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「紅柊(R-15~大人向け)」
丙申・春夏の章

梅花香の宵闇・其の参~天保七年二月の祝言

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 ぐっすりと眠り込んでいた芳太郎の眠りを破ったのは、この時期ならではの鴬の恋鳴きだった。藩主の好みで川越藩邸内には梅の木が多い。噂によると『花を愛でることもでき、更に実は色々と使うことができるから』というらしい。
 確かにちょっとした腹痛などは縫が分けてくれた梅干しで治せるほどだ――――――そう思った時、芳太郎は縫が横に寝ていないことに気がついた。

「お、縫・・・・・・さん?」

 縫の布団は既に畳まれ部屋の隅に積んである。芳太郎は寝乱れた寝間着の襟を正しながら起き上がり、その布団に触れる。起きてからかなり時間が経過しているらしく、布団からは人のぬくもりが消えていた。そして台所の方からは味噌汁の美味しそうな匂いが漂ってきている。どうやら既に起きて父や弟の朝餉の支度をしているらしい。

「・・・・・・今日ぐらいゆっくりしていてもいいのに」

 芳太郎はすねた表情を浮かべながら部屋から出て、普段家族で食事をする居間を覗きこむ。すると丁度朝餉を食べ終えた四兵衛と利喜多が膳を片付けるところだった。

「おお、芳太郎か。てっきりもう少し眠っているものだと思ったが」

 利喜多に膳を渡しながら四兵衛が芳太郎に語りかける。さすがに新婚初夜、そう早くは起きることが出来ないだろうし、前畑家の跡取りの事を考えたら『それくらいの頑張り』をしてもらわねば困るというのが家長の立場である。そんな父親に対し、芳太郎は少し照れくさそうにはにかんだ。

「ええ、何となく起きてしまいまして。ところでお縫さ・・・・・・お縫は?」

 さすがに父親の前で妻に『さん』付けは無いと思ったのか、芳太郎は言い直す。すると四兵衛は苦笑いを浮かべながら台所方面へ視線を向けた。。

「お縫への呼び方は無理をしなくてもいい。『お縫さん』でも暫くは構わんよ。元々そう呼んでいたのだし、お縫はかなり気の強い娘だ――――――何せ昨日の今日で台所を取り仕切って、中間の三吉を怒鳴りつけていたしな」

「そうそう!よくあの怒鳴り声で起きませんでしたね、兄上は」

 利喜多も半ば呆れたように訴える。どうやら利喜多は縫の剣幕で起きてしまったようだ。

「確かお前は午後から道場に顔を出すことになっていたな。ま、お縫も馴染みがある家とはいえ、祝言の後では勝手が違うだろう。もしかしてこちらの家に来て気が昂っているのかもしれない」

 四兵衛はそう言い残すと、利喜多を連れて道場へ出向いてしまった。

「子供の頃から出入りしていた家とはいえ、やっぱり妻として家に入るのは違ういのかな」

 そう思いながら耳を澄ますと、確かに台所の方から縫の叱咤の声が聞こえてくる。中間の三吉は芳太郎が子供の頃から前畑家に使えている男である。男ゆえの気の利かなさはあるもののそれでもよくやってくれているとおもう。だが縫から見たらそうではないらしい。
さすがに心配になった芳太郎は居間から台所へと向かう。

「だから三吉さん、火種を燻らせておくだけなんだからそんなに薪は要らないでしょ?いくら前畑本家の男たちの稼ぎが良いからって無駄遣いはだめよ!」

 どうやら薪の使用量で三吉は昨日来たての花嫁に怒鳴られているらしい。ひょい、と芳太郎が覗きこむと一方的に縫が三吉を叱り飛ばしていた。さすがにあれでは可哀想だと芳太郎が出てゆく。

「あ、若様!」

「旦那様、お早うございます」

 芳太郎の気配に気がついた二人が、同時に芳太郎に挨拶をする。きちんと結い上げられた丸髷に艶やかな鉄漿、襟まできちんと着つけた万縞にたすきを掛けた縫はすっかり人妻の佇まいだ。

「お、お早う。何だか色々大変みたいだけど」

 縫の人妻姿と二人の挨拶の勢いに気圧されつつ、芳太郎は何が起こっているのは二人に尋ねる

「ええ、火種の燻らせ方で・・・・・・そりゃあ三吉さんもよくやってくれているとは思いますけどね。こんな薪の使い方じゃお金を直接燃やすようなものですよ!」

縫が口を開きかける。これは長くなりそうだ――――――本能的にそう感じた芳太郎は縫の文句を遮るように三吉に声をかける。

「三吉。今日から台所はお縫さんに全部任せておけ」

「し、しかし今まで・・・・・・」

 台所を任されてきたのは自分だ――――――三吉がそう訴えようとするのが芳太郎にも解った。だが、それを敢えて言わせないよう芳太郎は三吉の言葉を遮るように別の仕事を言いつける。

「その代わり今まであまりできなかった中間としての仕事をもっとしてもらう。父上も御徒士頭になったことだし俺も何かと供を連れて行かないといけない。家庭内の細かなことは縫に任せてそっちに専念して欲しい」

「・・・・・・・承知しました」

 少し不服そうな表情を浮かべながらも三吉は頷いた。

(ああ、これが今までお縫さんが二度離縁した理由なのかもしれないな)

 何でも完璧にこなそうとする縫は他人に対してもそれを求めてしまう。だがそれが出来ないものもいれば家々の習慣も微妙に違うこともあるだろう。きっとそういうところから小さな綻びが生まれ、気がついた時には修復不可能なところまで行ってしまっていたのかもしれない。
 だが芳太郎はそれを疎ましいと思うことはなかった。あばたもえくぼというが、縫のそんな欠点でさえ芳太郎は愛おしいと思うのだ。

「じゃあ朝餉をお願いしてもいいですか、お縫さん」

「縫、で結構ですよ。旦那様」

 何故か頬を赤らめながら縫はそう指摘する。その瞬間、芳太郎はあることを思い出した。

(ああ、そうか。『さん』付けは閨の中だけ、って約束だったっけ)

「じゃあお縫、朝餉をよろしく頼みます。三吉、朝餉が終わったら各所に挨拶回りをしておきたいから準備をしておいてくれ。お前にも付いてきてもらうから、予め着替えておくように」

「承知しました!」

 朝から縫に強く言われ、落ち込んでいた三吉の顔が晴れやかに輝く。これで縫と三吉がいがみ合わなくても済むようになってくれればありがたいのだが――――――芳太郎はほっと胸を撫で下ろしながら願わずにはいられなかった。



 朝餉の後、芳太郎は三吉を連れて縫の実家である園田家へ祝言後の挨拶に出向いた。

「おかげさまで無事婚礼を済ますことが出来ました」

 本当ならば父親である四兵衛が行う挨拶だが、さすがに三度目の結婚では体裁が悪すぎると園田の方から断りを入れていたのだ。しかし何も無いのも如何なものかと、芳太郎自ら園田の許を訪れた。そして芳太郎の報告を聞いた園田はホッとした、父親の表情を覗かせる。

「それは重畳――――――しかし縫の奴、四兵衛さんや利喜多らを困らせてはいないか?」

 どうやら父親としてはまだまだ安心は出来ないらしい。心配そうに尋ねる園田に、芳太郎は今朝起こったことを包み隠さず話した。

「いえ、まだ父達は・・・・・・しかしそこに控えております三吉は、竈の管理がなっていないと今朝から怒鳴りつけられておりました」

 すると園田は不意に大笑いをする。

「ははは、あいつらしい!おおかた薪をそんなに使うんじゃないとか言われたんだろう。うちの奴が薪に関しては煩かったからなぁ・・・・・・三吉、済まなかったな。私からも詫ておく」

「いえ、そんな・・・・・・」

 さすがに花嫁の父親であり、元々前畑家の上役だった園田に謝られて三吉は恐縮する。

「これもいい機会です。家のことは全てお縫さんに任せて、三吉はできるだけ外に連れ出そうと思っております。そのうち利喜多も御様御用を拝命されるでしょうから、供をする機会も増えるでしょうし、三吉も忙しくなるでしょう」

「確かにな。そうなると三吉の体一つじゃ足りないんじゃないのか?」

 園田は愉快そうに笑ったあと、不意に真顔になる。

「縫は生真面目だがその分融通がきかない。解っていると思うがよろしく頼む」

 真剣な声で訴えると、園田は義理の息子となった芳太郎に深々と頭を下げる。

「勿論です。俺は・・・・・・お縫さんと一生添い遂げてみせますよ」

 園田の声に負けずとも劣らぬその真剣な言葉は、芳太郎の決意だった。

「・・・・・・尤もお縫さんに見捨てられなければに話ですけどね。そうならないように頑張ります」

 鴬の恋鳴きが仲春の空に響く。まだホーホケキョ、とうまく鳴けない若い鴬だが、そのうちうまくなるだろう。その不器用な恋鳴きを耳にしながら、芳太郎は改めて園田に一礼した。



UP DATE 2015.2.18

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なお、この後道場に出向いた芳太郎は五三郎を中心にからかわれまくる予定ですwww

順調に行った新婚初夜とは対照的に、しょっぱなから台所戦争を起こしている縫ですwww設定では芳太郎の母親は既に亡くなっていることになっているので嫁姑戦争にはなりませんが、その他の者達とは・・・同じ御徒士長屋住まいで互いの性格をよく知っているんですけど、やはり細かなところは難しいようです(^_^;)
これから色々な衝突を繰り返しながら前畑家の一員となってゆく縫とそれを支えてゆく芳太郎。もしかしたらこの夫婦の話もまた出てくるかもしれませんので、その際は宜しくお願いします(*^_^*)

来週は『つまべに草紙』(たぶん江戸に花簪を持ち込んだ上方の職人さんの話』、3月の紅柊は瀬田&久奈のCP、というか久奈の奉行所の手先初仕事になる予定です( ̄ー ̄)ニヤリ
(目指せ、激エロ!!!)
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