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「短編小説」
幕末明治つまべに草紙

幕末明治つまべに草紙・其の伍~娘義太夫の昇菊

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 それは初夏の日差しが眩しい品川での事だった。旧知の友である宇部賢太郎と共に汽車に乗り込んだ中越剛一郎は、その光景を目の当たりにして驚愕する。

「おいおい、ここは汽車の中だ・・・・・よな、賢さん」

 そこにいたのは娘義太夫らしい袴をつけた若い娘と、その取り巻き連中だった。金に物を言わせ一等車に乗り込んだのだろう。だが、その態度は一等車の客として相応しいものではなかった。
 娘義太夫は既に酒を煽って微酔い加減だ。脚を向かい側の席に座っている男の膝に投げ出し、白い脛が丸見えだ。胸許もだらしなく寛げ、乳房の膨らみが中越にさえ見えてしまっている。そしてそんな艶かしい、というよりだらしなさ極まりない娘義太夫を、取り巻き達はうっとりと見つめていた。年齢からすると大学生くらいだろうか。書生風のその姿に中越は怒りを通り越して呆れ果てた。

「おや、あれは昇菊じゃありませんか。今一番の売れっ子らしいですよ」

 中越の言葉に娘義太夫の顔をちらりと見た宇部は、物珍しそうに声を上げる。

「・・・・・・そんな売れっ子義太夫が何故汽車の中に?」

「きっと横浜で寄席があるんでしょう。さすがに一人で行動すると絡まれたりしますんで、取り巻きの書生達が姫君の護衛よろしく傅いているんですよ」

 別に珍しいことではないと、しょっちゅう汽車で東京都の間を往来している宇部は笑った。しかし中越としては腑に落ちないものがある。

(親が汗水たらして稼いだ金を娘義太夫につぎ込んで・・・・・世も末だ)

 中越自身も息子がいるだけに人事とは思えない。そしてそんな思いが表情に現れてしまったのだろう、宇部がクスクスと笑い出した。

「剛さん、心配しなくても佑君ならまじめに新聞記者の仕事をやっていますよ。智香子の尻に敷かれつつあるのが少々問題ですが」

「いや、あいつは鉄砲玉のような奴だから、智香ちゃんに手綱を引いてもらっているくらいが丁度・・・・・・」

 そう言いかけた中越が言葉を失う。

「どうしたんですか、剛さん?」

「あ、あれ・・・・・・は」

 中越は口をパクパクしながら指をさす。その先ではとんでもない光景が繰り広げられていた。なんと娘義太夫の昇菊がすらりとした脚を書生の顎の辺りまで伸ばし、足袋を履かせろと告げたのである。しかも告げられた書生は嫌がるどころか嬉々としてその命令に従い始めた。
 まるで娘義太夫の足を舐め回さんばかりに顔を近づけ、足袋を履かせてゆくその光景に、中越は頭痛を覚える。

「・・・・・・世も末だな」

 中越はハンケチを取り出し、額に滲んだ汗を拭う。それは五月の日差しのせいばかりではない。

「いやはや、さすがにあそこまでやられるとはね・・・・・・まぁ、女義太夫の中にはここじゃ憚られるような事も平然と取り巻きにさせているといいますから」

 宇部の苦笑いに中越もつられる。娘義太夫の小さな足の爪には爪紅が塗られており、その紅がやけに目につく。

(足袋を履くから見えなくなるのに・・・・・・女の考えることは解らん!)

 それを見るのはせいぜい取り巻き連中、そして今回みたいにとばっちりを受けた自分達のようなものだけだろう。

(そういえば、知人の大学教授が持っていた百科事典にあんな色の食虫植物があったな)

 毒々しい紅色の食虫植物は、近寄ってきた虫を捉え、己が養分にするという。娘義太夫とその取り巻き達の関係も何となく似ている。

(虫けらを喰らって美しくなってゆく華、か・・・・・・毒まみれの華だが)

 中越が小さなため息を吐いた瞬間、足袋によって爪紅は隠される。平凡な暮らしの隣に居られては迷惑至極だが、義太夫の舞台で遠目に見るのならこれくらい強烈な毒が必要なのだろう。
 毒々しい紅色を早く忘れたいと窓の外を見ると、外には新緑と東京湾の青い海が広がっている。目的地の横浜はあと少し、中越は潮の香りが濃くなってきた空気を大きく吸い込んだ。



UP DATE 2015.4.22 

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今回の『つまべに草子』は少々趣向を変えて、第三者から見た『女を美しくするもの』にしてみました。
多分当事者たちは自覚していないと思うんですよねぇ・・・取り巻き連中から全てを絞りとって更に美しくなってゆく女義太夫と全てを吸い取られながらなお嬉々としている取り巻き達。なんか・・・現代でもアキバあたりにいそうな気が(^_^;)
これら取り巻き連中も確かに『女を美しくするもの』には変わりないんですが、たぶん本人視点からだとバカバカしさとか哀れさはあまり表現できない・・・ということで今回は第三者視点から書かせていただきました(*^_^*)
(もう少し実力がついたら、女に貢いでボロボロになってゆく男、って書くと面白いと思うのですが←鬼)

なおこの第三者、お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが『夏虫』の聞き役にして狂言回し・中越佑とその婚約者・宇部智香子のお父さん達だったりしますwwwそのうち『夏虫』本編にもちらりと顔を覗かせるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします(*^_^*)

来月のつまべに草子は・・・これからネタ探しです(^_^;)
(一応国産石鹸を初めて作った人あたりを狙っております。西洋のお化粧は日本古来の洗浄剤では落ちにくかったらしいので^^)
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