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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第十八話 沖田氏縁者・其の貳

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 初夏の爽やかな風が吹き抜ける午後の新選組屯所に、緊迫した悲鳴が響き渡る。

「沖田センセ、いらっしゃいますか!嬢はんが・・・・・・お紗代嬢はんが!」

 その悲鳴の主の許へ沖田が走って向かうと、屯所の玄関で功庵の屋敷の下男が四つん這いにへたり込み、肩で息をしていた。どうやら祇園近くにある功庵の屋敷からずっと走ってここまでやって来たらしい。

「どうしたんですか?お紗代さんに何かあったのですか?」

 沖田は足袋のまま玄関の三和土に降りると、下男の肩を掴む。すると下男は目を見張り、泣きそうな顔で沖田に告げた。

「お、沖田センセ!良かった、巡察やのうて・・・・・・実は嬢はんの容態が急変しはって」

「承知しました!一緒に行きましょう!原田さん、近藤先生か土方さんに功庵さんのところへ行ってくると伝えてもらえますか?」

 沖田は自分を追いかけてきてくれた原田に頼みつつ、中間が準備してくれた草履を履く。

「解った!一刻も早く行ってやれ!」

 背中を押すような原田の声に勢いづけられ、沖田は迎えに来た下男と共に祇園近くにある功庵の屋敷へと走りだした。

(間に合うだろうか)

 ともすると遅れがちになる若い下男を気にかけながら沖田は焦りを感じる。沖田を呼びに来たくらいだから、この下男は功庵の使用人の中では脚の早い方に違いない。しかしやはり武士と町人では鍛え方が全く違う。徐々に遅れ始める下男にしびれを切らした沖田は、ここで決断を下した。

「すみません!私は先に祇園の屋敷に向かいますので後から来てください!」

 このままでは紗代の死に目に間に合わない。沖田は下男に告げた後、更に走る速度を早めた。

(どうか・・・・・・間に合ってくれますように)

 紗代に対して色恋という感情は全く抱いていないが、もし労咳を患わなければ沖田の妻になっていたかもしれない娘である。しかも愛しい娘と同じ響きの、『さよ』という名を持つ娘となれば、それなりに情も湧く。
 傾きかけた午後の日差しが沖田の頬を焼く。だが、その刺すような日差しさえ感じる余裕すら今の沖田には無い。焦りに苛まれながら、沖田はただひたすら功庵の屋敷へと走り続けた。



 沖田が功庵の屋敷に辿り着いたのは、昼八ツ半の鐘が鳴った後だった。弾む息を整える間も惜しみ、沖田は屋敷の玄関に飛び込む。

「失礼します!功庵さん、沖田です!」

 案内を待つ時間さえもどかしい。勝手知ったる屋敷とばかりに廊下にひしめく患者をかき分け、沖田が紗代が床に臥している部屋の襖を開けた。
 するとそこには功庵とその妻、そして紗代の兄弟らしき青年二人が揃っていた。そしてどの目にも涙が滲んでいることに沖田は気がつく。

「こう・・・・・・あん、さん?」

 嫌な予感に喉がひりつく。ともすると口の中に張り付きそうに鳴る舌を無理やり動かし、沖田は功庵に尋ねた。すると功庵は真っ赤に充血した目で沖田を見つめ、口を開く。

「沖田センセ・・・・・・紗代は、今しがた息を引き取りました。ご足労、えろうすんまへん・・・・・・」

 かすれる声で沖田にそれだけ告げると、功庵は耐え切れなくなったのか、ポロポロと涙を落とし始めた。それは功庵の妻も同様で、功庵にすがりついて泣きじゃくっている。
 そんな二人とは対照的に、紗代の兄らしき二人の青年は落ち着いた様子で沖田に一礼し、年長の一人が沖田の方に近づいてきた。

「お初にお目もじつかまつります。わては功庵の長男で、紗代の兄の功太郎ともうします」

「は、初めまして。拙者は・・・・・・」

「新選組一番隊組長、沖田総司様―――――でございますね?修行先の大阪でもその名は聞き及んでおります」

 その一言で沖田は納得した。今まで彼ら二人を見たことが無かったのは、どうやら大阪で修行をしていたためらしい。そして紗代の容態の悪化を受けて一時的に帰宅したものと思われた。

「大阪で修行・・・・・・適塾でしょうか?」

「はい。緒方洪庵先生のご指導は仰げまへんでしたが、拙斎先生には厳しゅう鍛えられております」

 目を真っ赤に腫らしながらも口の端に微かに笑みを浮かべると、紗代の兄は懐から一包の書状を取り出した。

「昨日、妹から預かったもんおす。受け取ってやってもらえますでひょか」

 どうやら功庵に預けるのは気恥ずかしかったらしい。沖田は泣き笑いの表情を浮かべながら功太郎から手紙を受け取る。

「今・・・・・・開いても大丈夫ですか、ね?」

 娘の亡骸にすがりついて泣いている功庵夫婦をちらりと見やりつつ、沖田は功太郎に尋ねた。さすがにこの場で手紙を開くのは体裁が悪い気がするが、内容によってはすぐに知っておいたほうが良い場合もある。どうするべきか困惑している沖田に、功太郎は『問題ない』と許可を出す。

「沖田センセさえ宜しければ・・・・・・両親はあんな状態やし。しかし沖田センセのお勤めの方は大丈夫で?」

「ええ。同僚にこちらに来ることを伝えておいてくれと頼んでありますし、巡察の当番は明朝ですので」

「そうどすか。でしたら別室をご用意させていただきまひょ。この部屋は少々慌ただしくなりますさかい」

 その言葉に沖田ははっ、とする。

「その・・・・・・お通夜はこの部屋で?何かお手伝いできることはありますでしょうか?」

「準備そのものは家のものがやりますので。その代わりと言っては何ですが、後で少し両親の話を聞いてやってもらえまへんでひょか。兄弟の中でたった一人の娘やったものですから落ち込み方がひどうて」

「お安いご用です。ではお邪魔にならぬよう、隣の控えの間をお借りしますね」

 沖田は功太郎に許しを得ると、隣に続いている三畳ほどの控えの間に移動する。そして大きく深呼吸をした後、功太郎から渡された紗代からの手紙を開いた。



 沖田が功庵の屋敷に上がってから四半刻も経たない内に、土方が数人の屈強な平隊士を引き連れ、功庵の屋敷を訪れた。

「おう、功庵さんはいるかい?」

 土方は対応に当たった功庵の高弟に尋ねる。

「お紗代さんが危篤だって知らせが来て、うちの沖田がこちらに邪魔しているようなんだが」

 その瞬間、高弟の顔があからさまに曇った。

「実は今しがたお紗代お嬢さんが・・・・・・」

「・・・・・・そうかい」

 土方は素早く高弟の言外の意味を汲み取ると、それ以上は言うなとばかりに高弟の言葉を遮った。その気遣いに感謝を述べた後、高弟は立ち上がり土方らに玄関から上がるようにと勧める。

「沖田センセは師匠と共にお紗代さんの部屋にいると思われますので、ご案内いたします」

 高弟の案内されるまま、土方と平隊士達は奥の部屋へと通された。

「お師匠様、新選組の土方副長がいらっしゃいました」

 すると部屋には功庵とその妻、そして息子らしき二人の若者と葬儀の準備をしている者達がいた。

「・・・・・・すまねぇ。一足遅かったようだ」

 土方は詫びると、功庵の前に進み頭を下げる。

「この度はご愁傷様で――――――本当はこいつらに氷室から氷を運ばせようと思っていたんだが、無駄になっちまったようで」

 明らかな社交辞令だったが、それでも『紗代の命を少しでも長引かせるために』男手を引き連れてきたと気遣う土方の優しさに、功庵は涙する。

「おおきに・・・・・・」

「これから力仕事も多くなる。医者の手をそんな力仕事で痛めちまったら贔屓達にも迷惑がかかる。大したことはできねぇが、必要ならば取り敢えずこいつらをこき使ってくれ。人出が足りねぇようならもっと増やすから」

「お気遣い、かたじけありません」

「気にするな。仮にも新選組幹部の許嫁だったおなご、これくらいは――――――ところで沖田は?」

 土方はようやく沖田がこの部屋にいないことに気がついた。紗代が亡くなり、通夜の支度まで始まっているというのに弟分はどこをふらついているのか。怒りにも似た苛立ちを覚えた土方に、紗代の兄らしき青年が声をかける。

「あの、沖田センセなら隣の控えの間に・・・・・・」

 その青年の言葉が終わらない内に土方は立ち上がり、控えの間の襖を勢い良く開いた。

「おい、総司!おめぇ、こんな時に何して・・・・・・!」

 控えの間に座り込んでいた沖田に怒鳴りつけた土方だったが、その怒鳴り声は途中で途絶える。怒鳴りつけた土方を見上げた沖田の顔は涙に濡れ、目は真っ赤に充血していたのだ。
 紗代に対して『気の毒な娘』という認識しか沖田は持っていないと土方は思っていた。だがこの涙は明らかにそれ以上の感情がもたらすものだろう。土方は沖田の傍にしゃがみ込み、その顔を覗き込む。

「何が・・・・・・あったんだ、総司?」

 すると沖田は黙ったまま手にしていた一枚の書状を土方に差し出した。土方は差し出されたその手紙の内容を、怪訝そうな表情で読み進めていく。だが、その表情は徐々に険しくなり、読み終わる頃には眉間に深い皺が刻み込まれていた。

「・・・・・・げに恐ろしきは女の勘、ってやつだな」

 土方の言葉に沖田も涙を拭わぬまま頷く。

「私自身は・・・・・・隠しおおせていたつもりだったんですけどね。自信をなくしますよ、新選組副長助勤としても・・・・・・男としても」

 沖田は再び土方の手から紗代の手紙を受け取り溜息を吐く。そこには紗代の遺言が――――――今までの礼と、それ以上の事が書かれていた。



UP DATE 2014.11.29

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二週間ぶりの『夏虫』更新です♪計画性のあるおやすみと違って、風邪でのお休み中断は本当に大変ですよ・・・(-_-;)改めて前作を読み直しつつ書かないといけませんからねぇ(計画お休みの場合は、お休み中とはいえ仕込みはできるので、世界観を忘れることはないのですが・・・(^_^;))

結局紗代の死に間に合わなかった沖田ですが、どうやら遺言は残されていたようです。しかもその遺言が、泣く子も黙る一番隊組長さえ本気で泣かせるものときている・・・しかも土方も納得しているし(-_-)
その内容がどんなものであるか、次回12/6の更新で詳しく取り上げさせて頂きます。HP、かなり0に近づいていそうだな~( ̄ー ̄)ニヤリ
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