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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第二話・国友村から来た少年・其の貳

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 幕臣取立ての挨拶回りがひと段落した八月の初め、不動堂村の新選組屯所では入隊試験が行われていた。入隊したからといってすぐに幕臣になれるわけではなく、暫くは局長付という立場に置かれる。近藤の下、すなわち家臣に近い扱いとなるのだ。本来近藤はそれほど多くの家臣を持てる身分ではないのだが、新しく入ってくる隊士達を浪士のままにしておくことも出来ない。という理由から苦肉の策で『新入隊士は局長付、立場上は家臣の扱い』となったわけだが、この事が更に近藤の虚栄心、身分絶対主義に拍車をかけていくことになる。
 だが、そんなことになろうとは露にも思わない土方と緒方、そして井上は入隊希望者に手合わせの試験をさせていた。しかしどの希望者もいまいちぱっとしない。たとえ剣技が下手だろうが、負けが込もうがどこまでも諦めないしぶとさや根性があれば入隊させようかと思える。だが、今回の入隊希望者はどうも上っ面だけ――――――新選組が苦労の末ようやく得ることが出来た『幕臣』という銘に惹かれてきただけの者ばかりだったのだ。

「幕臣になりゃ、もう少しマシな奴が来るかと思ったが・・・・・・身分目当てのぼんくらばかりときやがった」

 手合わせを終えた組を下がらせた後に不満げに呟いた後、土方は次の組を呼ぶ。するとその中の一人が、先日屯所に鉄砲を届けに来た鉄之助と面立ちがよく似ているのに土方は気がついた。

(そういやあいつの兄貴が新選組に入隊を希望しているって言っていたな)

 あの少年の兄ならば、少しは使い物になるかもしれない――――――土方は期待を持ってその青年の手合わせを見つめる。だが、その期待は瞬時にして失望へと変わった。

(なんだ、こりゃ。この腕でよく新選組の入隊試験を受けようと思ったな)

 怒りや失望を通り越して失笑するしか無いほどその青年の剣技は下手だった。もしかしたら町道場で稽古を付けてもらっている子供のほうがまだましかもしれない。この青年を入隊させるのは躊躇いを感じるが、鉄砲の名手のあの少年を手に入れる事ができるのならばやむを得まいと土方は腹をくくった。

「おい、そっちの万縞の男。お前の名は?」

「はい、市村辰之助と申します!」

 土方が声をかけると、その青年は満面の笑みで返事をした。まともなのは返事だけか、と苦笑いをしそうになるのを堪えながら土方は更に尋ねる。

「おめぇ、もしかして鉄之助ってぇ弟はいねぇか?国友村にいて鉄砲の名手の」

 その瞬間、青年の顔が険しく歪む。

「はい・・・・・・鉄之助は拙者の弟ですが」

 あからさまに不満気なその声に、土方は市村と名乗った青年が弟の事を――――――更に詳しく言えば弟の才能を妬んでいる事を感じ取った。

(さもありなん。似ているのはツラだけだからな)

 きっと目の前の青年は入隊させても稽古で音を上げるだろう。むしろその方がありがたいと土方は市村に一つの条件を出した。

「おい、市村。どうしても新選組に入隊したかったら弟の鉄之助を連れて来い。でなければ新選組入隊は諦めろ。おめぇの腕ではすぐに怪我をするか巡察で命を落とすぜ」

 つまり実力だけでは入隊不可―――――――その事実を突きつけられた市村は悔しげに唇を噛み締めたが、暫く考えた後で口を開く。

「では、五日後弟を連れてこちらに伺います。その時は・・・・・・絶対に拙者を新選組に入隊をさせてください!」

 不満も露わに市村は言い捨て、まだ面接試験があるというのにその場を立ち去ってしまった。

「土方さん、あいつは止めておいたほうがいいと思いますよ。無駄な矜持にあの腕前・・・・・・持って一、二ヶ月だと思いますが」

 土方の隣に座っている緒方が土方に忠告する。だが土方は眉ひとつ動かさず言葉を返した。

「だろうな。ま、それは俺が知ったことじゃねぇ。必要なのは奴の弟の市村鉄之助、鉄砲の名手だ。まだガキだが、俺達はもとより国友村の連中の中でも一、二を争う腕だった。あの歳から鍛え上げれば次世代の幹部になるだろう」

「そこまで考えているんですか!」

 緒方は一瞬土方が冗談を言っているのかと思ったが、その目には真剣な色が宿っている。

「当たり前だろう。これから新選組はどんどん大きくなる。だが組織が大きくなればなるほど違った考えを持った連中も入ってくる。伊東のようにな」

 土方は手許の書類を繰りながら呟く。

「幸い俺達は幕臣になれた。だが、それを継続していかなけりゃ意味がねぇ・・・・・・元服前のガキを見習い隊士にしても、五年もすりゃあ一人前だ」

「確かに子供の頃から忠誠を誓わせていれば、誰かさんのように裏切ることは無いでしょうしね」

 緒方はそう言うと次の入隊希望者を呼んだ。次に二人の前に出てきた男も腕っ節に物を言わせただけのような男で、剣術の型はできていない。偶然を味方につければ生き延びることが可能かもしれないが、そう長くは持たないだろうと土方は予感する。

「やっぱり上方はろくなもんがいねぇな」

 誰にも聞こえぬよう小さな声で呟いたつもりだったが、緒方はそれを聞き逃さなかった。

「こうなると、再び江戸に隊士募集に行くことになりますか」

「その可能性がでかいな」

 とにかく今回の隊士募集は今まで以上にひどい。むしろ浪士時代の入隊試験の方が『身分』という見返りがなかった分、純粋な志を持った者達が来てくれたように思う。

「この中で一人か二人、何とかなりゃあいいけどな」

 へっぴり腰の入隊希望者を見つめながら、土方は諦観の溜息を吐いた。



 土方と緒方が入隊試験をしている丁度その時、沖田の部屋の外から甲高い声が響く。

「沖田先生、薬湯をお持ちしました」

 少年が滋養強壮に効くという薬湯を持って沖田の部屋に入ってきた。既に傷は塞がっているのだが、なかなか体調が戻らない沖田を気遣って近藤が用意してくれるものだ。

「ええ、と・・・・・・確か玉置くんでしたっけ?ありがとうございます」

 沖田はゆっくりと起き上がると、少女のような優しい顔立ちの少年に礼を述べた。
 この玉置良蔵と上田馬之丞の二人の少年らはほんの五日前、近藤付小姓として採用されたばかりである。まだまだ仕事を覚えきれずばたばたしているが、ようやく沖田への薬湯づくりは覚えたようである。
 沖田は微笑みながら薬湯を受け取ると、それを口に含んだ。すると薬湯特有の耐え難い苦さが口の中に広がってゆく。

(いつ飲んでも美味しいものじゃありませんよね)

 できれば飲まずに捨ててしまいたいところだが、さすがに目の前にいる少年の前でそれは出来ない。沖田は覚悟を決め、苦い薬湯を一気に飲み干した。

「ありがとうございました。もう近藤先生のところへ戻って構いませんよ」

 空になった湯のみを差し出しながら沖田は微笑む。そのほほ笑みに安堵の表情を浮かべた玉置は深々と一礼し、近藤の部屋へと戻っていった。

「ああいった、若い隊士達がどんどん入ってくるんでしょうね」

 玉置の軽やかな足音を聞きながら沖田は目を閉じる。

(土方さんが考えることだ。きっとあの子たちを今から育成して後々新選組幹部にするつもりなんでしょう)

 使い物にならなくなった自分は、やはりいなくても大丈夫なのだ――――――絶望感に苛まれつつ、沖田は布団を頭から被る。

「いっそあの時、近藤先生に斬り殺されていれば・・・・・・楽だったのに」

 だが沖田はこうやって生き残っている。思うように行かない運命を呪いながら、沖田はまぶたを閉じた。



 仲秋にもなれば日もだんだん長くなり、涼やかな風が吹き抜けるように鳴る。そんな過ごしやすい季節の中、藤堂平助は汗だくになりながら月真院に飛び込んできた。

「すみません、遅くなってしまって!」

 刻限は既に朝五ツ半過ぎ、本来の約束である朝五ツには半刻も遅れている。

「・・・・・・遅い!」

 苛立ちも露わに、伊東が汗だくの藤堂をぎろりと睨む。

「普段ならともかく、今日は柳原大納言殿に長州処分の寛典を訴える建白書を提出する日だろう!それなのに半刻も遅れるなんて!」

「まぁまぁ兄上。そう怒らずに」

 怒り心頭の伊東に対し、弟の三木がそれをとりなす。そして三木を助けるように斉藤も口を挟んできた。

「伊東さん、三木さんの仰るとおりだ。大事を前にして些事に囚われるのは如何なものかと・・・・・・それより早く出ましょう。今ならぎりぎり約束の刻限に間に合う」

 斉藤の言葉に伊東も渋々ながら同意した。

(お小夜さん、なかなかうまくやっているな・・・・・・素人とは到底思えん)

 まだ怒りを滲ませている伊東の肩や落ち込んでいる藤堂の背中を見つめながら斉藤は口の端を微かに吊り上げる。
 沖田が近藤に背中を斬りつけられたことを知った日から小夜は変わった。本気で藤堂を籠絡し始め、今日のように特別な日には特に藤堂を振り回すようになったのである。

「まったく・・・・・・何だよ。ここ最近ようやく靡いてくれたと思ったら、今日に限って機嫌を損ねて『出て行くかもしれへん』なんて言い出すし」

 小さな呟きが藤堂の口から漏れる。もしかしたら本人も気がついていない無意識のものかもしれない。

(お小夜さん、あんたのやり方は功を奏しているぞ。少しずつ藤堂さんの信頼は無くなってきつつある)

 今回の建白書に斉藤や藤堂が名を連ねたのも、実は裏切らないようにとのことであった。試衛館側から寝返った斉藤ならいざ知らず、元々同じ一門だった藤堂までとは・・・・・・しかも斉藤本人は伊東からこのことを伝えられているが、藤堂は聞かされていない。

(これならば、藤堂さんは半年も保たないだろうな)

 自分を含めて二枚は崩れる。後はその他の面子だ――――――急ぎ足の中、斉藤はじっくりと今後のことについて考え始めた。



UP DATE 2015.3.14

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今回は鉄之助の兄、辰之助が登場いたしました♪しかし弟と違って出来の悪い兄のようで・・・どうやら根拠の無い自信からろくな稽古もしていなかったと思われます。
(その一方弟は鉄砲の名手・・・これは努力というより単におもちゃの延長で、て感じだと思われます^^;)
果たして辰之助はちゃんと鉄之助を連れてくるのでしょうか。そして小夜の工作で徐々に伊東からの信頼をなくしつつある藤堂の行く末は・・・次回更新は3/21、辰之助の試験その後の様子となります♪
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