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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第二十二話・幕臣と高台寺党・其の貳

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 近藤、土方が幕臣取り立ての吉報を持って屯所に帰ってくると、ほとんどの隊士達は歓喜に湧いた。

「局長、おめでとうございます!」

「やったぁ!これで田舎に良い報告ができるぞ!」

「祝杯だ、祝杯!おい、賄方!今日は上等の酒を酒屋から運ばせろ!」

 実際、幕臣の格式が下されるのはおよそ半月後の二十三日なのだが、そんなことは隊士達に関係ない。近藤らが持ち帰った吉報は瞬く間に屯所中に広がり、祝賀の気配に支配された。
 だがこの知らせを喜ぶ者ばかりでないのもまた事実である。一部の隊士――――――伊東に心酔している若い隊士らはこれを不服とし、溜りに溜まっていた不満を露わにした。

「とうとうこの時が来てしまったか」

 屯所の裏庭に集まった伊東派の若者達を前に、その中心である茨木司が唸る。その苦しげな一言は、この場に集まった十人の心情そのものであった。

「このまま甘んじて幕臣になるなんて・・・・・・できるわけ無いだろ!」

 感極まった木幡勝之進が思わず声を荒らげ、周囲の仲間に窘められる。

「しっ、声が大きい。ここではどこに耳があるか判らない。明日の夜――――――務めが終わったら島原の雪輪屋に集まって、今後の事を話そう」

 さすがに立ち話では重すぎる話題だ。しっかり腰を据えて話しあおうと提案した茨木の一言に、その場にいた全員が頷いた。



 約束の刻限、島原の雪輪屋に集まったのは茨木司、佐野七五三之助、富川十郎、中村五郎、岡田克見、中村三弥、木幡勝之進、高野良右衛門、松本主税、松本俊蔵の十名だった。

「改めて聞くが、皆幕臣になんかなるつもりは毛頭ないな?」

 茨木が皆を見回し、決意を秘めた声で尋ねる。

「勿論!こうなったら伊東先生の元へ駆けつけるしか・・・・・・」

「落ち着け、富川。田中の事を忘れたのか?勢いのまま駆けつけても追い返されるかもしれないぞ?」

 感情の高ぶりのまま立ち上がった富山を、佐野が宥めた。しかし、まだ大して酒は入っていないものの、皆かなり感情が昂ぶっている。富山を宥めたはいいものの、今度は木幡が我鳴声を立てる。

「あの時と今とでは状況が違う!こうなったら伊東先生へ直談判して、新選組からの分離をお口添えしていただくしかないだろう!」

 今は声を荒らげるぐらいで済んでいるが、いつ爆発してもおかしくない危うさは拭えない。ここは少し気勢を削いでやらねばとんでもない事件になりかねない。茨木は覚悟を決め、口を開いた。

「・・・・・・解った。明日、伊東先生の許へ直談判に行こう。もしかしたら我々の気持ちは理解してもらえるかもしれない」

 茨木は皆を見回し、重々しく告げる。それは茨木自身の弱音でもあった。正直なところ、茨木一人ではこの勢いを止めることはできない。

(一度伊東先生の前に彼らを連れて行き、伊東先生の口から直接説得してもらわねば、彼らは納得しないに違いない)

 茨木としては伊東に彼らを説得し諦めてもらうか、又は自分達の願いを聞き入れて新選組側を説得してもらえればありがたい、と考えていた。言ってしまえば伊東に対する甘えがそこにはあった、と断言していいだろう。
 しかしその考えが如何に甘いものだったか茨木が知るのに、それほど時間はかからなかった。



 翌十三日、茨木ら十名は五条大橋の袂で合流、そのまま伊東派の屯所である善立寺へと乗り込んだ。

「伊東先生、新選組の幕臣取り立てが決まり、俺達もなりたくもない幕臣にさせられてしまいそうなんです。お願いします!どうか、伊東先生の許で・・・・・・!」

「気の毒だが、それは出来ない」

 少しは予想していたことだが、茨木ら十名の命がけの嘆願は、あっさりと却下された。しかし、若者たちは納得出来ないと伊東に食らいつく。

「何故ですか、伊東先生!俺達は伊東先生と同じ志を・・・・・・」

「僕らはつい最近、山陵奉行兼禁裏付頭取の戸田大和守の配下になった」

 伊東は噛んで含めるようにゆっくりと、しかし端的に説明をし始める。

「だから何か重大な決定をする場合、戸田大和守の許しが必要となるんだ。僕の一存では決められない・・・・・・今暫く耐えて欲しい」

 伊東の説得はどこまでも論理的で、付け入る隙はない。あまりにも絶望的な状況に、その場にいた十人は項垂れた。

「それよりも早くここから立ち去るように。君らも知らないはずはないだろう、僕らと新選組の間で取り交わした分離の時の条件を」

 互いの隊士の移籍を禁じる約定の事を挙げ、伊東は更に続ける。

「もしそれを破ってしまったら、新選組は権力に任せて僕らを蹴散らすだろう。そうしたら君らにこちらに来てもらっても犬死にだ・・・・・・そんな真似はさせたくない。君らが無事こちらに来れるよう、戸田大和守から会津に根回しをしてもらうつもりでいるから、多少時間はかかるが暫し耐えて欲しい」

 伊東の言うことは尤もだった。だが自分達の気持ちのやり場が無くなってしまう。

「茨木さん。一体どうしたら・・・・・・俺、幕臣なんて死んでもいやです!」

 善立寺から出た後、中村五郎がやるせない想いを茨木にぶつける。

「俺だって同感だ。よりによって幕臣なんて。だけど山陵奉行を通じて会津の説得を待っていたらいつになるか・・・・・・そうか!」

 茨木は何か閃いたのか、嬉しげな表情を浮かべてぽん、と手を打った。

「どうしたんだ、茨木?」

 怪訝そうに佐野が茨木に尋ねる。

「山陵奉行の説得を待つくらいだったら・・・・・・自分達で黒谷に乗り込んで自ら説得したらどうだろうか!」

 その瞬間、その場にいた者達が一斉に驚愕を露わにした。

「み、自ら説得?し、正気か、茨木?」

 尋ねた岡田のその声はかなり震えている。だが茨木はお構いなく話を続けていく。

「ああ、いつまでもじっと待つだけでは脳がない。ここは自ら会津を説得し、新選組から御陵衛士へ所属を替えてもらうしかないだろう。幸い俺は会津の人間だからツテはある。でなければこのまま幕臣になってしまったら二度と伊東先生の許へは行けないかもしれないんだぞ!」

 だが、半分以上の六名は困惑したような、怯えたような表情を浮かべる。

「おい、茨木。この作戦、上手く行けば良いけれど、もし失敗したら・・・・・・」

「切腹さえ許されないんじゃないのか?さすがにそれはちょっと」

 会津藩の厳しさは嫌というほど知っていた。下手をすれば御手前仕置に遭うかもしれない危険な賭けに、及び腰になり、そこまでしなくても・・・・・と空気が流れ始めたその時である。

「怖気づいたのか!いいじゃないか、茨木の方法で!」

 そう言って立ち上がったのは佐野だった。そしてその声に富川と中村が続いた。しかし残りの六名は相変わらず尻込みだ。

「ならば四人で黒谷を説得しよう。だが、もし失敗したら・・・・・・その時は生命はないと思ってくれ」

 切羽詰まった茨木の声音に、今回参加しない者達は頷くことしかできなかった。



 翌六月十三日、茨木、佐野、中村、富川の四名は黒谷へ赴いた。そして門番に公用人の小野への面会を求めた。これが他の藩出身の者だったら門前払いを食らっていただろう。 だが、幸か不幸か茨木は会津藩出身である。それを知っている会津藩士も少なくなく、門番もその一人だった。そして呆気無く門を通され、一室に案内された。

「意外なほど呆気なかったな。門で一悶着あると思ったが」

 出された茶を飲みながら中村が尋ねる。だが茨木は表情を崩さず、そんな中村の言葉に答えた。

「いや、問題はこれからだろう。そうすんなり話が通るとは思えない」

 かなり厳しい表情に、他の三人も息を呑む。

「いや、話が通らないどころか、そのまま処断されるかもしれない。もし、生命が惜しいようなら今のうちに・・・・・・・」

「そんな奴がここまでついてくるはずないだろう!」

「ああ、そうさ!一蓮托生の思いで黒谷に乗り込んできたんだ。今更生命が惜しくて逃げ出すなんて恥さらしをするはずがない!」

 そんな風に息巻いていると、公用人の小野がやってきた。そしてひと通り茨木らの話を聞く。

「・・・・・・誰か、人はおるか?」

 小野は廊下に向かって声をかけると一人の若武者が入ってきた。すると小野はその男に耳打ちをし、すぐに外へ出した。

「お前たちの言い分は解った。だが、これは既に会津の一存だけでは決められぬ問題だ。つい二日前、山陵奉行の戸田大和守から伊東らの所属を引き受けた旨の連絡をもらい、我らもそれを了承している」

「そ、そんな・・・・・・」

「この部屋をしばし貸してやる。今暫く落ち着いて考えなおせ」

 小野はそう言い残すと、さっさと部屋から出て行ってしまった。そして半刻ほどするとがやがやと賑やかな声が四人のいる部屋に聞こえてきた。

「新選組の四人が押しかけてきたというのはこちらですか!」

 それは紛うことなき近藤勇の声だった。




UP DATE 2014.12.27

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めでたいはずの幕臣取り立て、しかし伊東派の、しかも新選組の中に残留している若者たちにとってそれは災難以外の何物でもありませんでした(>_<)
彼らは彼らなりに事態を打開しようと画策しますが、やはり感情が先走ってそれどころじゃない。そして伊東のところにいっても素気ない返事が・・・(T_T)
最後の手段として黒谷へ乗り込んでいった四人ですが、果たしてこの結末は・・・どうやら近藤局長も駆けつけたようですが説得はうまくいくのでしょうか?

次回夏虫更新は1/10、この四人の行動の結末について書かせていただきます♪
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