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「短編小説」
幕末歳時記

幕末歳時記 其の拾肆・更衣(西郷隆盛&とま)

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(なんちゃって薩摩弁&奄美言葉にはご容赦を^^;)



「”とま”・・・・・おまん、また来たんか。父御もよか顔をせじしょう?」

 南国、奄美の風にも秋の気配が漂う頃のことである。両手いっぱいの着物を抱えやって来た佐栄志の娘・とまに対し西郷隆盛は困ったような、見ようによっては諦めに近い表情を浮かべた。

 何かと世話を焼きたがる奄美の娘が流刑人同然の西郷の許に通い出したのは今から半年前からである。美玉新行の空家を借り、慣れない自炊をしている中年男を哀れに思ったのかそれとも他に理由があるのか西郷には判らないが間が空いても二、三日に一度、ここ最近では毎日顔を出しにくる。
 確かに女手はありがたいが、何せ”とま”は嫁入り前の娘である。奄美の名士、龍家の一族の娘に悪い噂が立っては申し訳ない。『寄こすなら使用人の老婆か下男にしてくれ。』と何度も頼んでも”とま”は聞き入れず、西郷の許へ通ってくるのだ。

「今日は更衣でしょう?じゃって冬物直して持ってきた。」

 黒目がちの、ぱっちりした眼をきらきらさせながら”とま”は冬物の着物を古ぼけた葛籠の上に置くと西郷の目の前に座り込み、にじり寄る。お世辞にも『よかニセ』(美男子)とは言い難い西郷の容貌でさえこの娘を怯えさせるのに全く役に立っていない。

「おまん、おいにウッカタ(女房)が居るのは知っとるじゃろう?おまんほど良かおごじょじゃったら言い寄るニセも・・・・・。」

 ”とま”の勢いに押され、西郷もたじたじである。決して広くない屋内で、若い娘に言い寄られて及び腰になっているこの男が、攘夷派の急先鋒だと誰が思うだろう。若い娘の考えることは判らないと西郷は頭を抱えたくなる。

「あたや、『西郷どん』が好き!他の誰でも嫌!」

 たまに西郷の許を訪れる役人の呼び方をいつの間に覚えたものか”とま”はあえて薩摩の呼び方で西郷を呼ぶ。その声には煮え切らない西郷に対しての苛立ちが明らかに含まれていた。
 これではどちらが男でどちらが乙女か判ったものではない。こんな日々がすでに十日以上も続いていた。



 安政五年十二月、藩当局は幕府の目から隠すために西郷の職を免じ、奄美大島に潜居させることにした。菊池源吾と変名して、鹿児島から山川郷へ出航した西郷は伊地知正治・大久保利通・堀仲左衛門等に後事を託して山川港を出航し、七島灘を乗り切り、名瀬を経て、一月十二日に潜居地の奄美大島龍郷村阿丹崎に着いたのである。
 最初こそ孤独を強いられた島での暮らしだったが間もなく重野安繹の慰問を受け、以後、大久保利通・税所篤・吉井友実らからの書簡等が送られてきた。そんな仲間に対して西郷も返書を出して情報入手につとめていたのだが、ようやく動き始めた生活の中、西郷の身の回りの世話をするとやってきたのが”とま”であったのだ。



(どうもこのおごじょは苦手だ・・・・・。)

 女子とは良人の後ろを三歩下がってついてくる、楚々としたものだとばかり思っていた。それがどうしたことだろう、この娘はむしろ積極的に西郷に言い寄ってくるのだ。
 自分は流人扱い故、若い娘が近づくのは好ましくないと村長や”とま”の両親に言っても”とま”は西郷の住んでいる小屋へ通うのを止めなかった。

「諦めて島妻にでもしてやって下さい。一度決めたらとことんまで突き進む性格の娘です。」

 ”とま”の両親も半ば諦めたように西郷に頼む始末である。

「いいか、とま。おいはいつか故郷に帰る身だ。その証拠にこれだけの書状がある。だから諦めて他の男の・・・・・。」

「いいの!一日でも良いからウラ(あんた)のトジ(妻)にしてよ!」

 未婚の娘とは思えぬ大胆な発言に頭痛さえ覚える。結局”とま”に押し切られ、西郷が”とま”を島妻にしたのはこの二ヶ月後の事であるが、島を出るその日まで西郷はこの奄美の娘の気迫に押されっぱなしの生活を送ることになる。



UP DATE 2009.9.28


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前回が暗~い話だったので、気分を変えて『西郷受け』、もとい真面目な西郷隆盛が若い娘に押し切られると言う話にしてみました。
源頼朝じゃないですけど、高い教養とセンスを持った『流刑人』は地方の女の子のあこがれでしたからね~。北条政子よろしく”とま”こと後の愛加那にも攻めさせてみました。

次回は後の月見か菊見か・・・・・2週間考えたいと思います(^^)
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