FC2ブログ

「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第五話・乱世の胎動・其の壹

 ←烏のがらくた箱~その二百六十・納税ラッシュの季節がやってきた(ヽ´ω`) →星龍旗の戦士達の物語~鬼姫参謀の淡い恋心1
 幕臣取立ての慌ただしさから新選組が落ち着きを取り戻した頃には既に九月になっていた。そして生活が日常に戻り、余裕が出てきた頃に近藤らの耳に入ってきたのが『大政奉還論』であった。
 噂によると『大政奉還論』は坂本龍馬の大政奉還論を聞いて感銘を受けた後藤象二郎を中心に作られたものだという。幕府が朝廷に大政を奉還して権力を一元化し、新たに朝廷に議事堂を設置して国是を決定すべきとするものらしい。だが、それ以上の詳しいことは皆目分からないし、これを巡って土佐藩と薩摩藩の関係が刻々と変化しているというのも聞き捨てならなかった。

「平和裏に政体変革をなす構想という噂はあるものの、それがどこまでのものか皆目わからんしなぁ。少なくとも、薩摩藩はそれが気に食わないと土佐との盟約を破棄したわけだし」

 局長室の真ん中で腕を組み、唸る近藤に対して土方はあまり興味が無さそうに返事をする。

「あそこは『頭』からして食えねぇ奴らばかりだからな。本気にするだけ馬鹿を見るぜ」

 それでなくても土方は東下の準備で忙しい。近藤が変な興味を持ち始め、土佐藩に働きかけるという面倒だけは何としてでも避けたかった。少なくとも自分が江戸から戻ってきてからならともかく、今は勘弁して欲しい――――――そんな雰囲気を露骨に漂わせながら、土方は低く唸る。

「近藤さん、もし大政奉還論について知りたきゃてめぇでやってくれよな。俺は東下の準備だけで手一杯だ」

 その鋭い一言に、近藤はビクリ、と身体を震わせる。

「も、勿論だ。お前に手間はかけさせないよ、歳」

 だがその目は僅かに泳いでいる。明らかに土方を頼りにしていたのだろう。

(普段だったらいざ知らず、今回ばかりは隊士募集の東下が優先だ。気の毒だが興味があるんだったら自らやってもらうしか無ぇな)

 その気になればつてのひとつや二つ探しだして、土佐藩と話を繋げることもできるだろう。しかも今回は自分も一ヶ月以上屯所を留守にする。さすがにその間の近藤の尻拭いは出来ない。
 困惑の表情を浮かべている近藤をそのままに、土方は用があるからと局長室を後にした。



 土方が自室に戻って報告書のまとめをしていると、鉄之介が血相を変えて部屋に転がり込んできた。入隊して一ヶ月、最初の頃こそ起こること全てに驚いていた鉄之助だったが、最近では多少のことには動じなくなっている。そんな鉄之助が慌てふためいて飛び込んできたのだから、そこそこ大きな『何か』があったに違いない。

「おう、どうした?自力で屯所に帰ってこれねぇ怪我人でも出たか?」

 からかい半分のその言葉に鉄之助はブンブンと首を横に振る。

「そないな日常茶飯事のことやありまへん!沖田センセが・・・・・・・」

 鉄之助が沖田の名を口にした瞬間、土方の眼光が鋭く光る。

「・・・・・・・総司がどうした?」

 並の隊士ならその声だけで怖気づくほどの低い声には動じることもなく、鉄之助は沖田の件を口にした。

「け、稽古をしはるからって、稽古場に行きはって・・・・・・・・」

「はぁ?あの馬鹿何を考えていやがる!」

 背中の傷は塞がっているが、寝込んでいた分筋力はすっかり衰え、屯所内を歩くのにだって苦労するほどだ。それなのに稽古をしたいからと鉄之助や他の小姓達を振りきって稽古場に行ってしまったというのである。

「どないしまひょ。傷が悪化してもうたら」

「安心しろ、それは無ぇ。むしろ傷が開いてくれりゃあ、馬鹿もできねぇだろうからありがてぇが・・・・・・まったく師匠と言い弟子と言い手間かけさせやがって!」

 土方は毒づくと、手にしていた筆を置いて立ち上がる。

「鉄、おめぇもついて来い。総司の野郎、一度シメておかねぇと留守中ろくなことをしやがらねぇだろうから、一発叩いておく!それと・・・・・・」

 土方は鉄之助に対してひとつの指示を出す。その命令に鉄之助は苦笑いを浮かべつつ、頷いた。



 土方と鉄之介が稽古場に入ると、その隅で沖田が素振りをしていた。さすがに木刀は無理なのか、軽い竹刀での素振りだ。しかもその素振りの早さは以前よりだいぶ落ちている。

「おい、総司!物事には順番てものがあらぁ!屯所の中もろくに歩けねぇ奴が、素振りなんてしてるんじゃねぇ!」

 土方が怒鳴りつけるが、沖田はすっかりこけた頬に笑みを浮かべ、首を横に振った。

「お言葉ですが土方さん。土方さんが江戸に東下している間、近藤先生の護りがかなり薄くなってしまうんですよ。助勤本来の仕事全ては無理でも、せめて護衛くらいはできるようにしておかないと」

「そんなもん、小姓達だけで充分だ。何なら試してみるか・・・・・・おい、鉄!」

「はい!」

「総司と手合わせしてやれ!」

 土方のその一言に、沖田は一瞬不服そうな表情を浮かべ唇を尖らせる。

「土方さん、いくら病み上がりだって鉄之助くんには勝てますよ」

「やってみなけりゃわからねぇだろう。それとも自信がねぇのか?」

 挑発するような土方の言葉に、沖田は怒りを露わにした。

「失礼ですね!ならば、本気でやらせていただきますよ!」

 沖田は竹刀を手にした鉄之助と向かい合うと、青眼に構える。

「どこからでもかかってきなさい」

 さすがに足を使った攻撃は今の沖田には無理である。鉄之助を迎えうつ作戦に出た沖田は鉄之助に声をかけた。

「ほな・・・・・・いかせてもらいます!」

 竹刀を手にした鉄之助は、一気に沖田との間合いを詰める。そして竹刀を振りかざし沖田に襲いかかってきた。だが、本格的に剣術を習い始めて一ヶ月足らず――――――すなわち、入隊してから本格的に剣術を習い始めた少年の攻撃は、沖田から見て隙だらけだった。

「甘い!」

 沖田は下から跳ね上げるような形で鉄之助の竹刀を払う。すると鉄之介が手にしていた竹刀は天井にまで跳ね上がり、派手な音を立ててぶつかった。だが、勝ったはずの沖田の顔は、次の瞬間驚きと悔しさに歪む。

「・・・・・・勝負ありですね、沖田センセ」

 沖田の腕の中に滑りこんできた鉄之介がニッコリと笑う。その手には短銃が握られ、銃口は沖田の眉間に突きつけられていた。

「安心してください。弾は抜いてあります」

「ひ、卑怯じゃないですか・・・・・・竹刀での稽古で短筒なんて」

 沖田は土方に対して喚くが、土方は『これが土方流だ』と鼻で笑う。

「何を言ってやがる。俺は『手合わせ』と言っただけで、竹刀での稽古とも、天然理心流でやるとも一切言っていないぜ。それに実戦だったら余裕でこういう事態は起こりえるだろうが」

 にやりと笑う土方と目を合わせた鉄之助は、短銃を懐にしまい込む。

「だから言っただろう?護衛は小姓たちで充分だと。それと、その背中の傷は誰に付けられたか忘れちゃいねぇよな?」

「・・・・・・近藤先生です」

 沖田は不服そうに事実を認める。

「ってことだ。おめぇより遥かに腕の立つ剣術の達人が、銃の使い手に守られているんだ。病み上がりでへばっているおめぇの出る幕はねぇんだよ」

 沖田は悔しそうに土方を睨みつけるが、全て真実なだけに返す言葉が見つからない。そんな沖田を鉄之助が心配そうに見守るが、土方は更に毒を吐く。

「悔しかったら鍛錬をし直すんだな。まずは屯所内をくまなく歩きまわって足腰を鍛えやがれ!」

「・・・・・・そこからですか?」

 真剣どころか木刀や竹刀さえ握れないとは―――――沖田は子供のように頬を膨らます。

「素早さで鉄之助に遅れを取った野郎が何を言ってやがる」

 土方に次々と突きつけられてゆくのは紛れも無い事実だ。その事実に沖田は現実を思い知らされ、徐々にうなだれてゆく。

「それができるようになったら両長抱の新人どもの稽古を付けてやれ。少なくとも鉄よりは楽に勝てるさ」

 たった一ヶ月前に入隊した十四歳の少年に対する土方の信頼――――――その事に沖田は軽い嫉妬を覚えた。鉄之助と同じ年の頃、自分はここまで近藤に信頼されていたかどうかと思い返すが、ここまでではなかったように思う。

「・・・・・・鉄之助くんに対する信頼、すごいですね」

「ああ。この前、こいつは短筒で不逞浪士二人を負傷させやがった」

 その話に沖田は目を丸くする。

「実戦に・・・・・・出しているんですか?」

「いいや、たまたまだ。この前黒谷に出向いた帰りに出くわしてな。その時俺と鉄、それぞれ二人づつ片付けて、たまたま近くを通りかかった見廻組に引き渡しておいた」

 色々と問題がある発言が土方の口から漏れた。確かに幕臣でありながら鉄之助以外の供を付けずに出歩くことも問題だし、手柄を争っている見廻組に不逞浪士を引き渡したことも由々しき問題だ。だからこそ土方も鉄之助もこの件に関して口を閉ざしていたに違いない。

「なるほど・・・・・・解りました。近藤先生の護衛は彼らに任せて、私はゆっくり体調を元に戻してゆきます」

「その方が俺も心置きなく江戸に帰る事ができる。俺が戻る頃には新入りの稽古を付けられるようにしておけよ、総司。おめぇはまだまだ必要だ」

 必要だ――――――その一言が、沖田の弱った身体に染み渡ってゆく。稽古場を出てゆく土方と鉄之介、二人の背中に一礼をしつつ、沖田は久しぶりに生きる喜びを実感していた。




UP DATE 2015.3.28

Back   Next


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
INランキング参加中。
お気に召しましたら拍手代わりに是非ひとポチをv


  
こちらは画像表示型ランキングです。押さなくてもランキングに反映されます。
(双方バナーのリンク先には素敵小説が多数ございます。お口直しに是非v)

 



ネット環境が全滅し、時間に間に合わないかと思っていたら何とか無事投稿できました(^_^;)

鉄之助が入隊しておよそ一ヶ月後、土方の東下の準備も着々と進み、大政奉還論の噂も各所に広まっていているようです。今のところおとなしくしている局長ですが、鬼がいなくなったらどんな行動に出るのやらやら・・・(^_^;)

そして総司もようやく立ち上がり、素振りができるまでに精神的に回復しているようです。尤も鉄之助にいいようにやられてしまっておりますが(^_^;)鉄之助のこの動き、間違いなく歳に色々仕込まれているでしょう。絶対に目潰しとかは習得済みだと思われますwww

次回更新は4/11、土方の出立&その後の局長の後藤象二郎に対するアプローチを中心に書きたいと思います(*^_^*)
関連記事
スポンサーサイト

 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ 3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ 3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ 3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ 3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ 3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ 3kaku_s_L.png 雑  記
総もくじ  3kaku_s_L.png vague~道場主・作間駿次郎顛末記
総もくじ  3kaku_s_L.png 夏虫~新選組異聞~
総もくじ  3kaku_s_L.png 紅柊(R-15~大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 葵と杏葉
総もくじ  3kaku_s_L.png 横浜慕情(大人向け)
総もくじ  3kaku_s_L.png 短編小説
総もくじ  3kaku_s_L.png VOCALOID小説
総もくじ  3kaku_s_L.png 雑  記
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【烏のがらくた箱~その二百六十・納税ラッシュの季節がやってきた(ヽ´ω`)】へ  【星龍旗の戦士達の物語~鬼姫参謀の淡い恋心1】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【烏のがらくた箱~その二百六十・納税ラッシュの季節がやってきた(ヽ´ω`)】へ
  • 【星龍旗の戦士達の物語~鬼姫参謀の淡い恋心1】へ