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「VOCALOID小説」
聖龍協奏曲~奏国物語

ボカロ小説 聖龍協奏曲~奏国物語 翠の歌唱乙女6

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 テトの案内で瓔珞高原の北の端に辿り着いたメイコとミクは、目の前に現れた光景に目を疑った。

「ねぇ・・・・・・本当にこの集落、人が住んでいるの?」

 思わずメイコがテトに尋ねてしまったくらい、テトの集落はみすぼらしかった。白蟻に喰われ、風が吹く度にきしむ壁板、薄っぺらくなってしまった草葺の屋根は間違いなく雨漏りがするだろう。足元を走り抜ける鼠さえ、心なしか痩せているようにみえる。

「ああ、住んでいるさ。全部で三十人ほどだけどな」

 メイコの失言に怒ることもなくテトは小さな声で答える。そしてボロボロの集落の中でも特に酷い崩れ方をしている一軒の家の前でテトは止まった。

「ここだ」

 何故立っていられるのかと不思議に思うくらいみすぼらしい掘っ立て小屋、どうやらこれがテトの家らしい。正直なところ奏国軍の歩兵用野営天幕の方が遥かに豪華だ。メイコ達グリアーノの庶民も貧しい生活を強いられていたが、少なくとも手入をしていただけましかもしれない。

「ねぇ、さすがにこの家じゃ全員は入れないよね・・・・・・というか、三、四人入ったら足の踏み場も無いんじゃないの?」

 メイコはテトに聞こえぬよう、カイトに小声で囁く。メイコのその言葉に、カイトも渋い表情のまま頷いた。

「多分四人くらいでいっぱいいっぱいだろうね。その内の半分はテトとその亭主だから、中に入れるのは二人・・・・・・癒しのい歌姫とおまけの伴奏者だけだろう」

 カイトはクオをちらりと見ながら呟く。その呟きを聞きとがめたクオは、上司であるはずのカイトを睨みつけた。

「カイト中将、俺はおまけですか!」

 いきり立つクオに、カイトは思わず頬を緩めた。

「少なくとも今回に関してはそうだ。もしそれが不服なら他の奴を代わりに行かせても・・・・・・」

「俺が行きます!冗談じゃねぇ、他の奴らにミクを任せられるかよ!」

 この任務から自分が外されてはかなわないと、クオは自分がミクと共に行くと訴える。そして何故か耳まで真っ赤に染めながら、クオは二人の傍から離れた。

「今回はオーラの色は見えないんだけど・・・・・・もしかしてクオ君ってミクのこと、好きなのかなぁ」

 さすがに色恋に疎いメイコでも、クオの判りやすい態度には気がついたらしい。顔を茱萸の実のように真っ赤にしながらミクに声をかけているクオの横顔を見つめ、メイコは微笑む。そんなメイコの『姉の微笑み』に、カイトは複雑な表情を浮かべた。

「今更だろう・・・・・・ミクが君を『鈍い』と嘆くのも尤もだ」

 クオほど解りやすい男はいないと、カイトは続ける。

「クオは間違いなくミクに惚れている、というよりあれは神に対する崇拝に近いな。扱いは高貴な姫君に対するが如きだし、夜は必ず輿の番をしていたらしい」

 しかも他の兵士に対して露骨な牽制を加えながらだ。そんなクオの態度に同僚たちも半ば呆れ、ミクに必要以上に近づかなくなっていた。そしてその状況はさすがにメイコも理解していたらしい。

「それならミクも心配していた。毎晩見張りなんて体が持つのかって。だからクオ君の為だけに癒しの唄を歌っていたみたいだけど」

 歌う側にとっては単なるお礼だったのだろう。しかし『緑の魔女』に特別に唄を貰った側はそうは捉えない――――――カイトは確信する。

「そうか・・・・・・それが原因だな、クオがのぼせ上がっているのは。甘やかすとろくなもんじゃない」

 テトの家に入ってゆく二人の背中を眺めつつ、カイトは眉間に皺を寄せた。



 テトの小さな家は、外から見るより中に入ったほうが狭く感じられた。ミクとクオはぴったり寄り添いながら部屋の様子を観察する。煮炊きをする土間の方には調理道具がいくつかあったが、食料は殆ど無く、鍋に少しだけ粥が残っている程度だ。
 更に部屋にはベッドや食卓さえもなく、一人の男がボロ布にくるまって床に横たわっていた。テトはその男に近づき、揺り起こす。

「テッド、癒しの賢者様だ。唄だけで戦争に傷ついた兵士達の傷を治したのを俺は見ている・・・・・・きっとテッドの足や病も治してくれるさ」

 しかしテッドと呼ばれた男はだるそうに一度目を開いたが、直ぐに目を閉じてそっぽを向いてしまった。

「おい、テッド!賢者様に失礼だぞ!」

 テトは夫の体を激しく揺するが、それをミクが止める。

「大丈夫ですよ、テトさん。旦那さんがこちらを見てくださらなくても・・・・・・耳はそう簡単には塞ぐことは出来ませんから」

 ミクはテトを安心させるよう優しく微笑むと、クオに教えてもらった奏国の子守唄を歌い始めた。耳に馴染んでいる奏国語ならば、復調も早くなるのは経験済みだ。そんなミクの唄に合わせてクオが伴奏を奏でる。だが、テッドはそっぽを向いたまま三人に背を向け続けた。



 ミクの穏やかな声がみすぼらしい掘っ立て小屋から聞こえてくる。その声は決して大きくはないがよく通り、集落中へと広がってゆく。するとその歌声と兵士達の気配に気がついた集落の者が一人、また一人と小屋から出てきた。
 カイトたち青龍隊の鎧を見てさすがに一瞬怯む集落の者達だったが、メイコが手招きをすると恐る恐る近寄ってくる。

「すみません、お騒がせして」

 怯えを見せる人々に、メイコが愛想をふりまく。

「ここの奥さんに頼まれて、旦那さんの病気を治しに来たんです。本当なら私と妹・・・・・・というか妹とその相棒だけで用は足りるんですが、心配性がぞろぞろ付いてきてしまって」

 メイコの言葉に人々は厳しさ――――――否、諦めとやりきれなさを滲ませた悲しげな表情を浮かべた。

「治そうって・・・・・・そりゃ無理だ、テッドは原因不明の病で足も壊死しかけておる。本当なら早く足を切らないと身体まで腐っちまうんだ。しかし医者どころか足を切り落とす大きな刃物さえこの集落には無ぇ・・・・・・だからテトが危険を顧みず戦場に落ちた刀を拾いにいったんだが」

「なるほど、火事場泥棒にはそんな理由があったのか」

 火事場泥棒――――――カイトのその一言に、年かさの男が声を荒らげる。

「何を言うだ!俺達は狄国に支配されようと奏の民だ!どんなに苦しい境遇になっても盗みだけはしねぇ!」

 その勢いに一瞬怯んだカイトだったが、次の瞬間笑顔を向けた。

「ほう、今まで助けに来ることさえ出来なかった弱小国にそこまで忠誠を誓ってくれるとはね――――――だったらその威勢の良さを皇帝陛下の前で見せてもらおうか」

「へ?」

 カイトの思いがけない言葉に、年かさの男は呆けた間抜け面を晒す。

「陛下は今、戦場に居られる。自分が生まれた時に狄国に奪われた瓔珞高原のことを非常に気にしていらっしゃってな。だからお前たちの口から今の言葉を聞けば、陛下は間違いなくお喜びになるだろう」

 その言葉に皆歓声を上げた。中には感激のあまり泣き出すものまで現れる。だが驚きはそれだけではなかった。

「テッド、立てるようになったんか!賢者様、ありがとうございます!」

 小屋の中から聞こえてきたテトの大声は、限りない喜びに満ちていた。



 集落の者達がテトの家に前に集まりだしていた頃、ミクはクオの伴奏でひたすら歌い続けていた。その唄はどこまでも穏やかで、しかし耳にするりと心地よく入っていくものである。その声に最初こそ背を向けていたテッドだったが、唄は容赦なく耳から滑り込み、テッドの身体を癒やし始めたのである。

「な・・・・・・何でだ?飯もろくに食っていないのに・・・・・・力が漲ってゆく!」

 テッドは混乱し、思わず上体を起こす。いつもはテトに手伝ってもらわないと出来なかった行為だ。しかし今、テッドは一人で上体を起こすことが出来たのである。

「テッド!」

 上体を起こしたテッドを目の前に、テトは驚きを露わにする。だが驚きはそれだけではなかった。既に壊死しているはずの足にボロ布が触れている感触を感じたのだ。テッドは反射的にボロ布を自分の足から剥がす。

「あ・・・・・・足が、足が治ってる!」

 ミクの唄は身体の死んだ部分まで治すのか――――――驚く夫婦だったが、それを尻目にミクはまだ唄い続ける。その代わり、クオが月琴を奏でながら二人に語りかけた。

「もうちょっとだけミクの唄を聞いていな。じきにてめぇの足で立てるようになるからよ」

 そしてミクの唄が二曲が終わったあと、クオの言葉が現実となったのである。

 

 掘っ立て小屋から出てきた夫婦を、集落の民は歓声を上げ取り囲んだ。そしてそれを避けるようにミクとクオがそろりと掘っ立て小屋から出てくる。

「お姉ちゃ~ん!うまく行ったよ」

 歓喜に湧く集落の者を避けつつ、ミクはメイコの傍へ駆け寄ってきた。

「よしよし、おりこうさん!よく出来ました」

 メイコはミクをぎゅっ、と抱きしめると幼子にするように頭を撫でてやる。その様子を約二名の男が羨ましげに見つめていたのだが、それに気がつくものは殆どいなかった。
 ただ一人――――――集落の輪の中にいた若い娘がそれに気づき、意味深な笑みを浮かべる。だが、それはごく一瞬のことであり、誰もその意味深な笑みには気が付かなかった。



 そしてこの笑みを見落としてしまったことを、後にカイトとメイコは後悔することになる。



 集落の者は皇帝への謁見を済ませたあと、軍と共に奏国首都・華都に行くことになった。この場にいても冬を越せそうに無いのは勿論、奏国の風習を知っている彼らなら首都に直接連れて行っても騒動が少ないであろうと判断されたためである。

「彼らは誰かさんと違って風呂の入り方もきちんと知っているからね。お陰で助かるよ」

 あからさまなメイコに対する嫌味に対し、メイコは柳眉を逆立てた。

「悪かったわね!そもそも気持ち悪いじゃない、お湯に浸かるなんて!水でシャキッとしなきゃ汚れだって落ちないわ!」

「これだから蛮族は・・・・・・・そんなことしてみろ、一発で風邪をひく」

 互いが身につけてきた風習の違いだけは譲れないのだろうか、相変わらずスミレの背中の上でカイトとメイコは痴話喧嘩をしている。
 
(まったく・・・・・・この二人はいつになったら己の気持ちに素直になってくれるんですかね)

 自分の背中の上で毎度痴話喧嘩をする二人にスミレも呆れ顔である。首都・華都まであと一日、帰路を進む奏国軍の進みは更に早くなっていった。





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『翠の歌唱乙女』編、ようやく完結いたしましたヽ(=´▽`=)ノ予定よりちょっと長引いてしまいましたが、どうしても集落に潜り込んでいた『若い娘』の事を入れておきたかったので・・・ネタバレになるので詳細は言えませんが、狄国の間者、とだけ言っておきます。何故この集落に入り込めたのか、そして何故魔導師(見習い)であるメイコやミク、奏国の宮廷魔導師達に気づかれなかったのかはおいおい書いていくことに・・・細かな区別は付きませんが、魔導師ならば他の魔導師を嗅ぎ分けることが出来ます、どんなに鈍くてもwww

来週5/5は帰省のためお休み、続きは5/12からになりま~す(*^_^*)
(来週は連載はお休みしますが、置き土産として今後の話の展開について少々書かせていただきます。因みに次章はちょっと幕間的な話になる予定・・・詳細は次週に書かせていただきますが、多分R-18)
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