイコが歌う歌はどんなものなのですか?新曲ではなくあえてカバー曲にしたということですが」

 2週間前から連絡を取り合っているカイトとメイコだが、メイコは『当日のお楽しみ』と曲名を教えてくれなかった。唯一教えてくれたのは四半世紀前の曲のカバーということだけだ。

「申し訳ないけど、カイト。今の時点で君にそれは教えてあげられないわ」

「え~!何でですか!」

 食いついたのは尋ねたカイトではなく隣で話を聞いていたミクだった。

「だってその方が面白いもの」

 意味深な笑みを浮かべながら、ルカはミクに顔を近づける。

「メイコが歌っている時、舞台じゃなくカイトの顔を見ていてご覧なさい。私が言っている意味が良~く解るから。あ、でもあなたには教えても問題ないから少しだけ教えてあげる」

 そして何かミクに耳打ちをした。どうやら曲の内容らしいのだが、それを聞いた瞬間、ミクも意味深な笑みを浮かべる。

「うわ・・・・・・絶対に女同士ろくでもない企みをしてる。これだから女って嫌なんだよ」

 ミクオが呟いたその時コンテスト開始のブザーが鳴った。

「メイコが歌うのは三番目・・・・・・つまりラスト。それまでの二曲は辛抱して聞いていてね」

 ルカは前を向いたままカイトに語りかける。

「曲のタイトルだけはパンフレットにも書いてあるから教えてあげる。『Confession~告白~』よ。ただし、ネットで歌詞を検索するのは禁止。メイコの歌を待ちなさい」

 ルカはカイトにコンテストのパンフレットを渡しながら最後の念を押す。ここまでいうからにはそれなりの考えがあるのだろう。ここはルカの言葉に従うほうが賢明だと、カイトは深く頷いた。



 一人目はスペインのボーカロイド・ブルーノ。ヒスパニック系が多い移民たちの盛り上がりは予想以上に激しいものがあった。
 だが、その盛り上がりさえ上回ったのが二人目、アメリカのボーカロイド・ミリアムだった。地元開催の意地を見せつけたというところだろうか。V1でありながらその可能性を最大限に活かした歌声に、会場は割れんばかりの拍手に包まれる。

「何か・・・・・・嫌な雰囲気だな」

 二人が終わった時点でミクオが低い声で唸る。会場を見る限り、アジア系移民は殆ど見当たらない。もしかしたらメイコの味方は自分達だけかもしれないのだ。
 ミリアムによって出来上がってしまったこの空気をメイコは打ち砕くことが出来るのだろうか――――――カイトが不安を感じたまさにその時、真紅のパンツスーツのメイコが舞台に上がった。
 曲のイメージからなのか髪も短く見えるようにセットして、ユニセックスな雰囲気を漂わせている。

「――――――カイト」

 ミリアムの歌の余韻が残る中、ルカのマシンボイスがカイトに語りかける。

「思い込みを全て捨てて、ただ聞きなさい―――――――私から言えるのはこれだけ。この歌は、君に対するメイコの『告白』だから」

 ルカの語りかけと同時に会場がしんと静まる。その一瞬後、ピアノとトランペットだけの伴奏が流れ始めた。


―――――――向かいのビルの窓辺にもたれたブロンドのレイディ 交差点見つめて


 いつものメイコより少し低めの、日本語の歌声が会場に響き渡る。その瞬間、カイトは驚きにめを見開いてルカの横顔を見つめる。

(何故・・・・・・英語の歌詞にしなかったんだ?)

 会場の評価も審査対象になるボカロ・アマチュア・ナイトである。会場の大多数が理解できない日本語の歌詞では間違いなくメイコが不利になる。その事を問い質そうとカイトが口を開きかけたその時、ルカのマシンボイスが最小限の音量で囁いた。

「言ったでしょう、これは君に対するメイコの『告白』だって。だからメイコと相談の上、歌詞はあえて日本語のままにしたの。メイコがこの歌を聞かせたいのはただ一人、君だけだから」

 つまり、初代チャンピオンになれる可能性を捨ててまで、自分への想いを歌っているということなのか――――――カイトは胸が熱くなるのを感じた。


―――――――今頃君は眠りについて 時計は別々の時刻(とき)を指す
―――――――逢えない分だけ近くなる 目を閉じればすぐ隣まで


 その瞬間、カイトは今までの日々を思い出す。確かに逢えなかった時期の方がメイコを近くに感じていた。それはメイコも同じだったのかもしれない。そしてレトロな曲調の恋の歌はラストへと向かう。


―――――――今度向かい合ったら 微笑むだけでわかる気がする
―――――――うまく生きてゆくのは相変わらず下手だけど


 しんと静まり返る会場にメイコの声の余韻が響き、そして曲は終わった。その余韻を感じつつ、カイトは膝の上で拳を強く握る。

(例えこの会場が――――――いや、世界中の人に認めて貰えなくても、俺だけは!)

 立ち上がり、メイコに拍手を送ろうとしたその瞬間、カイトより先に周囲の観客たちが歓声を上げて立ち上がったのである。その激しいスタンディング・オベーションに四人は面食らう。

「ル、ルカさん・・・・・・この人達、なに?英訳詞なんて配ってたりしませんよね?」

 地鳴りのような拍手に、思わずミクはルカに縋りつく。

「そんな余裕あるわけ無いでしょ?メイコ用に曲をアレンジして打ち込むだけで精一杯、ここ2日まともに寝てもいないんだから」

 ルカも会場の反応に驚いているいるようだ。歌詞の意味は判らなくてもその雰囲気は伝わるものなのだろうか――――――ルカやミク、そしてミクオが唖然としながら周囲を見回したその時である。不意にカイトが席を立ち、何処かに行こうとしたのである。

「ちょっと、どこへ行くつもり?」

 ルカが咎めるようにカイトの引き止める。

「メイコに――――――メイコに逢ってきます!」

「・・・・・・どっちにしろ審査が終わる10分後までは会えないわよ。それとコレがないと楽屋には入れないから。はい、通行証」

 そう言って渡されたのは一枚のカードだった。

「こんなことになるんじゃないかと、君の分も申請しておいて良かったわ」

「ありがとうございます!」

 カイトはルカに礼を言うと、片手でそれを握りしめホールから飛び出した。



 ルカが言ったとおり控室には厳重な監視が付いていた。極限までデジタル化されているボカロ・アマチュア・ナイトの審査だが、それだけに外部からの影響を極力排除したいらしい。警備員の前でじっと待つこと10分、ようやく控室へ向かう扉が開き、カイトは警備員の横を走り抜けた。

「メイコ!どこにいるんだ、メイコ!」

 カイトが叫んだ瞬間、控室からメイコがひょこっと顔を覗かせる。

「え・・・・・か、カイトぉ?」

 まさかカイトがこの場所に来ているとは思わなかったメイコが素っ頓狂な声を上げる。そしてまさにその瞬間、メイコはカイトによって強く抱きしめられた。

「な、何でカイトがここにいるのよ!仕事は?」

 カイトの顔を見上げながら、メイコが軽く咎めるように尋ねる。その少し怒った表情に対し、カイトは極上の笑みで事情を明かした。

「ちょっとクオと喧嘩をして、社長から『謹慎』という名の休みを貰ってきたんだ。クオやミクも観客席にいる・・・・・・お疲れ様、メイコ」

 初めて聞く、カイトの優しい労いの声に、メイコの表情もようやく緩む。

「・・・・・・ありがとう、カイト」

 メイコはカイトの背中にそっと腕を回し、胸に頬を埋めた。話したいことは山ほどある。だが、何処からどう話せばいいのか解らない。それでも、ただ抱き合っているだけで全てが解り合えるような気がした。

「・・・・・・愛してる」

 不意にカイトがメイコの耳許で囁く。

「メイコが俺の目の前から消えて・・・・・・初めて思い知らされたんだ。俺はメイコを本気で愛しているんだって」

 メイコを抱きしめているカイトの腕に力が籠もる。その力強い抱擁に心地よさを覚えながら、メイコも抱えていた想いを口にした。

「私もよ・・・・・・こっちに来て思い出すのはカイトの事ばかりだった。決して褒められた関係じゃなかったのに」

「もう一度、やり直そう・・・・・・今度は、ちゃんとした恋人として」

 カイトの真剣な言葉にメイコが頷き、顔を上げる。そして二人の顔が徐々に近づき、あともう少しで唇が触れそうになった、まさにその時である。

「第一回ボカロ・アマチュア・ナイト、栄えあるチャンピオンは――――――!」

 舞台から司会者のよく通る声が楽屋裏まで響く。とうとう審判の時が来たのだ。その結果を聞こうと二人が耳を澄ませたその瞬間、会場からは割れんばかりの拍手と歓声が響き渡った。




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散々回り道をして、ようやく自分の気持ちに気がついた二人がようやく再会することが出来ました(/_;)そして本当に不器用すぎる告白ですよ・・・(^_^;)

きっとルカは決勝用に華やかなドレスとか用意してくれていた筈なんですけど、メイコが選んだのはパンツスーツ・・・きっと女性らしい姿で己の想いに重なる歌を歌うのが恥ずかしかったのかもしれません。男性のような姿で、男性目線の曲によって想いを伝える・・・このメイコはかなり恥ずかしがり屋で不器用なんですよ(^_^;)
その点は惚れていたにも拘らず『身体だけの関係』とうそぶいていたカイトも同じなのかもしれません(*^_^*)

次回は本編最終話、ボカロ・アマチュア・ナイトの結果&その後を書かせていただきます(*^_^*)
(その後でメイコ生誕祭らしく誕生日デートなんかも・・・勿論R-18で)
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