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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第二十七話・青天の霹靂・其の参

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 誇らしさと晴れがましさに満ちた声が不動堂村の新選組屯所に響き渡る。正式に幕臣になった新選組隊士達ははしゃぎながら次々に屯所へと入っていった。
 これで晴れて皆幕臣である。特に見廻組与頭格・三百俵の旗本になった近藤は御家人を飛び越えて旗本の仲間入りだ。高揚する気持ちのまま、近藤は自室へはすぐに戻らす、土方と共に怪我を負っている沖田の部屋へと向かう。

「総司、今帰ったぞ・・・・・・おっと、起き上がるな。そのままでいいから」

 そこには背中に大きな刀傷を負った沖田がうつ伏せで横たわっていた。近藤らの気配に気づき、起き上がろうとした沖田の動きを近藤は慌てて止める。

「申し訳ありません、近藤先生。ところで・・・・・・」

「そうそう、辞令受け取りの任命式!そりゃあ晴れがましいものだったぞ!お前は見廻組格七十俵三人扶持だ・・・・・・お前にも参加させてやりたかったなぁ」

 沖田が何か尋ねようとしたのを遮るように、自分の喜びを喋り倒し押し切ろうとする近藤に聞く耳をもてというのも無理な話だろう。沖田は何かを諦めたような、作り笑顔を近藤に見せる。

「・・・・・・すみません、近藤先生。こんなめでたい日の前日に取り乱してしまって」

 自分の心を殺し、周りに合わせてきたのは子供の頃から慣れているはず――――――沖田は自分に言い聞かせ、近藤が望んでいるであろう返事を返す。その模範的な返事に気を良くしたのは、近藤は更に上機嫌に笑い出した。

「解ればそれでいい。お前も幕臣に取り立てられたんだ。これからは更に己を律し、精進してくれよ」

 近藤は胸を張り、師匠然としつつ更に続ける。

「それと、これからもお前は助勤筆頭だからな。辞令にも歳の次に名前を連ねている」

 それを聞いて沖田は少し驚いたように目を見開いた。

「処断は・・・・・・無いのですか?あんなことをしてしまったのに」

 抜刀までして騒ぎを起こしたのだ。てっきり伍長、または平隊士に落とされると思っていただけに、沖田は信じられないとばかりに近藤を見つめる。そんな沖田に、近藤は優しく、しかし有無をいわさぬ力強さで沖田に告げた。

「この背中の傷だけで充分だろう。これからも俺を、そして新選組を支えてくれ」

「・・・・・・はい」

 晴れやかな近藤の言葉に、沖田は心なしか寂しげな―――――――見ようによっては諦観の笑みを返した。それを傍で見ていた土方は軽く唇を噛みしめる。

(近藤さん、総司を縛り付けに来たな)

 幕臣身分と隊内での地位、その二つによって沖田の裏切りを防ごうとしている。それが意識的なものなのか、無意識のものなのかは判然としない。ただ、無意識にしろやっと手に入れた幕臣の身分を死守しようとしていることだけは確かだ。

(喉から手が出るほど欲しかったものだからな。それも無理はねぇか)

 その人身御供になってしまった沖田を助けてやる術は今の土方には無い。さすがにだるいのか、横になったまま再び目をつぶった沖田を救ってやることが出来ない己に、土方は歯がゆさを感じずにはいられなかった。



 それから数日間、幹部たちは挨拶回りに忙しく走り回っていた。今までの会津藩預りとは立場も責任もがらりと大きく変わるのだ。近藤、土方を始め助勤はもちろん、伍長に至るまで関係各所に幕臣になった報告と挨拶をして回る日々が暫く続いた。
 そんなある日、土方は島原へと顔を出していた。揚屋町へ向かう横道を曲がった更に奥、およそ一町ほど奥へ歩いたところに数寄屋造りの瀟洒な建物『角屋』の離れである。

「まずは幕臣取立ておめでとうございます、というべきですかね?」

 冗談とも本気とも付かない斉藤の祝福に、土方は苦い笑みで答える。

「そのおかげで新選組は分離し、死者や怪我人も出ているんじゃな・・・・・・総司も今は怪我で寝込んでいる」

 土方の最後の一言に、斉藤は信じられないと目を丸くした。

「沖田さんが怪我って・・・・・・幕臣取立ての任命式に出席していなかったという噂は本当だったんですね。一体何があったんですか?そもそもあの男が遅れを取るような相手なんてそういないでしょう」

 普段はどちらかと言うと無口な斉藤が珍しくまくし立てる。上背はあるものの細身である沖田の剣はとにかく早い。その早さによって先手を取り敵を圧倒するのだ。力技の鍔迫り合いになれば沖田に勝てる自信がある斉藤だが、そこに持ち込ませてくれない。
 そんな素早さを特色とする沖田に勝てるほど素早さに長けた相手とは一体誰なのか――――――斉藤は興味に目を輝かせながら土方に尋ねる。だが、帰ってきてのは斉藤の予想を遥かに超える相手だった。

「ああ、いるさ。近藤勇――――――総司だって師匠には勝てないさ」

「近藤局長が沖田さんを?一体何があったんですか」

 さすがに愕然とする斉藤に、土方はかいつまんで事情を説明する。

「・・・・・・というわけさ。お小夜を助けに行こうとして抜刀までしやがった総司を、近藤さんが斬りつけて止めたんだ。ま、どちらも欲に囚われた末の騒動、ってところだな」

「欲、ですか?」

 沖田の『欲』は小夜に対する執着だが、近藤の『欲』とは一体何なのか。斉藤には皆目見当がつかず、土方に尋ねる。

「ああ、総司は言わずもがなだが、近藤さんは身分欲、といったところかな。確かに昔から憧れていていた身分だが、それに振り回されちまってる」

 土方は酒を飲み干す。いつもより強めの酒が土方の喉や胸を灼いてゆくが、その不快な熱さは酒だけのもので無いことを土方は知っていた。

「幕臣の地位を失わねぇようにするために、近藤さんは何だってやるだろうよ。もしかしたら、俺だって総司のように斬りつけられるかも知れねぇ」

「・・・・・・俄には信じられませんが」

「だが、信じられないからといって目を逸らしてちゃあ失敗する。むしろ懸案事項を冷静に分析して、それを利用できるくれぇの強かさがねぇと」

 不意に声に湿っぽさが無くなった土方の言葉に、斉藤は微かな笑みを口の端に浮かべる。

「さすが『鬼の副長』と言われるだけのことはありますね。やはりあんたには湿っぽい優しさは似合わない」

 部下や己だけでなく、盟友で上司でもある近藤でさえ感情に囚われず、冷徹な分析をしていく土方の強さに、斉藤は感嘆の声を漏らす。そんな斉藤の『褒め言葉』に土方は苦笑する。

「だが、俺だって最初からそれが出来たわけじゃねぇ・・・・・・組織を維持するための冷徹さを俺に教えてくれた『師匠』がいる。その墓参りに明日にでも壬生に行くかな」

 手にした盃を見つめながら土方はポツリと呟く。

「まだ芹沢さんに幕臣取り立ての報告さえしちゃいねぇ」

 そもそも芹沢の働きがなければ自分たちは京都に残ることは出来なかったわけだし、金策一つとっても芹沢自らが全面に出て汚れ役を買ってくれていた。会津藩の命令で暗殺することになったが、土方は決して芹沢を嫌っていたわけではない。むしろ組織を維持していくことの何たるかを教えてもらった存在として尊敬さえしていたと言ってもいいだろう。

「あれから三年しか経っていないんですよね・・・・・・だいぶ昔の話のように思えます」

「ああ。確かにな」

 土方は頷くと、盃の底に残っていた酒を飲み干した。



 小夜がその結び文に気がついたのは、藤堂が月真院に出向いた後の事だった。小夜はさり気なくその文を生け垣から引き抜き手にすると、家の中へ入っていく。

「一体誰からやろ」

 斉藤からの連絡か、それとも弟の伸吉からか――――――だが手紙を開くと、見慣れない細い文字が並んでいた。その内容を読み進める内に小夜の表情が強張っていく。

「総司はんが、怪我って・・・・・・!」

 それは土方からのものだった。小夜当ての手紙を斉藤に依頼して置かせたものらしい。しかしその内容は小夜にとって決して良いものではなかった。

『――――――総司が近藤さんに斬りつけられ、背中に大怪我を負った』

 そんな書き出しが小夜の目に飛び込んでくる。

『お前さんの窮状を憂えたあんたの弟が、総司に知らせに来たんだ。しかし出かけようとした処、近藤さんに見つかり斬りつけられ、後傷を負った。暫くの間は助勤筆頭のままだがこれからどうなるか判らない。少しでも総司の立場が良くなるよう、そちらで頑張ってくれ』

 簡単だがそのようなことが書かれてあった。

「総司、はん・・・・・・」

 近藤の命令で小夜との別れを決断した沖田だったが、自分の危機にその命令を破り、助け出そうとしてくれたのだ。その事実だけで小夜は幸せを感じる。

「・・・・・・うちは、鬼になります」

 土方からの手紙を握りしめ、小夜は低く呟く。

「別れさせられても――――――うちを助けてくれようとした総司はんに報いるために」

 そもそも伊東は小夜のことを、そして藤堂が小夜を囲っていることを快く思っていない。ならば藤堂を籠絡し、伊東との亀裂を深めれば、壊滅の機会は早くやってきて自分も村に帰ることが出来るかも知れないのだ。

「うちは・・・・・・戦います。総司はんのために」

 ぎらぎらと輝く夏の日差しの影で微笑む小夜は、どこまでも美しい鬼の笑みを浮かべていた。



UP DATE 2015.2.7

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幕臣取立てが正式に下され、その報告は怪我で寝ていた沖田の許へも届けられました。なおさすがに『近藤に斬られた』からという理由での欠席は体裁が悪いので病欠ということになっておりますが・・・話の中で書けていないという(^_^;)次回に書ければいいかな~と開き直っておりますwww

そして沖田の怪我は土方から斉藤を通じて小夜にも伝えられました。相変わらず斉藤はメッセンジャー役(^_^;)もう慣れたものです/(^o^)\その内容に思うところがあったのか、今までただひたすら耐えていた小夜も『鬼』になる決意をしました。果たして彼女はどのような復讐を平助にしていくのでしょうか・・・こちらは第八章のメインとなりますね(*^_^*)

次回更新は2/14、第七章最終話は歳の芹沢さんへの墓参りから始まります(*^_^*)
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