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「VOCALOID小説」
聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 翠の歌唱乙女1

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 凍てつく夜空に美しい歌声が響き渡る。冴え渡る月光のように澄み切ったソプラノと、柔らかなぬくもりを与えてくれる焚き火のように優しいアルト。二つの声が重なり離れ、美しい旋律を奏でながら再び重なってゆく――――――。

 その二つの声の主は、うら若い魔導師見習いの姉妹だった。身の丈ほどもある長い髪の少女は月光のソプラノを、そして艶めく紅い髪の乙女は静かに燃える熾のアルトを紡いでいた。そして、この世のものとは思えぬ妙なる調べを聞いているのは奏国第二師団、通称青龍隊の兵士達である。過酷な行軍で疲れきった身体に染み込むその歌声は、兵士達の疲れを癒していく。そしてその『癒やし』は比喩ではなく、紛れも無い現実だった。
 
 ミクの声は癒しの魔法そのものである。たちの悪い流行病に冒され、村全体が全滅するかもしれないといった危機を、ミクのこの歌声だけで防いだ実績は数知れず。そんなミクにとって一日の行軍による疲れを癒やすことなど、実のところ鼻歌だけでもで充分できる。
 だが、元々歌うことが大好きなミクである。進軍から三日、手抜き同然の鼻歌だけでは飽きたらず、メイコを巻き込んで歌い始めたのだ。
 
 それはもしかしたら自分自身を癒やすための歌だったのかもしれない。異国の兵士に連れられて、祖国を離れていかなければならない寂しさだけはどうすることも出来ないからだ。そんなミクとメイコの周囲にはいつの間にか兵士達が集い、気がつけば小さな演奏会になっていたのである。

 兵士を癒やし、己を慰める清らかな歌声は更なる盛り上がりを見せた後、静かに終わった。すると一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手喝采が沸き上がったのである。

「最高だぜ、二人共!いい声してるじゃねぇか!」

「グリアーノ語だから歌詞の意味は判らなかったけど、いい曲だってことはわかる!」

「アンコール!もう一曲頼むよ!」

「今度俺達の国の歌も教えるから、そいつを歌ってくれよ!」

 まるで子守唄をねだる子供のように、兵士達はミクとメイコに歌をせがむ。ミクの歌声にどんな魔力が秘められているか、本能的に察知したのだろう。更なる癒やし、そして救いを求めるように兵士達が迫ってきたその時である。

「おらおら、魔女の宴はここまでだ!明日も早朝から行軍を始めるからさっさと寝ちまえとカイト中将からのお達しだぜ!」

 カイトの側近である緑色の髪をした青年が大声で兵士達を牽制したのだ。兵士達は恨めしそうにその青年を見つめたが、青龍隊隊長であるカイトの命令は絶対である。諦めて自分達の天幕に引き返そうとしたその時だった。不意にミクが兵士達の背中に声をかけたのである。

「みなさ~ん!私の歌を聞いてくれてありがとうございます!もし宜しかったら明日も歌いますから!」

 その一言に兵士達は沸き立つ。その反応はグリアーノの民、否、それ以上のものだった。元々文化的に成熟し、歌や演劇が盛んな奏国の民は、種類を問わず音楽を愛する。それ故、歌詞の意味が判らぬ異国の歌であっても、耳に心地よい良い歌であれば受け入れることができるのだ。
 その歌を明日の夜も聴くことが出来る――――――その喜ばしい知らせに兵士達は子供のようにはしゃぎながら自分達の天幕へ引っ込んでゆく。

「もう。あなたが歌いたいだけでしょ、ミク」

 沸き立つ兵士達の後ろ姿を見ながら、メイコがクスクスと笑う。

「あ、ばれた?」

 姉の指摘に、ミクは小さく舌をペロリ、と出す。

「そりゃあバレるわよ。歌っているあなたは本当に楽しそうだもの」

 そんな二人の会話にに緑色の髪をした青年が少し申し訳無さそうに声をかけてきた。

「話が盛り上がっている所済まないが・・・・・・メイコ。いつものことだが中将の『お召』だ」

「え?またぁ!」

 メイコは思わず声を上げてしまい、慌てて口を押さえた。



 進軍が始まってから既に三日、メイコは毎晩カイトの天幕に呼び出されていた。表向きは『ミクと結託して脱走しないように』との事だったが、それが建前であることは誰の目にも明らかだった。そもそもミクの細腕ではメイコにかけられた封印の枷を壊すことなど出来ないし、メイコ達が逃げ出せばグリアーノの民に危険が及びかねない。そこまでして青龍隊から逃げ出すメリットなどありはしないのだ。

 カイトがメイコを天幕に呼び出す理由、それは明らかに夜伽をさせるためであろう――――――兵士達の誰もがそう思っていた。その所為で九割方の兵士達には好奇心丸出しの目で見られるし、ごく一部の若い兵士――――――明らかにカイトを慕っていると思われる、男色を好む兵士は嫉妬の目でメイコを睨みつけてくる。だがそれは、兵士達の完全な誤解であった。

(夜伽とかさぁ、そんな色っぽい事とか全然ないんだけど・・・・・・かと言って勘違いだって叫んでも誰も信じてくれそうにないし)

 刺さるような視線を背に受けながら、メイコはカイトの天幕に向かう。多分メイコが未だ純潔だと信じてくれるのは、オーラの色でそれを判別することが出来るミク位だろう。変な徒労感を感じつつ、メイコはカイトがいる天幕にするりと入り込む。そこには蜜蝋の灯りの下、地図を広げたカイトがいた。

「・・・・・・来たわよ。まだ地図と睨めっこしていたの?」

 メイコがミクに呼び出された時にも、カイトは側近たちと共に地図を覗き込み、これからの進軍について議論していた。どうやら思ったより任務が早く終わったため、近道の街道がまだ雪に閉ざされていないとの知らせが斥候から入ったらしい。
 ただ、進軍途中で雪に振られると厄介だと喧々諤々の議論をしていたのを尻目にメイコはミクに連れだされてしまったのである。

「ああ。ぎりぎり橄欖渓谷の街道を使えるかどうかなんだが・・・・・・今までの進軍速度で突っ切ることができれば確実だが、さすがに兵士に無理をさせることは難しいし」

 眉間に皺を寄せながら呟くカイトに、メイコはしれっ、と告げた。

「ああ、それならさっきミクが癒やしの魔法で兵士達の疲労を回復させておいたわよ。っていうかあの子が勝手に歌っていただけなんだけど」

 その一言にカイトは目を丸くした。

「おい、青龍隊がどれだけいるか解っているのか?あれだけの人数の疲労なんて、いくら強力な魔法使いだって・・・・・・」

「三千人くらいでしょ、青龍隊全体で?ミクなら鼻歌程度で回復させることが出来るわよ。もっと大きな街の、流行病を全滅させたことだってあるんだから」

 カイトの言葉を遮りながら、メイコは言葉を続けた。

「あの子の力は人間の想像をはるかに超えるものなの。もしかしたら神そのものの力かもしれない・・・・・・だからこそたまに吐き出させてあげないと、体調を崩すのよねぇ。むしろ三千人の兵士とグリフォン、馬達を癒やすくらいで丁度いいんじゃないかしら」

「・・・・・・つまり、今までどおりの強行軍にも耐えられる上に疲労しても回復してもらえる、ってことでいいのか?」

「ええ。むしろ私達としてはその方が助かるかな。例年ならこの時期、流行病の治療で余計な魔力を吐き出させることが出来るんだけど、今年はそれも無理そうだから」

 力が『癒やし』に特化されている分、ミクの魔力は極めて大きい。夏なら農作物の生育に、冬なら人々の流行病の治療に使って均衡を取ることが出来る魔力も、輿に乗せられての囚われの身では吐き出すことも叶わない。

「判った。だったら君の妹の力を借りることにしよう。じゃあ俺は明日の進軍予定を作るからメイコは先に寝ていてくれ」

 再び地図に目を落とすとカイトはメイコを促した。暫く寝るつもりがないのなら、もっと遅くに呼び出してくれればいいものをと思うのだが、それはぐっと堪える。

(この色気のないやりとりを見せたら、あの男の子たちも納得してくれると思うんだけど)

 丁重な扱いは受けているが、メイコもミクも捕虜であることには変わりない。カイトに何を求められても――――――夜伽でさえ断れる立場には無いのだ。その点メイコもある程度覚悟はしていたが、何故かカイトは一緒の布団で寝ること以上のことは求めて来なかった。

(ありがたい・・・・・・はずなんだけどね)

 スミレからもカイトは少年を好むと聞かされているし、そもそもカイトが女性好きであったとしても色気のない自分のような女に食指を動かすかどうかも甚だ疑問である。
 かなりの確率でメイコの貞操は保証されている気はするが、それはそれで何となく女としての矜持を傷つけられてしまう。

(やめやめ!くだらないことを考えるくらいならさっさと寝よう!)

 きっとカイトは暖を取るための抱き枕くらいにしか思っていないのかもしれない。そう考えてメイコはさっさと床に潜り込み眠り込んでしまった。

「・・・・・・人の気も知らないで」

 メイコの寝息が聞こえてきたのを確認した後、カイトは地図から目を上げ、床に近づいた。カイトが少年を相手にしていたのは嗜好の部分もあるが、それ以上に跡継ぎ問題を複雑化しないためという配慮もあった。今は亡き兄に対し『家を継ぐつもりは毛頭ない』という意思表示をするために女性には触れなかったという事情もあるのだ。
 だが既に兄や父が亡くなって五年以上が経過しており、カイトが家を継ぐことになっているので別に女性を相手にしても差し障りはない。しかし今度はカイトの身分や財産目当ての女が群がるようになり、結局少年を相手にする生活が続いているのだ。

 そこに来て出会ったのがメイコだった。田舎育ちの蛮族の娘は、カイトの身分や地位に色目を使うことなくただまっすぐにカイトを見てくれる。妹や土地の人々への深い愛情や一人青龍隊に立ち向かってきた無謀にも近い勇気にも好感が持てた。
 ただ、彼女は年齢よりもかなり奥手だ――――――もしかしたら妹のミクのほうがその点は老成しているかもしれない。スミレの背中の上で落ちないように抱きしめるだけで身体を強張らせる、耳許で囁くだけでも顔を真赤にする。そこで荒療治とばかりに己の布団に引きずり込んで寝かせているのだが、奥手な反応は相変わらずだ。

「むしろ俺のほうが忍耐力を鍛えている気がするけどね」

 勿論、ミクと力を合わせて脱走させないようにするため、または兵士達が変な気を起こさないようにするためという理由もあるが、やはり一番の理由はカイトの中に芽生え始めた淡い想いだろう。

「・・・・・・さっさと進軍してこんな生活を終わらせよう。そうすればこんな事をしなくてもいいんだから」

 カイトは自分に言い聞かせながら、メイコの隣に滑り込んだ。



「ねぇ、あなた。ミクオ君、だっけ?」

 皆が寝静まった後、ミクは輿の内側から見張りの緑の髪の青年に声をかける。

「クオでいい」

 輿の入り口で寄りかかりながら見張りをしている青年が、ミクの声に応えた。

「じゃあ、クオ君。毎日見張りに来てくれているけど、大丈夫?疲れたりはしないの?」

 進軍が始まって三日、輿の見張りにも何人か付くのだが、クオと名乗った青年だけは毎日ミクの輿の見張りについていた。もしかしたら特別な命令でも出ているのかと問いかけたところ、以外な返事が返ってきた。

「君の歌のおかげかな。疲れないし、特命が出ているわけでもない。俺が勝手にやっているだけ。あ、でも地位的なものも少しは入っている」

 実は俺、捕虜監視の責任者だからさ、とクオは笑う。その笑い声にミクもつられて笑い出す。

「じゃあ、困ったときにはよろしくね。クオ君」

「勿論。どんなことでも任せてくれよ」

 何気なく言った一言だったが、この数日後、この言葉が現実のものとなる。





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奏国物語・新章はミク及びクオがメインになる話になります(*^_^*)勿論カイメイ要素(色気無し)もありますが(^_^;)

神に近い癒しの力を持つミクは、定期的に力を吐き出さないと肉体そのものが壊れてしまうという宿命を持っています。つまり人々をひたすら助け続ける宿命ですよね・・・これはかなり辛いと思いますが、元々人懐っこく、人を助けることが好きなミクにとっては天性の仕事のようです。むさ苦しい兵士相手に毎夜のコンサートとかってwww

ただ、ミクの本領が発揮されるのは次回かその次・・・皇帝軍との合流時になります。その時にはがっくんやルカも登場する予定ですが、どんな出来事が待ち受けているのやらやら(^_^;)

次回更新予定は3/31、できれば皇帝軍との合流、そして謁見まで話を進めたいな~と思っております(*^_^*)
(それでも登場人物の2/3くらいかな・・・リンレンはもう少し後に登場予定ですしメイトやカイコに至っては登場してくれるのかどうか・・・海軍というか水軍の話も書きたいんですけどねぇ(^_^;))
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