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「夏虫~新選組異聞~」
夏虫・第八章

夏虫~新選組異聞~ 第八章 第十七話・天満屋事件・其の壹

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 油小路の変の翌日は、どこまでも心地よい冬晴れだった。きん、と張り詰めた冷たい空気の中、新選組隊士達はまるで何事も無かったかのように稽古に、巡察にと日々の隊務に励む。
 そんな中、久しぶりに体調が良いからと沖田は新入隊士達に稽古をつけ、その後着替えてからふらりと玄関へ降り立った。

「沖田センセ、どちらに行きはるんですか?」

 背後から凄みを利かせた高い声が沖田にかかる。その口調がだいぶ彼の上司に似てきたなと思いつつ、沖田は振り向いた。そこには腕組みをし、仁王立ちになった鉄之助がいた。その姿もまるで土方をそのまま子供にしたようだ。

「へぇ、だいぶうまく気配を消せるようになったんですね鉄之助くん。近くに来るまで気が付きませんでしたよ。しかしその腕組みはいただけないなぁ。まるで小さな土方さんじゃないですか」

 すると鉄之助は眉をぴくり、と跳ね上げ、甲高い声で沖田に怒鳴りつけた。

「戯言は止めてください!そもそもわての気配に気が付かなかったのは体調が良くないからやないですか!それなのに新入りに稽古は付けるわ、表に逃げ出そうとするわ・・・・・・ええ加減にしてください!」

 鉄之助は沖田に近づくと、沖田の袴の腰の部分を掴んだ。

「局長や副長――――――特に土方副長からはきつく申し渡されております!熱が下がるまできちんと養生してください!」

 どうやら土方から沖田の監視をするように言い付かっていたらしい。沖田は苦笑いを浮かべつつ、自分の腰のあたりを掴んでいる鉄之助の手の甲を軽く抓る。

「いっ!」

 その瞬間鉄之助の手が緩み、沖田はするりと鉄之助の手から逃れた。

「まるで母親のようですね。でもすぐそこまで・・・・・・油小路の様子をちょっと覗いたら帰ってきますから、土方さんにそう伝えておいてください」

 どちらが大人でどちらが子供かわからない。唖然とする鉄之助を尻目に、沖田は素早く屯所の玄関を抜け出し、表へと飛び出してしまった。



 屯所の目と鼻の先にある油小路は物々しい空気に包まれていた。伊東甲子太郎を始めとする四名の亡骸がそのまま打ち捨てられ、その周囲を新選組隊士が数名取り囲んでいる。

「見せしめのためとはいえ・・・・・・見張りも大変ですよねぇ」

 高台寺党の残党が亡骸を取りに来るところを狙って一網打尽にしようという思惑もあるのだろう。迷惑を顧みず惨殺死体をそのまま油小路に晒しているのだが、正直往来の邪魔でしか無い。
 通りを行き交う町人も、眉をひそめて四人の死体とそれを取り囲む新選組隊士を見やるが、隊士達のひと睨みで目を逸らしその場を後にする。
 そんな隊士達に近づきながら、沖田は冬の日差しに晒された藤堂の亡骸を見た。血の臭いはだいぶ薄くなっているが、まだまだ色濃く漂っている。その鉄臭い臭気の中、沖田は昨日の手応えを思い出した。

(昨晩のことは・・・・・・夢ではなかったのですね)

 永倉や原田が言ったとおり、一番の深手は沖田が与えた脇腹の傷だった。その他数カ所刀傷はあったが、どれもかなり浅く、致命傷には至っていない。どうやら平隊士と戦っているうちに失血死を起こしたのだろう。ある意味沖田が殺したも同然だが、その実感は藤堂の亡骸を目の前にしても未だ実感が沸かない。

(なんかこう・・・・・・もう少し高揚感みたいなものが湧くかと思っていたんですけどね)

 足元に転がった藤堂の亡骸を見下ろしながら、沖田は心の中で呟いた。小夜を奪われ、あそこまで憎んだ相手なのに、勝利の感慨を全く感じない。沖田の中にあるのは虚しさだけだ。その理由が何なのか暫く考えた沖田だったが、ふとあることに思い至る。

(そうか・・・・・・藤堂さんを殺したからといって、小夜が私の許に帰ってくるわけじゃないんだ)

 そう思った瞬間、まるで石のように固まり、何も感じる事のなかった沖田の心が動き出した。小夜と二度と逢えぬ悲しさ、苦しみ、そしてやり場のない怒りが沖田を襲う。その息苦しさに沖田はその場にしゃがみ込んだ。

「沖田先生、大丈夫ですか!」

 沖田の異変に気がついた見張りの平隊士達が、慌てて沖田の側に駆け寄る。

「あ、ああ。すみません。ちょっと立ちくらみをしましてね・・・・・・市村さんに言われたように無理をするべきではありませんでした」

 青白い顔のまま沖田は平隊士達に心配するなと告げ、よろよろと立ち上がった。その時である。

「おい、病人がこんなところでふらついていていいのか?」

 誰かが乱暴な口調で沖田に声をかけてきた。その声の方を向きつつ沖田は笑顔で答える。

「本当はいけないんでしょうけど、出動を許されなかった身としては、やっぱり昨日の件は気になるんですよ。これでもまだ新選組の幹部に名前を連ねているんでね。ところで・・・・・・」

 沖田は声をかけてきた人物に更に尋ねる。

「皆さんとどちらに向かわれるんですか、斉藤さん。いつもとは違う、何とも不思議な編成のような気がするんですが」

 そこには斉藤と大石鍬次郎、そして数人の隊士が揃っていた。巡察の編成とも、いつもの飲み仲間とも違う、違和感を感じる編成だ。すると斉藤は連れ立っている仲間を見回しながら沖田に説明をした。

「ああ、これから三浦さんの護衛をしに、天満屋に行くところだ」

「三浦さんって・・・・・・もしかして高台寺党から脱走してきた斉藤さんを一時的に匿ってくれた、あの三浦休太郎さん?」

「ああ。あれは交換条件でな」

 斉藤が沖田に事情を説明し始める。

「俺の身を高台寺党から隠す代わりに三浦さんの護衛をと言われたんだ」

「なるほどね。となると、相手は海援隊か陸援隊でしょうけど・・・・・・」

 揃った面子を見て沖田はますます不思議そうに小首を傾げた。護衛だったら巡察の面子のほうが阿吽の呼吸で戦えると思う。しかしそうではないのだ―――――――不思議そうな表情を浮かべる沖田に、斉藤がその事情を説明し始めた。

「何せ三浦さんが大酒飲みだろ?特に酒の強い奴らを揃えた。俺の隊の奴らは半分下戸だからな」

「あ、なるほど」

 沖田も思わず頷いてしまった。確かに斉藤も大石もうわばみと言っていいほど大酒飲みだ。そして斉藤の部隊は隊長が大酒飲みゆえ、いざというとき困らぬよう半分下戸で固められていた。因みに彼らは土方直々に酒を勧められても飲む必要はないと副長直々のお墨付きを貰っている。

「ま、護衛と言っても殆ど宴会だがな。せいぜい楽しんでくるよ」

 大石の言葉に、沖田を始めその場にいた隊士達が大笑いする。確かに新選組隊士が張り込んでいれば、そう簡単に襲撃してくる輩はいないだろう。そんな風に放り出された死体の前で談笑する彼らを、京雀達は苦々しく見つめていた。



 斉藤らとの会話で少しばかり気分が晴れた沖田だったが、やはり昨晩の斬り合いと昼間の外出が祟ったのか、屯所に帰ってくるなり臥せってしまった。

「おい、総司。大丈夫か?鉄から聞いたぞ。あいつの静止を振り切って屯所を脱走しやがったんだってな」

 鉄之助から事情を聞いた土方が仕事の合間に沖田の部屋を覗きこむ。

「脱走とは人聞きが悪いですね・・・・・・ちょっと油小路を覗きに言いっただけで。後は朝の稽古に付き合っただけですよ」

「嘘をつけ」

 ちっ、と舌打ちをしながら土方は沖田の枕元に座り込む。

「今朝庭を見たら、おめぇの部屋の濡れ縁から外に続く足跡が残っていたぞ。昨日の夕方には何も無かったのにな」

「・・・・・・全てご存知なんですね、土方さんは」

 沖田は布団で顔を半分隠しながら小さな声で尋ねる。

「おめぇの、平助に対する恨みつらみを考えたら何らかの動きはするだろう。その程度のことちっとばかし考えればだれだって判る」

「土方さんにはかなわないなぁ」

 沖田は顔を半分隠したまま、苦笑いを浮かべた。

「だが、その顔じゃ満足はしてねぇようだな」

「ええ・・・・・・藤堂さんを殺したところで小夜は帰ってきませんから」

 沖田は天井を見つめながらポツリと呟く。

「私と小夜が出会ってしまったことは・・・・・・間違いだったんでしょうかね」

「さぁな。そんなことはお天道様にしか解らねぇだろうよ。だが一つだけ言えることはある」

 土方は立ち上がり、沖田に背を向けながら言葉を続ける。

「お小夜と出会い、惚れあったことでおめぇは人の心を得ることが出来た。時には苦しいだけの時もあるだろうが・・・・・・いつかはそれが良かったと思える日が来る。尤も、それはまだまだ先のことだろうけどな」

 それだけ言い残すと、土方は沖田の部屋を後にした。



 一方天満屋ではやってきた新選組隊士達を三浦休太郎自らが出迎えていた。

「おう、斉藤さん。来てくれたか!それにしても皆飲みっぷりが良さそうな面構えだな!」

「ああ、あんたの要望で新選組随一のうわばみを揃えてきた。ま、これだけ雁首並べてれば、そう簡単に海援隊や陸援隊の奴らも来ないだろう」

 警護というよりは完全に宴会目当て口ぶりである。そんな斉藤に大笑いをしながら三浦は宿の自室に皆を引き入れた。



UP DATE 2015.7.4

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今回からは天満屋事件です。この直後、すぐに王政復古の大号令とか、戊辰戦争が始まってしまうのでなかなか取り上げられにくいのですが、やはり新選組にとっては大きな事件の一つですので、ここは取り上げておこうかと(*^_^*)

この時点から天満屋事件までは20日ほど間があるのですが、一応警備にはついていたみたいですし、だらだらと宴会させるのも悪くないんじゃないかと・・・特に斉藤さんは高台寺で貧乏生活に励んでおりましたのでwww

次回更新は7/11,宴会風景と陸援隊側の事情を取り上げたいな~と思ってます(*^_^*)
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