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「VOCALOID小説」
聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 紅き魔導戦士3

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 平地である首都・シャンジェから西に半日ほど離れた場所にある岩石鉱山・ザルハッソ山脈には既に雪がかなり降り積もっていた。この様子ではシャンジェも近日中に雪に閉ざされるだろう。その降り積もった雪の合間から見える岩塩の岩肌は、ほんのりとピンクがかっている。その岩肌を狐火で照らし出しながら黒衣の魔導師は渋い表情を浮かべた。

「一体窮奇(きゅうき)はどこにいるんだ?人を襲うというからにはこの近くにいるはずだが」

 メイコを担ぎあげたまま黒衣の男は呟く。とにかく窮奇を――――――翼のある虎の化物を見つけ出し、それを煽ってグリアーノの民や奏国の兵士達を襲わせなければならない。でなければ狄国の補給路は絶たれ、この冬を持ち越すことなく奏国の軍門に降ることになるだろう。それだけは狄国の玉蟲部隊の名において阻止しなければならないのだ。

「奏国の教導部隊も来ているのが気に食わんが・・・・・・青龍隊と共にまとめて倒せばそれで良いか」

 黒衣の魔導師は勝ち誇った笑みを口の端ににじませると、積もった雪の上にメイコを放り投げる。その衝撃に今まで気を失っていたメイコは意識を取り戻した。

「うっ、冷たい!」

 投げ下ろされた痛みと雪の冷たさに驚いたメイコは周囲を見回す。周囲は黒衣の魔導師が造り出した狐火に照らされた雪景色、そして切り立った崖ばかりだ。そして次の瞬間、メイコは寒さにくしゃみをした。さすがに麻の部屋着一枚では雪の中は寒すぎる。

「こ、ここは・・・・・・どこ?」

 少なくともシャンジェの近くではないと、メイコは寒さから身を守るように自分の身体を抱きしめ、黒衣の魔導師を睨みつける。すると黒衣の魔導師は傲慢さも露わに顎を突き出し、メイコの問いかけに答えた。

「ザルハッソ山脈。窮奇がいる岩塩鉱山さ。なかなか規模の大きい、良質な岩塩鉱山じゃないか。これほどのものを化け物がいるという理由だけで諦めるとは、グリアーノも愚かよの!」

 高笑いをする黒衣の魔導師は、何やら呪文を唱えると、掌に禍々しく赤く光る魔導球体を出す。そしてそれをメイコに向かって投げつけたのだ。

「きゃあ!!」

 実態を伴う赤い球体はメイコは吹き飛ばし、岩塩でできた崖に叩きつける。その衝撃にぐったりしたメイコはその場に崩れ落ちた。だが黒衣の魔導師は容赦なく次の攻撃を仕掛けようとする。

「ほら、かかってこい!紅の魔導戦士!お前が暴れれば窮奇もすぐにやってくるだろう!」

 再び掌に赤く禍々しい色の魔導球体を作りながら、黒衣の魔導師はメイコに一歩近づく。

「な、何をしようというの!」

 ただならぬ雰囲気を肌で感じたメイコはよろよろと立ち上がるが、メイコに出来たのはそこまでだった。

「そうだな。まずは窮奇にこの国と奏国の兵士達を食い殺してもらうとするか。そのためには・・・・・・!!!」

 黒衣の魔導師は再び赤い魔導球体をメイコに叩きつけた。それに抵抗したくても、封印の枷を付けられ、杖も手許にないメイコに抗う術はない。メイコの柔らかな身体は岩塩の岩肌にめり込み、体中に切り傷を刻み込んでゆく。

「防御魔法も使えぬか。どうやらその『封印の枷』はなかなかの優れもののようだな。お陰で俺は心置きなく貴様を料理することが出来る――――――そうだな、もう少し血の匂いを漂わせたほうが窮奇が寄ってくるか」

 再び地面に崩れ落ち、へたり込んでしまったメイコを前に黒衣の男はニヤリと笑う。そして手にした杖を振りかざした。まさにその時である。

「うぉぉ!」

 何か白っぽいものが宙に煌き、不意に男が目を押さえ蹲る。

「・・・・・・塩が目に入ると痛いのよねぇ」

 黒衣の魔導師が両目を押さえて動かなくなるのを確認したメイコは、手についた塩を払い落としながら立ち上がった。黒衣の魔導師が杖を振りかざしたその時、まさにその瞬間にメイコは手元にあった砂を――――――砕かれ、砂状になった岩塩の粒を黒衣の魔導師めがけて投げつけたのだ。
 案の定塩の粒は黒衣の魔導師の視界を奪い、刺激となって魔導師を襲う。この機会を逃してはならない。メイコは黒衣の魔導師を蹴り飛ばすと、男が手にしていた杖を奪い取り、更に止めとばかりに蹲っている項に杖を叩きつけた。さすがにその攻撃には耐えられなかったのか、黒衣の魔導師は蹲ったまま気を失う。

「それにしても・・・・・・何で人の杖ってこんなに気持ち悪いんだろ」

 気を失った黒衣の魔導師をその場に放置し、メイコはその場から離れ始めた。とにかくできるだけ早く窮奇の縄張りから離れ、手にしている杖をどこかに捨てなければならない。
 魔導師にとって杖はただの棒でも道具でもない。魔導師それぞれの分身であり、それぞれの魔法の力や生命エネルギーが血液のように流れているのだ。
 なので普通であれば他の魔道士の杖を手にしただけで吐き気をもよおしたり気分が悪くなって倒れたりするものだが、メイコは辛うじてそれに耐えている。それにはあまり褒められない理由があった。

「ミクにはよく『お姉ちゃんは鈍い!』って文句を言われるけど、こんな時は魔法を感じる感度が鈍いほうがありがたいわよね」

 実はメイコの『感知力』は魔導師見習いとは思えないほど極めて低い。
 ミクほどではないが、メイコも他の魔導師に比べたらかなり力を持っているし、その能力は癒しの魔法に特化しているミクと違って広範囲に渡る。習得している流派の関係で破壊魔法は使っていないが、もしメイコが破壊魔法を習得したら一個師団を一人で倒せるだろう。
 だが、それほどの力を持っているメイコの唯一の欠点が魔法や人の心を読む『感知力』なのだ。ただ、今回に限ってその『感知力の鈍さ』が有効に働いているようだが・・・・・・。
 メイコは杖を使って雪道を掻き分けつつ、できるだけ早く岩塩鉱山から離れようとする。でないと窮奇が出てきてしまう。その時である不意に山の上の方から咆哮が聞こえた。



 降りしきる雪に凍てつく空気、その全てを震わせる咆哮はザルハッソ山脈の上から聞こえてくる。反射的にメイコはその声の方を見ると、月明かりに照らされた翼が見えた。そしてその翼の下には獣の身体――――――黒地に白い縞の虎の姿がある。忌まわしいその姿を確認した途端、メイコは呻く。

「窮奇・・・・・・この騒ぎを聞きつけたの?」

 ただでさえ縄張り意識が強く、僅かな岩塩を採りに来た人間を食い殺す窮奇である。魔法や血で自らの縄張りを乱された窮奇が怒り狂うのは火を見るより明らかだ。
 そしてメイコの読み通り、ひと通り吠えまくった窮奇は翼を広げ、メイコと黒衣の魔導師へ襲いかかってきたのである。

「うわぁぁぁ!」

 黒衣の魔導師の叫びと共に血の匂いが周囲に満ちる。黒衣の魔導師の腹に窮奇が喰らいつき、食べ始めたのだ。岩場に響く咀嚼音とその凄惨な光景に吐き気をもよおしながらも、メイコは窮奇を刺激しないようにそっと後退る。
 黒衣の魔導師に気を取られている内に窮奇の縄張りから逃れることができれば――――――だが、メイコの思惑は脆くも崩れ去った。手にしていた魔道士の杖が岩に当たり、小さな音を立ててしまったのである。

「!!」

 その音に窮奇は耳をぴくりと動かし、メイコの方を見つめた。その黄金に爛々と煌く目は飢えた獣そのもので、気高さは一切感じられない。同じ人外のものでありながら聖龍のスミレやアゲハとは大違いだ。
 メイコに気がついた窮奇は黒衣の魔導師の血で汚れた口元を舌でぺろり、とひと舐めすると、一歩、また一歩とメイコに近づいてきた。腹が減っていればすぐに飛びついてくる筈の窮奇だが、そうしないところを見ると単に嬲り殺しにするつもりなのだろう。

「そうは・・・・・・させるか!」

 人間が窮奇に勝てるとは思わない。しかしほんの僅かの隙を――――――逃げることが出来る隙位は作れるはずだ。メイコは手にしていた黒魔道士の杖の石突を窮奇に向け、それを投げつけた。
 杖の持ち主の力が強ければ、窮奇に傷をつけることが出来るかもしれない。イチかバチかの賭けに出たメイコだったがそれは『吉』とでた。

「がぉぉぉぉぉ!!!!!」

 杖は窮奇の左目に刺さり、その激痛に窮奇はその場でのたうち回る。そしてばたつかせた翼の風圧でメイコは吹き飛ばされ、近くにあった岩に叩きつけられた。

「痛っ!」

 背中をしたたかに打ったメイコはさすがに動けなくなる。そうこうしている内に窮奇は左目に刺さった杖を折ると、残った右目でメイコを捉え、牙を向いて襲いかかってきたのだ。

(もう・・・・・・ダメだ!)

 さすがにこれでは逃げられない――――――メイコは観念して目を瞑り、心の中で妹に謝った。

(ごめんね、ミク。ずっと一緒にいてあげる約束、守ってあげられなくて。きっとカイトがあなたを守ってくれるはずよ。あいつ、態度は横柄だけど何だかんだで気を遣ってくれるし・・・・・・なんだろう、カイトの声が聞こえてくるような)

 空耳か――――――だが、次の瞬間、聞き覚えのある怒声がメイコに降りかかってきたのである。

「メイコ!ぼーっとするな!俺に掴まれ!一刻も早くここから逃げるぞ!!」

 その声と同時に上空から降りてくる一陣の風――――――それはスミレに乗ったカイトだった。スミレは雪の降り積もる地面に降り立つと身体を伏せる。

「早く!」

 だが、カイトのその声と同時に窮奇が襲い掛かってくる。今度こそもうダメだと思ったその時、カイトの手から何かが飛び出す。

「ぎぇぇぇぇぇぇ!」

 まるで人間の声のような咆哮を窮奇が上げる。

「さすが次期筆頭魔導師候補が念を込めた短剣だけあるな」

「な、何?」

「詳しい話は後で!さぁ!」

 カイトは伸ばされたメイコの腕を強引に引っ張り、スミレの背中に乗せる。そしてそれと同時にスミレは上空高く舞い上がった。

「窮奇は・・・・・・・」

 眼下でのたうち回る窮奇を見つめつつ、メイコは震える声で尋ねる。そしてその声に返事をしたのはカイトではなくスミレだった。

『あれはいけませんね。元々は我らと同じ聖獣だったはずなのに、すっかり人喰いの魔物と堕している――――――人を食らうと言っても、もう少し聖獣としての矜持は残っていると思っていたのですが。あなた達をシャンジェ城に下ろしたら、私とアゲハで始末をしに行きます。というか、人間の介入は一切無用、というのが本音ですね』

 初めて聞く厳しい口調に、聖獣の世界の掟を垣間見たような気がした。

「キヨテルの小刀がどれほどの効力を示すかわからないけど・・・・・・今晩くらいは大丈夫そうか、スミレ?」

『ええ。日が昇る頃までは問題ないでしょう。尤もあの魔物の命、半刻も無いですけどね』

 怒り心頭のスミレの口調にカイトの温かい腕。ようやく自分は助かったのだとメイコは自覚する。

「なんか・・・・・・今日は色々ありすぎて・・・・・・訳が判らない」

 カイトの胸に後頭部を委ね、メイコは疲れきった声で呟く。

「だろうね。何せ俺らがシャンジェ城を制圧したのが今日の午前何だから――――――とにかく今は少しお休み。身体もすっかり冷えきっていて傷だらけだ。あとで傷を治してもらうから」

 カイトは囁きながら更に腕に力を込める。メイコの全身を包み込むその力強さは決して嫌なものではない――――――メイコはホッとしたのか、そのまま意識を手放していった。




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ピンチに陥ったメイコでしたが、危機一髪のところで白馬ならぬ青龍に乗った王子様が来てくれましたヽ(=´▽`=)ノ

そして更にキヨテルの力が込められた小刀が窮奇封じに役立つとはwww裏設定としては魔道士の杖=最強アイテムでして、キヨテルがカイトに渡した小刀のようなアイテムは杖に比べたらごく弱いものなのです。それなのにキヨテルの小刀のほうが窮奇にダメージを与えているんですよねぇ・・・つまりキヨテルに比べて黒衣の魔導師はかなり力が弱いということになります(^_^;)

次回更新は3/16(たぶん3/17にずれこむ^^;)、紅の魔導戦士の章最終話となります(*^_^*)
(いちおー色気ゼロのベッドシーンとキヨテルによるメイコ誘拐事件分析がメインとなると思われます^^)
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