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「VOCALOID小説」
聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 翠の歌唱乙女5

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 むせび泣く月琴の伴奏に乗せて、繊細な美声が戦に荒れ果てた高原に響く。ミクの癒しの歌声はグリアーノ語の呪文を伴い、疲弊した兵士達の耳に、そして身体に染みこんでいった。
 異国語の歌詞の意味など判らない。だからといって心地よさが損なわれることは一切無かった。傷ついた兵士達はミクの歌声に聞き惚れ、中には唄に合わせてリズムを取るものまで現れる。魔導師として以前に純粋な歌姫としてのミクの才能――――――それに気を奪われ、兵士達は自らの身体の変化に気がつくのが遅れてしまった。

「あれ?傷が、傷がふさがり始めてる!」

 兵士の一人が素っ頓狂な声を上げたのは、ミクが一曲目を歌い終えた後だった。

「おい、見ろよ!こいつの傷が塞がり始めてるんだ!これだったら手当の必要もねぇや!」

 その浮かれた声に、他の兵士達も仲間や己の傷を改めて見直す。すると軽いものでは既に傷は跡形もなく消え、重症を負ったものも半分から三分の一くらいまで塞がり始めているではないか。それを知った途端、兵士達は雄叫びを上げ、ミクの周囲を取り囲んだ。その迫力にミクやメイコは勿論、仲間であるはずのクオまで慄き、反射的に後退る。だが、そんな三人の反応など知ったことではないと兵士達は更にミクの唄を求めた。

「奇跡だ!こんなに早く傷が塞がるなんて!」

「頼む!もう一曲!そうすればもっと傷は塞がるんだろ?手の遅い医療隊なんて待っていられるか!」

「グリアーノの言葉は解かんないけど、いい曲だっていうのは判る!だからもうちょっとだけ!」

 まるで菓子をねだる子供のように訴える兵士――――――彼らを宥めつつ、ミクとメイコ、そしてクオは何とか体勢を立て直す。

「まったく節操がねぇ奴らばかりだな・・・・・・おい、てめぇら!ミクの唄が聞きたかったら静かにしやがれ!」

 クオの一喝に兵士達の騒ぎがぴたりと止み、今までの喧騒が嘘だったかのように静寂が瓔珞高原に広がった。

「ようやく落ち着いたようだな・・・・・・じゃあ今度は奏国の子守唄、いこうか?」

 そう言ってクオが月琴で奏で始めたのは、先日ミクに教えたばかりの奏国の子守唄だった。奏国の国民がならば、人生で一番最初に聞くであろう歌だ。その唄をミクは、先ほどとは少し違った、暖かく柔らかな――――――喩えるならば陽だまりのようなぬくもりの声で歌い始める。すると、歌詞の意味が理解できる所為か、先程よりも兵士たちの治りが早くなったではないか。
 傷が治った兵士達は飛び跳ね、怪我の治癒を喜ぶ。その様子を遠目に見ていた皇帝の口許にも微笑みが滲み始めた。

「どうやら『緑の魔女』の力は本物である上に相当強力なようだな――――――魔女というよりは歌唱乙女と言ったほうがピッタリ来るような気もするが」

「御意。ただあの魔力は戦には・・・・・・」

「使えなくて正解だろう。もしあの力が人々の諍いに使われたら、この世は瞬く間に滅ぶ」

 皇帝の返事にカイトは安堵の表情を浮かべた。そんな会話がカイトと皇帝との間でなされている間にも、ミクの唄は兵士達を癒し続ける。

「・・・・・・そろそろ大丈夫かな」

 五曲ほど歌い終えたミクは、伴奏者のクオに声をかける。

「ああ。後はかなりの重傷者のみかな。そいつらは一箇所に集めて聞かせたほうが・・・・・・」

 と、クオが言いかけたその時、兵士達を掻き分け、何者かがミクの前に飛び出してきた。



 寛いでいたとはいえ奏国の兵士達に制止されることもなく、ミクの前に飛び出してきた者――――――それは一人の女だった。年の頃は二十代後半、メイコよりも少し年かさだろうか。
 一瞬ミクを襲おうとする敵の兵士かと判断したクオは、月琴を放り投げ刀を手にする。しかし女はミクを襲うどころか、その目の前にひざまずくと、額を地面に擦り付けながら声を絞り出した。

「賢者様!お願いします、おれの・・・・・・夫の病も治してください!」

 方言だろうか、かなり癖のある奏語でミクに訴える。

「おい女!お前、火事場泥棒の類だろう!本来なら牢屋行きだ!さっさと失せろ!」

 兵士達は女を追い返そうと肩に手をかけるが、女はその手を振り払いミクにすがりついた。

「お願いだ!ここに連れてきたくても亭主はもう歩くこともできねぇ!一曲・・・・・・それがダメなら一節だけでも・・・・・・!」

 涙ながらに訴える女にミクは困惑し、メイコの方を見やった。

「お姉ちゃん・・・・・・どうしよう」

 普段であれば気安く女の亭主のもとに行くだろう。だが、今の自分達は奏国の捕虜なのだ。勝手に動いてグリアーノの民に損害を与えるような事になるのは困る。

「あなたは・・・・・・助けてあげたいの?」

 判断をしかねている妹に、メイコが優しく尋ねる。するとミクははっきりと首を縦に振った。

「解ったわ。玉砕覚悟で私から皇帝陛下に頼んでみる。あまり期待しないで待っていてね」

 皇帝がどこまで寛容かは判らない。もしかしたら自分達の首もこの場で斬られる可能性だってあるのだ。だが、それをミクに言うべきではないだろう。メイコはあえて軽口を叩きながらその場を後にし、皇帝へと近づいていった。



 ある意味命懸けのメイコの申し出に、皇帝は拍子抜けするほどあっさりと許しを出した。

「元々瓔珞高原周辺の民は奏国の民だ。尤も、朕が生まれた頃に起こった第一次瓔珞高原の合戦前の話だが・・・・・・困っている民を救うのは皇帝として当然だ」

 そして皇帝は側に控えていた桃色の髪の美女に声をかけた。

「ルカ、魔導師の護衛を。女性の護衛なら娘子軍のほうが良かろう」

「御意」

 皇帝の命令、そしてその命令に対する娘子軍隊長の反応にメイコは慌てふためく。

「え、あ、あの・・・・・・そんな仰々しい護衛は!しかもこの御方は・・・・・・」

 メイコが何かを言いかけた時、カイトがその言葉を遮った。

「陛下、この者の護衛は私が行います。蛮族の娘故、男の護衛でも問題ございませぬ。それと訴えてきた女が本物の平民かどうかも怪しいもの。もしかしたら我々を油断させる狄国の間者かもしれません」

「蛮族だけは余計よ!」

 カイトの言葉にメイコは不服を申立てるが、カイトは気にも留めない。そんな二人を目の当たりにしながら皇帝はしばし考えた後、ようやく口を開いた。

「・・・・・・確かにそうだな。教導師団からの報告にも、狄国がこの魔導師の娘らを手に入れようと画策していたというし・・・・・・よきにはからえ」

「はっ!」

 皇帝の許可に深々と礼をすると、カイトは未だ不服そうな表情を浮かべているメイコを引きずり、その場を後にした。



 ミクとメイコ、そしてカイトを始めとする青龍隊の精鋭総勢二十名ほどは、火事場泥棒の女――――――テトの案内で瓔珞高原の北の端へと向かっていた。

「メイコ。さっきの話だけど・・・・・・もしかしてルカを皇帝の愛人と勘違いしたのか?」

 探るような、少し厳しい口調でカイトは尋ねる。カイトの態度からするとどうやら微妙な問題をはらんでいるらしい。しかしメイコは全く気にする風もなく、己の感じたままを口にした。

「愛人?そんな失礼な事言ってもいいの?だってあのお方、皇后陛下でしょ?」

「はぁ?何寝ぼけたことを!」

 カイトは大仰に呆れるが、意外な援軍がメイコに現れた。

「え、嘘でしょ?だってオーラの色が全く同じだったよ、あのお二方・・・・・・てっきりご夫婦で戦場に来ているのかと」

 それはミクだった。どうやらミクは二人を包み込むオーラによって、二人の関係を判断したらしい。

「だよね。私にだってはっきり見えるくらいだから間違いないと思うんだけど」

「お姉ちゃんにも見えたの!だったら絶対に皇后陛下か婚約者かだよね?じゃあ何で愛人でもないの?」

 歩きながら好き放題話しだした姉妹の会話に、カイトや他の青龍隊の兵士達は露骨に眉をひそめる。

「いいか?俺達の前ならいざ知らず、他の奴らの前でその話は一切するなよ!色々と厄介な事があるんだから」

「厄介な・・・・・・事?」

 理解が出来ないとメイコが小首を傾げる。

「簡単に言ってしまえば身分が違いすぎる、ってことさ。そもそもルカは貴族だけど低い身分でね。皇帝の側室になることだって無理なんだから」

 しかし皇帝は近衛隊の兵士を差し置いてルカを自分の側に侍らせている。そしてメイコやミク、魔導師見習いにとってそれ以上の事実があった。

「でも、それなのに二人のオーラの色が同じなわけ?あそこまでオーラの色がシンクロするって夫婦でも難しいわよ」

「だよね。もしかしたら神話みたいなロマンスがあるのかな?」

 どうやら恋の話が好きなのは万国共通らしい。メイコとミクの姉妹が二人の憶測を始め、早口のグリアーノ語で語りだしたのだ。どうやら『奏国の禁忌』らしいということで、兵士やカイトに内容が判らないグリアーノ語にしたらしい。
 本来ならその内容を通訳させるべきなのだが、ほぼ間違いなく妄想混じりの乙女の恋話だろう。ばかばかしくて通訳させる気も起きない。

(そのうち国の事情もしっかり叩き込んでおかないとまずいな。でないととんでもない騒動を起こしかねない)

 こめかみを指で抑えつつ、カイトは会話に夢中になって遅れがちになる二人を他所に、テトについていった。




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す、スミマセン(>_<)本当は今回で一旦区切る予定だったのですが、話が長くなりすぎました・・・orz
っていうか、皇帝・がくぽとルカのエピソードをちょこっとだけ入れておきたかったんですよ,次話の関係上(^_^;)
詳細はおいおい語っていくことになると思いますが、魔導師見習いの二人や龍たちは二人の関係を『運命』と認めているのに、奏国の社会情勢がそれを許してくれないという・・・(-_-;)

と、言い訳はこのへんにしておきまして、あともう一話だけ、『翠の歌唱乙女』にお付き合いお願いいたしますm(_ _)m
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