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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第七章

夏虫~新選組異聞~ 第七章 第二十八話・青天の霹靂・其の肆

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 秋とは名ばかりの厳しい日差しと蝉時雨がのどかな壬生村を包み込む。残暑厳しい壬生に、土方はふらりとやってきた。見廻組肝煎格になったにも拘らず誰一人供を付けていないところを見ると私用なのだろう。手には剥き出しの貧乏徳利をぶら下がっており、らしくもなく今様なんかを口ずさみながら向かった先は壬生寺だった。
 土方は住職に挨拶をしたあと、新選組関係者の墓がある一角へと向かった。

「よぉ芹沢さん、久しぶりだな。光縁寺の方にはちょくちょく顔を出していたんだけどよ、こっちにはなかなか来れなくて・・・・・・やっとひと息つけたぜ」

 土方はまるで生きている人間のように芹沢の墓に語りかけると、早速周囲の掃除を始める。そして墓周りをきれいに整えた後、水の代わりに酒をかけ始めた。極上の酒の、芳醇な香りが墓の周りに漂い、その匂いだけで土方は酔っ払いそうになる。

「本当にあんたは酒が好きだったからなぁ。味気ない水よかこっちのほうが良いだろう?」

 そして貧乏徳利の中の酒を全て墓にかけ終えると、墓の前でしゃがみ込み手を合わせた。

「新選組はとうとう幕臣になったぜ。上洛当初は鼻紙さえろくに買えなかった連中がよ・・・・・・もしあんたが生きていたらどんな顔をするんだろうな」

 元々水戸藩士だった芹沢である。徳川は徳川でも宗家ではなく水戸家への心酔が顕著だった。そのことでよく近藤と激論を交えたものだ。
 そう考えると幕臣取り立てを一蹴した可能性もあるかもしれないが、現将軍は水戸藩出身の徳川慶喜である。もしかしたら近藤以上に嬉々として幕臣取立ての話を受け、慶喜のために尽くそうとしたかもしれない。

「あの頃とは何もかも変わっちまった。屯所もでかくなったしよ、隊士も百人を超えたんだぜ。もうすぐ二百人を超えるだろう。それと・・・・・・皆の志も変わっちまった気がする」

 新選組の成功報告であるにも拘らず、土方のその声は隠しようのない寂しさが滲んでいた。

「昔の近藤さんはもっともっと大きな人だったような気がするんだよ。だけどよ、なんか小さくまとまっちまったというか何というか・・・・・・幕府の犬になっちまった途端に心根まで犬になっちまうもんなのかな。壬生狼の面影なんざこれっぽっちもありゃしねぇ」

 確かに人間はどんどん変わっていくものだし、成長も必要だろう。だがそれだからといって大事なものまで失くしてしまうのは如何なものだろうか――――――土方はじっと芹沢の墓を見つめながら、屯所では絶対に口にしない弱音をぽろり、と零す。

「芹沢さんよ。もしあんたが生きていたらどんな風に部下達を導いていくんだろうな・・・・・・今はまだ力で抑えこんでおけるけどよ、そのうちそれだけじゃ済まなくなるような気がするんだ」

 今は目立った動きは伊東派だけだが、彼らを慕って四人の隊士が黒谷で切腹をしているし、武田観柳斎も脱走を企てて処断されている。これから近藤向かう方向次第では、更なる離反者が出てくるかもしれない。

「・・・・・・むしろ隊士なんざ馬鹿な方が楽なんだろうな。上も、そして本人も」

 何の疑いも持たず近藤に忠誠を誓えるならば苦しむことはないだろう。だが小さな亀裂ができてしまえばそこから傷口は徐々に大きくなる。

「俺は・・・・・・もしかしたら近藤さんを取るか、隊士らを取るかの決断を迫られることになるかも知れねぇ。その時が来たら、草葉の陰で酒飲みながら見守っていてくれよ。あんたのことだ、きっと『くだらねぇことをやってるな』って思うんだろうけどよ」

 まだまだ衰えを知らないぎらつく初秋の陽光が、土方と芹沢の墓に降り注ぐ。耳を聾する蝉時雨の中、土方はいつまでも芹沢の墓の前で祈り続けていた。



 この日の不動堂村屯所はやけに静かだった。近藤が会合に、土方が芹沢の墓参りと称して壬生に出かけてしまったからだろうか。そして永倉と原田、賑やかな二人も巡察にではらっているので静かに思えるのかもしれない。
 しかしあの二人はじきに巡察から帰還するだろう。そうなる前に厠に行っておいたほうがいいかもしれないと、沖田は上体を起こした。途中であの二人に見つかり、立ち話にでもなるとさすがにまだきつい。
 だが、そんな沖田の思惑を打ち砕く賑やかなざわめきが玄関の方から聞こえてきた。そしてドタドタと乱暴な足音とともに何者かが近づいてくると、声がけもせずにいきなり襖が開かれた。

「お、総司。もう起き上がれるのか?」

 沖田の部屋を覗きこんだ永倉と原田が声をかける。これは沖田が寝込んでからの毎日の習慣である。土方に何か言い含められたのか、それとも本人たちがなにか感じるものがあるのか、少しでも時間があれば沖田の部屋を覗きこんでくれる。
 もしそれがなかったら沖田は更に塞ぎこんでいたかもしれない。時折煩わしいと思う時もあるが、二人の心遣いは本当にありがたいと沖田は心の中で感謝していた。

「ええ、いつまでも寝込んでいては身体が鈍ってしまいますから・・・・・・とは言っても南部先生には厠に行くことしか許されていませんけど」

 沖田が近藤に背中を斬られるといった騒動が起こっておよそ半月、背中の傷は南部医師の縫合の甲斐あってほぼ塞がっているものの、無理をすれば開いてしまいかねない。沖田は立ち上がると杖をついて二人の方へ近づくく。

「それより本当にすみません。私が取り乱してしまったばかりにお二人にも負担をかけてしまって」

「気にするなって。あんまり声を大にして言えないけどよ・・・・・・」

 原田はきょろきょろと周囲を見回して小声で囁く。

「惚れた女が恋敵に軟禁されてるってぇなりゃ冷静じゃいられねぇだろ。俺だっておまさがそんな目に遭ったら相手の男をぶった斬りに行っているぜ」

 男心の本音だが、あまりにも物騒な物言いに対し、永倉が少々厳しい口調で窘める。

「おいサノ、口がすぎるだろ。仮にも幕臣の身分になったんだから、少しは気をつけろ」

 だが、そんなことでへこむような原田ではない。

「え?おめぇはいいのかよ。小常さんがそんな目に遭ってもよ」

 悪びれもせずに言い放つ原田の指摘に永倉は神妙な表情で口ごもる。

「まぁ・・・・・そりゃ嫌だけどよ」

「だろ?言っちゃあなんだけど平助のやり方は武士の端くれとしてどうかと思うぜ。あんなんで向こうでうまくやっていけるのか・・・・・・袂を分かったけど気になるし、ちょっと心配もしている。あいつ、それ!と思うと周囲が見えなくなるからさ。まさに『魁先生』だよ」

「ふふっ、原田さんは何だかんだ言って優しいんですね」

 二人のやりとりを見ながら沖田は笑う。まだ少し無理をしているような作り笑顔ではあったが、それでも背中を斬られた直後に比べたらだいぶましだ。

「おうよ、その優しさでおまさを落としたんだからな!」

「けっ、よく言うぜ。口先三寸でだまくらかしたくせして」

 永倉の一言に沖田は笑い出し、原田は頬を膨らます。その時屯所の入口の方ががやがやと賑やかになった。

「あれ?巡察帰りにしては人が多いような・・・・・・」

「ああ、今日は国友村から新しい銃が届けられるって言っていたな。幕臣になるにあたって組織戦にも参入できるようにするんだとさ。いちいち面倒臭ぇよな」

 永倉の言葉に原田が頷く。

「全くだ。俺達は銃が使えるだけじゃなくいざとなったら指揮もしなきゃならねぇしよ」

「新たな隊士もどんどん入ってきますしね・・・・・・変わっていくんですね、新選組は」

 会津藩預かりの浪士集団ではなく、れっきとした幕臣になったのだ。そしてそれに伴って組織の形も、持つ意味も変わってくる。個人の技量を重要視された今までとは違い、これからは幕府全体の組織の一つに組み込まれるのだ。

(でもそれって・・・・・・私じゃなくても務まりますよね)

 新選組が幕臣になったことで隊士募集に集まってくる腕自慢も増えるだろう。いや、もしかしたら隊士の採用基準そのものも変わるかもしれない。剣術だけが取り柄の沖田は不要になるかもしれない――――――まるで時代遅れの兵法にこだわっていた武田観柳斎のように。

(いっそ・・・・・・あの時、近藤先生に斬り殺されていたほうが幸せだったのかもしれない)

 残暑の陽光が強く、厳しいものになればなるほどその影は濃く、深いものになってゆく。新選組幕臣取り立てという光り輝く誉れは、沖田の劣等感という影ををくっきりと浮かび上がらせるのだ。どんよりと落ち込み続ける気持ちだったが、その沈み込みそうな気持ちに気合を入れたのは、玄関から聞こえた平隊士達の声だった。

「土方副長、お帰りなさいませ!」

 どうやら壬生寺へ行くと言っていた土方が帰ってきたらしい。屯所の主の一人が帰ってきたことで屯所内の空気は一気に引き締まる。

「おっと、鬼の副長のご帰還だ!鉄砲の搬入に合わせて帰ってきたのかな?」

「ほぼ間違いねぇだろうな。じゃあ、総司!おめぇはゆっくり休んでろよ!」

 原田と永倉は沖田に言い残すと玄関の方へ小走りに向かってゆく。沖田はただその後姿を眩しげに見つめていた。


 誉れに満ちた幕臣としての新選組。まさに絶頂期だと言えるだろう。しかし膨らみきった満月が徐々に欠けてゆくように栄光というものも永遠に続くものではない。幕臣取立てを頂点に、新選組の凋落が始まっていくことを、この時はまだ誰も知らなかった。




UP DATE 2015.2.14

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第七章最終話は新選組の過去と未来を見つめる話になってしまいました。実のところこのような話にする予定はなく、もう少し日常的な話を予定していたんですが(^_^;)
できれば小夜と平助の場面のちらっ、と書きたかったのですが予想以上に『土方が見つめなおす過去』と『沖田が遠目で見つめる未来』の話が大きくなってしまって・・・久しぶりに『降りてきた話』ですね。時折プロットもおおまかな流れも無視しくさって『降りてくる』話というものがあるのですが、今回はまさにそれだったようです。
確かに新選組のターニングポイントである幕臣取立て、ここで管理人の思惑と違った話が向こうからやってきたというのは何かあるんでしょうね(*^_^*)
基本的には史実通りですが、どんな風に話が転がっていくのか今から楽しみです♪

この話で第七章本編は終了となります。次週の『第七章・結』『第八章・序』を経まして第八章本編に突入いたしますので、宜しかったらお付き合いのほど宜しくお願いしますm(_ _)m
(第八章本編は市村鉄之助くんの入隊空に予定です。『風~』の二次からお付き合いしてくださっている方はご存知だと思いますが、拙宅の鉄之助くんはバッタモン関西弁を駆使しますので予めご了承くださいませ←詳細は本編で多分書けると思います^^;)
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