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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第二十五話・青天の霹靂・其の壹

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 梅雨が明け、本格的な夏が訪れた京都はうだるような暑さに包まれている。湿気を含んだ熱風は新しい屯所の中にも吹き込み、沖田の部屋も通りすぎてゆく。だがその不快な暑ささえ、泣きじゃくる伸吉を前にした沖田は感じることが出来なかった。

「沖田はん、お願いどす!あの藤堂とか言う男、殺してください!あの男、大嫌いや!」

 小夜に懐き、以前は沖田にさえ敵意をむき出しにしていた伸吉だが、ここまでの殺意をあらわにしたことはなかった。一体小夜に何があったというのだろうか――――――沖田は伸吉が落ち着くのを見計らって声をかける。

「伸吉くん、かわたのあなたが武士である藤堂さんを殺してくれ、と頼むからには小夜は相当なことをされているわけですよね?一体何を・・・・・・!」

 その時、沖田は伸吉の顔を改めてみて息を呑んだ。伸吉の左目の付近に殴られて出来たと思われる青痣が浮き出ており、口の端も切れているではないか。沖田はそっと手を伸ばし、伸吉の傷を見つめる。

「伸吉くん、この顔の傷は・・・・・・藤堂さんに殴られたのですか?」

新選組の幹部をも任される男が、素手の少年に力を振るうとは俄に信じがたかったが、それしか思い当たらない。案の定伸吉は小さく、しかしはっきりと頷き更に信じたくないことを口にした。

「へぇ。でも、わてはこれだけやからまだ・・・・・・」

 わては――――――つまり他にも藤堂に殴られている者がいるのだ。沖田は胸騒ぎを覚える。

「もしかして、小夜も・・・・・・殴られているんですか!」

 感情が昂った沖田は思わず伸吉の腕を掴む。その瞬間、伸吉が顔をしかめ、小さく叫んだ。

「ご、ごめんなさい。そんなに強く掴んでしまいましたか?」

 沖田は思わず謝るが、伸吉は首を横に振ると袖をまくり腕を見せる。沖田が触れたと思われるその部分は青痣を通り越して血が滲んでいる。それは握っただけでは勿論、手で殴っただけでも絶対にできない、縦に長い傷であった。

「こ、これも・・・・・・もしかして木刀、ですか?」

 藤堂は素手で殴っただけではなく、物を使って武器を持たない少年を殴ったのだろうか――――――愕然とする沖田とは逆に、伸吉はむしろ冷静ささえ漂わせて自分の身に起こったことを告げた。

「いいえ、刀の鞘で・・・・・・お小夜姉ちゃんを連れだそうとしたら見つこうて、大刀で鞘ごと殴られんたんどす」

「判りました――――――では、その話をして貰う前にまずは傷の手当をしましょう」

 沖田は一旦部屋を飛び出すと、硬膏が展延してある油紙を数枚持ってくる。それは隊士が稽古の際に負う、打ち身用の貼り薬だった。沖田はそれを手に取ると伸吉の傷のひどい部分に貼り付け、傷に響かぬようそっと晒を巻く。

「素人手当で申し訳ないんですけど・・・・・・家に帰ったらお父上に改めて手当をしてもらってくださいね」

 伸吉の顔に薬を塗りながら沖田は伸吉に穏やかに語り続ける。

「おおきに・・・・・・」

 先程流した涙の跡もだいぶ乾いて来たようである。沖田は手当の道具を片付けながら伸吉に尋ねた。

「伸吉くんにさえこんな怪我を負わせるなんて・・・・・・何があったか、教えてくれますか?」

 沖田の促しに、伸吉は頷き、ぽつり、ぽつりと自分の身に起こった出来事を話し始めた。



「今日からここが俺の新しい休息所だ」

 月真院のほど近くにある瀟洒で小さな町家。そこに小夜を強引に連れて来るなり、藤堂は宣言した。

「ここなら君の村からそう遠くないし、何か用事があるのなら家の者に来てもらえばいい――――――ここから出て行く必要なんてないでしょ」

 つまりかわた村には二度と返さないという宣告だ。それを耳にした小夜は動揺を露わにする。

「せ、せやけど・・・・・・」

「不満そうだね?だったら月真院に軟禁しようか?俺はそっちのほうがいいけどさ」

 冗談めかした口調だったが、藤堂の目は笑っていなかった。迂闊なことを言おうものなら本当に高台寺・月真院に引きずり込まれない。小夜は怯え、口を噤む。

「ようやく自分の立場が解ってきたようだね。じゃあ時間ができたらこっちに来るから――――――いつ顔を見せるかは俺にも解らない。だから俺が留守中に逃げようなんて考えないほうがいいよ」

 そう言って藤堂は小夜を残して町家から出て行った。一人残された小夜は家族にあて暫くの間家に帰れないとの手紙を書き始める。この近くの寺社であれば小夜の村のかわたらが清掃人として入っている。そのうちの誰かに手紙を渡せば届けてもらえるだろう。

「ほんまに・・・・・・目と鼻の先に村があるのに」

 その気になれば藤堂が帰宅する前に自宅へ行き、帰ることも可能だろう。だが、言葉による脅迫と武士の力任せの暴力に小夜の心は萎縮していた。小夜にできるのは、この状況を手紙に書き、仲間に頼んで家族に知らせることだけである。

「総司・・・・・・はん」

 自分が非番の日に、小夜の都合がついたら休息所に来てくれればいいと言ってくれた沖田の優しさ――――――それをごく当たり前の事と思っていた頃が懐かしい。今では籠の鳥ほどの自由さえ奪われ、藤堂の顔色を伺う日々だ。
 そんな恐怖の生活から一日でも早く抜け出すには、土方に頼まれた伊東派の情報を調べ、流していくしか無い。一日でも早い、伊東派の壊滅のために――――――小夜は唇を噛み締め、まずは自宅への連絡から書き始めた。



 伸吉が藤堂の新しい休息所――――――つまり小夜の軟禁場所にやってきたのは、昼近くになってからだった。

「お小夜姉ちゃん。この手紙に書かれていること、ほんまなんか?」

 息を弾ませ小夜に尋ねる伸吉のその手には、小夜からの手紙が握りしめられている。

「・・・・・・そうや。暫くは家に帰られへんから、妹達のことを頼みますえ」

 伸吉を心配させぬよう、できるだけ平然とした表情を装って伸吉を返そうとする小夜だったが、そんな姉に気が付かぬ弟ではなかった。

「小夜姉ちゃん――――――逃げよう、な?今なら藤堂もおらへんし、村だって近い。おなごの脚だって問題なく逃げられる」

「せやけど、見つかってしもうたら皆に迷惑が」

 一番怖いのはそれである。今の藤堂なら間違いなく火付けくらいするだろう。しかし、躊躇を見せる小夜に、伸吉はなお食い下がる。

「大丈夫や。その前に奉行所に訴えればええんや。新選組本隊とちごうて、幕臣にはならへんのやろ?せやったら浪士やんか。奉行所に言えば・・・・・・」

 そう伸吉が言った瞬間、伸吉の背後で引き戸が勢い良く開き、激しい音を立てた。その音に驚き、伸吉が後ろを振り返ると、そこには一人の武士が――――――藤堂が立っているではないか。

「へぇ、姉弟で面白い話をしているようだね」

 不気味な笑みを頬に張り付かせながら、藤堂は一歩、また一歩と伸吉の方へ近づくと、大刀を鞘ごと抜き、伸吉の腕に横殴りに叩きつけた。

「うわっ!いたぁぁぁ!」

 激しい痛みに伸吉は絶叫し、腕を抑えて床に倒れる。その痛がりかたからするともしかしたら腕の骨にヒビくらい入っているかもしれない。だが藤堂はそれだけでは容赦せず、土足のまま家に上がり込んで伸吉に馬乗りになると、その顔を拳で思いっきり殴った。

「藤堂はん!やめてください!伸吉はまだ子供です!」

 小夜は必死に藤堂を止めようとするが、そんな小夜も藤堂は突き飛ばす。

「――――――いいか、クソガキ」

 藤堂は伸吉の襟首を掴むと低い声で凄む。

「二度とここの敷居を跨ぐな。二度目は――――――命が無いと思え!」

 藤堂は更に一発、伸吉の顔を殴ると町家の外に放り出した。

「ふん、嫌な予感がして帰ってきたら・・・・・・小夜、解っているよね?今回は弟だったけど、妹だって同じことをすれば承知しないよ。それとも妹は君と同じように休息所に囲おうか?」

 藤堂の忌まわしい声が、今放り出された町家の中から聞こえる。本当だったら薪の一本でも持って殴りかかりたいところだが、返り討ちに合うのが関の山だろう。

「誰か・・・・・・あの男より強い人は・・・・・・・」

 口の端に滲む血を拭いながら伸吉は考える。奉行所に訴えても、火付けや人殺しでもしてくれない限り動いてはくれないだろし、見廻組は新選組以上にガラが悪い。そうなるとやはり新選組になるだろう。

「沖田はんやったら・・・・・・」

 別れたとはいえ、その別離は局長命令によるもので、沖田も小夜に未練があったと聞いている。既に婚約、結婚をしているかもしれないが、藤堂から小夜を助けてくれるくらいは問題ないだろう――――――姉を助けるにはそれしか方法がないと思い込んだ伸吉は立ち上がると、一目散に不動堂村へと走りだす。
 新選組の屯所移転は京雀達の間でかなり話題になっていた。不動堂村にまるで大名屋敷のような屯所が建てられ、その費用は西本願寺が全部負担したなど、下世話なものばかりだったが、それでも新たな新選組屯所を見つけ出すには充分な情報だ。
 そして噂通り、否、それ以上の威容を誇る新選組屯所をすぐに見つけ出したまでは良かったが、生憎沖田はいなかった。そして門番に沖田がいるかどうか尋ねたが、伸吉の怪我以上にかわた特有のその姿を咎められ、門前で足止めを食らっていたのだ。そんなところにちょうど沖田が屯所に帰ってきてくれた――――――伸吉の話はそこで終わった。

「そんなことが・・・・・・ひどすぎる」

 伸吉の話が終わった瞬間、沖田の口から小さな声が零れる。

「沖田・・・・・・はん?」

「あなたの話は承知しました―――――――丁度今、局長も副長も多出していますから都合もいいですし、これから小夜を助けに行きましょう。案内を、してくれますか」

 そう言って沖田はゆらりと立ち上がる。その姿はさながら地獄の底から這い上がってきた幽鬼のようだった。



UP DATE 2015.1.24

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青天の霹靂―――まさにこのことでしょう。てっきり自分のことなど忘れて幸せに暮らしているとばかり思っていた愛しい人が、暴力に耐え軟禁されているような状況に陥っているとは。
藤堂に口説かれ、頷いた小夜の姿を目の当たりにした沖田にとって、これは本当に驚きだったでしょう。そして同時にもしかしたらもう一度小夜に逢えるかもしれないとの思いがよぎったに違いありません。

しかし小夜を助けると言っても果たしてすんなりと行くことが出来るのでしょうか?伊東派との約束もありますし・・・次回更新は1/31、藤堂の休息所に行こうとする沖田ですが、とある人物の妨害が入ります。怒りに狂った沖田ですから、それを止められる人物は限られてきますが・・・次回をお楽しみくださいませ(*^^*)
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S様、コメントありがとうございますm(_ _)m 

ご無沙汰しております。拙作へのお言葉、ありがとうございました(*^^*)
恋ゆえの迷いなのでしょうが、拙宅の平助は少々歪んだ形でそれが吹き出してしまったようです(´・ω・`)
心に鬼を宿してしまった藤堂平助の行く末、見届けていただけましたら幸いです(^^)
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