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「紅柊(R-15~大人向け)」
丙申・春夏の章

梅花香の宵闇・その壹~天保七年二月の祝言

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「おい、前畑。お前、今日も仕置に参加しないのか?今年に入ってから首切りはだけじゃなくその後の稽古さえしていないように思えるが」

 二月最初の小伝馬町における罪人の仕置の前、控えに回って大名らから依頼された刀剣を揃えていた前畑芳太郎に、牢屋敷同心の田中が声をかけてきた。その問いかけに芳太郎は少し困ったような、しかし何故か嬉しそうな表情を浮かべつつ頭を掻く。

「え、ええ。ちょっと事情がございまして・・・・・・」

「田中さん、聞いてやってくださいよ!こいつ、ず~~~~っと恋仲だった相手をとうとう娶りやがるんです!だからひと月の精進潔斎で死穢に関われなくって」

 二人の間を割ってそう口を挟んできたのは五三郎だった。どうやら喋りたくてウズウズしていたらしい。そして五三郎からの暴露を聞いたその瞬間、田中の目も輝き出す。

「へぇ、そりゃ目出度いじゃねぇか!で、いつなんだ祝言は?」

「ありがとうございます。実は祝言は明日でして・・・・・・次回からはお勤めを再び勤めさせていただくことになりますので宜しくお願いします」

 芳太郎は照れ笑いを浮かべながら田中に礼を言った。武家にしては極めて異例な、恋仲同士での結婚だけに気恥ずかしさが先立つが、寿ぎの言葉を送られればありがたいと思うし、嬉しさも湧き出してくる。

「なるほどな。そりゃあ祝言前に仕置きに直接関わったんじゃ寝覚めが悪い」

 どうやら田中も芳太郎の事情を理解してくれたらしい。立ち会う際もできるだけ死穢に近づかないように後方へ座るよう促してくれた。

「ありがとうございます――――――しかしさすがにひと月も本当の試し切りをしていないと、腕が落ちているような気がして」

「そりゃあ気にしすぎだろ。そもそもお前さんは御様御用を任されたんだ。そんな簡単に腕なんかいちやしねえよ・・・・・・おっと、そろそろ時間だな。取り敢えず今日は大人しくしてろ」

 田中のその言葉と同時に、死罪の者が二人刑場に入ってくる。今までの穏やかだった空気は一変、刑場には言い知れぬ緊張感が漂い始めた。



 翌日二月六日、吉昌の江戸城登城の日ということもあり、道場の稽古も藩の仕事も全て休みにした芳太郎は朝からそわそわと落ち着きがなかった。

「おいおい、みっともないぞ芳太郎。これからは女房持ちになるんだからもう少しでん、と構えたらどうだ」

 あきれ果てた父・四兵衛から注意されるものの、暫くするとまたそわそわと部屋を回り出す。こんな調子で道場の稽古や仕事などしたら失敗ばかりでとんでもないことになりかねないだろう。いつもは長男らしく落ち着き、冷静な芳太郎とは思えない浮つきぶりである。

「全くもって前畑家の長男坊がみっともねぇ・・・・・・こりゃ、冗談抜きでお縫頼みだな」

 何度注意しても一向に落ち着かない息子を前にして、四兵衛は諦観の言葉を漏らす。四兵衛としてはお縫の二度の離縁は如何なものかと思っていたが、こんなに落ち着きのない花婿を相手にするなら、それくらいの経験は必要かもしれない。しかも幼い頃から実の姉のように芳太郎の面倒を見てくれた相手だ。これ以上の花嫁はいないだろう。

「破れ鍋に綴じ蓋とはよく言ったものだ」

 そんな四兵衛の嫌味もどこ吹く風、むしろ初々しい花嫁のごとく芳太郎は舞い上がっている。むしろ昨年の御様御用の方が遥かに落ち着いていたかもしれない。
 午前中からこんな状態で、果たして夜まで保つのだろうか――――――衣紋掛けにかかっている熨斗目麻裃をにやけ顔で見つめている長男に対し、四兵衛この日十三度目の溜息を吐いた。



 江戸の祝言は夜から始まる。それは陰陽でいうところの『陰』を司る女性を迎え入れるのに相応しい時間だと考えられていたのと、祝言の流れからそのまま初夜の床へ、という現実的な意味合いがあったと思われる。
 そんな風習に則って縫が前畑家にやってきたのは暮六ツ半、上弦の月が空を照らす頃合いだった。
 三度目とはいえ、花嫁衣装も初々しく縫は前畑家の敷居を跨ぐ。子供の頃から芳太郎やその弟達の世話を焼きに何度もまたいだ敷居だが、今日は意味合いが違うのだ。
 そしてそのまま通された部屋には熨斗目麻裃も凛々しい芳太郎が座っていた。参列者は互いの家族だけというささやかなものだったが、三度目の結婚である縫は勿論、普段からは想像もつかないほど緊張し、舞い上がっている芳太郎にとってもそれは幸いした。
 いつもよりほんの少しだけ豪勢な祝い膳に互いの家族だけ、御様御用を任された男の祝言とは思えぬほどささやかな三三九度が終わった後、二人は新床へと入る。

「ふぅ、やっと終わった」

 二人きりになるなり、大の字に布団の上に倒れこんだ芳太郎を縫が窘める。

「もう、本当に行儀が悪いんだから。芳ちゃ・・・・・いいえ、旦那様は」

 少しはにかみの色を含んだその一言に、芳太郎は驚きの表情を露わにし、思わず起き上がった。

「お縫さん!今、旦那様って俺のこと・・・・・・」

「そりゃそうよ。今日から夫婦になるんだし、さすがに『芳ちゃん』は無いでしょう。それと・・・・・・」

 頬を桜色に染めながら、縫は囁く。

「私のことも『お縫さん』じゃなく、呼び捨てに・・・・・・ね。家の主が妻を『さん付け』じゃあみっともないでしょ?」

 窘められているものの、いつにない色っぽい物言いに芳太郎の気持ちは更に昂ぶる。

「じ、じゃあお縫さ・・・・・じゃない、お縫」

「はい、旦那様」

 柔和で、そして艶めいた声は芳太郎の耳を心地よくくすぐった。

「これからも・・・・・・よろしく・・・・・・お願いします」

 やはり今までの関係性は抜けないのか、ついつい敬語になってしまう芳太郎に縫は思わず吹き出してしまう。そんな縫につられるように笑いながら、芳太郎は縫の身体を引き寄せた。

「お縫・・・・・・さん」

 芳太郎は自分の言葉遣いを咎めようとする縫の唇を奪う。これからはひと目を気にせず、堂々と二人でいられるのだ。
 幼き頃より――――――剣の道を志し、極めようと欲するより前から求め続けていた縫を手に入れた喜びは、また格別である。勝利の美酒よりなお甘い、縫の唇を貪りながら、芳太郎は縫の腰を抱き寄せた。

「・・・・・・まだまだ良人らしくはできないかもしれないけど、そのうちお縫さんの良人に相応しい男に・・・・・・なりますから」

 縫の頬や顎、そして唇に接吻を仕掛けながら芳太郎は誓う。そんな芳太郎の首筋に抱きつきつつ、縫も芳太郎の耳許で囁いた。

「いいえ、もうあなたは私の良人として充分すぎるほと立派ですよ――――――旦那様」

 旦那様――――――その言葉はまるで媚薬のように芳太郎の脳髄を蕩けさせる。初めて身体を重ねあわせた日からどれほどこの日を待ちわびていたことか。縫に、そして周囲に認めてもらおうと日々稽古や仕事に励んでいた日々もこれで報われる。
 勝ち誇った気持ちを内に秘めつつ、芳太郎は縫の頬に己の頬をすり寄せ縫の扱き帯をゆるめてゆく。

(そういえば、夜にお縫さんを抱くのは初めてかもしれない)

 さすがに夜に出歩くのは体裁が悪いと、縫との逢瀬はいつも昼であり、日が暮れる前には藩邸に戻っていた。しかし今夜からはそんな気遣いをせずに縫を抱ける。その事実に、芳太郎はようやく結婚の自覚を覚えた。

「昼間のお縫さんもきれいだけど・・・・・・夜のお縫さんも色っぽいなぁ」

 縫の胸許に手を差し入れながら芳太郎は耳朶を軽く噛んだ。その瞬間、縫の身体がぴくん、と跳ねる。

「も、もう冗談はやめ・・・・・・あんっ」

 自分の乳首を嬲る芳太郎の指に、縫は頤を仰け反らせる。

「本当に初々しいんだから。そうやって俺を夢中にさせるんだ、お縫さんは」

 芳太郎はそう言いながら縫の胸元を左右に開き、柔らかい胸に顔を埋めた。その仕草はまるで幼子のようだが、縫の胸を嬲るその手つきは欲情に昂った男のものだ。優しく、時には激しく乳房を弄び、縫を昂ぶらせてゆく。

「だ、旦那・・・・・・さま、ぁっ」

 縫の身体が熱を帯びているのが触れた部分から感じられる。きっ昼間の日差しの下で見たら全身桜色に染まっているのだろう。

(そうか、夜だとそういった細かなところまでは見ることができないか)

 それは少し惜しいと思うが、一つ屋根の下で暮らせることを考えれば仕方が無い。稽古を理由に人の少ない下屋敷への引越申請もちらりと頭をよぎるが、藩の仕事も多く任されている長男の芳太郎にはどだい無理な話だ。

(ま、一緒に暮らしていれば、昼にお縫さんを抱ける機会もあるかもしれない)

 それはゆっくりと堪能すればいい。まずは今夜しか味わえない、『花嫁』を堪能すること――――――芳太郎はゆっくりと乳房から腹へと手を滑らせた。




UP DATE 2015.2.4

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縫の二度の離婚、そして芳太郎の御様御用を経て、ようやく二人は祝言の日を向かえましたヽ(=´▽`=)ノ
銀兵衛夫婦とは違った意味でこっちも厄介なCPですからねぇ・・・イケメン&剣術堪能な家系なのにフツウの女には見向きもしないという(更に一人の女に執着するというのも家系なのかもしれない・・・作者がいうのも何ですが面倒くさい奴らです^^;)

結婚式に関しては縫が三度目という作中での理由&一応この話の主人公である幸の祝言と重なる部分があるので、『ヒロインの祝言を重点的に!』という執筆上の理由により殆ど割愛させていただきました(^_^;)なので今回はちょっと短め・・・(-_-;)
その分、次回のエロにはがっつり力を入れさせていただきます!(おいっ)2/11,お待ちくださいませね~(^_^)/~
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