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「VOCALOID小説」
聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 翠の歌唱乙女2

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 本来七日はかかる道のりを五日で踏破するという強行軍のお陰で、青龍隊は予定より二日早く橄欖渓谷に到着した。
 狄国とグリアーノの国境にあるこの渓谷内の街道は、極めて細い。男三人が隊列を作れば道幅いっぱいになってしまうこの渓谷では大軍は意味をなさず、ここで攻撃されてはひとたまりもないだろう。しかしそんな危険を犯してもこの道を使うのは戦場までの距離だった。狄国の西の端を突っ切るこの街道を真っ直ぐ進めば戦場となっている瓔珞高原までは丸一日の距離だ。

「多少雪は積もっているが、何とか通り抜けることが出来そうだな」

 スミレの背中で嬉しそうに呟くカイトに対し、メイコは眉間に皺を寄せつつ渓谷の上を指し示す。

「あのさぁ、カイト・・・・・・素人目に見てもここは危険だと思うんだけど。上から攻撃されたらひとたまりも無いんじゃない?」

 確かに三千人もの大軍がこの渓谷に入り込んだ時、出口を塞がれ、上から攻撃を仕掛けられてしまえば抵抗もままならないまま負けてしまう。その心配を口にするメイコだったが、カイトは自信満々にその心配を否定した。

「大丈夫、大丈夫。そんなこともあってわざわざグリフォン隊を連れてきたんだから。いざとなったら彼らが谷の上の敵を倒すし、出口で敵が待ち伏せしていたら歩兵精鋭隊が先陣を切って戦うよ。何せ今度武功を立てれば騎兵隊に昇格する者ばかり集めているからね。皆手柄を立てたくてウズウズしている」

 どこまでも自分達の勝利を確信して手の内を喋りまくるカイトだったが、メイコの胸騒ぎが消えることはなかった。

(だってここから先は狄国なんでしょ?こっちの斥候が動いているならば、宮廷魔導師は気がついていると思うんだけど)

 その瞬間、メイコは先日のザルハッソ山脈での戦いを思い出した。封印の枷を付けられ、不意を突かれた状況ではあったものの、メイコは狄国の魔導師に対して後れを取ったのだ。もしあの時窮奇が出てこなければメイコは間違いなく狄国・玉蟲部隊の魔導師に殺されていただろう。
 偵察に出ているっ端魔導師でさえあれほどの力を持っていたのだ。本国に残っている魔導師達ならば、既に青龍隊の動きを把握していると思って間違いない。だが、メイコがその心配を口にする前に青龍隊は橄欖渓谷に向かって動き出した。そして青龍隊の隊列がすべて橄欖渓谷に入ったその時である。

「あ、あれ!」

 ミクに『鈍い』と評されるメイコでさえはっきりと判るどす黒い殺気――――――それを感じたメイコが渓谷の上を指さす。するとその指し示した先から巨大な岩石が降り注いできたのである。

「危ない!歩兵隊、下がれ!」

 咄嗟にカイトが命じるが、降り注ぐ落石に混乱した兵士達は狭い道で右往左往する。先頭にいたのが精鋭兵だったからこそ辛うじて巨大岩石に潰されることだけは避けられたが、幾人かは落石によって怪我を負ってしまった。しかも落石は更に続いている。

「ちょっと!鍵外させてもらうわよ!」

 メイコはカイトの腰に付けてあった枷の鍵を強引に奪い取ると、急いで封印の枷を外し呪文を唱える。

『守護の精霊・紅葉よ!降り注ぐ岩から兵士を護れ!』

 破壊呪文が使えないメイコでは巨岩を砕くことは叶わない。せいぜい魔法の盾で兵士達を岩から守るのが精一杯だ。メイコの魔法のお陰で岩石は兵士達の上に降り注がなくなったが、これだけの攻撃を一人で防ぐにも限界がある。

「カイト・・・・・・はや、く兵士達を避難させて・・・・・・ここまで激しい攻撃だと、私の魔法にも限界が・・・・・・」

 メイコ達『白の魔導師』は癒やしや生長の魔法を得意とし、力技の魔法は苦手である。この防御もメイコだからこそ辛うじてできているが、それも時間の問題だ。脂汗を滲ませ、苦しげにカイトに告げるメイコに、カイトは頷く。

「判った。グリフォン隊!渓谷の上の敵を倒せ!騎兵隊、歩兵隊は一旦退却せよ!布陣を組み直す!」

 その号令にようやく落ち着きを取り戻した兵士達は従い始めた。歩兵隊と騎兵隊は渓谷から撤退し、グリフォン隊は渓谷の上へ駆け上がる。そしてそれに続くようにカイトを乗せたスミレも渓谷の上に飛び上がった。

《やはり魔導師達の仕業ですね》

 そこには二人の魔導師と十数人の狄国の鎧を身につけた兵士達がグリフォン隊と戦っていた。さすがに青龍隊最強と言われるグリフォン隊の兵士達は手際よく敵を倒してゆき、魔導師達も容赦なく斬り捨てる。どうやらここに来ていた敵は岩を落とすためだけの下級兵卒と下級魔導師だったらしい。魔導による反撃も無いままに、グリフォン隊は敵を全滅させた。

「カイト中将!取り敢えずここにいる敵は全て片付けましたが」

 緑色の髪をした青年――――――グリフォン隊隊長であるクオがカイトに報告する。

「判った――――――メイコ、他に気配はするか?」

 もしかしたら物陰に狄国の兵士が隠れているかもしれないとカイトは尋ねるが、メイコはそれは無さそうだと首を横に振った。

「ううん。青龍隊の兵士意外は人間どころか鳥一羽の気配さえしないけど」

 自分達の動きを察知していた割には、対応する兵士の数の少なさに気味悪さを感じる。考え過ぎなのか、それとも瓔珞高原に兵を集中させているのか――――――皇帝自らが出陣していると敵が知れば、間違いなく後者の可能性が高いだろう。

「・・・・・・遠回りをしている暇は無さそうだな。多少手間はかかるが、橄欖渓谷を突っ切ろう。グリフォン隊はこのまま渓谷上部を監視していてくれ!」

「突っ切るって・・・・・・あの岩を乗り越えていくつもり?」

 カイトの命令にメイコは目を丸くする。眼下には大小の岩が――――――ものによっては大人の背丈ほどの直径を持つ岩もある。それらが狭い山岳街道を塞いでいるのだ。それをよじ登って進軍するのはあまりにも無謀だとメイコは思ったが、その疑問にカイトは丁寧に答えた。

「青龍隊には歩兵投石隊の中に石工がいる。そいつらに砕かせれば半日もかからないだろう。ついでに投石用砲弾の補充もできそうだな。瓔珞高原での戦いでどれだけの投石が必要になるか判らないし」

 確かに投石隊の砲弾を作る際、石工の技術は必要になってくる。 そしてカイトの命令を聞いたのか、数人の兵士達が巨大な岩によじ登り、石を砕き始めたのである。数カ所に楔を打ち込み、あっさりと巨大な岩石を割る技術に、メイコは目を丸くする。

「すごい・・・・・・魔法みたい」

 瞬く間に小さな瓦礫になってゆく巨石をスミレの背中で見つめながら、メイコが感嘆の声を上げた。だが、カイトはつまらなそうに呟く。

「あんなの、基本中の基本の技術だよ。時間さえあればもっと美しく一つ一つの石を整えることだって可能だからね、うちの石工兵達は。グリアーノにだって岩を砕くくらいの技術はさすがにあるだろう?」

 何気なく尋ねたカイトの言葉に、メイコは苦笑しながら首を横に降った。

「・・・・・・ごめん、そんなのないわ。グリアーノ出身の傭兵たちの顔を見てもらえば判るでしょう?昔は岩を使って城や貴族の館を作れたみたいだけど、今はそんな技術、伝わっていないもの」

 確かに新たに青龍隊に入った傭兵達は目を丸くして石工たちの手際を見つめている。中には作業場に近づきすぎて、歩兵隊隊長に首根っこを掴まれている若い兵士もいるほどだ。

「なるほどね」

 奏国に比べグリアーノはかなり文化も技術も遅れている。そんな技術がなくても充分に暮らせるからなのだが、再建にはこの技術を学んでもらわなければいけない。カイトはグリアーノに残っているキヨテル達の苦労を想像する。

(まぁ、キヨテルは教えることを厭わないから問題ないだろうな)

 どんどん巨岩を砕いていく投石兵達を見つめながらカイトは遠くの友人を思った。



 石を砕き、投石用砲弾の調達もついでに行ってしまった為、兵士達が通れるようになるまで丸一日かかってしまったが、青龍隊は無事橄欖渓谷を通り抜けることができた。そこを抜けると道はふた手に分かれている。一方は狄国首都へ向かう道で、もう一方は奏国へ通じる道である。
 元々この街道周辺は奏国の領地だったのだが、先代皇帝の戦いにおいて狄国に占領されてしまった。その領地及び物流の動脈である街道を奪還しようと、今回の戦は起こされたのである。
 この街道近辺を取り戻せばグリアーノとも国境を隣接させることができ、そのままグリアーノを奏国に取り込むことも可能である。更にグリアーノの岩塩鉱山を整備すれば多大な利益を得られるだろう。

「よし!このまま一気に攻めこむぞ!」

 渓谷を抜ければ敵なしの青龍隊である。カイトの声に鬨の声を上げ、青龍隊は一気に街道を南東へと進軍し始めた。



 橄欖渓谷での遅れを取り戻そうと、青龍隊の強行軍は夜を徹して行われた。さすがに疲労困憊の兵士達を朝日が照らす。その時である、伸びやかなソプラノが朝日に照らしだされた陣営に響き割ったのである。
 いつもの穏やかな歌とは明らかに違う、戦う気持ちを鼓舞するような勇ましい曲調に、兵士達は耳をそばだてる。

「これ・・・・・・戦唄だわ」

 カイトと共にスミレに乗っていたメイコが驚きに目を見張る。

「あの子、争いが嫌いだから絶対に歌わなかったのに・・・・・・」

 逃れられない争いならば、せめて味方を力づける歌声を――――――そう覚悟を決めたのか。月のソプラノは朝日の輝きをまとい、更に兵士達に力を漲らせてゆく。そしてその魔力はメイコ、そしてカイトの疲労さえも回復させていった。

「美しい歌声だ・・・・・・ミクちゃんの歌声はまるで『龍の歌』のようだな」

 メイコを寒さから守るように抱きしめていたカイトが呟く。

「龍の・・・・・・歌?」

 初めて聞くその言葉に、メイコは不思議そうな表情を浮かべる。

「ああ、滅多に聞くことが出来ないんだが・・・・・・っていうか、俺も聞いたことは無いんだが、竜の歌は瑞兆なんだ。きっとこの戦、勝つだろうな」

 その時である。街道の向こう側から見慣れた形の鎧姿が――――――奏国第一師団の伝令がやってきたのである。

「第二師団に告げる!第一師団は正午に狄国への攻撃を仕掛ける。それに合わせて動くように!」

 今から進軍すれば正午からの瓔珞高原での戦いにに余裕で間に合うだろう。だが予め陣を敷き、周囲の地理的情報も精査しておいたほうがいいかもしれない。
 カイトはメイコから腕を離すとスミレの背中に立ち上がり声を張り上げる。

「陛下率いる紫龍隊はすぐそこだ!このまま突き進んで一気に狄国軍を潰すぞ!」

「おう!!」

 男たちの雄叫びは朝日に輝く草原に響いた。





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本当は皇帝軍との合流まで書きたかったんですけど・・・結局進軍だけでおわってしまいましたorz次回は戦闘シーンも多少は書けるかなぁ・・・(遠い目)

裏設定ですが、奏国が戦争をしてまで取り返そうとしているのは、経済的に重要な地点のみとなっております。元々先代の皇帝時代にかなり狄国に攻めこまれ、領地の1/3くらいは奪われているのですが・・・(おいっ)
しかし、その中でも『戦争をしてまで取り返そうとは思わない地域』というのもありますので、そこは切り捨て、重要な街道や豊かな穀倉地帯、そして貴重な資源のある場所を重点的に奪っているのです(*^_^*)

次回更新は4/7、本格的な戦闘、そして皇帝登場です♪
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