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「VOCALOID小説」
聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 翠の歌唱乙女3

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 奏国第一師団、すなわち皇帝率いる紫龍隊と同行している娘子軍白龍隊による攻撃は正午に開始――――――その理由は瓔珞高原の気候風土にあった。
 瓔珞高原に吹き抜ける風はかなり強い。重量のある投石でさえ風に流され、自分達を傷つけるほどだ。この風の強さゆえに人々が定住できず、戦場として充分な広さを保っていると言っていいだろう。

「予想以上に強い風だな。これじゃあ山の上からの攻撃も意味を成さない」

 カイトが小高い丘の上から瓔珞高原を覗きこむ。瓔珞高原とはこの平原を取り囲むように連なる小高い丘が瓔珞、つまり首飾りのように見えるために付けられた美しい名前である。その一方、強い上に方向が定まらないその風によって、この場所は難攻不落と言われていた。
 この場所を含めた街道を狄国に奪取されたのは二十数年前、現皇帝が生まれた年であった。奏国が世継生誕に沸いている隙を狙っての事である。そして今、当時生まれた世継が皇帝となり、満を持してこの瓔珞高原を含む街道を奪い返そうとしていた。

「この様子だと・・・・・・やっぱりある程度気温が高くなって風が弱まるお昼ごろじゃないと攻撃が始められない、ってこと?」

 カイトの隣で瓔珞高原を見下ろしていたメイコが尋ねる。風によって決して長くない髪がかなり乱れ、時折長衣の裾も膝上までめくれ上がるほどだ。

「ああ。魔導師見習い殿が風を操ることができれば別だけどね」

 強風の悪戯によって時折見えるメイコの膝を盗み見つつ、冗談半分にカイトが軽口を叩く。奏国の魔導師でさえ攻撃魔法や破壊魔法で小さなつむじ風を作るくらいが関の山だ。さすがにメイコ達『白の魔導師』には無理だろうと思ったが、何故かメイコは考えこむ。

「・・・・・・火矢、ならばできるかも」

「え?」

 俄には信じられないメイコからの返事に、カイトは思わず聞き返す。

「さすがに今は無理だけど・・・・・・もう少し風が弱くなれば火矢を敵陣に届かせることができるかも」

「おい、メイコ。それは本当か?」

 カイトが思わずメイコの肩を掴み、自らの方へ向かせる。その顔の近さにメイコは驚きつつも、嘘ではないと頷いた。

「こ、こんな時に嘘なんか言うはずはないでしょ?私の守護精霊は炎の精霊・ブレイジングだから、炎に関してある程度無理が効くのよ」

 どうやら守護精霊によって使える魔法に強弱が出てくるらしい。何となくメイコは炎の魔法が得意そうだと感じていたカイトだったが、その理由を聞いて納得する。

「そうか・・・・・・ならば後はタイミングの問題だな」

 火矢の攻撃、そしてそれに続くグリフォン隊や騎兵隊の攻撃が可能でも、一番破壊力が見込める投石隊の攻撃が出来なければ戦場は泥沼化するだろう。一気に決めるとなれば風が弱くなるほんの僅か前が最適だ。

「投石隊!投石機で一気に丘を駆け下りる準備をしろ!弓矢隊及び歩兵隊で弓が使えるものは火矢の準備を!一気に間合いを詰めて射程圏内に入るぞ!」

 攻撃など不可能だと思わせる距離から一気に間合いを詰め、速攻で相手を倒す。それが青龍隊の得意とする戦術だ。今回もその方法でいこうと部下に攻撃準備をさせながら、カイトは遠くに見える狄国軍と皇帝軍を交互に見やった。

「予想より狄国軍は多かったな。というより、こちらが粘ったから兵を投入し続けているのか――――――皇帝軍はともかく、白龍隊が意外と頑張っているところが大きいな?」

「え?奏国の白龍隊って確か娘子軍じゃ・・・・・・後方支援じゃないの?」

 今度はメイコが驚き、カイトに聞き返す。その驚きの表情に対してカイトは苦笑いを浮かべる。

「誰かさん同様、奏国の女は血の気が多くてね・・・・・・特に今の隊長になってからはほぼ皇帝近衛隊と言ってもいいんじゃないかな。皇帝軍とはかなり親密なんだよ」

 意味深な物言いをするカイトを訝しく思ったが、それを詳しく聞けるような雰囲気ではない。そうこうしている内に準備が整い、風も徐々に弱まり始めた。

「私の方はもう大丈夫よ!このくらいの風だったらあの距離まで火矢を届かせることができる!」

 より魔法の威力を高める為、弓矢隊の中央に移動したメイコがカイトに向かって叫ぶ。その瞬間、弓矢隊の兵士からどよめきが沸き起こり、カイトも愕然とする。

「おい、ここから狄国軍までの距離は弓の射程距離の二倍はあるぞ!いくら何でも無理だ!」

 だが、メイコは笑顔を見せながら大声で叫び返した。

「確かに普段はそうかもしれないけど、問題ないわ!だってそれが精霊の力を借りた魔法だもの!風がなければ更に倍は飛ばせるけどね!」

 今現在、魔法を使わなければ矢や投石は狙いとは全く違った方向に飛んでゆくだろう。じきに投石が可能になるくらい風が弱まった瞬間が勝負時だ――――――カイトはメイコの言葉に頷く。

「判った!もう少しだけ・・・・・・あっちに見える双方の軍の進行が止まったその瞬間に火矢を放つ!それに合わせて魔法をかけてくれ!」

 それはメイコと共に弓矢部隊への指令でもある。カイトの言葉にメイコと、その周囲を取り囲んでいる弓矢隊の兵士達は大きく頷いた。



 じりじりと互いに間合いを詰めていた両軍が一定の感覚を保った状態で止まる。その距離は互いの飛び道具の射程圏内ギリギリだ。
 そして青龍隊から両軍を観察できるということは同時に皇帝軍紫龍隊、そして狄国軍もカイト達青龍隊に気がついているに違いない。しかし投石は勿論、矢の射程圏内からもだいぶ離れているので、両軍共にまだ青龍隊を気にしている様子は見受けられない。

「まさかここから火矢の攻撃があるとは思わないだろうなぁ」

 スミレに乗り込んだカイトが、まるで悪戯っ子のように愉快げに笑う。そして両陣営の準備が始まった頃に風もだいぶ弱まってきた。
 投石機が使えるまであと僅か――――――その瞬間、弓矢隊の中央に陣取っていたメイコが呪文を唱え始めた。

「偉大なる炎の精霊ブレイジング!炎の矢を狄国軍に届かせ進軍を阻め!そして戦の血で汚れた大地を焼き清めよ!」

 その呪文と同時にカイトが刀を抜き放ち、号令をかける。

「弓矢隊!火矢を放て!」

 その号令とともに一斉に火矢が放たれた。いつもならばその半分の距離も届かない火矢だったが、メイコの呪文によりどこまでも長く飛んでゆく。そして精霊の力をまとった火矢は狄国の軍に届いたのだ。
 狄国の兵士や馬に火傷や刺し傷を負わせるだけでなく、地面に落ちた火矢は足元の枯れ草に燃え移る。炎は瞬く間に燃え広がり、狄国軍を包囲した。

「グリフォン隊!騎兵隊、俺に続け!一気に畳み掛けるぞ!」

 カイトに続きグリフォン隊、騎兵隊が一気に山を下る。その後に続いて投石部隊が投石器と共に山を下り始めた。いくら車輪が付いているとはいえ急な坂道を下るのは危険が伴う。しかし熟練の兵士達はそれを物ともせず勢い良く下っていく。

「本当によくやるわね・・・・・・」

 グリフォン隊、騎兵隊ならいざ知らず、投石機を転がして突き進む投石部隊の背中を見て、メイコは呆れつつも感心する。そんな中、戦況は一気に青龍隊に有利に展開していった。



 狄国軍側が青龍隊の動きを全く把握していないわけではなかった。一人は殺されてしまったが青龍隊には諜報も数名潜り込ませていたのだ。
 そして瓔珞高原の縁にあたる小高い丘に青龍隊が陣を敷いたところまで下級魔導師達からの連絡が入っていた。しかしそこは矢や投石の射程圏内からかなり離れていて、攻撃を仕掛けることは不可能なはずなのだ。
 それなのにその距離から、しかも風がまだ止まない中、火矢は的確に狄国軍に襲いかかってきたた。そして炎は足元の枯れ草に燃え移り、瞬く間に狄国軍を包み込んだのである。

「逃げろ!このままじゃ焼け死ぬ!」

「いや、奏国軍の方向に向かえば火から逃れられる。どっちみち戦うんだから攻めこんじまえ!」

「おい、向こうからグリフォン隊が!しかも先陣を切っているのは青龍だ!」

「もうダメだ・・・・・・青龍のカイトに出くわしたら命は無いって・・・・・」

 混乱と怒号が渦巻く狄国軍の脇腹を切り裂くようにカイトとスミレ、それに続きミクオ達グリフォン隊が狄国軍に襲いかかった更に騎兵隊もそれに続く。
 接近戦に持ち込まれてしまうと地の利も何もあったものではない。刀が斬り結ぶ、耳障りな金属音と共に男たちの雄叫びが響き渡り、枯れ草が燃える焦げ臭い匂いに生臭い血の香りが混じってゆく。そこへ遅れてやってきた投石隊が、砲弾開始の銅鑼を鳴り響かせたのである。

「投石隊の攻撃が始まる。一旦引くぞ!」

 カイトの号令に従い部下たちは一旦引く。それと入れ替わるように投石が降り注いだ。そして右往左往する敵を確認しながら、カイトはこちらに近づいてくる紫と白の一団を見つめる。

「最後の仕上げは皇帝にしてもらうか。青龍隊だけで手柄を取り過ぎても後々面倒だしな」

 譲るところは譲る――――――それが貴族社会で生きてゆく手段だ。まだ戦い足り無さそうな兵士達を牽制しつつ、カイトは皇帝軍が近づいてくるのを待ち続けた。



 一ヶ月以上にも渡って続いていた第二次瓔珞高原の合戦は、カイトたち青龍隊の合流で呆気無く幕引きがされた。火矢によって燃えた枯れ草は、戦闘が終わってから降り始めた雨によって徐々に鎮まりつつある。

「ごめんね。ミクの雨乞いの歌が終わるまで、もう少しだけ皇帝陛下への謁見は待っていてもらえる?取り敢えずこの山火事だけは消しておかないと」

 メイコが両手を合わせてカイトに頼み込む。

「ああ、勿論だ。さすがに俺達も焼け死には勘弁して欲しい」

 そしてカイトを通じてのメイコ達の願いはあっさりと叶えられた。というより、むしろ『緑の魔女』の力がどれほどのものか目の当たりにする機会を逃したくないというのが正しいところだろうか。遠くからでもミクに注目しているのが良くわかった。

「・・・・・・お姉ちゃん、終わったよ!」

 歌い終わったミクがニッコリと笑う。戦争で怪我された大地はメイコの炎によって浄化され、ミクの癒しの雨によって潤ったのだ。これで春になれば新たな生命が芽生えるだろう。

「じゃあ二人共、こっちへ来てくれ。陛下がお待ちだ」

 カイトの言葉にメイコとミクは強張らせた顔を見合わせ、静かに頷いた。





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ようやく皇帝軍と合流を果たしたカイト達ですε-(´∀`*)ホッ
本来、狄国軍に対して挟み撃ちを予定していたカイト達ですが、意外と狄国軍が増えていたこと&メイコという戦力によって挟み撃ちは挟み撃ちでもちょっと変則的な攻撃をしたようです。
まさか敵も射程圏外からカイトたちが攻撃してくるとは思わなかったでしょうからねぇ・・・そして冬場の草原に火矢を使うという鬼畜さwww一歩間違えば両軍共々丸焼きになりかねませんが、これもメイコの魔法で狙い撃ちができることによって出来たことでしょう。きっとミクの雨乞いは攻撃の後に聞かされたに違いありません(^_^;)

次回更新は4/14、ようやくメイコたちが皇帝に謁見いたします(*^_^*)
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